長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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対談します。

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「えっと、改めて……日下部弥生です。ウェイランドの統括ギルドで秘書官をしています」

 桜花がEIMSで作った急ごしらえのテーブルと机に着いた弥生がアークに軽く会釈をする。
 そのアークはと言うと……

「世界の英雄だよ。こうして刃物や銃、挙句の果てに発動直前の魔法で狙われてるけどね」

 エキドナとキズナが銃でこめかみを狙い、オルトリンデと桜花が手斧と鎌で首をいつでも切り落とせるようにし、牡丹とカタリナがいつでも一足飛びで殴れるように身構え、文香と真司が弥生の一歩後ろで魔法障壁と問答無用砲の準備、糸子とジェノサイドが手首や足首を糸で雁字搦めにした上で……椅子の背もたれに何重にも縛り付けられていた。

「まあ、敵なので仕方ないですよね」
「この程度で僕が殺せるとでも?」
「思っていません。どうせ本体ではありませんから……話の流れ次第ではここから解放します」
「……」

 仏頂面のまま話すアークに対して、弥生はただただ事実を述べる。
 その表情はいつもの快活さはおろか、何の感情も読み取れないほど無表情だった。

「一つ目の質問です。あなたは誰ですか?」
「世界の英雄、そっちの元王女様やいけ好かない銀髪の女はアークと呼んでるね」
「わかりました、二つ目の質問です。なぜあなたはアークと呼ばれますか?」
「さあね、自分で考えたらどうだい」
「……三つ目、あなたは敵ですか?」
「言っただろう? 世界の英雄だって……人類を次のステージに導くだけさ」
「4つ目、どうやって……人間を次のステージへ上げるつもりですか?」
「この質問に何の意味があるんだい? 飽きてきたよ」

 ふう、とアークはため息をつき。質問を態度で打ち切る。
 弥生はそんなアークを見た後、キズナに頷いて合図を送った。

 ――タァン!

 キズナが躊躇いなく銃の引き金を引く。
 その音にアークは一切驚かず。口元を軽くゆがめるが……それだけだった。
 音と硝煙の立ち昇る銃口を見て、つまらなそうに吐き捨てる。

「殺す気概も無いのかい?」
「どうせ死にませんから……でも、次は実弾です。質問を続けますね」
「ちっ……」
「なぜ敵対するんですか?」
「勘違いするなよ? 僕は英雄として動いているだけさ。その邪魔になるゴミを片付けてるだけだ……君の様に生意気なごみをね」

 淡々と質問を続ける弥生と違い、アークは機嫌がよくなったりふて腐ったりとコロコロと感情を変えた。それからも弥生はただただアークへの質問を重ねていく。
 なぜ、こんな事になったかと言うと一時間ほど前にさかのぼる。



 ◇◆―――◇◆―――◇◆―――◇◆―――◇◆



「はあ!? ちょんぱ野郎と話す!? 何言ってんだお前」
「確認したいことがあるの」
「いや、だからって……」

 後は地上へ一本道になり、追ってくるディーヴァも見なくなった頃。弥生はオルトリンデ、キズナ、真司にそう告げた。
 どう考えてもリスクが高すぎる提案にキズナが吠える、ようやく助け出したばかりの状況で当人が誘拐犯と話したいなど聞いた事もなかった。それでも弥生が言い出した以上、何か理由があると直感したのはオルトリンデだ。

「何かあるんですね?」

 念のために弥生に確認を入れると、弥生はまっすぐにオルトリンデの眼を見て頷く。
 
「……わかりました。真司、キズナ」
「おう」
「良いよ」

 引く気がない弥生の姿勢を見て、オルトリンデもキズナと真司に協力を求めた。
 とは言え真司は姉が言い出したら聞かない事は承知済み、キズナもオルトリンデまで弥生の味方に回るのでは協力するしかなかった。

「仕方ねぇけど……いったい何がどうなればあのぶっ壊れ野郎と話そうって発想になるんだよ」
「気になるの」
「だから何が?」
「そもそも、あのちょんぱ……アークって何がしたいの?」
「あ? そりゃ俺らを玩具だの犯して遊ぶだの性格破綻の殺人者じゃねぇか」

