長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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ギルド祭の準備をしよう! ③

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「さて、と……オルちゃんは頭を冷やしてもらう事にして、まずはギルド祭について詳しく教えてもらえますか?」

 オルトリンデの説明と進行では統括ギルドが何をするのかしかわからなかった。ちなみにウェイランドではギルド祭と言えばこれから社会に出て活躍する若人へのPRを兼ねているので、それぞれのギルドが趣向を凝らした上でわかりやすい出し物と言ったかなりの難易度を求められる。
 そうは言いつつも、長年各ギルドでは毎年やる事のベースが出来上がっていて……毎年苦労しているのは統括ギルドだった。

「では……ここ数年の各ギルドの出し物のリストと定例イベントの概要を」

 ここ数年段々頭の頭頂部が寂しくなってきたのが悩みのベテラン書記官さんが丁寧にまとめてきた資料を弥生に手渡す。
 その内容は綺麗に整理されており、弥生としても頭に入れやすかった。時たま補足のためにその時に起きたトラブルと翌年の解決についても書かれている。

「みんなすごいですね……運営大変だったんじゃないですか?」

 これだけの量の情報があるという事は、それに比例して統括ギルドが各ギルドの出し物についてきちんと把握しているという事実を示していた。

「まあ、実はオルトリンデ管理官殿に楽しんでいただくために毎年運営にはかなり力を入れていたのです」
「……もしかして自分たちが頑張ればオルちゃんが暇になって遊んでくれると?」
「ええ、ものすごくわかりやすい動機です。この統括ギルドは彼女が身を粉にしてここまで作り上げた組織ですから……年に一日くらい、監理官としてではなくこのウェイランドの一国民として楽しんでもらいたい。三十年前に当時からの職員で考えた彼女への贈り物です」

 当時、オルトリンデは管理官になりたてで毎日忙しくすごしていた。同僚であった彼も彼女を支えようと必死で頑張ったが彼女の努力にみんなが追いつけなくなった。それ位、鬼気迫る彼女の気概が凄まじく。どうにもならない時間が長かった。

「なるほど、じゃあ……私も本気でやりますよ。最高のギルド祭にするために」

 弥生が手にしている資料、それが彼らの本気度の証だ。弥生には手に取るようにわかる、彼らが一つ一つの出し物についてどれだけ真摯に向き合って、より良いものにしようとしたのかを。

「弥生秘書官、君が統括ギルドに来た。今このタイミングしかないと私たちは期待しているんだ……」
「えへへ……ありがとうございます。何のとりえもない私だけど……頑張ります」
「は? 何言ってるんだ?」

 とてもとても綺麗なやり取りで締められると思ったら大間違いだった。柔らかい弥生の笑顔が石膏で固められたかのように固定される。

「飛竜と前代未聞の大蜘蛛を足代わりにして他国をまたにかけるオルトリンデ監理官の頭痛の種が……何のとりえもない?」
「この間コスト配達員を移動手段代わりにもしていたな」
「建築ギルドが冒険者ギルドのロビー直した回数、今月は何回だ?」
「王城の夜間メイドが秘書官室で気絶してたな」
「こっそり一級秘書官の採決書類、暇だからって勝手にやっていたな……」

 出てくる出てくる弥生さんのやらかし履歴、あれ? 能力を買われて白羽の矢がたった訳じゃないのだろうか?
 口々に書記官達から出てくるのはここ数年どころか過去例がない弥生の書記官、秘書官としての行動の数々だった。あまりにも多いため最終的には全員が肩を並べてため息をつく始末。

「え!? ちょっとみんな!? 私頑張ってるじゃない!?」
「頑張っている、そこは間違いない」
「じゃあなんで!?」
「自分の胸に聞いてみればいいんじゃないか!? ペタン子だが!!」
「その薄毛むしり取っていいですか!?」 
「よかろう、ならば戦争だ」

 お互いの譲れない部分を見事に踏み抜いて臨戦態勢をとる弥生とベテランさん。
 そんな二人を生暖かーく見守る同僚たち。

 ――なんだかんだと仲いいんだよな、あの二人。

 もちろん、最初から弥生とこの書記官が仲が良かったわけではない。
 衝突も繰り返し、それでもお互い相手の実力を認めるに至ったがゆえにこうなったのだ。

「ミルシェちゃんの相談、もう乗ってあげなくても良いですね?」
「すみませんでした!?」
 
 流石秘書官だぜ……と、戦慄するベテランさんの最も柔らかい場所を弥生は鋭角に抉る。愛娘の事を引き合いに出され、ベテランさんが速攻で敗北した。しかもその愛娘、ミシェルちゃんの誕生日では弥生のアドバイスとフォローのおかげで最高の結果に落ち着いたばかり……彼に勝てる要素はなかった。
 
「つーか……早く決めようぜ? 結局何にも決まってねぇんだし」

 その通り、キズナの言う通り実は何も決まっていない。

「んー…………何をやりたいかは決まってるんだよね」
「言ってみろよ、手伝えることくらいは手伝えるぜ?」
「ほんと?」
「ああ、パパが前に言ってたんだ。友達は大事にしろって、そんでたまには思いっきり羽目を外すぐらいの事をやってもいいんだって……だから裏方位は」
「じゃあキズナ、〇んで(はーと)」
「……え?」

 いくら何でも聞き間違いだろうとキズナが恐る恐る振り返ると……いつも通りのニコニコ笑顔前回の弥生が居た。

「撲殺と焼死と溺死と……後は何だっけ。轢死?」
「撲殺は殺害方法だと思う」
「むう、おすすめは凍死だよ! キズナ」
「それはお前の死因だぁぁぁぁぁ!?」

 一体何をやるつもりなんだか……。
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