長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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異常事態……

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「カボチャに謎の明かり……暗がりで誰かに引っ張られた……」

 何かあった時のために、と目安箱を出入り口に置いていたのだが……その中はたくさんの紙が詰まっていた。主に通路が暗くて転んだとか、迷子が出たとか……運営に支障が出そうな事柄に即応するために。しかし、その内容は弥生達の予想とは大きく外れていて……

「こっちは背中にのしかかられて動けなくなったってよ……赤ん坊の声がしたらしい」
「文香カボチャさん見たよ! ふわふわ浮いてた」
「夜音ちゃん、糸子さん、お知り合い?」

 もしかしてお仲間さん? と本職の二人に確認するも……

「もしそうだとしたら、あたし達に声をかけない理由が分かんないわよ」
「そうねぇ……妖気とかは辿れなくても眷属の蜘蛛が気づいてくれると思うし……」

 首をかしげて何なのかはわかるけど心当たりがない。と困り果てていた。

「みんなも気づいたことありますか?」

 ギルドの受付ホールで出演者のギルド員がざわめく、確かに……とか、アレは誰の仕掛けだったんだ? など。事前に打ち合わせの無い仕掛けや出し物が幾つか判明したのである。

「怪異は怪異を呼ぶとは言うけど……多いね」
「おねーちゃん、ジェノサイドくんも色々見つけたりしたって」
「予定外すぎて困るなぁ……どうしようかオルちゃん」

 あちらこちらで出てくる未確認問題。幸いなのは脅かされた程度で済んでいる事だろう。
 そうでなければ職員も躊躇なく、緊急用の伝達を弥生とオルトリンデに入れてお化け屋敷は即時中止、戦える職員が即時対応に当たる事になっていた。
 
「弥生……ちょうどいい機会なので教えておきます」

 そんな微妙にシリアスな中、ふふふ……と不敵に笑うぼろぼろの衣装を纏うオルトリンデ。
 それに呼応するかのように誰ともなく、くふふ、アハハ、と不気味に笑い始める。

「ふふふ……おねーちゃん、何を怖がってるのかな」

 さらには弥生の妹、絶対良心の塊であるはずの文香まで同調し始まる。

「……文香」

 人が変わったかのように、ちょっと髪の毛が薄くなり始めたのが悩みのベテラン書記官さん……服の袖からナイフを取り出して、べろりと舐めて眼光鋭く警戒を始めた。悪者感が半端ない。
 普段はおっとりとした夜間掃除担当の不死族メイドさんが濃密な黒い影となり、瞳がらんらんと紅く光る。ここ十年以内に入ったギルド員は一部を除いて、周りの先輩方の豹変に理解が及ばず右往左往し始めた。

「ラビリアさん! いったい……」

 普段は快活で娘を育てる良いお母さんのラミア族。今回の衣装・メイク担当をしている彼女は瞳孔を縦にして口からはチロチロと細長く真っ赤な舌が覗いている。

「ふふふ、弥生……それから初めて見たギルド員の皆さん今晩は。ようこそ……『裏』統括ギルドへ」

 なんだそりゃ。

「なんだそりゃって顔をしていますね。そうでしょうそうでしょう……」

 うんうん、と腕を組み。得意気になりながらオルトリンデは大階段の壇上を上っていく。
 その姿はまあ……服装はどうあれ堂々としていて統括ギルドに彼女有りと言うのに相応しかった。

「なんと!! この統括ギルドは実はウェイランドの最強戦力でもあるのです!!」
「私ちゃんと統括ギルドの創設からの資料に目を通してるから……知ってるんだけど」
「歩き方や目線がクワイエットと似てるから察してたが黙ってた」
「文香もせんとーぶたいだから!」

 オルトリンデが固まる。隠してないのだからちょっと調べればわかる事だった。
 確かに平和な期間が長くてそういう機会が減ったが、古参のギルド員のほとんどが元は騎士団や冒険者だったりする。ラビリアの様に元々戦いに秀でているのであれば即時戦闘要員としても加えられることもあった。文香も先日加入しています。
 弥生? 何を期待しているのか分かりませんね。

「ちょっと待ってください!? ふ、文香が何でこっち側に!? おいこら」
「は!? 文香!? お姉ちゃん知らないよ!? 真司は知ってるの!?」
「おいおい、冗談きついぜ……今日一番の恐怖だ」
 
 知らぬは三人ばかり、当の本人は学校生活を満喫しながら着々と一般人から逸般人へと足を突っ込み始めていた。
 普段が大人しくて良い子だけに、弥生の管理の眼は基本的に緩い。
 問題は……と言うか問題だらけだがオルトリンデも知らない間に加入しているのが文香らしかった。

「さいねんしょーだよ!」

 当たり前である、8歳の戦闘メンバーがそんなにポコポコ居たら別な意味で恐怖だ。
 得意満面の笑みで姉に向ける文香の顔は誇らし気だった。

「か、家族会議!! 家族会議ぃぃ!!」

 このままでは本当に姉の威厳がどうにかなるので、真司を……弟を強制召喚しての家族会議に突入したい弥生さん。
 反対に……せっかく格好良く後輩たちに真の顔を見せるぞという見せ場を、すべて8歳の幼女に持っていかれるギルド員達……悪いのは大概流れを読み切れないオルトリンデさんです。はい。

「オルトリンデ監理官、な、なんか恥ずかしいので次の指示とかもらえますかね?」

 もはやナイフとかこっそりと鞘に戻しているベテラン書記官がオルトリンデに耳打ちする。

「……統括ギルド内を三部隊に分けて各階相互確認しなさい……不審者、不審物はその場で判断せずに一度私に確認に来る事。よろしくお願いします」
「ア、ハイ……」

 ぞろぞろとなんだかなぁ、と微妙な表情で適当に三つの部隊に分けて一階、二階、三階に進んでいく裏統括ギルド部隊。結構重要なはずの統括ギルドの告白はひたすらに地味で……ギルド員の足取りがほんの少し寂しそうな気がするのは気のせい、だと思いたい。

 
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