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そのころのエキドナさん 後編
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「これが琵琶湖かぁ……地形が変わってて気づかなかったよ……じゃあ空から見ていたあの大陸は中国、ウェイランドがあるのは北海道、という訳だ」
ヒューズが左肩を治して見せた……正確には再生させた後。
エキドナ達は最初に見つけた焚火後の場所で野営の準備をしていた。ヒューズが案外大荷物で、テントやアウトドア用品を持っているのを知ったエキドナが怪我をさせたお詫びに、と設営中である。
「我々が生きていた……この場合起きていたが正しいか。そのころからどうやら数千年経ってるらしい、地形が変わるには十分すぎる年月がな」
「もしかしたらと思ってたけど……ま、それはそれで今後が動きやすいや。この辺に国とかはあるの?」
「四国が在った辺りと沖縄の方に中規模の国家らしきものはある。後は大陸の向こう側だが、全くない訳ではないだろう」
話を聞くとヒューズはどうやら九州の辺りで目覚めたらしい、そこから琵琶湖のある滋賀県まで歩いて旅をしていたのと事。ちょうどいいので情報交換をしている。
「なるほど、北には?」
行ったことあるのかと言う意味を込めて聞いてみるとすらすらとヒューズが答えた。
「地底都市とドワーフ、エルフの里が点在しているくらいだ。見かけなかったのか?」
「……空からじゃあ見つけられなかったね。魔法がらみの隠蔽は僕とすこぶる相性が悪いのさ」
「生体部品の割合は?」
「3割くらいかな、食事と排泄に絡む部分以外は金物だねぇ」
「そうか……機会があるなら角を手に入れると良い、目の動体レンズやアンテナに使えば魔力も拾えるだろう。加工は大変だろうが」
「君らの言う魔族っていったい何なのかな? どうもこの時代の住人が言う魔族とは似て非なる物にしか聞こえないんだけど」
しばらく前から持っていた疑問。それをエキドナはヒューズにぶつける。
「ああ、それは簡単だ。この時代の魔族は私たちの末裔だろう、見た目的には有機的な角を持つ魔族は全員それと思っていい。私の角はほら、基本的に鉱物だろう?」
そう言ってヒューズが自分の角を指で指す。確かに光沢と言い、幾何学的な模様が薄っすらと見える。
「ちょっと分析しても良いかい? 似たようなのはこの間触ったけどさ……ウイルスとか入ってない?」
「はっはっは、ウイルスか。そうだな、電子機器にとっては毒かもしれない。一言で言えばこれは第二の脳だからな。情報多加でフリーズするかもしれない」
それは困るなあ、と出しかけた手をエキドナは引っ込める。
「まあ、手に入れたら考えるよ。不死族の人とかも見えるようになれば大分助かるし」
「素直に生体部品の割合を……って整備できる場所も部品も無いか。所で不死族って何だい?」
「え? 死んだ人の幽霊、自我がある、見える、人によっては触れる」
「何それ怖い……」
あれぇ? 魔族でも見える人と見えない人が居るのか? とエキドナが線引きに困る。
しかし、ある程度は分かりかけてきたので良しとした。
「んじゃあ、本題なんだけど……黒髪であからさまに軍人ぽい男と長い黒髪で目つきがキツネみたいな糸目の女の二人組見た事ない?」
万が一にでもヒットすればいいなぁ、程度でエキドナは話題を変える。
「焔さんと氷雨ちゃんみたいな二人組だな」
「そっか、やっぱり見た事ないか」
「二か月前に青森の方に向かうと言っていたな……なんでも車のバッテリーも燃料も底をついて困ってるというから、多分地下に埋もれた研究所なら保管されているかもしれないと教えてあげたんだが……」
「そう簡単には見つからないよね……なんだって?」
聞き間違いではない。
「あの二人に会ったの!? ケガしてない!? 病気してない!? お尋ね者とかになってない!?」
思わずヒューズの肩をぐわしっと掴んでがくがく揺さぶる。
まさかの大ヒット、ホームラン。確定的な情報を手に入れたエキドナさんが矢継ぎ早に質問攻めにする。
「ぐえ、やめ……あの二人なら元気だ。あの偽装も焔さんに教わったんだ……生体兵器がうろうろしてるから困ってて」
