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閑話:先代魔王と欠けた原罪
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「と言う事で、可能な限りの装備を整えてここに集まってもらえると助かるんだけど……どうかな?」
外宇宙航行艦『パンデモニウム』の元船長、間宮零士はボロボロのワイシャツと黒のスラックス姿で目の前の女性に懇願する。
「いや、あのぉ……なんで生きてるんですか? 零士様」
「再生に10年もかかったから相当危なかったんだよね。あはは」
困惑する金髪で釣り目の女性は銃を降ろす。
首から下だけ瓦礫からはみ出してた男性を引っ張り出してみたら黒髪で精悍な顔つきの有名人が笑いかけてきたので銃を突き付けてしまったのだ。
「危なかったって……」
彼女は体のラインが良くわかるスーツの上に警察の防弾ベストを身に着けていた。
その胸元にはエンヴィーと書かれた名札を付けている。ちょうど巡回任務中だったのだがとんでもない物を見つけてしまったのだ。
「ちょっとお待ちください、一応無線封鎖して……」
「ああ、気にしなくていいよ? 僕ほら人見知りだから知り合い以外は入れないように空間遮断の魔法を使ってたからさ……それより、何か飲み物もらえないかなぁ? できればコーヒーが飲みたいんだけど」
そう言って零士は左手の指をぱちんと鳴らし、そこいらの瓦礫を魔法で加工してテーブルと椅子を作り出す。エンヴィーは魔法を使えないので苦笑いを浮かべているが、ちゃんとした術式も無しに現象を作り出すのは並みの魔族には不可能だ。ちゃんとした詠唱や術式を用意して魔力を注ぎ込まなければならない。
「……このマイペースっぷり、間違いなく零士様だわ。とりあえず……缶コーヒーでよければ」
「いやぁ、君たちレヴィヤタンに会えてラッキーだよ。知り合いの設定に間違えてアーク君まで含めてたから万が一鉢合わせたら今度こそ死んじゃってたかもね。あっはっはー」
エンヴィーから缶コーヒーを受け取りプルタブを開ける零士はあっけらかんとして笑う。
そんな零士の様子を見て何となく二か月前の出来事を把握して無いとエンヴィーは眉根を寄せた。
その様子から零士は何かあったのかと興味を引かれる。
「僕が生きてるってことはアーク君も生きてる可能性があるから今度こそ倒しておかないと……と思ったんだけど。もしかして先にアーク君が復活したのかな?」
そのまさかである。
「大変申し上げにくいのですが、二か月前に桜花博士がラスト隊長……今はカタリナと名乗ってますが我々と二人で次元のはざまにぶち込みました」
これ以上なく簡潔な説明でグラトニーが零士に話した。
「桜花博士って……まさか、僕の娘だったり?」
「ええ、十年越しの親の仇を討たれたのですが……控えめに言って零士様の存命でかなり微妙なテンションです」
「……うそん。えええ、じゃあ今桜花と君らの隊長は?」
「行方不明扱いですがおそらく亡くなっているかと」
無慈悲ともいえる状況にさすがの零士も顔が引きつる。
もし自分が後数か月だけ早く復活できていたら現在の状況は違っていただろう。相打ちとは言えあの存在自体がでたらめな黒幕、アークを打ち取ったのだ。
そんな三人は現在遥か先の未来で生きていたりする。
「次元のはざまって……どうやって放り込んだのかとかわかるかい?」
「まあ、その場に居たのでよろしければ案内しますか?」
エンヴィーが苦笑いを浮かべながら提案する。
もちろん零士としても願ったりかなったりなのでもらったコーヒーを一気に飲み干して頷いた。
「やれやれ、僕の娘の事だ……何か手掛かりくらい残ってるといいのだけどね」
