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本祭! 格闘大会!! ②
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「良いわね、絶対……手加減するのよ?」
「かしこまりました御姉様、8割殺しで留めるようこのカタリナ。鋭意努力いたします」
「……お・ま・え・は!! 私の話を聞いていたの!? 手加減しろって言ったのよ!! 8割殺せなんて言ってない!!」
「御姉様……妥協はメイドには不要です」
「妹として妥協しろっって言ってるの!? 日本語通じてる!?」
白衣のちんまりした体躯で、一点だけ存在感を主張する胸と自慢の黒髪を揺らしながら。間宮桜花は本日何度目かもわからない説明と注意を義妹のカタリナに叩き込む。
床にちょん、と正座しているカタリナへ桜花が仁王立ちしながら。二人はウェイランドの西区にあるちょっとお高めの高級宿の一室で準備をしていた。
「安心してください。聞いてませんと答えます」
「捕まって尋問受けてる前提で話を飛躍さすんじゃねーわよ!? 欠片も理解できてないじゃないの!? 人類最精鋭の部隊長だったアンタはどこに置いてきたの!?」
「安心してください。ここにいますよ」
「その自信満々のどや顔、腹立つ!!」
「御姉様は我儘です」
ふう、と頬に手を当てカタリナがため息をこぼす。その仕草は上品で事情を知らない者が見れば、聞き分けの無い子供をあやすベテランメイド。といった風に見えるのだが実際は真逆である。
「……やっぱり私が格闘大会出ようかしら。頑張れば優勝くらい何とかなるかもしれないし」
「無理でございます。特にそのけしからんものを揺らして勝てるのは男性と一部の私の同類でございます」
「実力で勝つって言ってるのに……こいつは! こいつはっ!!」
げしげしとカタリナの頭を遠慮なく蹴りつける桜花、それを顔を赤らめながら嬉しそうに受けるカタリナ。弥生が見たら喜びそうな構図だ。
「しかし、なんでわざわざ大会に出るのですか? いつも通り夜間に潜入してしまえば簡単ですのに」
「……本気であんた私の話を聞いてなかったわね」
「蜂蜜酒が美味しくて、御姉様の説明長いのが分かってるので全く聞いてませんでした!!」
「EIMS、ハンマーに形態変化して」
「反省しておりませんがすみませんでした! ご褒美ください!」
「……やっぱやめた。はあ、もう一回……説明するわよ」
ここで殴っても義妹にはただのご褒美だという事は桜花にはわかっている。
だからこそ、理性を最大動員して平静を取り戻す。
「目標は格闘大会の優勝賞品。魔石よ」
「……魔石って珍しい物でしたっけ?」
「あの魔石は別、一目でわかったわよ……あれは角よ。それもパンデモニウムのアクセス権がある」
「それは……なんとしても手に入れたい所ですね」
二人にとって最優先ともいえる探し物、その中の一つであるというのであれば是非もない。
「多いに越したことは無いからね。万が一にでもあいつとやり合うんだったら手数は多い方が良いもの」
「では奪ってきますね。ご安心ください、死体は残しませんので」
カタリナのその一言は桜花にダメージにしかならない。頭の端っこに鈍痛が走り始める、これは良くない、非常に良くない。ただでさえ桜花は頭痛持ちなのだ。だから、義妹に対してどこかで折り合いをつけなければならない。
「ねえ、きいてた? わたしそろそろあきらめるよ?」
いっそ慈愛すら感じさせる桜花の透き通った笑み。
穏便かつスマートに事を進めるのが桜花とカタリナの信条なのだが、一番難関なのがカタリナへの作戦説明だった……聞いているのか聞いていないのか分からない上に、偶に異様に鋭い感を働かせるので無視はできない。それだけならまだしも、直前になって今から何をするのですか? と素っ頓狂な事を言い出すのもしょっちゅうだ。
「? 何かおかしなことを言いましたでしょうか?」
