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そのころの弥生さん
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「んあ……う、いたい……」
なぜかお腹が痛い、目を覚ました弥生は冷たい床に転がされてた。
目を開けると汚い床と何かの足が見える。見上げようと自由の利かない身体をひねり、何とか目線だけでも上に向けた。
「……だれ?」
それは目も鼻も口も耳も無い女性だった。
比喩でもなんでもなくのっぺりとした皮膚で凹凸の無いマネキンのような顔、唯一の特徴と言えば綺麗な金髪がかつらの様に乗っかっている。
「…………………………」
しばらく弥生がぽかんと見つめ続けていた。
とりあえず害は無いと判断して弥生は一生懸命見える限りの視覚情報を集める。
わかった事は、ここは石造りの4畳半程度の部屋で……それだけだ。ほんのちょっと甘ったるい不快なにおいと周りの壁に赤黒いシミがびっしりとついている。
「何の部屋なんだろう……想像したくないけど」
弥生の最後の記憶はイストを置いて行こうとするクワイエットとアルファに薬を嗅がされた所が最後だ。
「イストさんは……大丈夫だと良いなぁ……エキドナさんどれくらいで見つけてくれるんだろう」
そういえば、クワイエットはなぜペンダントを奪わなかったんだろう。
以前エキドナからSOSスイッチになっていることは聞いていたのに、一切触れてこなかった。
もしかしてわざとか、と疑いたくなるが……。
「まずは動けるようにならないと」
とにかく自由を確保しなければいけない、多分自分の真後ろが出入り口だと見当をつけて手首を縛っている縄を歯でがじがじと齧って嚙みちぎろうとする。
どうせ使っている縄は麻を束ねた粗末なものだし……と頑張ってみるが知っている知識と実際ではまるで違った。硬いし苦い、しかも口の中の水分も取られて逆に締まっている気がする。
「ぺっぺっ……だめだこりゃ、せめてナイフ位は下着か何処かに隠しとけばよかったぁ!!」
――ぶちっ
「へ?」
口の中の麻やら土を吐き出して愚痴を言っただけで手を拘束していた縄が千切れた。
思ったよりも緩く編まれていたのか、それとも古い縄だったのかはわからないが弥生にとっては好都合だ。真実はクワイエットが『どうせ拘束しようがしまいが弥生は逃げられないし』と舐め切ったからその辺の適当な縄で適当に縛ったという事は知る由もない。
「私、実は体力づくりの成果が出てるのでは!?」
誰も突っ込んでくれないのを良い事に、大はしゃぎの弥生さんである。
自由になった手で足の縄を解こうとしたが……
「……巻いて括り付けただけ、クワイエットどれだけ私の体力を過小評価してるんだろう。無事に戻れたら嫌がらせしよう」
嫌がらせも何も、暗部であるクワイエットの処遇は即死刑なのを理解した上で言っている。
「それにしてもちょんぱさん、なんで私を狙うのかな? ただのどこにでもいる美少女なのに」
…………しーん。
「………………………………………………………………虚しい」
誰も突っ込んでくれない、珍しく一人なので寂しさも何割増かでこみ上げた。
せめてのっぺらぼうの女性だけでも反応してくれてないかとこっそり視線を送る弥生だが、全くの無反応。弥生の一人芝居は本当の意味で孤独だった。
「とりあえず逃げよう」
後ろを振り向くと、鉄製の格子戸がある。
鍵のようなものは見当たらず、まさかと思いながら弥生は軽く扉を押してみた。
ぎしぎしと蝶番が鳴るだけでほとんど動かない。
「引いてみようかな」
再び耳障りな金属音、全然動かない。
「……まさかね」
弥生は格子戸を横にスライドさせる……からからと軽い音を立てて扉は開いた。
