154 / 255
宴の終わり ⑤
しおりを挟む
「くそっ……火力が足らねぇ」
キズナが悪態をつきながら銃に新しい弾倉を叩き込む。
困った事に持てるだけの弾丸を持ち出したのに、すでに枯渇寸前だ。キズナの見通しが悪い、そう思うかもしれないがまさかの戦闘機を相手にするとは想像の範疇を超えていた。
むしろ先ほどの爆発後、衛兵を逃がす時間稼ぎをやり遂げたキズナの力量をほめるべきだろう。
その対価として全身を強打し、内臓にまでダメージを負った桜花の存在が大きい。
「おいこらEIMS!! 聞こえてんだろう!? バズーカとかライフルになれっての!!」
『権限非承認』
「くそぉぉぉ!!」
さっきから桜花とキズナを爆撃から守り抜いたEIMSはところどころ破損しつつも、緊急措置なのか桜花の身体を包み込む繭のような形状で頑としてキズナの言葉に従わなかった。
「まだ来るのかよ!」
しつこく旋回を繰り返し銃撃をしてくる戦闘機の音が近づいてくる。
何とかすれ違いざまに左側の機銃を撃ち抜いて使用不可能に追い込んだが、右側が元気に鉄の嵐を降り注いでくるのだ。
幸い桜花を包むエイムスの防御力は機銃を防いでくれるし、爆弾もさっきの一発だけだったのかあれ以来使ってくる様子が無い。だからこそ生き残れているのだが、その内疲労が溜まったら避けられなくなるとキズナは焦る。
「頼むぜ弥生、あの銀髪魔族かオルトリンデ、最悪真司か文香で良いから連れてきてくれよ……」
覚悟を決めて戦闘機を視界に収めながら走り出す。
遮蔽物の無い街道で機銃を交わすのは容易ではない、あてずっぽうでジグザグに乱数回避し射撃が始まったら相手の軌道に合わせて飛びのくというアクロバットをもはや数回繰り返していた。
そんな散発的に拳銃でささやかな反抗を繰り返すキズナをとうとう不幸が襲う。
「うえっ!?」
一体のディーヴァの残骸から流れたオイルで足を滑らせてキズナが盛大に転んだ。
暗い上に避けるのに必死で足元まで注意が回らない。砂利道で脛を強打し泣きたくなるような激痛が走る。
しかし、今は足を止める訳にはいかない。涙目になりながらも転がりながら立ち上がる。
「やべぇ」
機銃の駆動音が甲高く響いてきて、もう数秒もしない内にキズナを引き裂くだろう。
そう思われた時……
――ガキンッ!!
反射的に目を閉じ、両手で顔を覆ったキズナの耳に届いた激突音。
「?」
うっすらと左目を開けて見ると戦闘機のコックピットに何かが刺さっているのをかろうじて確認したが、戦闘機はそのままキズナを通り過ぎて強風をまき散らし通過した。
「なんだ?」
数秒後、凄まじい衝突音が後方で奏でられ。あっけないほどに危機は去る。
あまりの事に事態が呑み込めないキズナが振り返ると、ちろちろと炎を上げて墜落した戦闘機が火花を散らしていた。
「ご無事ですか?」
「うおっ!! お前……変態メイド?」
いつの間にかカタリナがキズナの近くに来ている。
「はい、危なそうなので叩き落しておきましたが……アレは何ですか?」
「俺が聞きたい……なんにせよ助かった。ありがとうな、お前ら姉妹が居なかったら今ごろ墓の下だった」
「良く生き残れましたね……」
カタリナも取り急ぎ駆け付けたので良く周りを見ていなかったが、大気の焼ける匂いや地面に散乱する薬莢、弾痕を見て察する。
「しぶとさには自信があってな。ああくそ疲れた、あ、お前の姉貴も爆弾の直撃防いでお寝んね中だ……門に近い所であのEIMSとか言う道具が繭になってる所に居る」
「なるほど、申し訳ありませんキズナ様。取り急ぎ御姉様の安否を確認してまいります。周りに敵は居なさそうなので、後で迎えに来ても?」
とりあえずキズナは大丈夫そうだと判断したカタリナが桜花の元へ向かう事を優先し、来る途中に見かけた白い繭に向かった。しかし、ふと何かに気づいたかのようにカタリナが足を止める。
「そういえば蜘蛛に乗っていたのは貴方の警護対象、日下部弥生様で間違いないでしょうか?」
