長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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本祭! 格闘大会!! ③

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 ウェイランドの格闘大会、それは今回で25回目を迎えてギルド祭での一大イベントとして人気を博する。格闘大会と言うだけあって武器の使用は認められない。防具は自由だが、全身鎧などは視界が遮られたりするので不人気極まりなかった。

 年齢制限も特になく、別に戦えると言って10歳の子供が二回戦まで勝ち進んだ例もある。
 最年長はこの国の宰相だったりするのだが……あまりにも圧倒的過ぎて運営により殿堂入りと言う名の出場停止にされていた。

「家政婦ギルド所属の日下部文香です! 参加登録にきました!」

 ちょっとだけ緊張した面持ちで文香が格闘大会の受付の人に告げる。
 ここから先は姉と兄は参会者ではないので入れない。周りが大人だらけなので困ったら聞く、姉の言葉を忠実に守る。基本的に文香はいい子だった。
 受付の台より低い文香の身長でも、受付をしてる髭が豊かな男性はのぞき込んで文香に笑みを浮かべる。

「ああ、聞いているよ。よく来たねお嬢さん……家政婦ギルドだったのかい。黒い竜のペットは今日は来ないのかい?」
「レンちゃんはお出かけなの! おじいちゃんのお家にみんなを迎えに行くって」
「そうかそうか、じゃあお嬢ちゃんが……え、一人で参加するのかい?」
「そうなのー!」

 元気いっぱいに片手をあげる文香のしぐさは可愛い、可愛いが……周りの受付待ちの参加者や運営職員からどよめきの声が上がる。
 いくら何でも無理ではなかろうか? と、当然の疑問が大半だった。
 そんな中、一人のメイドがずんずんと人をかき分けて文香の後ろに立つ。
 
 短く切りそろえられた黒髪、お仕着せのエプロンドレス、しかしその服は明らかにスカートが短く太ももまで露わとなり男女構わず目を引く。細いたれ目の高身長の女性。牡丹である。
 足元に居る文香を見つけてちょっと驚いた風に首をかしげてしゃがみ込む、子供と話すときには目線を合わせないと怖がられるので癖のようなものだ。
 ただ……真司の前でしゃがみこんだ時だけは『二度としないで!? いい? フリじゃないからね!?』と真っ赤になって怒られたので彼の前では基本立ったままだ。

「どうしたの文香、ここは参加者の受付場所よ?」
「文香も参加するんだよ。牡丹おねーちゃん!」
「ふうん、じゃああの事はバラしちゃったのね……まあ良いわ、アレはちゃんと持ってきているかしら? 忘れたらさすがに参加はさせられないけど」

 ある条件下では文香が戦える事を知っている牡丹、なぜならば指導したのは彼女だからである。

「だいじょーぶ! ちゃんと持ってきてるんだよ!」
「じゃあ良いわ。受付のおじさん、私も参加よ。家政婦ギルド所属の牡丹」

 また家政婦ギルド? とおじさんの表情が何とも言えない様相を呈した。
 毎年にぎやかしの参加者が居ることはいるが……家政婦ギルドは初めてだ。それも二人も……。
 しかし、長年この受付をしていてわかるのは何となくこの二人が何か面白い事をしそうな気がしていた。

「じゃあ、これが参加者のバッジだ……一回戦目はこのバッジに書かれている番号が読み上げられたら闘技場に行って戦う事になる。無くしちゃだめだよ? お嬢ちゃん」
「はーい! 牡丹おねーちゃん、これどうやってつけるの?」
「……無難にそのおんぼろマントにつけちゃえばいいと思うわ」
「わかった!」
「これがメイドさんのだ」
「ありがとう、私は下着につけるわ」

 そう言って牡丹は躊躇いなくスカートをまくり上げてパンツのサイドにバッジをつける。
 周りから見える? ご褒美ですが何か? 牡丹にその手の恥じらいなど無かった。

「……構わんが、番号読み上げられた時に間違い防止のため審判が確認するぞ?」
「……? それの何が問題なの?」
「牡丹おねーちゃん、おパンツ見えると洞爺おじいちゃんとおにーちゃんに怒られるよ?」
「安心して文香、洞爺さんは今はいないし真司は観客席よ。つまり、その場では怒られないわ」
「…………そっか! 牡丹おねーちゃん頭良いね!!」

 真司と洞爺から『もし牡丹が訳の分からないことを言ったら、とりあえず頭良いねと褒めておけ。後は何とかする』と文香は教えられていたので言われたとおりにする。
 きっと怒られるだろうけど文香にはどうしようもないので! ので!

