長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

文字の大きさ
上 下
70 / 255

激闘! VSちょんぱさん 第二ラウンド ③

しおりを挟む
 ――ダァン!!

 その銃声はこの戦闘開始後、最も大きく戦場に響き渡った。
 洞爺もキズナもその音に反応できなかった。

「だろうね」

 たった一人、いや。一体のアンドロイド。
 エキドナ・アルカーノ以外は……
 彼女は普段、弥生一行の中で一番明るくて悪ふざけも多い。その頭蓋に収められている演算機の容量のほとんどを遊びに回してるんじゃないかという位。

 しかし、それは違う。

 彼女の持つ機体スペックは人間を軽く凌駕し、単独でもその有り余るセンサー群で逐一把握し、並列処理による解析を常時行っている。
 ただ単にそれでもガラガラに演算機能は空いているのだ。だからこそ、エキドナが本気になるということの意味は付き合いが長いキズナでないと解らない。
 ゾンビちょんぱが弾丸を口から発射する数秒前から、エキドナは生首がそこいらに転がっていた弾丸を取り込んで口の中で転がしていたことに気づいた。

 そしてその発射メカニズムは十中八九、先ほどまでエキドナ達を苦しめていた謎の衝撃波を使うであろうと言うことも。今のエキドナにはコマ送りで向かってくる弾丸をそっと指でつまむことがひどく簡単だった。

 きゅっ!

 ほんの僅かに指を摩擦で焼いて、握りつぶすわけでもなく。
 ちょうどその運動力がぴったりとゼロになるように握力を咥えて……

「あらよっと」

 指先を弾丸が添うように転がり、親指の爪に乗っかった。
 それを無造作に、嫌みを込めて生首の開いた口へ指弾という形で叩き返す。

「え?」

 予想外のエキドナの挙動はゾンビちょんぱに初めての驚愕を与えた。

 びすっ!!

 問答無用で突き返された弾丸が口腔内を弾き回られて、さすがの生首も何もできないまま後方へ転がる。

「なんじゃ? 何をしたんじゃ?」
「姉貴撃たれたんじゃ?」

 洞爺とキズナは置いてけぼりだ。
 だが、エキドナは止まらない。

「君の正体見えたよ。金属スライム!!」

 どむっ!!
 
 指弾を放った右手をそのまま棒立ちで居るゾンビちょんぱの胸元に叩きつける。

「洞爺! キズナ!! 耳塞いでっ!!」

 エキドナが叫び、キズナと洞爺が耳をふさぐのはほぼ同時だった。
  
 ――ヒィィィン!!

 甲高い駆動音が空を切り裂く。
 そしてゾンビちょんぱが弾け飛んだ。もうバラバラを通り越して氷をハンマーで殴ったように粉々に。

「があぁぁ!?」

 初めて聞いたゾンビちょんぱの悲鳴。
 エキドナの顔に笑みが戻る。

「いいねぇ、いいねぇ……案外良い声出るじゃないか……似た者同士」

 拳を引いてくるりと肩を回すと砕け散ったゾンビちょんぱの肉片が飛び散った。

「似た者同士? どういう事じゃこれは」
「姉貴、あたし等にも解る様に解説」

 ぽかんと口を開けたままの洞爺と半眼で睨むキズナにエキドナは……

「どーしよっかなぁ? 教えてあげてもいいけどぉ~」

 と、歌う様にくるりと回る。

「姉貴、うぜぇ……」
「妹!! おねーさんはそんな言葉遣い許さないよっ!」
「良いから教えてほしいのじゃが。ほれ、もう復活しそ……う?」

 またもや再生するかと思ったゾンビちょんぱだが……なんか肉片がうにうにと動くだけで一向に集まろうとしない。

「もう復活できないよ。おねーさんがこの場にいる限りねぇ」

 得意気に腕を組むエキドナの言う通り、先ほどまでは千切れようが穴が開こうが数秒で治っていたのが……そのまんまだった。しかも生首だけは悲鳴を上げ続けている。

「何をしたのじゃ?」
「ん? これぶち込んだ」

 そう言ってエキドナが左手をポケットに突っ込んで取り出した何かを洞爺に差し出した。
 それを反射的に洞爺が受け取る。

「ぎゃあああああ!?」

 その正体はエキドナさんの眼球である。
 しかも気味の悪い事に黒目の部分がぎょろりと忙しなく動いているのだから、洞爺が悲鳴を上げるのは無理もなかった。

「あ、姉貴の予備眼球」

 反対にキズナは慣れたものだ。
 
「これの右目分を反響設定にしてあの身体に突っ込んだの、僕との通信範囲から逃れるまで延々と共鳴する振動を出し続ける様にね」
「……どういう事?」
「……どういう事じゃ?」