「そ、か……無事だったんだ。よかったぁぁぁぁ……」
すっかり力が抜けて膝から崩れ落ちるエキドナ。
この半年以上、なんでもない風にしていてもずっと心配していたのだ。
「ただ、妙な事は言っていたかな」
「妙な事?」
「ああ、なんでも『しつこい鉄くず』に追い掛け回されてるって……」
「……本当に?」
「嘘をつく理由が無いんだが……」
エキドナにはそのしつこい鉄くず、が何なのかは分かる。
でも信じがたかった。
「焔と氷雨にどのあたりで会ったの?」
「そうだな、ここから西に100キロくらいの所で会った。そこに君らの車も隠してあると思う」
「二か月、100キロ……ねえヒューズさん。あの二人からこうも言われなかった? 俺たちの後は絶対追うなって」
「言われた。だからしばらくそこに留まってから向かってるんだが……どうしたんだい?」
「は、はは……急いで撤収してさ、僕らの拠点にしているウェイランドに来ないかい? ちょっと困った事になった」
彼の言う言葉に嘘が無い、それ自体はとてもいい。
怪我をさせてしまった事も今となってはやりすぎたとも思っている。
だからこそ、エキドナは一つの可能性に気づいてしまった。
「え?」
「ついさっきさ、琵琶湖周辺を探知しようとして使い捨てのソナーを空から放り投げたんだけど……故障したみたいに回線がつながらなくなっちゃってさ」
「それは、不運だったね」
「うん、ヒューズさんの話を聞いてなければ……僕もそれだけで済んだ……」
つまり、その鉄くずの妨害。
「焔たちが言ってる鉄くずってさ……」
湖の中腹が渦を巻く。
その波の音をエキドナの機能拡張された耳はちゃんと拾う、その中に混じる駆動音も。
「あれの事だよ」
ヒューズがエキドナの指先を目線で追う、その先にはまるで出来の悪い蜘蛛の玩具のように単純化されて、戦車の二倍ほどもある……機動兵器だった。
「なんだあの骨とう品……」
「じ、自己進化型多脚戦車……だったものだよ」
正直、今のエキドナの携行火器では何ともできない相手である。
「どう、する?」
「ジェミニが居ない今僕らができる事なんて……一つしかないよっ!! にげろっ!!」
蜘蛛型戦車の単眼カメラと目が合った瞬間、エキドナはヒューズの襟首をひっつかんで森へと逃げ込む。闘争の時間が、やってきた。
ヒューズが左肩を治して見せた……正確には再生させた後。
エキドナ達は最初に見つけた焚火後の場所で野営の準備をしていた。ヒューズが案外大荷物で、テントやアウトドア用品を持っているのを知ったエキドナが怪我をさせたお詫びに、と設営中である。
「我々が生きていた……この場合起きていたが正しいか。そのころからどうやら数千年経ってるらしい、地形が変わるには十分すぎる年月がな」
「もしかしたらと思ってたけど……ま、それはそれで今後が動きやすいや。この辺に国とかはあるの?」
「四国が在った辺りと沖縄の方に中規模の国家らしきものはある。後は大陸の向こう側だが、全くない訳ではないだろう」
話を聞くとヒューズはどうやら九州の辺りで目覚めたらしい、そこから琵琶湖のある滋賀県まで歩いて旅をしていたのと事。ちょうどいいので情報交換をしている。
「なるほど、北には?」
行ったことあるのかと言う意味を込めて聞いてみるとすらすらとヒューズが答えた。
「地底都市とドワーフ、エルフの里が点在しているくらいだ。見かけなかったのか?」
「……空からじゃあ見つけられなかったね。魔法がらみの隠蔽は僕とすこぶる相性が悪いのさ」
「生体部品の割合は?」
「3割くらいかな、食事と排泄に絡む部分以外は金物だねぇ」
「そうか……機会があるなら角を手に入れると良い、目の動体レンズやアンテナに使えば魔力も拾えるだろう。加工は大変だろうが」
「君らの言う魔族っていったい何なのかな? どうもこの時代の住人が言う魔族とは似て非なる物にしか聞こえないんだけど」
しばらく前から持っていた疑問。それをエキドナはヒューズにぶつける。
「ああ、それは簡単だ。この時代の魔族は私たちの末裔だろう、見た目的には有機的な角を持つ魔族は全員それと思っていい。私の角はほら、基本的に鉱物だろう?」
そう言ってヒューズが自分の角を指で指す。確かに光沢と言い、幾何学的な模様が薄っすらと見える。
