長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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本祭! 格闘大会!! ①

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「ぶぅ……」
「おねーちゃん、一番強いランクから行けばいいの?」
「文香ぁ……諦めるという選択肢もあるんだよ?」
「ふっふっふ、負けたら言う事を聞くといったのはおまえのほうだぜ」
「無駄にキズナに似ている!?」

 昨晩のあらすじ、文香さん若干八才でウェイランドの裏統括ギルドの一員になってました。
 なんかめっちゃ強いらしくオルトリンデさんも呆れる位らしいです。

「姉ちゃん……僕凄く嫌な予感がする」
「奇遇だね我が弟……私もなんか嫌な予感がする」
「昨日の夜、あんなこと言わなきゃよかったのに……冒険者ギルド、騎士団、探索者ギルド、魔法士ギルドの参加する格闘大会で一勝する事、絶対これ姉ちゃんが経てたフラグだからね。きちんと折る所までが建築士の仕事だからね……」
「やめて……あの自信満々の文香。見たでしょう」

 幸いにもオルトリンデが朝一で各ギルドに伝令を出してくれたおかげで、特別枠で日下部文香の参加が決まった。当の本人はキズナの格好を真似たのか……朝から黒のホットパンツに青色のタンクトップを着て、その上になぜかボロボロに加工したマントを羽織っている。

 道行く人からはなんか可愛らしいわね、とか、今日は仮装の日なのかしら? と微笑ましく受け入れられているが兄と姉はどうか冗談で終わりますように。と暗澹たる気持ちで会場へと進むのだった。


 
 ◆◇――――◆◇――――◆◇――――◆◇――――◆◇



 大会会場に近づくにつれて武器を持っている人や体格が良い人が増えてきている。
 そんな中、文香は相変わらずにこにこと参加者らしき人達に笑顔と挨拶と愛嬌を振りまいていた。声をかけられた方も顔をほころばせて文香の頭を撫でたり、飴玉を上げたりしている。

「今日は文香も参加するんだよ!」
「そうかそうか、おじさんも楽しみだ。最初は誰と戦うんだい?」
「トップシークレットだって!」

 それ以前に、異常な光景だった。

「だ、誰も文香が戦う事に疑問を覚えてないのはなぜ?」
「姉ちゃん、ちゃんと文香は学校に行ってるんだよね?」
「当り前よ、朝送って帰りは……あんたに頼むことはあるけど迎えだってちゃんとしてるわ」
「じゃあ……いつ戦い方を学んだのか、誰から学んだのか、だね」

 ……聞いたらちゃんと答えてくれると思うのに。と誰もが分かる事なのだが、そんな事が思いつかないくらい真司と弥生が動揺しているということ。
 とぼとぼと文香の後を歩く真司と弥生の背中を、ばんっ! と誰から叩いた。

「おっふ!?」
「いだっ!?」

 そのまま二人の方に腕を回して強引に割り込む人影、その口元はにやにやと歪められていて……

「やあ、統括ギルド秘書官と魔法士ギルドの新鋭気鋭のルーキーが何を暗い顔してるんだい? 今日はお祭りの本祭だよ?」

 ぴょんと突き出た猫耳、赤みがかった茶色の髪。
 何よりその声に弥生は誰なのかすぐに理解できた。

「イストさん……これには訳があるんですよぉ」
「ども……」
「はにゃ?」

 あまりにもどんよりしている二人を見て、イストがついつい素で首をかしげる。
 そんな不思議そうな彼女の顔に弥生は話題を変えた。イストにまで文香が戦うことについて当たり前の反応を示されたら心が持たない気がしたから。
 
「ああいえ、こちらの話で……イストさんは格闘大会に参加するんですか?」 
「え、うん。なんか今日はだらだらと昨日噂になっていたお化け屋敷行こうと思ってたら……兄貴、ほら、近衛騎士団の団長してるじゃない? いきなり空挺騎士団の女子寮に駆け込んできて私に『格闘大会に参加せよ』だって。ちなみに兄貴は男子禁制の女子寮に入った罪で空挺騎士団の女性団員全員から絶賛処刑中」 

 どうやら文香の犠牲者が間接的に増えたらしい。
 真司がこっそりと胃薬を口に放り込む、あんまり若い時から薬に頼るのは良くないと思う。

「そうでしたか……お悔やみ申し上げますぅ」
「本当にどうしたのよ……二人共お通夜じゃない、雰囲気が」

 イストが心配して二人の顔を覗き込むと、弥生も真司ものろのろと手を上げて一点を指さす。
 その先にイストが視線を上げると……ぴょこぴょこと可愛らしく跳ねている文香の姿。

「あら、キズナみたいな格好してるわね。可愛いけど……大会を見に来たの?」
「いや、実は参加する側で」
「真司君が?」
「……文香が」

 イストが沈黙する……そんでもって文香と弥生達を眼で二往復。
 続いて出来てきた言葉はかすれていた。

「弥生秘書官……妹より弱いの?」

 放たれた言葉の刃は洞爺の刀より速く、鋭く弥生の胸を貫いた。

「ごふっ!!」

 胸を押さえて弥生が往来の真ん中で崩れ落ち、息を荒げる。

「姉ちゃん!! 酷いよイストさん! いくら真実だからって軽い口調で!!」
「え? あ、はい。ごめんなさい」

 あえて誰も触れなかった地雷をイストは知ってか知らずか簡単に踏み抜いてしまった。
 こればかりはいくら弟とは言え真司にもできなかったことだ……くだらなすぎて。

「……(そういえば、かけっこで勝てたことないとか言ってたわね)」

 そういえば、施療院で会話した時にも気にしていたのをイストは思い出す。確かにちょっと申し訳ないと反省した。

「私は屑、私は無能、私は運動音痴、私はゴミ体力…………」

 足元に崩れ落ちてぶつぶつ言っている弥生の言葉には何かのトラウマも籠っているのか、いつもの快活な響きが一欠けらも感じられない。
 
「真司君、お姉さんをよろしく」

 なので弟にぶん投げた。一瞬の迷いもなく。

「鬼ですかイストさん!? こんな面倒くさい系の女子、誰が面倒見たいと思うんですか!?」
「……君も大概だと思うよ?」

 わざわざ韻を踏んだ回答を即答してくる真司に感心しながらも、イストは文香に目を向ける。
 この大会はちゃんと医療チームが充実している。武器も打撃系の物しか使えないので死ぬことはよほどのことがない限り、腕試しにはもってこいだ。
 実際ホビット族やオルトリンデの様に混血の小柄な人物が出場する事もある。

「……どう見ても人族の子供よね。どうやって戦うのかしら?」

 
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