 今までキズナが知る限りでもアークは何人も殺している。弥生は最初に会った時がまず殺されそうになった。それ以外でも人間を玩具と呼んでもてあそび、殺すことをずっと声高らかにしゃべるのを洞爺もエキドナも聞いている。

「だったら、なんでこんなまどろっこしい事しているのかな?」
「は?」
「おかしいんだよ。攫う必要もないし隠れる必要もないでしょ?」
「え? あ? そう、だな」

 弥生の一言を受けて、キズナが本気で悩む。
 確かにあの性格で、死霊を使役出来て、ほとんど不死身のようなアークが隠れながら暗躍する必要性はない。

「たぶん、このまま後手になると次は致命傷になりそうだから。知っておく必要があるの」
「次って……今回でもうあの野郎逃げられないんじゃねぇの?」
「捕まえても無駄だよ。桜花さんの道具見たでしょ? あれでもどうにもできてないんだもん」
「……まあ、そうだな」
「予想外すぎて対応が後手になるんだったら、リスク有でコントロールできる可能性が高いと思わない?」

 弥生の言う事に理解がいよいよ追いつかなくなったキズナに、助け船を出すオルトリンデ。
 正直に言って二手三手先どころか一万手先を読んでいてもおかしくない弥生だ。
 オルトリンデでも朧げに弥生がアークの行動を誘導しようとしている事までしかわからない。

「…………弥生、貴女の言わんとしてることは分かりますが。それは、場合によっては宣戦布告する。という事ですか?」
「さあ? でも、敵対してると明確にしておけば向こうもそれなりの行動するよね?」

 そんなこんなで完全に一致とはいかないものの、地上に戻ってくるなり全員と根気良く打ち合わせてこの対談は実行された。もちろんそれぞれから条件が出たり、難色を示すこともあったが冒頭の状態が出来上がる事になったのだ。




 ◇◆―――◇◆―――◇◆―――◇◆―――◇◆



「じゃあ次の質問。あなたは私を殺したい?」
「そうだよ? でも、その前にいっぱい遊ぶんだけどさぁぁ!」

 およそ一時間、弥生は根気強く眉一つ動かさずアークを質問攻めにした。
 その間アークは感情をころころと変え、幾度かエキドナや桜花に制止されながらも弥生と相対を続けている。
 それは……ある一人にとっては既視感を覚えていた。

 青みがかった銀髪の、漆黒の角を持つメイド。桜花の義妹であるカタリナ。
 その正体は元々……魔王である桜花の父親を討伐するために生まれてすぐ兵器としての英才教育をされた人類の切り札。対魔族特殊戦技部隊『レヴィヤタン』の隊長だった。

「御姉様」
「うん?」

 その時の事を思い出し、カタリナが桜花へ声をかけた時だった。

「ま、楽しめたよそれなりにさ? 悪いけど、タイムオーバーだ」

 唐突に、アークは真顔で弥生に告げる。
 それを予測していたかのように弥生は宣言した。

「牡丹さん! 真上に蹴って!! 真司、障壁真上にありったけ!!」

 即座に反応する牡丹と真司の連携、その速さはアークにも予想外で椅子を蹴り砕かれながら宙を舞う。そこに弥生は最後の言葉を告げる。

「近いうち、こちらから行きます」

 その弥生の言葉を聞き終わるかどうかという時に、アークは爆散した。その威力は障壁を張った真司が膝をつくほどに強力で、事前に弥生が準備をさせていなければ被害が出ていたと思われた。

「爆薬も無しで自爆とはどんな身体してんだアイツ」
「魔眼で見てましたけど、魔力も感じませんでしたよ」

 ぺっぺと口に入った砂を吐き出しながらキズナとオルトリンデが愚痴をこぼす。
 
「…………皆、ちょっとアークについて分かったかもしれない」

 爆発霧散したアークは嗤っていた。
 弥生に対して『待っているよ』と口を動かして……

 こうして、弥生の誘拐事件は幕を閉じる。
 新たな問題点を浮き彫りにして。
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