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一番怒らせたら怖いのだーれだ
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「はなしをっ!?」
――ばちゅん!
8回目のアーク頭部消失で文香は竜化顕現を解いた。
後ろではめったに見ない激怒状態文香の問答無用砲を目の当たりにして、エキドナ達が両手を合わせてがくがくと震えている。
何せ真司と桜花達、牡丹以外は初見なのだが……威力がそもそもシャレにならない上に連発も可能、収束可能、拡散可能、周辺の地面に刻まれた紅くきらめく溶岩の痕……どう考えても数千度に達していた。
アークは強い、桜花の知る彼の強みはとにかく再生力が高い。
何せ角が無くても魔族より復活が速かった。体の一部であれば数秒足らずで作り直している。
実際、文香に吹き飛ばされた次の瞬間には元通りになっていたのだが……服は見るも無残にボロボロに焼け焦げていた。
「ふ、文香……拘束するから。とりあえずやめてもらえるかな?」
「絶対逃げられないようにね。おにいちゃん」
振り向いた文香の形相はまるで姉である弥生が怒った時にそっくりだったし、日下部家は総じて女性陣の方が怖いということを如実に表している。こういう時の真司の役割が大体間に挟まれてたりもするのだが、それは別の話だ。
「クワイエットの姿してたのに……文香迷わず頭を消し飛ばしたわね」
牡丹の言う通り、最初に弥生の囚われていると思われる洞窟から転がり出てきたのはクワイエットの姿をしたアークだった。
ほぼ全員、桜花がEIMSで本人かどうか確認しようと動く前に文香はその頭をレーザーブレスでぶち抜く、本人曰く「クワイエットおにいちゃんじゃないから」と一言で切って捨てる。
「魔力感知、装甲防御、極大火力……ラスボスあの子で良いんじゃないの?」
「御姉様、控えめに言って小型のパンデモニウムですよ。文香様」
はっきり言って文香はアークにとっての天敵そのものでだった。
その擬態能力で人を騙そうとしても、文香の眼は魔力も機械的な擬態も関係なく見破り……。
「調子に乗るなぁぁ!!」
アークが口の端から泡を吹きながらポケットの中の魔石を砕き、魔法を放っても。
「あぶないよ?」
右腕だけ瞬時に竜化顕現を使い、軽く振り抜くと魔力そのものを霧散させてしまう。
「何あれ……」
「おそらくマジックキャンセラーですね……フィンだと手も足も出ないんじゃないかなと思いますよ」
久々に顔を合わせたエキドナとオルトリンデが水筒の水を飲みながらその様子を見ていた。
「あ、文香……僕の魔法までかき消さないで!!」
「ふにゃ!? ごめんなさい!」
とはいえ、ついうっかり拘束する魔法を用意していた真司の努力も吹き散らしてしまったりという文香らしさは少しも失われていないのが、かえって心配になる。
「あ……ああああ!!」
とうとう手が無くなりつつあるアークが決死の突撃を敢行しても……。
「叩いちゃダメ」
文香が竜化した手でデコピンするとすでに瓦礫の山と化した洞窟の入り口にめり込むほどの衝撃で叩きつけられた。
大人と子供の騒ぎではない、レベルMAXの勇者と最弱モンスターのじゃれあいのようになっている。
「怖いのは文香ちゃんが完璧に手加減できているところですよねぇ」
「初手即死イベントとかにうってつけだな……すげぇおとなしいのに、弥生より怖えんじゃねぇ?」
まったりと大蜘蛛の背でクッキーをぼりぼりと齧る糸子とキズナが文香の気が済むまで、放置を決め込んでお茶を楽しんでいた。
「あ……う」
相手が相手だが、あまりにもな扱いに桜花とカタリナですら不憫と思う。
「文香、ちょっとどいて」
さすがにこれ以上は、という所で真司が魔法でアークを凍らせる。
桜花のアドバイスで絶対零度近くまで凍らせればしばらく動きは止められるとの事で、魔力を込めるのに時間がかかったが無事に詠唱と用意してきた魔法陣の刻まれた布で魔法が発動した。
「しまっ!」