 ぽい、とエキドナの目玉を投げ返して洞爺とキズナは首をかしげる。
 振動だけであのゾンビちょんぱをどうして行動不能にしてるのかさっぱりだった。

「あー、あのゾンビさ。そもそも人間じゃないんだよね……多分流体金属っぽいんだよね」
「だから金属スライム……で、どうなってんのあれ」
「あいつ特殊な電磁波でその身体の形を維持してるんだけどさ……常に振動与えて配列が定まらない様にしてたんだよ。ついでに洞爺とキズナが目一杯ぶん殴っても固い理由もわかった」
「瞬間的に硬化しとったんじゃないのか?」
「……洞爺気づいてたの?」
「う? うむ、気づいておったぞ。ははは、はは……」

 たまたまだったと即バレてしまう洞爺の態度に苦笑しながらもエキドナは補足する。

「ウーブレックってわかるかいキズナ」
「知らねぇ」
「……君後で本気で説教だからね!? まあいいや、片栗粉と水を一対一で混ぜると出来る不思議な液体さ。ダイラタンシー現象とも言うね」
「……あれかのう、殴ると固い水」
「さすが洞爺、あれだよ正体は……ゾンビちょんぱは何かで代用してるっぽいけどこちらが強く殴れば殴るだけ、早く突けば突いただけそれに応じて勝手に硬くなってたのさ」

 ちなみにその液体をスピーカーの上に乗せて音を出すと様々な形に姿を変える。
 今回はそれを応用して人間型をとれない様にリアルタイムで振動を調整していた。

「まあ理屈が分かればやりようはあるのう……大分暴れたが建物ごと焼く必要は無くなったの」
「そうだね、後はかき集めて袋かなんかで閉じ込めちゃおうか僕の目玉ごと」
「はあ、もうマジでつかれたぁ……姉貴ぃ。おんぶぅ」
「歩きなよ妹、おねーさんはもう関節やらなにやら大分ガタついてるんだから」

 もはや復活は無いと解るや否や、三人の雰囲気が弛緩する。
 ぎゃあぎゃあといまだわめき声をあげる生首がうるさい位だが、夜音が戻り次第後始末だ。

「そういや後詰は?」
「ああ、合図出してないから来てないね。もしキズナの突貫で何もわからなかったら脱出用にと考えてたから」

 思い出したかのようなキズナの質問に答えるエキドナ。
 まだこの期に及んでも次の手が控えていたことに、洞爺は少し考えこむ。

「エキドナもそうじゃが、弥生も相当な策士じゃのう……あの子はただの女子高校生じゃろう?」
「だねぇ、僕も驚いてるよ……キズナも弥生とすぐ仲良くなれたし……あの子が案外一番おかしかったりして」
「……まあ、あの子確かに変だったわ」

 キズナが割と本気で脅しても、震えながらエキドナの物まねをしたり……胆力があるのかないのかよくわからないというのがキズナの弥生に対しての評価だった。

「ま、仲良くできそうで良かったよ。さて……そろそろゾンビちょんぱの回収でも……おろ?」

 エキドナを筆頭に、ゾンビちょんぱを回収しようと振り向いた三人が見たのは……

「ICレコーダー?」

 ちょこんと生首が居た辺りに四角い小さな機械が鎮座して、生首の悲鳴を延々と再生している様子だった。

「……姉貴」
「何だい妹」
「いねぇよ? あのゾンビちょんぱ君」
「いないね、おねーさんの眼球もそこに転がってるね」
「ご丁寧にあ奴の肉片ぽいのがこびりついておるのぅ……」

 どうやらエキドナが気づかない最低限の量を残して……とんずらしたらしい。


 ――きゃあああぁぁぁぁ……


 遠くから響く夜音の悲鳴。
 
「い……いそげぇぇぇ!!」

 ぐしゃりと置き土産のICレコーダーを踏みつぶし、三人は全力で夜音の元へ向かうのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...