キズナの眉根が寄る、なぜ今そんなことを? もしかして鉢合わせたのだろうかと思いキズナが肯定する。するとカタリナが振り返り言いにくそうにキズナに告げた。
「ここに来る前に彼女が誰かに連れ去られた現場に居合わせました。相手の正体は不明ですが白い催涙性の煙幕と全身黒づくめ、身軽な男性に心当たりは?」
「………………は?」
「現場にこれが残されていました」
カタリナからキズナへ軽く放り投げられた物を彼女が受け取り、その正体をキズナは即座に理解した。
「やられた……」
それは弥生の持つ国内唯一の白金で出来た書記官のバッジ。
「すみません、距離があって妨害が精いっぱいでした」
申し訳なさそうな声音のカタリナにキズナが手を振る。
「いい、俺も油断していた。お前が言う攫った相手には心当たりがある」
そう、格闘大会で見たカタリナの身体能力からみるに何とかできそうな相手は限られる。だが、まだ確定ではない。
情報をそろえるためにキズナは質問を重ねた。
「お前、銃か何かで遠距離攻撃したか?」
「対物ライフルで威嚇射撃しました」
「反応は?」
「驚いているようでしたが、割とすぐに逃げに徹しましたね」
「……そっか、わかった」
お礼を言ってキズナが地面に大の字になる。
どのみち足が痛むのでしばらくは動きたくない、それに少し頭を整理したかった。
そんなキズナの様子を察して、カタリナは丁寧に礼を残して桜花の元へ向かう。
しばらくキズナはぼーっと星が瞬く空を見上げた。
初めてできた同年代の友人、口の悪い自分を嫌な顔一つせず受け入れ。
悪乗りにも一緒に付き合い、無頓着な自分を誘いおそろいの服を選んだり……。
「忙しくなるな……」
できるだけ早く動かなければいけない。
友達を取り戻すのだ。
キズナが悪態をつきながら銃に新しい弾倉を叩き込む。
困った事に持てるだけの弾丸を持ち出したのに、すでに枯渇寸前だ。キズナの見通しが悪い、そう思うかもしれないがまさかの戦闘機を相手にするとは想像の範疇を超えていた。
むしろ先ほどの爆発後、衛兵を逃がす時間稼ぎをやり遂げたキズナの力量をほめるべきだろう。
その対価として全身を強打し、内臓にまでダメージを負った桜花の存在が大きい。
「おいこらEIMS!! 聞こえてんだろう!? バズーカとかライフルになれっての!!」
『権限非承認』
「くそぉぉぉ!!」
さっきから桜花とキズナを爆撃から守り抜いたEIMSはところどころ破損しつつも、緊急措置なのか桜花の身体を包み込む繭のような形状で頑としてキズナの言葉に従わなかった。
「まだ来るのかよ!」
しつこく旋回を繰り返し銃撃をしてくる戦闘機の音が近づいてくる。
何とかすれ違いざまに左側の機銃を撃ち抜いて使用不可能に追い込んだが、右側が元気に鉄の嵐を降り注いでくるのだ。
幸い桜花を包むエイムスの防御力は機銃を防いでくれるし、爆弾もさっきの一発だけだったのかあれ以来使ってくる様子が無い。だからこそ生き残れているのだが、その内疲労が溜まったら避けられなくなるとキズナは焦る。
「頼むぜ弥生、あの銀髪魔族かオルトリンデ、最悪真司か文香で良いから連れてきてくれよ……」
覚悟を決めて戦闘機を視界に収めながら走り出す。
遮蔽物の無い街道で機銃を交わすのは容易ではない、あてずっぽうでジグザグに乱数回避し射撃が始まったら相手の軌道に合わせて飛びのくというアクロバットをもはや数回繰り返していた。
そんな散発的に拳銃でささやかな反抗を繰り返すキズナをとうとう不幸が襲う。
「うえっ!?」
一体のディーヴァの残骸から流れたオイルで足を滑らせてキズナが盛大に転んだ。
暗い上に避けるのに必死で足元まで注意が回らない。砂利道で脛を強打し泣きたくなるような激痛が走る。
しかし、今は足を止める訳にはいかない。涙目になりながらも転がりながら立ち上がる。
「やべぇ」
機銃の駆動音が甲高く響いてきて、もう数秒もしない内にキズナを引き裂くだろう。
そう思われた時……
――ガキンッ!!