「ちなみに奥様の角は厳重に保管されておりますので後ほど中央政府に掛け合ってはいかがです? 零士様なら再生させるのも可能かと思いますので」
「よかったぁ……ところで僕はどういう扱いかな? 戸籍上死んでたりする?」
「一応行方不明扱いですが、まずは服を何とかしませんか? いくら何でも英雄でもある零士様にそんなおんぼろ服のまま歩き回られて、同僚に見つかったら何と言われる事やら」
状況が状況だけに浮浪者を連行してるようにしか見えないし、いくら有名人とは言え顔を知らない者からしたらこの場は立ち入り禁止区域なので……説明がややこしくなるのは口下手なエンヴィーには望ましくなかった。
「おっと、配慮が足らなかったね」
再び零士は指を鳴らすとところどころ破れていた服はあっという間に新品同様になる。
それどころか瓦礫の奥から一本の金属製の杖が彼の手に飛び込み、淡い光が彼を包んだ。
「これでどうかな? エンヴィー君」
零士を包んだ光は数秒で霧散し、エンヴィーも見慣れた漆黒のトレンチコートと黒いブーツ、そしてパンデモニウムの船長の証である三角帽(トライコーン)を身に纏っていた。
「おしゃれし放題ですね……てっきり零士様は攻撃魔法しか使えないと思っておりましたので驚きました」
「あー得意なのは攻撃魔法だけど。これくらいはできないと宇宙空間で作業できないんだよ……苦手だから偶に窒息したりしてたけど」
「桜花博士はそういう魔法の方が得意そうですね」
「そうだね、魔族だから姿形は変わってないと思うけど……娘は元気だったかい?」
零士の何気ない問いにエンヴィーは固まる。
「あ、え……ええと。その、ですね……桜花博士はですね」
「うん?」
「黒髪爆乳眼鏡の合法ロリ陰キャで引きこもり研究生活を謳歌していました。桜花だけに……なんちゃって」
苦し紛れにできるだけわかりやすく説明したエンヴィーの努力は虚しく、ダジャレも駄々滑りした挙句の零士の質問攻めにされるのであった。
しかし、アークと桜花・カタリナコンビの決戦の地で。もう一度、時空の壁が開くきっかけとなったのもまた事実だった。
外宇宙航行艦『パンデモニウム』の元船長、間宮零士はボロボロのワイシャツと黒のスラックス姿で目の前の女性に懇願する。
「いや、あのぉ……なんで生きてるんですか? 零士様」
「再生に10年もかかったから相当危なかったんだよね。あはは」
困惑する金髪で釣り目の女性は銃を降ろす。
首から下だけ瓦礫からはみ出してた男性を引っ張り出してみたら黒髪で精悍な顔つきの有名人が笑いかけてきたので銃を突き付けてしまったのだ。
「危なかったって……」
彼女は体のラインが良くわかるスーツの上に警察の防弾ベストを身に着けていた。
その胸元にはエンヴィーと書かれた名札を付けている。ちょうど巡回任務中だったのだがとんでもない物を見つけてしまったのだ。
「ちょっとお待ちください、一応無線封鎖して……」
「ああ、気にしなくていいよ? 僕ほら人見知りだから知り合い以外は入れないように空間遮断の魔法を使ってたからさ……それより、何か飲み物もらえないかなぁ? できればコーヒーが飲みたいんだけど」
そう言って零士は左手の指をぱちんと鳴らし、そこいらの瓦礫を魔法で加工してテーブルと椅子を作り出す。エンヴィーは魔法を使えないので苦笑いを浮かべているが、ちゃんとした術式も無しに現象を作り出すのは並みの魔族には不可能だ。ちゃんとした詠唱や術式を用意して魔力を注ぎ込まなければならない。
「……このマイペースっぷり、間違いなく零士様だわ。とりあえず……缶コーヒーでよければ」
「いやぁ、君たちレヴィヤタンに会えてラッキーだよ。知り合いの設定に間違えてアーク君まで含めてたから万が一鉢合わせたら今度こそ死んじゃってたかもね。あっはっはー」