「なんで十を聞いてマイナスの理解度なの!? あんた頭良いはずでしょうが!?」
もはや定番となる姉妹のやり取り、しかし今日は時間がない。
あれだけ自信満々に『ウェイランドに来て活動する時はおねーさんを頼っておくれよ! なんたって統括ギルドのナンバー2の護衛をしてるんだぜぃ!!』と請け負っていた金髪巨乳がどういう訳か音信不通なのだ。
「御姉様、それは誤解です!! なんとなく面倒くさいなぁ、とか。お祭りと言ったら出店で買い食いだろう? なんで殴り合いなんかしなきゃいけないのか!! と思ってるだけです!!」
代わりにその護衛対象には冗談抜きで抜身の刀みたいな少女が護衛についていて……荒事を起こしたくないのだ。穏便に、真っ当な手で手に入るならと強さにかけては誰よりも信頼している義妹に託そうかと思ったら……相変わらずのポンコツ。桜花の胃が心配になりそうな状況だったりする。
「だったら最初からそう言えぇぇぇ!!」
「だって! 御姉様にそれを言ったら『じゃあ、別な方法考えるか』って素直に代案考え始めるじゃないですか!!」
「いいじゃん!? どこも悪くないじゃん!?」
「私へのお仕置きが無くなるのが問題だと申し上げているのですっ!! 何を頓珍漢な事を言ってらっしゃるのですか!?」
「え!? 私が悪いの!?」
いいえ、桜花は何も悪くありません。
悪いのはそこの駄メイドです。
「ええ、そうです! だって、ちゃんと手加減しつつも目立たない様に流れの格闘家を装い。適度に苦戦しつつも勝ちました! 賞金はこの国の恵まれない子に、とでもして優勝賞品だけ手に入れたら姿をくらますことなんて最初から理解しております!!」
「まて、いろいろまて……」
「でも、それを言ってしまったら。素直に実行したら。御姉様はきっと私を足蹴にしてくれません、縄で縛ってもくれません、くんずほぐれつの組技でその豊かなお胸に悦に浸りながら気絶もできません」
「……」
桜花さん、青ざめながらドン引きである。
数分後にこの宿の一室は建築ギルドのお世話になるのであった。
――格闘大会の受付終了まで……後2時間。
「かしこまりました御姉様、8割殺しで留めるようこのカタリナ。鋭意努力いたします」
「……お・ま・え・は!! 私の話を聞いていたの!? 手加減しろって言ったのよ!! 8割殺せなんて言ってない!!」
「御姉様……妥協はメイドには不要です」
「妹として妥協しろっって言ってるの!? 日本語通じてる!?」
白衣のちんまりした体躯で、一点だけ存在感を主張する胸と自慢の黒髪を揺らしながら。間宮桜花は本日何度目かもわからない説明と注意を義妹のカタリナに叩き込む。
床にちょん、と正座しているカタリナへ桜花が仁王立ちしながら。二人はウェイランドの西区にあるちょっとお高めの高級宿の一室で準備をしていた。
「安心してください。聞いてませんと答えます」
「捕まって尋問受けてる前提で話を飛躍さすんじゃねーわよ!? 欠片も理解できてないじゃないの!? 人類最精鋭の部隊長だったアンタはどこに置いてきたの!?」
「安心してください。ここにいますよ」
「その自信満々のどや顔、腹立つ!!」
「御姉様は我儘です」
ふう、と頬に手を当てカタリナがため息をこぼす。その仕草は上品で事情を知らない者が見れば、聞き分けの無い子供をあやすベテランメイド。といった風に見えるのだが実際は真逆である。
「……やっぱり私が格闘大会出ようかしら。頑張れば優勝くらい何とかなるかもしれないし」
「無理でございます。特にそのけしからんものを揺らして勝てるのは男性と一部の私の同類でございます」
「実力で勝つって言ってるのに……こいつは! こいつはっ!!」
げしげしとカタリナの頭を遠慮なく蹴りつける桜花、それを顔を赤らめながら嬉しそうに受けるカタリナ。弥生が見たら喜びそうな構図だ。
「しかし、なんでわざわざ大会に出るのですか? いつも通り夜間に潜入してしまえば簡単ですのに」
「……本気であんた私の話を聞いてなかったわね」