反射的に目を閉じ、両手で顔を覆ったキズナの耳に届いた激突音。
「?」
うっすらと左目を開けて見ると戦闘機のコックピットに何かが刺さっているのをかろうじて確認したが、戦闘機はそのままキズナを通り過ぎて強風をまき散らし通過した。
「なんだ?」
数秒後、凄まじい衝突音が後方で奏でられ。あっけないほどに危機は去る。
あまりの事に事態が呑み込めないキズナが振り返ると、ちろちろと炎を上げて墜落した戦闘機が火花を散らしていた。
「ご無事ですか?」
「うおっ!! お前……変態メイド?」
いつの間にかカタリナがキズナの近くに来ている。
「はい、危なそうなので叩き落しておきましたが……アレは何ですか?」
「俺が聞きたい……なんにせよ助かった。ありがとうな、お前ら姉妹が居なかったら今ごろ墓の下だった」
「良く生き残れましたね……」
カタリナも取り急ぎ駆け付けたので良く周りを見ていなかったが、大気の焼ける匂いや地面に散乱する薬莢、弾痕を見て察する。
「しぶとさには自信があってな。ああくそ疲れた、あ、お前の姉貴も爆弾の直撃防いでお寝んね中だ……門に近い所であのEIMSとか言う道具が繭になってる所に居る」
「なるほど、申し訳ありませんキズナ様。取り急ぎ御姉様の安否を確認してまいります。周りに敵は居なさそうなので、後で迎えに来ても?」
とりあえずキズナは大丈夫そうだと判断したカタリナが桜花の元へ向かう事を優先し、来る途中に見かけた白い繭に向かった。しかし、ふと何かに気づいたかのようにカタリナが足を止める。
「そういえば蜘蛛に乗っていたのは貴方の警護対象、日下部弥生様で間違いないでしょうか?」
キズナの眉根が寄る、なぜ今そんなことを? もしかして鉢合わせたのだろうかと思いキズナが肯定する。するとカタリナが振り返り言いにくそうにキズナに告げた。
「ここに来る前に彼女が誰かに連れ去られた現場に居合わせました。相手の正体は不明ですが白い催涙性の煙幕と全身黒づくめ、身軽な男性に心当たりは?」
「………………は?」
「現場にこれが残されていました」
カタリナからキズナへ軽く放り投げられた物を彼女が受け取り、その正体をキズナは即座に理解した。
「やられた……」
それは弥生の持つ国内唯一の白金で出来た書記官のバッジ。
「すみません、距離があって妨害が精いっぱいでした」
申し訳なさそうな声音のカタリナにキズナが手を振る。
「いい、俺も油断していた。お前が言う攫った相手には心当たりがある」
そう、格闘大会で見たカタリナの身体能力からみるに何とかできそうな相手は限られる。だが、まだ確定ではない。
情報をそろえるためにキズナは質問を重ねた。
「お前、銃か何かで遠距離攻撃したか?」
「対物ライフルで威嚇射撃しました」
「反応は?」
「驚いているようでしたが、割とすぐに逃げに徹しましたね」
「……そっか、わかった」
お礼を言ってキズナが地面に大の字になる。
どのみち足が痛むのでしばらくは動きたくない、それに少し頭を整理したかった。
そんなキズナの様子を察して、カタリナは丁寧に礼を残して桜花の元へ向かう。
しばらくキズナはぼーっと星が瞬く空を見上げた。
初めてできた同年代の友人、口の悪い自分を嫌な顔一つせず受け入れ。
悪乗りにも一緒に付き合い、無頓着な自分を誘いおそろいの服を選んだり……。
「忙しくなるな……」
できるだけ早く動かなければいけない。
友達を取り戻すのだ。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる