長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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オルトリンデさん復活!!

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「ほらほらほらほらぁ! 左っ! 右ぃ! 左っ! 右ぃ!!」

 無残だった。それしか言いようのない悲惨な戦いと言うか虐待?
 あまりにもな光景に銃を取り落しそうになるキズナと腕を組んで無限に殴るのね、わかるわ。と訳の分からない解釈で感心する牡丹。

 唯一、理不尽体制の強い真司だけが『うっぷん溜まってたんだね~』とジェノサイドとおやつを食べてお昼寝の体制に移行している。

「野良の竜風情が私に勝とうなんて100年早いんですよぉぉ!!」

 びしぃ! ばしぃ!

「なあ、俺が討伐とか言い始めておいてこんなことを言うのも何なんだけどよ……あいつかわいそうじゃねぇ?」
「本当に今更ね……そこよっ! ああもう、いい感じに背中に当たらないわね」
「幼女と竜……こんなに微笑ましくねぇ童話タイトルかつて聞いたことがねぇよ」

 キズナが小さい時に父親である焔からたまたま手に入れた絵本のタイトルが幼女と竜、小さな女の子が忌み嫌われた竜と心を通わせる感動的なストーリーだったのだが……今見ている光景はただ単に。

「竜を鞭で調教しているとか……俺の幼心を返せって」

 なんかこんな光景で父と娘の微笑ましいエピソードを思い出したくなかったキズナだが、そうも言ってられない。流れでオルトリンデのご機嫌取りをしたものの……本当に竜を一人で手玉に取るオルトリンデが困った性癖を開花させてしまっているのだ。

「ねえ、キズナ姉……僕はいつまで目隠ししてればいいんだろうね?」
「わりぃ……俺が連れ出しといて本当にすまねぇと思ってる」
「オルトリンデが竜の調教をしているところ位見せてもいいと思うのだけれども? むくつけき男どものお仕置きとかじゃないんだし」
「黙れ発酵女。弥生に叱られるのは姉貴より堪えるんだよ俺にとって」
「キズナ姉、それなら手遅れだよ……姉ちゃん発酵通り越して腐敗してるから」
「……なあ、俺泣いても許されるよな? なんで俺が一番まともなんだよこのメンツで」

 あーっはっはっはっはぁ!! と草原を転げまわる竜を鞭でびっしばっしと痛めつけて悦に浸る幼女の図。それがどうした? と簡単に受け入れる真司と牡丹をキズナがどんよりとした眼差しで射貫く。

「そうだとしたら、貴女意外と世間知らずなのね」
「うぐっ!?」
「大丈夫だよキズナ姉、最近僕知ったんだ。世の中案外奇麗な物だけじゃないんだって」
「姉貴ぃ!! 帰ってきてくれぇ!! じーさんでもいい!! 良識ある大人成分が不足してる!! 大至急補給が必要だぁぁ!!」

 テロリスト(自称)のキズナが実は周りと比べてまともに見えるのは日ごろの行いのせいなのだろう。真司も真司で牡丹と一緒にいる時間が長いせいか要矯正の兆しが見えてたりする。

「ところで、なんで竜をドエ……討伐に来たのかしら?」
「ギルド祭の前に危ないからって、姉ちゃんが偉い人と話し合いで決めたって」
「……真司!! お前俺の説明ちゃんと聞いてくれてたんだな!? 帰ったらジュース奢ってやる!! てめえはマジで殴るからな!? 発酵女!!」
「解せないわ……」
「何さも心外だ、みたいな顔してやがる!! 一番熱心に頷いてたじゃねぇかよ!!」
「そうしておけば話が早く終わると私の経験が囁くのよ」
「爺さん! 本当に恨むぜ!? とんでもねぇ置き土産じゃねぇか!!」

 牡丹のブラウスの襟首をつかんでぶんぶんと振り回しながらキズナが叫ぶ。
 そんなキズナの悲鳴に竜の鳴き声もなぜかシンクロしているという神がかり的な状況……まあ、真司からすれば滞りなく竜が討伐できればギルド祭も無事に開催できるし……この際細かい事には目をつぶるのもありかな。と達観しなくもない。

「ふう、なんかすっきりしましたし。そろそろ終わらせましょうか」

 とっても憑き物が落ち切った可愛い笑顔でオルトリンデが鱗のかけらや血が付いた鞭をぱしーんと鳴らす。どうしてこうなった……じゃなく、ようやく本来の目的に戻ってきたオルトリンデが止めを刺そうと鞭を構えると遠くの方から何かが聞こえてくる。

 ――ぎゃぅぅ

 さすがにキズナも牡丹もコントはしつつも周りには気を配っていたのでその声は当然届く。
 それははるか北の方から、徐々に大きくなり始めた。

「……おい、可能性は薄いとか言ってたろあの騎士様は」
「二匹ね、私とキズナ。一人一殺でちょうどいいわ」

 増援である。どう考えてもこのタイミングは最悪であった。

「任せなさい! ちょっと今日の私は一味違いますよ!!」

 やたらと好戦的な監理官が魔法の詠唱を始める。

「我! ここに宣言す! 以下略!」
「おい、端折りやがったぞ。良いのかあれ」
「できるけど威力半分以下になるよ?」

 冷静な真司がジェノサイド君とぼりぼりおやつをかじりながらキズナに応えた。

「タイダルウェーーーブ!!」

 鞭をびしぃっと北に向けてオルトリンデが魔法をぶっ放す。
 その魔力はなかなかのものだが、いかんせん真司が言った通り通常であれば高さ10メートル越えの大津波を引き起こす魔法が何だか中途半端な波のうねりとなって遠くの竜へ迫っていった。

「飛んでいる高さを考えると、届かないわねあれ」
「意味ねぇじゃねぇか」
「あれで良いんです、見てなさい」

 みょーん、とうねるサーフィンにちょうどよさげな波が竜と交差する時、それは起こる。

 ――ざっぱぁぁぁん!! 

「ぎゅるぅぃいいいいい!!」

 高くなった波からでっかいイカが飛び出してその足で二匹の竜を捕獲する。
 
「あ?」

 非現実的な光景にキズナの眼が点になる。

「この時期、海は海流の影響で北の沿岸にはクラーケンが大量発生してるんですよ。魔法で海面を押し上げさえすればあら不思議、竜位なら捕まえて餌にしてしまうんですよ」

 長年の経験からオルトリンデが導き出したお手軽な駆除方法。
 ただ単に鞭でいたぶるだけが彼女の性癖……じゃなかった戦闘スタイルではない。長年この地に住まうものとしての効率の良い戦い方のお手本だ。

「……本気で俺たち要らねぇよ……なんだこのワンマンアーミー」

 哀れ、竜はオルトリンデの呈の良いストレス発散のはけ口となったのであった。

「はーっはっはっはっは! 私のギルド祭を邪魔しようなんて身の程知らずですよ!!」
「オル姉の頭痛や悩みの一役を買ってるのが姉ちゃんだけに、僕なんもいえねぇ……」

 無事にギルド祭は開催されるようです。
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