「舐めてる?! 舐めてるよねこの構造!? 蝶番の意味を辞書で調べてからつけてよ!! 装飾品か!?」
まるでからかう為だけに作られたような構造に思わず叫ぶ弥生、目くじらを立ててガシャン! と大きな音を立てて鉄の格子戸が開く。
そこにひょこんと真っ黒なお面姿のディーヴァが顔を覗かした。
吐息が感じられそうな距離での鉢合わせに弥生は絶叫する。
「みぎゃああああああああああああああああああああああああっ!!」
ビビり散らす弥生の声にディーヴァは全く怯まない、ただただそのまま弥生を見つめた。
転がり込むように転身して牢屋に戻る弥生が恐る恐る振り返ると、そのままの姿勢でディーヴァは待機している。
「おそって……こない?」
先ほどから全く動かないのっぺらぼうの女性、こちらを覗くだけで特に何をしようという訳でもない謎のお面……。
息を整えた弥生は鉄格子越しにお面に手を振ってみたり変顔で反応が無いか確かめる。
微動だにしないという不気味さはあるが、何かしようとはしていない。念のためにのっぺらぼうの女性にも弥生は同じようにしてみたり、ちょんちょんとつついてみたが皮膚の感触だけが帰ってきた。
「これ、もしかして条件稼働?」
特定の行動をとった時にプログラム通りに動く、そんな雰囲気を感じ取った弥生は試しに千切れたロープを格子戸の隙間から投げてみる。
するとディーヴァはのそのそとそのロープを拾い上げ、部屋に投げ込み返してきた。
「…………なるほど、ここから私が出るとあの黒い人形が捕まえて戻す。じゃあ、こっちの女の人は……なんだろう?」
ロープには全く反応しなかった女性は何を条件にしているのかわからない。
だが、他に試しようがないし弥生は考察をあきらめて抜け出すための方法を改めて考える。
「せめてこの部屋から脱出しないとエキドナさんも困るよね」
弥生に対する条件だけしか決められていない訳ではない、そうだった場合困るだろうと弥生は自分にできる事はしっかりとやろうと動き出す。
ちょうどその時、地上では余裕綽々に登場したアークが文香に消し飛ばされていたのだった。
なぜかお腹が痛い、目を覚ました弥生は冷たい床に転がされてた。
目を開けると汚い床と何かの足が見える。見上げようと自由の利かない身体をひねり、何とか目線だけでも上に向けた。
「……だれ?」
それは目も鼻も口も耳も無い女性だった。
比喩でもなんでもなくのっぺりとした皮膚で凹凸の無いマネキンのような顔、唯一の特徴と言えば綺麗な金髪がかつらの様に乗っかっている。
「…………………………」
しばらく弥生がぽかんと見つめ続けていた。
とりあえず害は無いと判断して弥生は一生懸命見える限りの視覚情報を集める。
わかった事は、ここは石造りの4畳半程度の部屋で……それだけだ。ほんのちょっと甘ったるい不快なにおいと周りの壁に赤黒いシミがびっしりとついている。
「何の部屋なんだろう……想像したくないけど」
弥生の最後の記憶はイストを置いて行こうとするクワイエットとアルファに薬を嗅がされた所が最後だ。
「イストさんは……大丈夫だと良いなぁ……エキドナさんどれくらいで見つけてくれるんだろう」
そういえば、クワイエットはなぜペンダントを奪わなかったんだろう。
以前エキドナからSOSスイッチになっていることは聞いていたのに、一切触れてこなかった。
もしかしてわざとか、と疑いたくなるが……。
「まずは動けるようにならないと」
とにかく自由を確保しなければいけない、多分自分の真後ろが出入り口だと見当をつけて手首を縛っている縄を歯でがじがじと齧って嚙みちぎろうとする。
どうせ使っている縄は麻を束ねた粗末なものだし……と頑張ってみるが知っている知識と実際ではまるで違った。硬いし苦い、しかも口の中の水分も取られて逆に締まっている気がする。
「ぺっぺっ……だめだこりゃ、せめてナイフ位は下着か何処かに隠しとけばよかったぁ!!」
