長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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闇の宴が始まる…… ②

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「では……ギルド祭運営委員長兼統括ギルド主催『闇を覗く覚悟はあるのか』の総合プロデューサー、弥生秘書官……闇に落ちた我々に最後の言葉を」

 半月ほど前、弥生とあれやこれやと息が合ったやり取りを繰り広げたベテラン書記官が司会を務め。弥生をギルドホールに設営されたお立ち台の上に案内する。

 木を組んだだけの簡素なお立ち台だがギルドホールに集まった今回のお化け屋敷出演者全員から見える程度の高さはある。集まったメンバーの中にはこの最終打ち合わせが終わった後すぐに配置につく出演者もいるためすでにゾンビやお化け、幽霊に扮した者も多い。当然、弥生もその一人だ。

「すげぇ……」

 誰が放った言葉かは分からないが……弥生を見る普段は勤勉な書記官や事務員は息を呑む。
 
「見ろよ……気合が違うぜ」
「ああ、さすがは前代未聞の書記官だ……覚悟が違う」

 わさわさとおよそ数百匹が100匹が弥生の全身に纏わりつく子蜘蛛……

「あれ、見えてないよな……」
「あのシーツ被った小さい幽霊は……妹さんかな?」

 顔面はこれでもかと腫れあがり(メイクです)、視界が塞がれているらしく小さなおばけに扮した文香が一歩一歩、あんよがじょーず風に誘導していた。

「わざわざ下着を自分の肌と同じ色合いにしてまであのボロボロ衣装。暗がりだと解んねぇよな」
「なあ、お腹から垂れている内臓っぽいの今必要だったのか?」

 ぶっちゃけ今要らないのだが、弥生は自分が本気だという事を見せたかったのだ。

「ええー、こほん。みんなー! 今日までありがとう!! この約1か月、普段のお仕事大丈夫かなって位にこのお化け屋敷、いや……統括ギルド改め『闇を覗く覚悟はあるのか』ギルドの誕生に力を注いでくれてとっても嬉しいです!! 今までどんだけつまらなかったんだ、そう思った時期もありました。今も思ってます!」
「ちょっと!? 弥生、私の企画していた今までをそう思ってたんですか!?」
「はいはい、オル姉……準備途中だから向こうに戻ろうね……」

 力いっぱい拳を振り上げる死体もどきの弥生のすぐ後ろに見えた半裸の幼女。ちょうど衣装合わせ中である。それを華麗に無視して弥生は演説を続ける。

「それも今日ここまで、普段はウェイランドの皆に明るい笑顔をもたらす我がギルドは……今この瞬間からこの国を恐怖と困惑で歴史に残る黒い記憶のひちょ……日とするのだ!!」

「「「「「「「……(噛んだ)」」」」」」」」

「そのために!! 昼も寝ないで夜に寝て!!」
「「「「「「「……(健康的じゃないでしょうか?)」」」」」」」」 
「この恐ろしき日を作り上げたのだ!! さあ皆!! 準備は良いか!!」
「「「「「「「……あ、はい」」」」」」」」
「声が小さいぞ!! 良いかぁぁぁ!!」
「「「「「「「おおー」」」」」」」」

 実に締まらない弥生の掛け声に付き合いで拳を突き上げた職員一同。ちゃんと空気が読める一糸乱れぬ気の抜けた声だ。
 しかし、弥生さんがそんなこと位で落ち込むはずもなく。演説は続いた。

「まずは初等部の皆! よく頑張りました! いっぱい楽しんでね? お子様向け区域!『怖くなんてないからねっ!?』、そして今日この時ばかりは! モテなかった自分にグッバイ!! その暗い炎を力に変えて彼ら彼女らの本性を闇にさらけ出させるんだ!! カップル向け区域『お前の罪を囁く……』。さらに、これがメインコーナー!! ちょっとやりすぎちゃったかな? でもまあ、女子高校生のアイディアに負けるとかザコすぎですよ? ざぁーこざぁーこ♪ 恐怖のギルド『闇を覗く覚悟はあるのか! 分からせてみろよ?』。最後に……これ、クリアできる人いないんじゃないかな!? テストしてみたら不死族の皆さんですらクリアできない究極和製ホラー区域『私……綺麗?』!! この短期間で本当にみんなよく頑張った!! もはや言葉は不要!! 清掃班を総動員させるぞぉぉぉ!!」

 肺活量が弱い事で定評のある弥生がとんでもない長いセリフを一息で言い終える……。誰もがそんな無茶な事、と思うと同時に弥生の生き様に感心した瞬間。

 ――ふらり……ぱたん。

 急に静かになった。

「あ、ベテラン書記官さん。続き続き……これは運んでおきますから」

 黒いマントと作り物の牙で吸血鬼に扮した真司が姉の足を引きずって壇上から何事もなかったように撤収する。途中で鈍い打撃音が聞こえてくる気がしたが……誰も触れない。触れる気すらなかった。

「えー、皆……すまん。儂が悪かった。何はともあれ今までとは違う催しを全力で楽しんでもらいたい、それぞれ配布してあるシフト表に従って順番に休憩を取って他のギルドの催しも楽しめる様に、と弥生秘書官は尽力してくれている。では……解散!!」

 お終いとばかりにベテラン書記官さんが手を叩いて皆を散らす。
 
 結論から言っておこう。
 このお化け屋敷は長きにわたるウェイランドの歴史の中で、たった一度しか実行されない事となる。

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