168 / 255
見つけたぁぁ……あ?
しおりを挟む
「……キズナ」
「……キズナ姉」
「……いうな、ワカッテル」
キズナが口の中に入った土ぼこりをつばと一緒に後方へ吐き捨てる。
苦いしじゃりじゃりする上に、地下の地層だけあって何となく不快で酸っぱい匂いが穴を尽いた。
壁に穴を開けるだけの威力かと思われたカタリナの爆薬はゆうに3人が通れるだけではなく、ジェミニでもちょっと身をかがめれば通れそうな大穴が開いている。
その代わりに障壁を張っていた真司や身構えたオルトリンデ、起爆スイッチを押したキズナが数メートル以上吹っ飛ばされることになったが……。
「うええ、耳がキーンとする」
「とっさに私も重ね掛けしましたけど貫通するとか……貴方何を使ってるんですか」
「あんな小さい爆薬でここまで大きい威力だとは思わなかったんだよ!? 親指サイズだぞ!?」
「気を付けて使ってくださいよ……弥生の前に私たちが死んでしまいます」
「腕とか吹っ飛んだらさすがに治せないよ? キズナ姉」
確かに威力を確認しなかったキズナに全面的に非があるのでぐうの音も出なかった。
その代わり突入には十分すぎるほどの穴が開いた事だけは良い誤算と言える。
いまだに視界を若干遮る空気を真司が後方へと魔法で追いやった。それでも目に埃が入るわくしゃみが出そうになるわで散々ではある。
「とりあえず恨み言は後にして進みましょう……幸いあの動く人形、ディーヴァが居ないのは僥倖です」
穴の先にはオルトリンデの記憶の通り強化コンクリートで固められた広間があった。
しかし、何か変。こんなに地下で明るかっただろうか? 松明もランプも無いのに。彼女が気になって天井を見ると等間隔に明かりがともっている。
「あんなのありましたっけ?」
オルトリンデに続いて部屋に入った真司は天井の明かりが何なのかをすぐに看破し、彼女に応えた。
「あの灯りはLEDだね……電気で灯りが灯るんだよ。と言う事は電源設備が生きている?」
「わかんねぇ、しかし。回線が壁に埋没してる部分を吹っ飛ばしてたら消えてる所だ……運が良かったな」
光量が抑えられているが部屋の奥までは普通に視認できる程度には明るい。
真司の魔法で光は確保できるが手間が省けた事に違いは無かった。
そのままオルトリンデが耳を澄ませながら慎重に部屋の中に進んでいく、真司の言うLEDが何なのかはわからないが二人が理解できているなら今の時点ではさして問題は無い。
「このまま進みましょう」
ここから先は鞭よりも手斧の方が取り回しやすいので桜花に習った通り、赤い宝石を順番通りに触りグリップをひねってから魔力を送る。
するとほんの少しの魔力で手斧の刃先に紅い半透明の刃が生まれた。
「……姉ちゃんが小躍りしそうな武器だね」
きっと『三倍かっ!?』とか『ロマン兵器きたぁぁぁ!!』とか言い出すのが容易に想像できる弟がここにいた。
「そうなんですか?」
「ああ、今度見せて見ろよ……その斧分解されるぜきっと」
「国宝ですよ!? 絶対嫌です!!」
弥生がそんなことで分解をやめるわけがない、それがわかるだけにオルトリンデも必死になる。
「現場に持ち込んだ時点でこうなる運命だ、諦めろよ……っと、何か来る」
警戒するにしても遮蔽物がない以上、視覚以外の所で補填するのだが。キズナの耳が異音を捉えた。
真司とオルトリンデの動きを左手を振って静止し、ショットガンを構えながら前衛に進む。
近距離での遭遇ならオルトリンデが前にいた方が良い、しかし距離があるならキズナの方が有利だ。
「……二人……ですね」
それは硬い床を歩く音。
広いこの広場に少しづつ大きくなりながら響いて来た。
「真司、いつでも障壁を張れるように……攻撃は俺と大ボスに任せろ……」
「う、うん……」
若干緊張が走る真司の声にオルトリンデとキズナが前に出る事、そしてやることを決めておく事で万が一に備える。以前のキズナならそれはそれで、と頓着しないところだが……弥生達と行動を共にするにつれて周りの事も配慮するようになってきた。
本人に自覚は無いのだが。
「さて、銃が通じる相手だと良いな」
すでにポンプアクションを操作し、初弾は入っている。
後は引き金を引けば散弾がぶちまけられるという事だ。
「障壁……障壁……」
「緊張しなくていいですよ真司、障壁が欲しい時は言いますから」
ぽむ、とちょっと背伸びをしてオルトリンデは真司の左肩に手を置く。
魔法に精通している真司を今回の突入に参加させてしまった分、万全のフォローをしようというオルトリンデの考えが真司にも伝わる。真司は一度深く息を吸い込みゆっくりと吐くとほんの少し胸の鼓動が収まった気がした。
それを見てキズナも意識を足音に向ける。
それなりに広いこの部屋の出入り口はキズナの開けた穴以外は奥に通用口らしき所しかない、さすがにその通路の電気は通っていないのか暗闇に閉ざされていた。
「来るぞ」
徐々に部屋に響く靴音は大きくなる。
キズナはぺろりと舌で唇を舐めた。その表情は普段のリラックスした眼差しとは違い、獰猛な捕食者の様な印象を受ける。
――コツ、コツ……
通路の奥から足がのぞいた瞬間、キズナが前に出た。
身をかがめ、銃口を視線に合わせ一気に肉薄しようと床を蹴る。
「あ、ぐんそ」
間の抜けたクワイエットの顔面にショットガンの銃床を叩き込んだキズナであった……。
「……キズナ姉」