びっしりと周りの地面に霜が降り、あっという間にアークの全身が真っ白に染まる。
「地味だけど……この魔法すごく魔力つかうぅ……」
それはそうだろう、この魔法はオルトリンデが使う攻撃魔法の中で一番難しく一番消費が高い。
オルトリンデが一応、と真司に教えたはいいものの……使えるだけでもすごいのに連発できる時点でウェイランドでもトップクラスの魔力量の証明だ。
ちなみにウェイランドで最強の魔法使い、宰相のクロウでも三発が限界である。
「使用できるだけあなたはすごいんですよ真司」
伝授したものとしてオルトリンデが真司をほめる。
「ありがとうオル姉……さあ、姉ちゃんを探さなきゃ……」
「心配いらないよ。バイタルコードは緑のままだから怪我とかはしてないみたいだ」
「だけど姉貴……これどうやって掘るんだ? 入口が崩落してんぞ」
「文香がほるー」
「「「「それはやめて?」」」」
いくら力の調整が聞くとは言え、周りの強度次第では意外なところが崩れたりもするので文香に頼む選択肢はなかった。
「後は……クワイエットだな。あいつもしかしてもう死んでんのか?」
キズナがばつの悪い表情でつぶやく、最初こそ激昂してクワイエットの犯行だと信じて疑わなかったが……アークがクワイエットの姿で出てきたのを見て、もしかして勘違いの可能性があるのではと思った。そうであればカタリナに狙撃された時に対応が早かったのも頷ける。
「どうかな……生きててくれればいいんだけど」
「見た目ではクワイエットそっくりと言うか……声まで一緒だとどうやって文香が見抜いたかわかりませんからね……案外一緒に監禁されているのでは?」
「それはそれで護衛失格だ、一から鍛えなおしてやる……」
まずは、と総出で凍り付いたアークをちょっと離れた所にどけた。
続いて糸子が眷属の蜘蛛を召喚して人海戦術ならぬ蜘蛛海戦術でえっさほいさと土や売岩を掘り返す。
「さて、これはどうするかな」
EIMSでアークの氷像を包み、温度を保つように処理をした後。桜花がどうしたもんやらと眼鏡を白衣の裾で磨いていた。
そんな油断しきった様子を唯一動く左目で確認したアークは機をうかがう。
ここから何としても逃げ出すために。
――ばちゅん!
8回目のアーク頭部消失で文香は竜化顕現を解いた。
後ろではめったに見ない激怒状態文香の問答無用砲を目の当たりにして、エキドナ達が両手を合わせてがくがくと震えている。
何せ真司と桜花達、牡丹以外は初見なのだが……威力がそもそもシャレにならない上に連発も可能、収束可能、拡散可能、周辺の地面に刻まれた紅くきらめく溶岩の痕……どう考えても数千度に達していた。
アークは強い、桜花の知る彼の強みはとにかく再生力が高い。
何せ角が無くても魔族より復活が速かった。体の一部であれば数秒足らずで作り直している。
実際、文香に吹き飛ばされた次の瞬間には元通りになっていたのだが……服は見るも無残にボロボロに焼け焦げていた。
「ふ、文香……拘束するから。とりあえずやめてもらえるかな?」
「絶対逃げられないようにね。おにいちゃん」
振り向いた文香の形相はまるで姉である弥生が怒った時にそっくりだったし、日下部家は総じて女性陣の方が怖いということを如実に表している。こういう時の真司の役割が大体間に挟まれてたりもするのだが、それは別の話だ。
「クワイエットの姿してたのに……文香迷わず頭を消し飛ばしたわね」
牡丹の言う通り、最初に弥生の囚われていると思われる洞窟から転がり出てきたのはクワイエットの姿をしたアークだった。
ほぼ全員、桜花がEIMSで本人かどうか確認しようと動く前に文香はその頭をレーザーブレスでぶち抜く、本人曰く「クワイエットおにいちゃんじゃないから」と一言で切って捨てる。
「魔力感知、装甲防御、極大火力……ラスボスあの子で良いんじゃないの?」
「御姉様、控えめに言って小型のパンデモニウムですよ。文香様」
はっきり言って文香はアークにとっての天敵そのものでだった。
その擬態能力で人を騙そうとしても、文香の眼は魔力も機械的な擬態も関係なく見破り……。