「ちょっと分析しても良いかい? 似たようなのはこの間触ったけどさ……ウイルスとか入ってない?」
「はっはっは、ウイルスか。そうだな、電子機器にとっては毒かもしれない。一言で言えばこれは第二の脳だからな。情報多加でフリーズするかもしれない」
それは困るなあ、と出しかけた手をエキドナは引っ込める。
「まあ、手に入れたら考えるよ。不死族の人とかも見えるようになれば大分助かるし」
「素直に生体部品の割合を……って整備できる場所も部品も無いか。所で不死族って何だい?」
「え? 死んだ人の幽霊、自我がある、見える、人によっては触れる」
「何それ怖い……」
あれぇ? 魔族でも見える人と見えない人が居るのか? とエキドナが線引きに困る。
しかし、ある程度は分かりかけてきたので良しとした。
「んじゃあ、本題なんだけど……黒髪であからさまに軍人ぽい男と長い黒髪で目つきがキツネみたいな糸目の女の二人組見た事ない?」
万が一にでもヒットすればいいなぁ、程度でエキドナは話題を変える。
「焔さんと氷雨ちゃんみたいな二人組だな」
「そっか、やっぱり見た事ないか」
「二か月前に青森の方に向かうと言っていたな……なんでも車のバッテリーも燃料も底をついて困ってるというから、多分地下に埋もれた研究所なら保管されているかもしれないと教えてあげたんだが……」
「そう簡単には見つからないよね……なんだって?」
聞き間違いではない。
「あの二人に会ったの!? ケガしてない!? 病気してない!? お尋ね者とかになってない!?」
思わずヒューズの肩をぐわしっと掴んでがくがく揺さぶる。
まさかの大ヒット、ホームラン。確定的な情報を手に入れたエキドナさんが矢継ぎ早に質問攻めにする。
「ぐえ、やめ……あの二人なら元気だ。あの偽装も焔さんに教わったんだ……生体兵器がうろうろしてるから困ってて」
「そ、か……無事だったんだ。よかったぁぁぁぁ……」
すっかり力が抜けて膝から崩れ落ちるエキドナ。
この半年以上、なんでもない風にしていてもずっと心配していたのだ。
「ただ、妙な事は言っていたかな」
「妙な事?」
「ああ、なんでも『しつこい鉄くず』に追い掛け回されてるって……」
「……本当に?」
「嘘をつく理由が無いんだが……」
エキドナにはそのしつこい鉄くず、が何なのかは分かる。
でも信じがたかった。
「焔と氷雨にどのあたりで会ったの?」
「そうだな、ここから西に100キロくらいの所で会った。そこに君らの車も隠してあると思う」
「二か月、100キロ……ねえヒューズさん。あの二人からこうも言われなかった? 俺たちの後は絶対追うなって」
「言われた。だからしばらくそこに留まってから向かってるんだが……どうしたんだい?」
「は、はは……急いで撤収してさ、僕らの拠点にしているウェイランドに来ないかい? ちょっと困った事になった」
彼の言う言葉に嘘が無い、それ自体はとてもいい。
怪我をさせてしまった事も今となってはやりすぎたとも思っている。
だからこそ、エキドナは一つの可能性に気づいてしまった。
「え?」
「ついさっきさ、琵琶湖周辺を探知しようとして使い捨てのソナーを空から放り投げたんだけど……故障したみたいに回線がつながらなくなっちゃってさ」
「それは、不運だったね」
「うん、ヒューズさんの話を聞いてなければ……僕もそれだけで済んだ……」
つまり、その鉄くずの妨害。
「焔たちが言ってる鉄くずってさ……」
湖の中腹が渦を巻く。
その波の音をエキドナの機能拡張された耳はちゃんと拾う、その中に混じる駆動音も。
「あれの事だよ」
ヒューズがエキドナの指先を目線で追う、その先にはまるで出来の悪い蜘蛛の玩具のように単純化されて、戦車の二倍ほどもある……機動兵器だった。
「なんだあの骨とう品……」
「じ、自己進化型多脚戦車……だったものだよ」
正直、今のエキドナの携行火器では何ともできない相手である。
「どう、する?」
「ジェミニが居ない今僕らができる事なんて……一つしかないよっ!! にげろっ!!」
蜘蛛型戦車の単眼カメラと目が合った瞬間、エキドナはヒューズの襟首をひっつかんで森へと逃げ込む。闘争の時間が、やってきた。
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