長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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ギルド祭の準備をしよう! ⑤

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「やりすぎです……本当に驚きました」

 ほっかほかのコーンスープをスプーンでちびちび飲みながらトリエラ君が静かに憤る。

「明るい所で見ると意外と雑だわね……あたしが本物にしか見えない様にすれば来場者を恐怖を叩き込めるわ!!」

 片手にサンドイッチ、片手にコーヒーを持つラミア族の書記官のラビリアが意気込む。腰から下が蛇なのだが、可愛らしい仕草で二番目に気絶した実績を持っていた。

「魔法を使わずにあえてのアナログでの小細工恐怖メイク……秘書官の頭はどうなってるですか?」

 不死族の書記官、元はホビット族のフォルトが紙に何かを書き込みながら感心している。分厚い眼鏡と深くかぶったフードのおかげで表情は読み取りづらいがよく笑う書記官。

「こういう恐怖もありますのね……滾りますわぁ」

 そしてなんでこいつがここにいる?
 純白の日傘、ゴシックロリータの真紅のドレス、高級の白磁で出来たティーカップを優雅に掲げた……マリアベル・ウザインデス・三世がうっとりとした様子で昨晩の生首を愛おしそうに撫でている。

「……私の執務室にとうとう招き入れてしまうとは」

 恐怖の一夜の舞台、確かにオルトリンデにとってそうなった。
 呼んではいけないあの一族をとうとうこの統括ギルドに、と言うか自分の執務室に……よりによって愛弟子の手によって召喚されてしまったのだ。

 そのショックは計り知れず、視界に入るたびに気が遠くなったり……精神が旅立ってく事を数度。

「どうなさいましたの? オルトリンデ監理官様。よろしければヘルヘイム大陸産の紅茶でもいかがですか? 落ち着きますのよ」
「ほんっとう!! 貴族としての執務中はあなた達マトモなんですよね!?」

 いろんな意味で気が遠くなるオルトリンデ、普段であればしっかりと整えられた髪と服装が……今は雑に紐でくくった髪型と第二ボタンまで外された制服である。
 実はこっそりと設立され、運営され続けているオルトリンデファンクラブの会員が見たらひゃっはー!! とテンション爆上がりの光景だが……ここには残念ながら誰もいな……。

「ひゃっはー!! オルちゃんのレアショット!! くうぅ……エキドナさんが居れば永久保存できるのに!! のにぃ!!」

 居た。
 だん!! と執務室の壁を打って崩れ落ちる弥生……いつの間にかファンクラブに入っていたらしい。

「……貴女私とお風呂入った時も同じこと叫んでましたよね? 実は男の子だったりします?」
「それはそれで意外な展開?」
「お願いですから(現実世界に)戻ってきなさい。弥生秘書官……貴女の方が今はうっざいです」
「言葉の暴力!!」
「存在の暴力にさらされてるんですよ!? こっちは!!」

 部下全てに裏切られ(あたりまえである)愛弟子に呼んではいけないあの一族を招き入れられ(意外とマトモだった)やさぐれ感が半端ない彼女だが、彼らの思惑には気づいていた。
 だからこそ忸怩たる思いでこの50周年の記念ギルド祭を託すことにしたのに……託して二日目でこの有様。叫びたくもなるというものだ。

「インパクト、あるでしょ?」
「どや顔で何言ってるんですか!? ありますよ! むしろインパクトしかねぇよ!? アルベルト国王だって裸足で逃げだしますよこんな出し物!! なんで笑顔と平和を守るための組織が恐怖を振りまき失意を植え付ける側に回ってしまってるんですか!?」
「やだなぁ、これは最上級者向けのイベントに使うんだよ? ちゃんと難易度ごとに『真司』と『文香』にも企画してもらってるから」
「最初にそれをいえぇぇ!!」

 なんか正義の人っぽい芸人さんみたい、とはさすがに弥生も口に出せず苦笑いしか返せないが……弥生にもちゃんと考えがある。

「いやぁ、怪談とか心霊とかこっちで通用するのかな。と思って……ほら、不死族さんいるじゃない? あんまり驚かないのかなーっと」
「あんなの怖がらないわけがないじゃないですか……子供が見たら阿鼻叫喚ですよ?」
「子供向けはこれ」

 ベッドシーツを不死族の人にかぶってもらってふよふよ漂う、いわゆる手抜き幽霊を絵に描いて見せる弥生。子供だましだが十分に効果はあった。

「……ふうむ、で、彼らを呼んだ理由は?」
「さすがに一人じゃ無理だから、実行委員会を作ろうと思って同期のみんなを集めたの」
「じゃあなんで脅かしたんです?」
「体験してもらってこの企画が当たるかどうか実験も兼ねていた!」
「本当に悪びれませんね!? この子は!!」

 これから一緒にやっていく相手すらも実験台にする弥生さん。まずは実体験をしてもらってこれから何をやるのかと言う周知と方向性を理解してもらうためでもあった。
 そんな弥生のやり取りを見て4人はぼんやりと……なんかすごく大変なことになりそうだ。と心の中で覚悟を決める。

「なんで私も誘われたんですの?」

 真っ赤なドレスの男の娘、マリアベルが首をかしげるが……

「え、だってマリアベルさん三級書記官今年受かってますよね?」

 当然の様に弥生が理由を説明する。
 その言葉に真っ先に反応したのがオルトリンデだ。猛然と弥生に迫った。

「ど、どどどど! どういうことです!! マリアベルさんが三級書記官って!! 受講者名簿には」
「あったよ? 本名で受講していたの」
「……ちょっと!? ウザインデス三世なんて名前見落とすわけが!!」
「だって、ウザインデス三世はフレアベルさんだから……」

 そう、三世はフレアベル。マリアベルは正確にはまだウザインデス家の人間だが家名は継いでいない。つまり……

「あら……バレてしまいましたの? 弥生秘書官は目ざといですわねぇ……ここぞというときのとっておきでしたのに」
「貴族名鑑にマリアベルさんの本名乗ってますもん……わかりますって」

 オルトリンデさん、痛恨のミスだった。
 
「このために17年間、マリアベルと名乗り続けましたのに」

 それとも筋金入りのウザさを誇るマリアベルが上手だったのか。あっさりとそれを見破った弥生がすごいのかわからなかったが……トリエラ、ラビリア、フォルトの三人が『あの』マリアベルと言うかウザインデス家を見てないのでなんかすごい人が同期にいるなぁ。と反応が薄いせいでオルトリンデが共感を求めて大騒ぎするのであった。

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