――ぶちっ
「へ?」
口の中の麻やら土を吐き出して愚痴を言っただけで手を拘束していた縄が千切れた。
思ったよりも緩く編まれていたのか、それとも古い縄だったのかはわからないが弥生にとっては好都合だ。真実はクワイエットが『どうせ拘束しようがしまいが弥生は逃げられないし』と舐め切ったからその辺の適当な縄で適当に縛ったという事は知る由もない。
「私、実は体力づくりの成果が出てるのでは!?」
誰も突っ込んでくれないのを良い事に、大はしゃぎの弥生さんである。
自由になった手で足の縄を解こうとしたが……
「……巻いて括り付けただけ、クワイエットどれだけ私の体力を過小評価してるんだろう。無事に戻れたら嫌がらせしよう」
嫌がらせも何も、暗部であるクワイエットの処遇は即死刑なのを理解した上で言っている。
「それにしてもちょんぱさん、なんで私を狙うのかな? ただのどこにでもいる美少女なのに」
…………しーん。
「………………………………………………………………虚しい」
誰も突っ込んでくれない、珍しく一人なので寂しさも何割増かでこみ上げた。
せめてのっぺらぼうの女性だけでも反応してくれてないかとこっそり視線を送る弥生だが、全くの無反応。弥生の一人芝居は本当の意味で孤独だった。
「とりあえず逃げよう」
後ろを振り向くと、鉄製の格子戸がある。
鍵のようなものは見当たらず、まさかと思いながら弥生は軽く扉を押してみた。
ぎしぎしと蝶番が鳴るだけでほとんど動かない。
「引いてみようかな」
再び耳障りな金属音、全然動かない。
「……まさかね」
弥生は格子戸を横にスライドさせる……からからと軽い音を立てて扉は開いた。
「舐めてる?! 舐めてるよねこの構造!? 蝶番の意味を辞書で調べてからつけてよ!! 装飾品か!?」
まるでからかう為だけに作られたような構造に思わず叫ぶ弥生、目くじらを立ててガシャン! と大きな音を立てて鉄の格子戸が開く。
そこにひょこんと真っ黒なお面姿のディーヴァが顔を覗かした。
吐息が感じられそうな距離での鉢合わせに弥生は絶叫する。
「みぎゃああああああああああああああああああああああああっ!!」
ビビり散らす弥生の声にディーヴァは全く怯まない、ただただそのまま弥生を見つめた。
転がり込むように転身して牢屋に戻る弥生が恐る恐る振り返ると、そのままの姿勢でディーヴァは待機している。
「おそって……こない?」
先ほどから全く動かないのっぺらぼうの女性、こちらを覗くだけで特に何をしようという訳でもない謎のお面……。
息を整えた弥生は鉄格子越しにお面に手を振ってみたり変顔で反応が無いか確かめる。
微動だにしないという不気味さはあるが、何かしようとはしていない。念のためにのっぺらぼうの女性にも弥生は同じようにしてみたり、ちょんちょんとつついてみたが皮膚の感触だけが帰ってきた。
「これ、もしかして条件稼働?」
特定の行動をとった時にプログラム通りに動く、そんな雰囲気を感じ取った弥生は試しに千切れたロープを格子戸の隙間から投げてみる。
するとディーヴァはのそのそとそのロープを拾い上げ、部屋に投げ込み返してきた。
「…………なるほど、ここから私が出るとあの黒い人形が捕まえて戻す。じゃあ、こっちの女の人は……なんだろう?」
ロープには全く反応しなかった女性は何を条件にしているのかわからない。
だが、他に試しようがないし弥生は考察をあきらめて抜け出すための方法を改めて考える。
「せめてこの部屋から脱出しないとエキドナさんも困るよね」
弥生に対する条件だけしか決められていない訳ではない、そうだった場合困るだろうと弥生は自分にできる事はしっかりとやろうと動き出す。
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