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ギルド祭の準備をしよう! ⑦
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「弥生さん、メイクに使う材料と出し物の使用部材……ほとんど集まりそうです」
エルフのトリエラが秘書室に持ち込んだ簡易机に整理した見積書と納品予定票を並べていく、この二週間で揃えたものだ。それにしては量が多いのだが、彼にとってはそうでもない。統括ギルドの書記官になる前は行商をしていた過去を持っている。
「さすが元行商人さん、手配が早くて助かります」
「まさか一年足らずで任せた店にお世話になると思いませんでしたよ」
あはは、と苦笑いをしつつも嬉しそうな彼の声に弥生にも笑みがこぼれた。
そう、弥生はトリエラが元々商人だったことに目をつけていたのだ。書記官の試験に三浪もした原因は跡を継いだ元部下がなかなか仕事を軌道に乗せられず、それを手伝っていた為だという事も調べている。
「すみません、変なこと頼んじゃって」
「いえ、いい機会でしたよ……正直少し心配だったんですけどあまり出しゃばるのもと思ってて。様子見にも行けなかったんで」
「これだけの量と種類、揃えられるのはすごいと思いますよ」
「僕もまさか……ほとんど揃うと思ってなかった」
特に服飾に関しては全部そのお店から降ろしてもらうことが決まり、他の店も参入しようといろいろあったが品質も納期もトリエラの古巣だけがクリアできた。
「後はメイク班のフォルトさんとラビリアさんだね」
「当日までバレない様に、とは言いますけど本当にそれまで地下に籠るつもりなんですかね?」
「あっちは夜音ちゃんと糸子さんが監修してるから……せめて美味しいご飯を食堂からデリバリーしてもらってる……牡丹さんに」
「……あの人何者なんですかね?」
「一応……家政婦ギルドに登録したらしいから見習いではあるんだよ?」
そう、今回はキズナや夜音、真司や文香もこのお化け屋敷の出し物に参加している。
その中になぜかメイド服姿の牡丹も混じっていた時は真司と二人で弥生は頭がくらくらしたものだ。
「こういっては何ですが……いかがわしいお店っぽいのはなんでですかね?」
「わざと2サイズ小さいのを着てるからだよ。ぱっつんぱっつんだったね」
「若いメイドさん達の間で流行ってるみたいですよ。地味さに長年頭を悩ませていたメイドギルド長が全面協力するみたいで……」
「……後で話し合いに行ってくるよ」
もえもえ……とキュンキュンする挨拶もメイドさん達は習得しつつあり。一部で傾倒するメイドとそれを信奉する王城の使用人や町の人が確認されてきたのだ。
中には牡丹を『メイド様』と呼び、訳の分からない組織を作り上げつつあるらしい。そこには統括ギルドすらも干渉できない鋼の結束があったという報告も……クワイエットから弥生に上がっている。
「失礼しますわぁ……何を暗い顔してるんですの? 秘書官様」
きい、と扉を開いて秘書官室に入ってきたのはいつも通りのフリフリ赤ドレスがまぶしいマリアベル。日傘は持っておらず両手に書類とお弁当を持参してきた。
「ああ、なんでもないんです……ちょっとメイドさんについて考えてたんです」
「可愛いではありませんこと? ウザインデス家は全員メイドのお仕着せを新型に変えましたわ!」
「評判、どうです?」
「動きやすくておおむね好評ですわね! 特に!! お兄様が鼻から出血多量のおかげで大人しくて素晴らしい効果ですわぁ!!」
……それは見たくない光景だなぁ。とトリエラが心の中で感想を述べる。
「さいですか……あ、マリアベルさん。統括ギルド内の区分け案はどうでしたか? そんなに問題ないかなぁと思うんですが」
マリアベルが頷きながら弥生の机に持ってきた書類を置く。
そこには赤い変更点と問題点が幾つか走り書きされていた。
