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あれ?????
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「おいおいおいおいおい……姉貴、これシャレにならねぇんじゃねぇのかっ!?」
「無駄口叩く暇あったら弾幕切らすな!! 僕らが抜かれたらミルテアリアとウェイランドどちらにも被害が出る!!」
「つっても!!」
わらわらとゴキブリのごとく湧き出てくる未整備ディーヴァの団体さんには拳銃の速射程度では焼け石に水だった。弥生の救出のために洞窟の出入り口を掘り起こしたところまでは良かったが、先行して閉鎖空間での戦闘にも慣れているキズナとエキドナが20分ほど進んだ時に事件は起きる。
どうやらアークが何かしたらしく、暗視ゴーグル装備のキズナとそもそも闇夜に強いエキドナがその正体を即座に看破した。
それは先日ウェイランドを襲った自立型のディーヴァ、最初はぞろぞろと歩いていたがキズナとエキドナを察知して迫る。それを最初こそキズナが銃で撃ち、国外に家出していたエキドナがどこからか調達したショットガンで応戦するところまでは良かった。しかし、一向に終わりが見えないほど湧き出してくるディーヴァは仲間の残骸を盾にじりじりと前に進んでくる。
「くそっ!! 焔と氷雨と合流出来てたらこんな数、何とでもなるのに!!」
「姉貴! もう弾が無い!! 下がるしかねぇ!!」
「仕方ないねぇ! こういう状況に対応できそうなのは……うわぁぁん!! いないじゃないか!!」
「糸子の蜘蛛だったら蜘蛛の巣で足止めできるんだが……」
「断固断る!!」
もはや蜘蛛嫌いとか言ってる場合だろうかとキズナが姉の脛を蹴りつける。
「贅沢言ってんじゃねぇ!! うわうわうわ!! もう近い近い!!」
「ひいいぃぃ!!」
とうとう無傷なディーヴァが仲間の躯を乗り越えてキズナたちの目の前まで迫るが……
――ジャッ!!
「伏せて! キズナ姉! エキドナ姉!!」
異変に気付いた真司が駆け付けるなり、指輪を杖にこすりつけ魔法を発動する。
一瞬で詠唱と魔法陣への魔力供給を終えた真司は先頭の数体を氷漬けにした。ひんやりとした洞窟内の空気がさらに冷え、薄く靄がかかった。
「ナイスだ真司! 姉貴より頼りになる!!」
間一髪、防衛線を守った真司をキズナが抱きしめる。
少々強めに。
「折れる! キズナ姉……ぐえ!」
「あ、わりい」
「ううう……キズナの言う通り数には数で対抗するしかないのかぁ? ふぇぇ……」
先ほどの蜘蛛さん達による発掘の際、本気でシステムをダウンさせて引きこもったエキドナはうんざりした様子で提案した。
幸い一体一体はそれほど強くない、ちゃんと足止めしながら戦えば損害も無いだろう。
とは言えこのディーヴァ以外に何かいたら困る……。そう考えたエキドナは迷わず。
「よし!! オルトリンデに指揮をしてもらおう、うん。万が一外にあふれてきたら僕とキズナと牡丹で対応する。これが一番いいよね!!」
「姉貴……それはさすがに……」
「エキドナ姉……どれだけ蜘蛛嫌いなのさ」
この期に及んで、とキズナと真司は呆れるが……駄目なものは駄目だった。
元々軍用として開発されていたエキドナは感情を極限までそぎ落として任務にあたる。そういうコンセプトだったのだが当時の開発者はクライアントである国の党首に頼み込まれ、感情を豊かにする方向性へ変更する事となった。
その開発者自身が蜘蛛嫌い。