「蜂蜜酒が美味しくて、御姉様の説明長いのが分かってるので全く聞いてませんでした!!」
「EIMS、ハンマーに形態変化して」
「反省しておりませんがすみませんでした! ご褒美ください!」
「……やっぱやめた。はあ、もう一回……説明するわよ」
ここで殴っても義妹にはただのご褒美だという事は桜花にはわかっている。
だからこそ、理性を最大動員して平静を取り戻す。
「目標は格闘大会の優勝賞品。魔石よ」
「……魔石って珍しい物でしたっけ?」
「あの魔石は別、一目でわかったわよ……あれは角よ。それもパンデモニウムのアクセス権がある」
「それは……なんとしても手に入れたい所ですね」
二人にとって最優先ともいえる探し物、その中の一つであるというのであれば是非もない。
「多いに越したことは無いからね。万が一にでもあいつとやり合うんだったら手数は多い方が良いもの」
「では奪ってきますね。ご安心ください、死体は残しませんので」
カタリナのその一言は桜花にダメージにしかならない。頭の端っこに鈍痛が走り始める、これは良くない、非常に良くない。ただでさえ桜花は頭痛持ちなのだ。だから、義妹に対してどこかで折り合いをつけなければならない。
「ねえ、きいてた? わたしそろそろあきらめるよ?」
いっそ慈愛すら感じさせる桜花の透き通った笑み。
穏便かつスマートに事を進めるのが桜花とカタリナの信条なのだが、一番難関なのがカタリナへの作戦説明だった……聞いているのか聞いていないのか分からない上に、偶に異様に鋭い感を働かせるので無視はできない。それだけならまだしも、直前になって今から何をするのですか? と素っ頓狂な事を言い出すのもしょっちゅうだ。
「? 何かおかしなことを言いましたでしょうか?」
「なんで十を聞いてマイナスの理解度なの!? あんた頭良いはずでしょうが!?」
もはや定番となる姉妹のやり取り、しかし今日は時間がない。
あれだけ自信満々に『ウェイランドに来て活動する時はおねーさんを頼っておくれよ! なんたって統括ギルドのナンバー2の護衛をしてるんだぜぃ!!』と請け負っていた金髪巨乳がどういう訳か音信不通なのだ。
「御姉様、それは誤解です!! なんとなく面倒くさいなぁ、とか。お祭りと言ったら出店で買い食いだろう? なんで殴り合いなんかしなきゃいけないのか!! と思ってるだけです!!」
代わりにその護衛対象には冗談抜きで抜身の刀みたいな少女が護衛についていて……荒事を起こしたくないのだ。穏便に、真っ当な手で手に入るならと強さにかけては誰よりも信頼している義妹に託そうかと思ったら……相変わらずのポンコツ。桜花の胃が心配になりそうな状況だったりする。
「だったら最初からそう言えぇぇぇ!!」
「だって! 御姉様にそれを言ったら『じゃあ、別な方法考えるか』って素直に代案考え始めるじゃないですか!!」
「いいじゃん!? どこも悪くないじゃん!?」
「私へのお仕置きが無くなるのが問題だと申し上げているのですっ!! 何を頓珍漢な事を言ってらっしゃるのですか!?」
「え!? 私が悪いの!?」
いいえ、桜花は何も悪くありません。
悪いのはそこの駄メイドです。
「ええ、そうです! だって、ちゃんと手加減しつつも目立たない様に流れの格闘家を装い。適度に苦戦しつつも勝ちました! 賞金はこの国の恵まれない子に、とでもして優勝賞品だけ手に入れたら姿をくらますことなんて最初から理解しております!!」
「まて、いろいろまて……」
「でも、それを言ってしまったら。素直に実行したら。御姉様はきっと私を足蹴にしてくれません、縄で縛ってもくれません、くんずほぐれつの組技でその豊かなお胸に悦に浸りながら気絶もできません」
「……」
桜花さん、青ざめながらドン引きである。
数分後にこの宿の一室は建築ギルドのお世話になるのであった。
――格闘大会の受付終了まで……後2時間。
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