長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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悪意の再誕 ④

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「……んう?」

 桜花が目が覚めた時、目の前は真っ暗だった。
 何かに圧し掛かられてしまっているのか身動きができない。

「目が覚めましたか御姉様」

 その正体は全裸のカタリナだった。なぜか布団の中に潜り込んで桜花の全身を両手両足でがっちりホールドしている。
 一応怪我をしている自分を気遣ってなのか桜花の服は脱がされていなかった。だからと言って許されるものではないのだが……。

「今すぐ離れて服を着なさい、でないと電撃を食らわせるわよ」
「そんな! つい今さっき潜りこんだばかりで4時間しか堪能しておりませんのに!?」

 悲壮な顔を浮かべているが、4時間もしがみついていたのであれば十分であろう。
 気絶した直前の記憶があいまいだが、多分こうして義妹がこんなおバカな行動に出ているという事は何とか生き延びたという事だと判断した。

「キズナは? 戦闘機は?」
「キズナ様は軽傷ですでに元気いっぱいに動いております。戦闘機は私が刀を投げてコックピットをぶち抜いて堕としました。無人でしたので北門の衛兵宿舎に残骸を集めておいてあります」
「そっか、ありがとう……ほら、私も起きるからどいて?」
「むう……仕方ありません。後は御姉様のパンツで我慢しましょう」

 そう言ってカタリナが迷わず桜花のスカートの中に手を入れようとするが、桜花は手慣れた様子(?)でカタリナの顔面を右足で踏んずけてベットから追い出した。

「迷わず履いてるパンツを脱がすな。EIMSは……」
「そちらに、だいぶ消耗した様で金属をよこせと時折文句を言ってます」

 仕方ない、とカタリナは不貞腐れた様子で手早くメイド服を着こむ。
 その足元にはいつもより一回り小さくなった銀色のアタッシュケースが転がっていた。
 爆弾を防いだり桜花の治療などの為、結構な数のナノマシンを消耗してしまったのでいつもの大きさに離れなくなっている。

「ああ、なるほど……」

 状況を理解して拠点にある素材の量を思い出す。別にEIMSの補充にはそこいらの土からでも鉄を取り込めた。急ぐのであれば細かい砂鉄などの方が加工しやすいので補充も早い。

「一旦、拠点に戻るわよ。EIMSの材料を……」

 ベットから足を降ろして立ち上がろうと知る桜花だが、身体が重いし一個一個は大したことは無いが束になって全身から痛みが届く。

「いたぁ……大分鈍ってるわね」

 一度深呼吸をして足に力を込めると何とか立てそうだ。

「動けますか御姉様。無理なら私がお姫様抱っこで運びますが? いえ、無理はだめですね私が運びましょう、そうしましょう」
「動けるから大丈夫、その両手の動きキモいから……」
「そうですか……残念です」

 本当に無念そうにカタリナが項垂れるのを無視して桜花は今度こそ立ち上がる。
 大分ひどい手傷を追ったが戦闘機と真正面から喧嘩をして助かっただから僥倖だと思う事にした。
 それと同時に桜花の寝ていた病室の扉が乱暴に開かれる。

「消毒液臭い所だな……好きになれねえ」

 腕やほほに絆創膏を貼った金髪の少女、キズナが入るなり悪態をついた。
 桜花が見る限り大きな怪我はなさそうだが何となくいらだっているように見える。

「私は落ち着くわ……とりあえずお互い生き延びれたわね」
「その点については礼を言わせてくれ、さすがに爆弾の直撃防いだのには驚いたぜ……」
「おかげで気を失っちゃってあの戦闘機の相手をさせる羽目になったわ、それで貸し借り無しってことでどう?」
「とどめはお前の妹だからお前に貸し一だ。そっちはそっちで……何してんだ駄メイド」
「いえ、ここからのアングルがちょうど……ぶぎゃっ!?」

 かがみこんで桜花のスカートの中を覗こうとするカタリナを右足で踏みつける。
 純粋にカタリナが変態だとそろそろキズナは気づき始めていた。

「無視して良いわ。あれからどうなったか教えてくれない?」
「そうするところだ。病み上がりに悪いが力が借りたい……駄メイド、北門に向かうぞ」
「北門……残骸の検分ですか?」
「そうだ、それが終わったらすぐに動く」
「承知しました。御姉様、申し訳ありませんが道すがら説明します。あの飛行機の残骸を調べていただけませんか?」
「……何かあったの?」
「俺のボスが……弥生が攫われた」

 どうやらややこしい事になっているのを察した桜花が溜息をつく。
 あの時蜘蛛に乗っている少女を攫うための陽動にあの戦闘機やディーヴァを動員したのならつじつまが合う。

「なるほどね……わかった。行きましょう」
「助かる」

 そのまま桜花はEIMSの材料の補充を後回しにしてキズナの後に続いて病室を出た。
 
 

 ◆◇――――◆◇――――◆◇――――◆◇――――◆◇



「何これ、ガラクタじゃない……」

 北門の衛兵詰め所に集められたディーヴァと戦闘機の残骸はちょっとした山のようになっていた。
 衛兵が明るくなった後、律儀に拾い集めてくれていたのだ。

「確かに錆びてる部品が多いな……」

 山に刺さっているディーヴァの腕をキズナが抜き取って切断面を見ると、乳白色に変色したグリスと鉄さびの混じった嫌な臭いが鼻をつく。長年整備されずに持て余されていたのかもしれない。

「弾性装甲も劣化しておりますね……腐ってました」

 カタリナの持ったディーヴァの頭はぬるりとした感触で、少し力を込めるとブヨブヨの装甲はずるり、と剥げて中にある金属の骨格が露わになる。匂いも肉の腐ったような腐臭が撒き散らされ、さすがにこれにはカタリナも顔をしかめて窓を開けて換気をした。

「EIMS、CPUに接続して情報を抜き取れる?」
『可能、サンプルの提供を求めます』
「カタリナ、その生首頂戴」
「どうぞ……匂いがきついのでマスクを借りてきます。キズナ様は?」
「俺の分も頼む……堪えるな」

 胸の辺りに溜まる不快感を手で払い、キズナもマスクを求める。
 そんな二人をよそに桜花はカタリナから受け取ったディーヴァの生首を横に置いたEIMSのアタッシュケースに設置した。

『接続を開始します。解析中、通電チェックのため一時的にサンプルが稼働』

 EIMSの合成音声が状況を説明してる間にも、アタッシュケースの一部が何本かのケーブルに変化して生首に接続される。

「規格とか大丈夫なのか?」

 ふと、キズナに浮かんだ疑問は桜花が打ち消した。

「規格が合わなきゃ解析するわよ、時間かかるけどね」
『該当するプロトコルを確認、MILスペックとの合致を確認、機密データと思われるセキュリティアーカイブを発見、ハッキングを開始します』

 ね? とEIMSの報告を聞いて得意気に桜花がキズナへ笑いかける。

「大したもんだ、制限はあるのか?」
「そうね……まあ、無い訳じゃないけど。大した問題じゃないわ」

 そんなやり取りをしてる間に、マスクを取りに行ったカタリナが帰ってきてEIMSの解析も終了する。
 その解析結果は桜花たちも驚く意外な物だった。

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