「大体は秘書官様の案通りで問題なさそうですわ。現場の秘書官とも話して立ち入り禁止区画と人員の休憩所や待機場所も確保可能ですわね。赤いのは実際に行ってみたら扱いにくそうな場所だったり、もうちょっと広さを確保してほしいとの要望があった場所ですかしら」
「どれどれ……」
弥生がその書類をよく見直せばマリアベルが言った通り、休憩所には机を置いて座るとなると予定人数いっぱいまで入ると寿司詰めになる事やトイレへのルートが完全にお客さんのルートに被るなど。現場サイドの眼から見た問題点ばかりだった。
「……うん、こんなもんかな。ありがとうございますマリアベルさん。ご飯食べたら一緒に現調に行きましょう」
「わかりましたわ。こうして催し物に参加できるのは楽しいですわね!」
「去年までどうしてたんです?」
「家臣が総出でお兄様と私にギルド祭の開催日を隠してましたわ」
「今年は目いっぱい楽しんでください。オルちゃんの許可も得ていますから」
昨年まで、と言うかウザインデス家の家臣さん達が今まで当主の参加を拒んでいたのをひょんなことから知った弥生。全責任を自分が持つ、とオルトリンデに直訴したら……「は!? 道理でギルド祭がスムーズだと思ったら……構いません、弥生が全責任を持つ必要はありませんから参加させてあげてください。ただし、フレアベルだけはちゃんと手綱を取る必要がありますが」と、あっさり参加が決まったのだ。
「家臣が毎日……私が帰るとどんなことをしたのか、明日は何をするのか。それはもう嬉しそうに聞いてくださるんですのよ」
「日頃の行いって大事ですよね」
「ええ、本当にそうですわね」
ちょっと二人の認識がずれている事をトリエラは分かっていたが突っ込まない。
想像以上にマリアベルはまともだった。穏やかなしぐさに人の話をきちんと聞く……じゃあなぜ冒険者ギルドではああなっているのか……二日間ほど頭が痛くなった彼だが、最近諦めて認識を変えた一人だった。
順調に準備が進む統括ギルドのお化け屋敷はどうなるのか。ちょっとワクワクしているトリエラである。
エルフのトリエラが秘書室に持ち込んだ簡易机に整理した見積書と納品予定票を並べていく、この二週間で揃えたものだ。それにしては量が多いのだが、彼にとってはそうでもない。統括ギルドの書記官になる前は行商をしていた過去を持っている。
「さすが元行商人さん、手配が早くて助かります」
「まさか一年足らずで任せた店にお世話になると思いませんでしたよ」
あはは、と苦笑いをしつつも嬉しそうな彼の声に弥生にも笑みがこぼれた。
そう、弥生はトリエラが元々商人だったことに目をつけていたのだ。書記官の試験に三浪もした原因は跡を継いだ元部下がなかなか仕事を軌道に乗せられず、それを手伝っていた為だという事も調べている。
「すみません、変なこと頼んじゃって」
「いえ、いい機会でしたよ……正直少し心配だったんですけどあまり出しゃばるのもと思ってて。様子見にも行けなかったんで」
「これだけの量と種類、揃えられるのはすごいと思いますよ」
「僕もまさか……ほとんど揃うと思ってなかった」
特に服飾に関しては全部そのお店から降ろしてもらうことが決まり、他の店も参入しようといろいろあったが品質も納期もトリエラの古巣だけがクリアできた。
「後はメイク班のフォルトさんとラビリアさんだね」
「当日までバレない様に、とは言いますけど本当にそれまで地下に籠るつもりなんですかね?」
「あっちは夜音ちゃんと糸子さんが監修してるから……せめて美味しいご飯を食堂からデリバリーしてもらってる……牡丹さんに」
「……あの人何者なんですかね?」
「一応……家政婦ギルドに登録したらしいから見習いではあるんだよ?」
そう、今回はキズナや夜音、真司や文香もこのお化け屋敷の出し物に参加している。
その中になぜかメイド服姿の牡丹も混じっていた時は真司と二人で弥生は頭がくらくらしたものだ。
「こういっては何ですが……いかがわしいお店っぽいのはなんでですかね?」
「わざと2サイズ小さいのを着てるからだよ。ぱっつんぱっつんだったね」
「若いメイドさん達の間で流行ってるみたいですよ。地味さに長年頭を悩ませていたメイドギルド長が全面協力するみたいで……」
「……後で話し合いに行ってくるよ」
もえもえ……とキュンキュンする挨拶もメイドさん達は習得しつつあり。一部で傾倒するメイドとそれを信奉する王城の使用人や町の人が確認されてきたのだ。
中には牡丹を『メイド様』と呼び、訳の分からない組織を作り上げつつあるらしい。そこには統括ギルドすらも干渉できない鋼の結束があったという報告も……クワイエットから弥生に上がっている。
「失礼しますわぁ……何を暗い顔してるんですの? 秘書官様」
きい、と扉を開いて秘書官室に入ってきたのはいつも通りのフリフリ赤ドレスがまぶしいマリアベル。日傘は持っておらず両手に書類とお弁当を持参してきた。
「ああ、なんでもないんです……ちょっとメイドさんについて考えてたんです」
「可愛いではありませんこと? ウザインデス家は全員メイドのお仕着せを新型に変えましたわ!」
「評判、どうです?」
「動きやすくておおむね好評ですわね! 特に!! お兄様が鼻から出血多量のおかげで大人しくて素晴らしい効果ですわぁ!!」
……それは見たくない光景だなぁ。とトリエラが心の中で感想を述べる。
「さいですか……あ、マリアベルさん。統括ギルド内の区分け案はどうでしたか? そんなに問題ないかなぁと思うんですが」
マリアベルが頷きながら弥生の机に持ってきた書類を置く。
そこには赤い変更点と問題点が幾つか走り書きされていた。
「大体は秘書官様の案通りで問題なさそうですわ。現場の秘書官とも話して立ち入り禁止区画と人員の休憩所や待機場所も確保可能ですわね。赤いのは実際に行ってみたら扱いにくそうな場所だったり、もうちょっと広さを確保してほしいとの要望があった場所ですかしら」
「どれどれ……」
弥生がその書類をよく見直せばマリアベルが言った通り、休憩所には机を置いて座るとなると予定人数いっぱいまで入ると寿司詰めになる事やトイレへのルートが完全にお客さんのルートに被るなど。現場サイドの眼から見た問題点ばかりだった。
「……うん、こんなもんかな。ありがとうございますマリアベルさん。ご飯食べたら一緒に現調に行きましょう」
「わかりましたわ。こうして催し物に参加できるのは楽しいですわね!」
「去年までどうしてたんです?」
「家臣が総出でお兄様と私にギルド祭の開催日を隠してましたわ」
「今年は目いっぱい楽しんでください。オルちゃんの許可も得ていますから」
昨年まで、と言うかウザインデス家の家臣さん達が今まで当主の参加を拒んでいたのをひょんなことから知った弥生。全責任を自分が持つ、とオルトリンデに直訴したら……「は!? 道理でギルド祭がスムーズだと思ったら……構いません、弥生が全責任を持つ必要はありませんから参加させてあげてください。ただし、フレアベルだけはちゃんと手綱を取る必要がありますが」と、あっさり参加が決まったのだ。
「家臣が毎日……私が帰るとどんなことをしたのか、明日は何をするのか。それはもう嬉しそうに聞いてくださるんですのよ」
「日頃の行いって大事ですよね」
「ええ、本当にそうですわね」
ちょっと二人の認識がずれている事をトリエラは分かっていたが突っ込まない。
想像以上にマリアベルはまともだった。穏やかなしぐさに人の話をきちんと聞く……じゃあなぜ冒険者ギルドではああなっているのか……二日間ほど頭が痛くなった彼だが、最近諦めて認識を変えた一人だった。
順調に準備が進む統括ギルドのお化け屋敷はどうなるのか。ちょっとワクワクしているトリエラである。
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