エンヴィーから缶コーヒーを受け取りプルタブを開ける零士はあっけらかんとして笑う。
そんな零士の様子を見て何となく二か月前の出来事を把握して無いとエンヴィーは眉根を寄せた。
その様子から零士は何かあったのかと興味を引かれる。
「僕が生きてるってことはアーク君も生きてる可能性があるから今度こそ倒しておかないと……と思ったんだけど。もしかして先にアーク君が復活したのかな?」
そのまさかである。
「大変申し上げにくいのですが、二か月前に桜花博士がラスト隊長……今はカタリナと名乗ってますが我々と二人で次元のはざまにぶち込みました」
これ以上なく簡潔な説明でグラトニーが零士に話した。
「桜花博士って……まさか、僕の娘だったり?」
「ええ、十年越しの親の仇を討たれたのですが……控えめに言って零士様の存命でかなり微妙なテンションです」
「……うそん。えええ、じゃあ今桜花と君らの隊長は?」
「行方不明扱いですがおそらく亡くなっているかと」
無慈悲ともいえる状況にさすがの零士も顔が引きつる。
もし自分が後数か月だけ早く復活できていたら現在の状況は違っていただろう。相打ちとは言えあの存在自体がでたらめな黒幕、アークを打ち取ったのだ。
そんな三人は現在遥か先の未来で生きていたりする。
「次元のはざまって……どうやって放り込んだのかとかわかるかい?」
「まあ、その場に居たのでよろしければ案内しますか?」
エンヴィーが苦笑いを浮かべながら提案する。
もちろん零士としても願ったりかなったりなのでもらったコーヒーを一気に飲み干して頷いた。
「やれやれ、僕の娘の事だ……何か手掛かりくらい残ってるといいのだけどね」
「ちなみに奥様の角は厳重に保管されておりますので後ほど中央政府に掛け合ってはいかがです? 零士様なら再生させるのも可能かと思いますので」
「よかったぁ……ところで僕はどういう扱いかな? 戸籍上死んでたりする?」
「一応行方不明扱いですが、まずは服を何とかしませんか? いくら何でも英雄でもある零士様にそんなおんぼろ服のまま歩き回られて、同僚に見つかったら何と言われる事やら」
状況が状況だけに浮浪者を連行してるようにしか見えないし、いくら有名人とは言え顔を知らない者からしたらこの場は立ち入り禁止区域なので……説明がややこしくなるのは口下手なエンヴィーには望ましくなかった。
「おっと、配慮が足らなかったね」
再び零士は指を鳴らすとところどころ破れていた服はあっという間に新品同様になる。
それどころか瓦礫の奥から一本の金属製の杖が彼の手に飛び込み、淡い光が彼を包んだ。
「これでどうかな? エンヴィー君」
零士を包んだ光は数秒で霧散し、エンヴィーも見慣れた漆黒のトレンチコートと黒いブーツ、そしてパンデモニウムの船長の証である三角帽(トライコーン)を身に纏っていた。
「おしゃれし放題ですね……てっきり零士様は攻撃魔法しか使えないと思っておりましたので驚きました」
「あー得意なのは攻撃魔法だけど。これくらいはできないと宇宙空間で作業できないんだよ……苦手だから偶に窒息したりしてたけど」
「桜花博士はそういう魔法の方が得意そうですね」
「そうだね、魔族だから姿形は変わってないと思うけど……娘は元気だったかい?」
零士の何気ない問いにエンヴィーは固まる。
「あ、え……ええと。その、ですね……桜花博士はですね」
「うん?」
「黒髪爆乳眼鏡の合法ロリ陰キャで引きこもり研究生活を謳歌していました。桜花だけに……なんちゃって」
苦し紛れにできるだけわかりやすく説明したエンヴィーの努力は虚しく、ダジャレも駄々滑りした挙句の零士の質問攻めにされるのであった。
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