「……いうな、ワカッテル」
キズナが口の中に入った土ぼこりをつばと一緒に後方へ吐き捨てる。
苦いしじゃりじゃりする上に、地下の地層だけあって何となく不快で酸っぱい匂いが穴を尽いた。
壁に穴を開けるだけの威力かと思われたカタリナの爆薬はゆうに3人が通れるだけではなく、ジェミニでもちょっと身をかがめれば通れそうな大穴が開いている。
その代わりに障壁を張っていた真司や身構えたオルトリンデ、起爆スイッチを押したキズナが数メートル以上吹っ飛ばされることになったが……。
「うええ、耳がキーンとする」
「とっさに私も重ね掛けしましたけど貫通するとか……貴方何を使ってるんですか」
「あんな小さい爆薬でここまで大きい威力だとは思わなかったんだよ!? 親指サイズだぞ!?」
「気を付けて使ってくださいよ……弥生の前に私たちが死んでしまいます」
「腕とか吹っ飛んだらさすがに治せないよ? キズナ姉」
確かに威力を確認しなかったキズナに全面的に非があるのでぐうの音も出なかった。
その代わり突入には十分すぎるほどの穴が開いた事だけは良い誤算と言える。
いまだに視界を若干遮る空気を真司が後方へと魔法で追いやった。それでも目に埃が入るわくしゃみが出そうになるわで散々ではある。
「とりあえず恨み言は後にして進みましょう……幸いあの動く人形、ディーヴァが居ないのは僥倖です」
穴の先にはオルトリンデの記憶の通り強化コンクリートで固められた広間があった。
しかし、何か変。こんなに地下で明るかっただろうか? 松明もランプも無いのに。彼女が気になって天井を見ると等間隔に明かりがともっている。
「あんなのありましたっけ?」
オルトリンデに続いて部屋に入った真司は天井の明かりが何なのかをすぐに看破し、彼女に応えた。
「あの灯りはLEDだね……電気で灯りが灯るんだよ。と言う事は電源設備が生きている?」
「わかんねぇ、しかし。回線が壁に埋没してる部分を吹っ飛ばしてたら消えてる所だ……運が良かったな」
光量が抑えられているが部屋の奥までは普通に視認できる程度には明るい。
真司の魔法で光は確保できるが手間が省けた事に違いは無かった。
そのままオルトリンデが耳を澄ませながら慎重に部屋の中に進んでいく、真司の言うLEDが何なのかはわからないが二人が理解できているなら今の時点ではさして問題は無い。
「このまま進みましょう」
ここから先は鞭よりも手斧の方が取り回しやすいので桜花に習った通り、赤い宝石を順番通りに触りグリップをひねってから魔力を送る。
するとほんの少しの魔力で手斧の刃先に紅い半透明の刃が生まれた。
「……姉ちゃんが小躍りしそうな武器だね」
きっと『三倍かっ!?』とか『ロマン兵器きたぁぁぁ!!』とか言い出すのが容易に想像できる弟がここにいた。
「そうなんですか?」
「ああ、今度見せて見ろよ……その斧分解されるぜきっと」
「国宝ですよ!? 絶対嫌です!!」
弥生がそんなことで分解をやめるわけがない、それがわかるだけにオルトリンデも必死になる。
「現場に持ち込んだ時点でこうなる運命だ、諦めろよ……っと、何か来る」
警戒するにしても遮蔽物がない以上、視覚以外の所で補填するのだが。キズナの耳が異音を捉えた。
真司とオルトリンデの動きを左手を振って静止し、ショットガンを構えながら前衛に進む。
近距離での遭遇ならオルトリンデが前にいた方が良い、しかし距離があるならキズナの方が有利だ。
「……二人……ですね」
それは硬い床を歩く音。
広いこの広場に少しづつ大きくなりながら響いて来た。
「真司、いつでも障壁を張れるように……攻撃は俺と大ボスに任せろ……」
「う、うん……」
若干緊張が走る真司の声にオルトリンデとキズナが前に出る事、そしてやることを決めておく事で万が一に備える。以前のキズナならそれはそれで、と頓着しないところだが……弥生達と行動を共にするにつれて周りの事も配慮するようになってきた。
本人に自覚は無いのだが。
「さて、銃が通じる相手だと良いな」
すでにポンプアクションを操作し、初弾は入っている。
後は引き金を引けば散弾がぶちまけられるという事だ。
「障壁……障壁……」
「緊張しなくていいですよ真司、障壁が欲しい時は言いますから」
ぽむ、とちょっと背伸びをしてオルトリンデは真司の左肩に手を置く。
魔法に精通している真司を今回の突入に参加させてしまった分、万全のフォローをしようというオルトリンデの考えが真司にも伝わる。真司は一度深く息を吸い込みゆっくりと吐くとほんの少し胸の鼓動が収まった気がした。
それを見てキズナも意識を足音に向ける。
それなりに広いこの部屋の出入り口はキズナの開けた穴以外は奥に通用口らしき所しかない、さすがにその通路の電気は通っていないのか暗闇に閉ざされていた。
「来るぞ」
徐々に部屋に響く靴音は大きくなる。
キズナはぺろりと舌で唇を舐めた。その表情は普段のリラックスした眼差しとは違い、獰猛な捕食者の様な印象を受ける。
――コツ、コツ……
通路の奥から足がのぞいた瞬間、キズナが前に出た。
身をかがめ、銃口を視線に合わせ一気に肉薄しようと床を蹴る。
「あ、ぐんそ」
間の抜けたクワイエットの顔面にショットガンの銃床を叩き込んだキズナであった……。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる