長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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閑話:エキドナさんのメンテナンス 前編

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「これは、相当不味いな」

 セルフチェックした項目のおおよそ6割が赤く染まり、3割が黄色く染まり、残りの1割がかろうじて緑だった。先日のベルトリア共和国での戦闘後にようやく落ち着いた時間が取れて試してみたのだが……正直エキドナ自身は見たくなかった結果が確定した。

「さすがに一旦手入れしないといつ壊れてもおかしくないなぁ……弥生にお願いするか」

 ベッドから起き上がって窓の外をぼんやりと眺める。
 のどかに鳥や偶になんかでっかい黒い竜がぱたぱたと飛んでいたり、近所の家庭で作っている朝ごはんの匂いが胃を刺激した。

「おなかすいたし、朝ごはん食べよ」

 ――むぎゅ!

「ぐえ」

 ベットから投げ出した足の裏から伝わる柔らかな感触、ほのかな温もりをエキドナさんは躊躇せず無視し、構わず立ち上がった。

「ぐええぇぇ!?」

 朝から聞くにしてはとても適さない声を無視して床に降りる。
 ちなみにエキドナさんの体重はその小柄な体に対して結構重い。
 
「おはよ、愚妹……ご飯だよー」
「姉さん……酷いよ……」
「そう思うんならちゃんとベッドに留まって寝なよ……寝相が悪いったらありゃしない」
「だってぇ……」

 ぐしゃぐしゃになった金髪を手櫛で直しながらキズナは恨みがましくエキドナを睨む。
 タンクトップに真麻色のパジャマを羽織ってだぼだぼのカーゴパンツという何ともずぼらな少女である。

「せっかく弥生と買ったパジャマ……上しか着てないじゃないか。友達甲斐が無いねぇ」
「? ちゃんと履いてるわよ? ほら」

 ぐいっとカーゴパンツを下げるとそこには同色のパジャマの生地が見えた……どうやら裏地に縫い込んだらしい。暑くないのだろうか? 

「……まあいいや。お腹空いたし」
「姉さん、待って……私も食べるぅ」
「はいはい、でも先に顔洗ってきなよ。今日の食事当番誰だっけ……」

 扉の横にピン止めされているカレンダーをエキドナは確認するが窓から吹き込む風でぱたぱたと揺れて良く見えない。普段は人間並みに能力を落として身体の負荷を減らしていたのだが、こういう時若干の不便を強いられていた。

「ええと、今日は……」

 左手でひらりひらりと遊ばれるカレンダーを止めて本日の日付をよく見る。
 そこには……。

 ――朝ごはん担当はできるおねーさんだぜぃ! ウェイ! ――

「そういえば姉さん今日の朝ご飯は何? 私ウインナーが入ったあのスープ飲みたい」

 寝ぼけ眼でほやほやした雰囲気のキズナはリクエストを所望するが……エキドナさんはそれどころじゃない。苦笑いをしながら身支度を進める妹へ事実を告げる。

「キズナぁ……寝坊しちゃった」
「……え?」

 どこまでも透き通るウェイランドの空は今日ものどかだった。

 
 
 ◆◇――――◆◇――――◆◇――――◆◇――――◆◇



「何やってんだよ姉貴、その脳みそ飾りかよ? 弥生に迷惑かけやがって」
「何だって!? 聞き捨てならないよ愚妹! 僕の頭は単独でも美しくて音声案内ができる高級ディスプレイだぜ? そこんところちゃんと言ってくれなきゃ」
「そのメモリーに反省の意味はいってんのか!?」
「今日も元気だね二人とも」

 本日最初のファインプレー、弥生さん勘違いで朝ごはんを作る。で事なきを得たエキドナだったがしっかりキズナのお説教が待っていた。

「ったく、弥生。今日の朝ご飯も旨い……お代わり」

 お茶碗にお米一粒残さないキズナが弥生にかれこれ3杯目のお代わりをリクエスト。

「卵焼きの塩加減が僕的にドストライクだね。お代わり」

 きちんとおかず、ごはん、みそ汁の三角食べを凄まじい速さで行うエキドナも3杯目である。

「はいはい……あ」

 弥生が呆れながらもおひつを覗くと……お米一粒も残っていなかった。
 流石に大所帯、弥生達とエキドナ、キズナ、夜音の6人では一回で五合のお米も足りない様だ。

「ごめん、お米無くなっちゃった」
「げ、姉貴……食いすぎじゃねぇ?」
「キズナ、いくらなんでもお腹周りに付くんじゃないかな? お肉」

 ばちばちと視線で火花を散らす姉妹をみて、弥生がふと思い出す。
 そのまま二人を放置してどこかへ行き、その手に何かを携えてすぐに戻ってきた。

「エキドナさん、キズナ。はい、おにぎりだけどどうぞ」

 朝にお弁当用のおにぎりを作っていたことを思い出した弥生が二人のために持ってくる。

「ありがと弥生。姉貴、これが気づかいってやつだな」
「ありがとう弥生、少しは遠慮を覚えてほしいねぇ妹よ」

 それぞれ一個づつ、程よく塩味が効いたおにぎりを頬張って幸せそうに平らげた。

「お粗末様でした」

 ここまで気持ちよくお皿を空っぽにされると作った甲斐があった弥生もうれしい限り。いそいそとお茶碗やお櫃を台所へ下げ始めた。他の面々はすでにお仕事や学校、弥生もこれから統括ギルドに行ってお仕事だ。

「弥生、今日後でギルドにお邪魔していいかな? ちょっと相談があるんだよね」
 
 かちゃかちゃと洗い物を始めた弥生の背中にエキドナは声をかける。
 そのままの姿勢で弥生がはーい、と快諾した。案の定秘書官様は手持無沙汰なのである。

「姉貴、あたしちょっと夕方まで出るからな。弥生、買い物して帰ってくるけど何か買ってきてほしいもんある?」
「玄関に買い出しリスト張ってあるからお願い~」
「わかった。晩飯は弥生の好きな鶏肉でいいか?」
「本当!? やったぁ! 今日は早く帰ってくるねキズナちゃん!」
「ちゃんはやめろ、ちゃんは……」

 ベルトリア共和国の案件から一か月、すっかり弥生と仲良くなったキズナは実に活動的だ。
 あちこち姉であるエキドナに代わり何かをしているようである。

「仲良きことは美しき事かな……」

 弥生とキズナがこれだけ仲良くなるとは当初思ってなかったのだが、戦いに明け暮れていたあの頃には考えられない様な光景はぜひぜひ両親役のあの二人にも見せたい所だ。

「さて、僕も……」

 椅子から立ち上がり、弥生に見てほしい項目を纏めようとして……意識が途絶えてしまった。
 視界にノイズが入って手足が命令を聞かない。

「……(あ、だめだこりゃ)」
「姉貴っ!」
「エキドナさん!!」

 脳裏に表示されている『緊急最適化』の文字を最後に、エキドナの意識はゆっくりと閉じられたのだった。
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