長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

文字の大きさ
上 下
69 / 255

激闘! VSちょんぱさん 第二ラウンド ②

しおりを挟む
「くっそ、さっきより硬い!!」

 洞爺が掬い上げるような一撃でゾンビちょんぱを浮かせてキズナが狙いすませたかのように回し蹴りをどてっぱらに叩きこんだが、まるで砂を目いっぱい詰め込んだ革袋のような感触が帰ってくる。

「退け嬢ちゃん!」

 即座に洞爺が軽く跳躍し、身体を捻るようにして水平に刀を振り抜く。
 斬るというより殴るために全身のばねを使い、遠心力を乗せた一撃は薄ら笑いを浮かべるゾンビちょんぱの首を正確に捕えた。

 ――ドゴン!

 それでも鈍い打撃音でその体は縦に半回転して床に激突する。

「キズナ、洞爺、一回離れて!! 残りの弾をぶち込むよ!!」

 とうとう最後の7発となったエキドナの大口径拳銃の弾が猛烈な破裂音と共に全弾ゾンビちょんぱへと命中した。
 この間数秒、短時間の内に叩き込まれたキズナ、洞爺、エキドナの連携は普通であればオーバーキルとなるが。むくりと起き上がるゾンビちょんぱは砂ぼこりや血で汚れてはいるものの、その足取りや舐めるように凝視する目つきは健在だった。

「ひひ、もう終わりかい? そろそろ一個ぐらい壊そうかな?」

 楽しんでいる。その事実は三人にとって辟易するしかなかった。

「姉貴、もういっそあいつの望み通り華々しく散るのはどうだ?」
「却下だよ。僕は高級品だぜぃ? くれてやるのはもったいないさ」
「しかし、ますますあ奴強くなっとらんか?」

 攻撃は当たる、相手の攻撃も前動作でほぼほぼ見切れる。
 しかしダメージが通らない。だんだん打つ手がなくなっているのはこちら側だ。

「プランZかなぁ?」

 ちなみに弥生もこのエキドナと同じタイミングでプランZを発動させようとしていたりする。

「せめてあの訳の分からんカラクリだけでもわからんかエキドナ? また生えてきた時面倒なことになるぞ」
「だよねぇ、何なんだろうかあれ。飛び散った血液は人間そのものだし人体の構造を逸脱するような所もないし……」
「あたし突貫して徹底的に斬って殴ってみようか?」
「行ける?」
「あいつ鈍間だし5分全力、後よろしくでいいなら」

 先ほどから再生と強化を繰り返すゾンビちょんぱの生態を何とかして解析したいエキドナが悩む。
 へらへらとこっちの様子をうかがうゾンビちょんぱを妹一人で任せるのは怖いが……洞爺は切り札の一つとして温存したい。自分の自爆も最終手段としてまだやりたくないので……。

「夜音ももうすぐ戻ってくるだろうし、いいよキズナ。洞爺は僕の護衛。解析に集中するから頼めるかい?」
「請け負った。嬢ちゃん、無理はするなよ」
「爺さんこそあたしに見惚れて姉貴に怪我させんじゃねーぞ」
「抜かせ」
「じゃあいいかい? GO!!」

 たんっ!! とエキドナの号令と同時にキズナが飛び出す。
 すぅ……と細く息を吸い、そのまま止める。刀を鞘に叩き込んでまっすぐにゾンビちょんぱへ飛び込んでいく。

氷雨流ひさめりゅう氷華ひょうか

 囁く様にキズナはつぶやいた。
 それは彼女の母が得意とし、キズナの身体に文字通り叩き込まれた剣術。
 一度抜けば相手を斬り散らすまで止まらないキズナの切り札の一つだ。

「む? あれは」

 洞爺がそんなキズナを見て何かに気づいたが、今の彼女には関係が無い。
 ただ一振りの刃であれ、母から授かった心構えの通り。心のままに構えた。

「何かな何かな? 次は何をしてくるのかな?」

 反対にゾンビちょんぱは興味津々にキズナの動きを目で追う。
 正直な所ゾンビちょんぱよりもキズナや洞爺の方が人間離れした運動能力を持っていた。
 実際ゾンビちょんぱは避けないのではなく

 視力が良いわけでもなく、運動神経がずば抜けている訳でもない。
 だが、実際に攻撃を受けても平然としていられた。

「砕けろゾンビ野郎」

 ぎらり、とキズナの鋭い眼差しがゾンビちょんぱの全身をロックオンする。
 そして、鯉口を切ったキズナの抜刀は洞爺の動体視力ですら朧げに線が奔った程度にしか見えなかった。
 
「ひひっ!」

 圧倒的な威圧に全く頓着せず、ゾンビちょんぱは嗤う。
 その首に刃が食い込み、刎ね飛んだことにすら気づかずに。
 さらにキズナは右手で振り抜いた刀の勢いを利用して身を浮かす。
 背を向けたキズナの右わきから突き出す切っ先が相手の右わき腹を突き刺し、半瞬遅れて着地した両足が踵をつけたまま捻られた。

「まだまだっ!」

 キズナは両手で刀を保持しながら右わき腹を刀身に当てて身体ごと身を回す。
 そうでもしなければ斬れないほどにゾンビちょんぱの肉は弾性が強かった。
 突き入れる時も気を抜くとそこで刃が止まりそうな位、密度が高い。
 無理やりにでも、と渾身の力を込めて一気に刀を引く。

 ざりっ!!

 あれだけ刃を立てて斬りに行った洞爺ですら、皮一枚斬れるか斬れないかのゾンビちょんぱの脇腹を斬り抜いたのだ。

「見事」

 洞爺が思わず刀を握る手に力がこもる。
 それ位、ほれぼれするような斬りっぷりであった。

「っ!!」

 それでもなおキズナは止まらない、さらに斬って、殴って、蹴って。
 その身体を……自分の胴体がめちゃくちゃにされていくのを見て頭部だけのゾンビちょんぱはけたたましく哄笑を上げるばかりだった。

 そして……

「キズナ! 離れて!」

 ちょうど5分、全力で攻撃を続けたキズナに離脱の命令を出してエキドナが弾ける様に飛び出した。

「よくやったよ妹! これでもくらえ!!」

 声も出せずに転がり込むようにエキドナと位置を入れ替えるキズナの口元が動く。

 ――ぶっ殺せ姉貴

 洞爺が転がってきたキズナを受け止め、その身で守ろうとするのと。
 最初に跳ね飛ばしたゾンビちょんぱの口からエキドナに弾丸が放たれたのはほぼ同時だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...