完璧な存在程、関係性が崩れやすいと考えた彼はエキドナにいくつか弱点を作る。もちろん有事の際には戦闘用として冷静沈着な判断ができる様、システム的に分けた。
惜しむらくは彼が無駄にリアリティにこだわるという謎の執念を見せた事だろう。
出来上がったエキドナの初期人格は中二病真っ盛りの女子中学生みたいな仕上がりに……これには思わずクライアントも苦笑いを浮かべるしかなかった。
「無理なもんは無理!! せめてぬいぐるみっぽければ我慢する!!」
「ぬいぐるみ……ねえ。おい、お前ら可愛くなれるか?」
キズナが髪の中で飼っている蜘蛛に問いかける。
すると一匹の蜘蛛が這い出てきて『まかせろ』と足を振り上げた。
そのままぴょん、とキズナの頭からダイブした蜘蛛は落ちる前に煙に包まれる。
「うん? なんだこりゃ」
煙はすぐに霧散し、そこに現れたのは全身を白いタイツで覆った不格好な蜘蛛。
「……一応、糸で覆って蜘蛛っぽくはないけど。動きづらそうだよ?」
真司がしゃがみ込んで頑張った蜘蛛を撫でる。
まあ、シルエットはそのまま蜘蛛でも見た目の嫌悪感が薄れればと考えたのだろう。
「ふあっ!! な、何とか見るくらいは良いけど……お願いぃ! 近づかないで!?」
それでもエキドナはチラ見がやっとだ。
「もういっそその身体使いつぶせばいいじゃん……本体見つけたらちゃんとメモリ交換するから」
「ううう……せめて氷雨たちが僕の本体を持ってるかどうか知ってからじゃないと困るぅぅ!!」
「め、面倒くさい……真司、もういいから大ボス呼んで来い。俺と二人で地道に削る。お前は要所要所でサポートしてくれ」
「わかった……」
久々の活躍できる見せ場にやっぱりポンコツっぷりを発揮するエキドナに、諦めて作戦を練り直すキズナに真司は同情する。
「はあ、ほら行くぞ姉貴。せめてあのちょんぱ野郎を監視しててくれ」
「あいぃぃぃ……」
ずーるずーるとエキドナの襟首をつかんで引っ張り始めるキズナが気づく。
あれ? 軽くね? と。
「無駄口叩く暇あったら弾幕切らすな!! 僕らが抜かれたらミルテアリアとウェイランドどちらにも被害が出る!!」
「つっても!!」
わらわらとゴキブリのごとく湧き出てくる未整備ディーヴァの団体さんには拳銃の速射程度では焼け石に水だった。弥生の救出のために洞窟の出入り口を掘り起こしたところまでは良かったが、先行して閉鎖空間での戦闘にも慣れているキズナとエキドナが20分ほど進んだ時に事件は起きる。
どうやらアークが何かしたらしく、暗視ゴーグル装備のキズナとそもそも闇夜に強いエキドナがその正体を即座に看破した。
それは先日ウェイランドを襲った自立型のディーヴァ、最初はぞろぞろと歩いていたがキズナとエキドナを察知して迫る。それを最初こそキズナが銃で撃ち、国外に家出していたエキドナがどこからか調達したショットガンで応戦するところまでは良かった。しかし、一向に終わりが見えないほど湧き出してくるディーヴァは仲間の残骸を盾にじりじりと前に進んでくる。
「くそっ!! 焔と氷雨と合流出来てたらこんな数、何とでもなるのに!!」
「姉貴! もう弾が無い!! 下がるしかねぇ!!」
「仕方ないねぇ! こういう状況に対応できそうなのは……うわぁぁん!! いないじゃないか!!」
「糸子の蜘蛛だったら蜘蛛の巣で足止めできるんだが……」
「断固断る!!」
もはや蜘蛛嫌いとか言ってる場合だろうかとキズナが姉の脛を蹴りつける。
「贅沢言ってんじゃねぇ!! うわうわうわ!! もう近い近い!!」
「ひいいぃぃ!!」
とうとう無傷なディーヴァが仲間の躯を乗り越えてキズナたちの目の前まで迫るが……
――ジャッ!!