「調子に乗るなぁぁ!!」
アークが口の端から泡を吹きながらポケットの中の魔石を砕き、魔法を放っても。
「あぶないよ?」
右腕だけ瞬時に竜化顕現を使い、軽く振り抜くと魔力そのものを霧散させてしまう。
「何あれ……」
「おそらくマジックキャンセラーですね……フィンだと手も足も出ないんじゃないかなと思いますよ」
久々に顔を合わせたエキドナとオルトリンデが水筒の水を飲みながらその様子を見ていた。
「あ、文香……僕の魔法までかき消さないで!!」
「ふにゃ!? ごめんなさい!」
とはいえ、ついうっかり拘束する魔法を用意していた真司の努力も吹き散らしてしまったりという文香らしさは少しも失われていないのが、かえって心配になる。
「あ……ああああ!!」
とうとう手が無くなりつつあるアークが決死の突撃を敢行しても……。
「叩いちゃダメ」
文香が竜化した手でデコピンするとすでに瓦礫の山と化した洞窟の入り口にめり込むほどの衝撃で叩きつけられた。
大人と子供の騒ぎではない、レベルMAXの勇者と最弱モンスターのじゃれあいのようになっている。
「怖いのは文香ちゃんが完璧に手加減できているところですよねぇ」
「初手即死イベントとかにうってつけだな……すげぇおとなしいのに、弥生より怖えんじゃねぇ?」
まったりと大蜘蛛の背でクッキーをぼりぼりと齧る糸子とキズナが文香の気が済むまで、放置を決め込んでお茶を楽しんでいた。
「あ……う」
相手が相手だが、あまりにもな扱いに桜花とカタリナですら不憫と思う。
「文香、ちょっとどいて」
さすがにこれ以上は、という所で真司が魔法でアークを凍らせる。
桜花のアドバイスで絶対零度近くまで凍らせればしばらく動きは止められるとの事で、魔力を込めるのに時間がかかったが無事に詠唱と用意してきた魔法陣の刻まれた布で魔法が発動した。
「しまっ!」
びっしりと周りの地面に霜が降り、あっという間にアークの全身が真っ白に染まる。
「地味だけど……この魔法すごく魔力つかうぅ……」
それはそうだろう、この魔法はオルトリンデが使う攻撃魔法の中で一番難しく一番消費が高い。
オルトリンデが一応、と真司に教えたはいいものの……使えるだけでもすごいのに連発できる時点でウェイランドでもトップクラスの魔力量の証明だ。
ちなみにウェイランドで最強の魔法使い、宰相のクロウでも三発が限界である。
「使用できるだけあなたはすごいんですよ真司」
伝授したものとしてオルトリンデが真司をほめる。
「ありがとうオル姉……さあ、姉ちゃんを探さなきゃ……」
「心配いらないよ。バイタルコードは緑のままだから怪我とかはしてないみたいだ」
「だけど姉貴……これどうやって掘るんだ? 入口が崩落してんぞ」
「文香がほるー」
「「「「それはやめて?」」」」
いくら力の調整が聞くとは言え、周りの強度次第では意外なところが崩れたりもするので文香に頼む選択肢はなかった。
「後は……クワイエットだな。あいつもしかしてもう死んでんのか?」
キズナがばつの悪い表情でつぶやく、最初こそ激昂してクワイエットの犯行だと信じて疑わなかったが……アークがクワイエットの姿で出てきたのを見て、もしかして勘違いの可能性があるのではと思った。そうであればカタリナに狙撃された時に対応が早かったのも頷ける。
「どうかな……生きててくれればいいんだけど」
「見た目ではクワイエットそっくりと言うか……声まで一緒だとどうやって文香が見抜いたかわかりませんからね……案外一緒に監禁されているのでは?」
「それはそれで護衛失格だ、一から鍛えなおしてやる……」
まずは、と総出で凍り付いたアークをちょっと離れた所にどけた。
続いて糸子が眷属の蜘蛛を召喚して人海戦術ならぬ蜘蛛海戦術でえっさほいさと土や売岩を掘り返す。
「さて、これはどうするかな」
EIMSでアークの氷像を包み、温度を保つように処理をした後。桜花がどうしたもんやらと眼鏡を白衣の裾で磨いていた。
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