「まあいい、さあ。控室に行くと良い、そこで防具を受け取れる……女性用控室はこの廊下をまっすぐ行って左側だ。頑張るんだぞ文香ちゃん」

 面倒ごとは勘弁なので受付のおじさんは牡丹をスルーすることにした。
 多分巷で噂の酒場で脱ぐ『脱ぎ女』と同じくらい問題のある人物だと判断して……。
 なんでそんな問題人物と文香が仲良く話しているのか、と言う事はあえて考えない。きっと何か事情があるんだと、実は面倒見がいい常識人かもしれないと、思い込むことにする。

「ありがとう! 文香頑張るね! おじちゃん」

 ひらひらと手を振ってその可愛い背中と、問題ありそうなメイドを見送った後。
 つつがなく受付の業務を進めていくおじさんの前に、再度試練は訪れた……。

「飛び入りの参加も良いと聞いてきました。まだ間に合いますか?」

 一段落して、バッジの残り個数を数えていたらこもった女の声でそう問いかけられた。
 もちろん飛び入り参加枠も設けているので受け付けようと、手元のバッジから目線を上げてくと……短く詰められて太ももが露わになったスカート。すらりと伸びた腰と胸元には純白のエプロンドレス、ホワイトプリムを乗せた青みが勝った銀髪と黒い角……魔族のメイドさんである。

「あ、ああ……構わないですよ。こちらの紙に記入をお願いできますかな?」
「畏まりました。職業は……御姉様の奴隷メイド、名前は……カタリナ……これでよろしいですか?」

 さらさらときれいに整った字で記入していくメイドさんをおじさんはひきつった笑顔で対応する。
 内心では今日は何なんだ? メイドさんが戦うこと自体異常なのに今日は二人目? しかもやたら煽情的だし!! 流行ってるの!? ねえ、流行ってるの!?
 全力で心の中で叫ぶ受付のおじさんをよそに、実に丁寧にカタリナは受付を済ませていく。

「こちらが参加者のバッジになります。番号で管理していますので呼ばれたら闘技場へ上がってください、どこにつけても良いですが見やすい場所が良いかと思います」
「なるほど、では下着「そのホワイトプリムが良いんじゃないですかね!?」」

 ……おじさん、これ以上問題児を増やしたくない一心でご提案するが。

「何か問題でも?」

 キョトンとするカタリナに、かくかくしかじかと牡丹にした説明を繰り返すが……

「そうでしたか、御姉様以外にみられるのは困りますのでそうします。ご助言感謝いたします」
「ええどういたしまして!! 控室はまっすぐ行って左です!!」

 なんか疲労感が半端ないが、問題児を一人減らせたのだから良しとしよう。
 とてもきれいな姿勢で歩くカタリナを見送ったら。
 次の参加者が控えていた。さあ、仕事だ……と思ったら。

「なんでまたメイドなんだっ!?」
「ひあっ!? すみません!!」
「あ、いえ。すみません、ちょっと今年は良くわからない事が起きていて……事前登録された参加者さんですか?」
「あ、はい……ノートルダム王国のアキ……じゃなかった『メイ』です」
「メイ……はて、そんな名前の方は名簿にありませんが?」
「え……まさ、か」
「ノートルダム王国の参加者は……アキラと言う方しか事前申請がありませんが……」

 短く切りそろえられた黒い髪、くりくりとした茶色の瞳、これこそ伝統的メイドのお仕着せの少女は分かりやすく狼狽える。どうしたのかとおじさんが声をかければ、少し低めの声でぼそぼそと何かをつぶやいていた。

「く、くっそぉ……わかってて本名で登録したなマリア……」
「どうしました? 気分でも悪いのですかな?」

 心配しておじさんが問いかけるも、メイドさんは顔を上げない。
 このままでは並んでる参加者を待たせてしまうので一度避けてもらおうかと考え始めた時、メイ、と名乗ったメイドは顔を上げておじさんに告げる。

「ま、間違って兄の名前で登録されちゃってるみたいなのでアキラで良いです!」

 なぜか半泣きでそのメイドさんは受付用紙に名前を書きなぐった。
 まあ、別にそれならそれでいいか。とおじさんも疲れ気味だったので再びスルー。

 バッジを渡して、控室の案内をしてあげると……。
 
「ありがとうございます!!」

 やけくそ気味のお礼を残し、駆け足で廊下をまっすぐ行って……
 
「………………そっち男性用控え室」

 もはや追いかけて行ってまで何かしてあげる気力も無く。受付のおじさんは機械的に仕事をこなして帰宅する。いつもならボランティアでやっている受付の特権として見通しが良い席を貰っていたのだが……今年はなんか見る気がしなかった。

 そして、それは大きな間違いだったと知るのは。翌日の昼だった。

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