「伏せて! キズナ姉! エキドナ姉!!」
異変に気付いた真司が駆け付けるなり、指輪を杖にこすりつけ魔法を発動する。
一瞬で詠唱と魔法陣への魔力供給を終えた真司は先頭の数体を氷漬けにした。ひんやりとした洞窟内の空気がさらに冷え、薄く靄がかかった。
「ナイスだ真司! 姉貴より頼りになる!!」
間一髪、防衛線を守った真司をキズナが抱きしめる。
少々強めに。
「折れる! キズナ姉……ぐえ!」
「あ、わりい」
「ううう……キズナの言う通り数には数で対抗するしかないのかぁ? ふぇぇ……」
先ほどの蜘蛛さん達による発掘の際、本気でシステムをダウンさせて引きこもったエキドナはうんざりした様子で提案した。
幸い一体一体はそれほど強くない、ちゃんと足止めしながら戦えば損害も無いだろう。
とは言えこのディーヴァ以外に何かいたら困る……。そう考えたエキドナは迷わず。
「よし!! オルトリンデに指揮をしてもらおう、うん。万が一外にあふれてきたら僕とキズナと牡丹で対応する。これが一番いいよね!!」
「姉貴……それはさすがに……」
「エキドナ姉……どれだけ蜘蛛嫌いなのさ」
この期に及んで、とキズナと真司は呆れるが……駄目なものは駄目だった。
元々軍用として開発されていたエキドナは感情を極限までそぎ落として任務にあたる。そういうコンセプトだったのだが当時の開発者はクライアントである国の党首に頼み込まれ、感情を豊かにする方向性へ変更する事となった。
その開発者自身が蜘蛛嫌い。
完璧な存在程、関係性が崩れやすいと考えた彼はエキドナにいくつか弱点を作る。もちろん有事の際には戦闘用として冷静沈着な判断ができる様、システム的に分けた。
惜しむらくは彼が無駄にリアリティにこだわるという謎の執念を見せた事だろう。
出来上がったエキドナの初期人格は中二病真っ盛りの女子中学生みたいな仕上がりに……これには思わずクライアントも苦笑いを浮かべるしかなかった。
「無理なもんは無理!! せめてぬいぐるみっぽければ我慢する!!」
「ぬいぐるみ……ねえ。おい、お前ら可愛くなれるか?」
キズナが髪の中で飼っている蜘蛛に問いかける。
すると一匹の蜘蛛が這い出てきて『まかせろ』と足を振り上げた。
そのままぴょん、とキズナの頭からダイブした蜘蛛は落ちる前に煙に包まれる。
「うん? なんだこりゃ」
煙はすぐに霧散し、そこに現れたのは全身を白いタイツで覆った不格好な蜘蛛。
「……一応、糸で覆って蜘蛛っぽくはないけど。動きづらそうだよ?」
真司がしゃがみ込んで頑張った蜘蛛を撫でる。
まあ、シルエットはそのまま蜘蛛でも見た目の嫌悪感が薄れればと考えたのだろう。
「ふあっ!! な、何とか見るくらいは良いけど……お願いぃ! 近づかないで!?」
それでもエキドナはチラ見がやっとだ。
「もういっそその身体使いつぶせばいいじゃん……本体見つけたらちゃんとメモリ交換するから」
「ううう……せめて氷雨たちが僕の本体を持ってるかどうか知ってからじゃないと困るぅぅ!!」
「め、面倒くさい……真司、もういいから大ボス呼んで来い。俺と二人で地道に削る。お前は要所要所でサポートしてくれ」
「わかった……」
久々の活躍できる見せ場にやっぱりポンコツっぷりを発揮するエキドナに、諦めて作戦を練り直すキズナに真司は同情する。
「はあ、ほら行くぞ姉貴。せめてあのちょんぱ野郎を監視しててくれ」
「あいぃぃぃ……」
ずーるずーるとエキドナの襟首をつかんで引っ張り始めるキズナが気づく。
あれ? 軽くね? と。
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