長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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弥生のお仕事ベルトリア共和国編 ⑤

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 洞爺は悩んでいた。

「儂今回さっぱりじゃのう」
「そうなの?」

 隣に座り露店で売っていたリンゴっぽい匂いのする果実水を飲みながら夜音が首をかしげる。
 弥生がキズナに面会に行く間に真司はフィヨルギュンを連れて魔法士ギルドに情報収集へ向かっていた。基本的には魔法士ギルドをはじめ専門職のギルドは関係者以外立ち入り禁止。
 例外はウェイランドにのみある統括ギルドだけなのだが……さすがにその護衛までは許容されなかったのである。

「そりゃそうじゃろ、策があるエキドナに手を貸したはいいものの……騙されて投獄され。あまつさえ弥生に助けられる始末じゃ」
「あれはしょうがない気がするけどね……なんだったのかしらアレ」
「うむ、間違いなく人身売買の組織の下っ端であったはずじゃが……」

 先行してベルトリア共和国に乗り込んで最初はスムーズだったのだ。
 エキドナは夜音の案内ですぐにキズナが捕らえられているお城の牢獄を特定し、手分けして裏の人間から情報を断片的に集めて統合。その手の事に慣れているエキドナの行動には迷いも不手際もなかった……はずだった。

「エキドナも私も目を離してないんだけどなぁ……妖怪のあたしが言うのも何なんだけど怪異よね」
「夜音殿とエキドナの二段構えでも見抜けないのであれば、どうしようもなかったのじゃろう」

 人身売買組織の関係者が衛兵の詰め所に堂々と入ってくのを見て、4人は証拠を押さえるために人数が少ない夜間に忍び込んだが……なぜかあっという間に包囲されて逃走もままならない内に乱戦になったのだ。

「牡丹が黒い影……死霊だっけ? それが逃げるのを見てなかったらやばかったわね」
「うむ、盲点じゃった。エキドナのセンサーやらを信用しすぎたとはいえ……不甲斐ないのう」
「むしろ正攻法で弥生と真司がサクサク現状打開するのを見てると……」

 あれ? もしかして自分たち搦手とか無駄に事態をややこしくしちゃってない? と思い知らされている真っ最中だったりする。死霊とかの類を誰も感知できないのを失念してたとは言え……と牢屋で4人が本気で落ち込んだのはいい教訓だろう。

「儂ら荒事しか得意じゃなさそうなイメージが定着しそうじゃ」
「ちがうの?」
「……否定できんのう」

 そんな益体もないことをあれこれ話すうちに真司とフィヨルギュンが二人の元へ戻ってくる。
 収穫があったのだろうか? どことなく二人の表情は明るい。

「ただいま、面白いことが分かったよ」
「二日酔いの甲斐はあったわ」

 どういうことなのだろうか? なんでこの国に到着して以降影の薄かったフィヨルギュンが得意げなのだろうかと洞爺も夜音も困惑しているのだが、真司が説明する。

「フィン姉には僕らがいけない所を探ってもらってたんだ。この国で一番情報が集まる酒場を教えてもらって魔法士ギルドの人たちと情報収集してもらってたんだ」
「いきなり真司がフィン姉はお酒強い? とか聞いてきたから驚いたけど……ウェイランドの経費で高いお酒飲み放題だし二つ返事で引き受けたのよ……ちょっと飲みすぎたけど」
「金貨10枚、経費で落としてみせるよ……姉ちゃんが」

 洞爺と夜音は気まずそうに顔を見合わせた。なぜなら……

「すまん、二人とも……」
「私たちもそこで情報探ったのよ」
「そうみたいね。いかにも怪しかったから通報されてたみたいだけど」
「「はぁ!?」」

 よく考えなくても当たり前だった。
 どう見ても子供の夜音、しゃべらなければ美少女のエキドナ、黙ってても良くわからない残念美人の牡丹、ついでに近寄りがたい雰囲気の洞爺。何かあると情報屋界隈ではすぐにマークされていた。反対にフィヨルギュンは各国に知られた魔法士であり、その身分を使わずに地道に情報屋を探して接触をしたのである。情報屋や裏の顔が効く人物は何よりもトラブルを忌避する。自分から情報が洩れて不利益を被った相手からの報復も怖い、何より今回は国の重鎮が関わってるのだから下手を打てばほとぼりが冷めるまで国外に逃げる羽目に陥る。

「すごく言いにくいんだけど。レンも含めて目立ちすぎたんだよ洞爺爺ちゃんもエキドナ姉も」
「大体の事は分かったわよ……後、急いで残りの二人も保釈してもらわないとね」
「ぬう? どういうことじゃ?」
「4人とも、と言うか4人と1匹全員ウェイランドから出て今日までずーっと見張られてたって事。爺ちゃんが首ちょんぱした男って金髪で青い目の男の人だよね?」
「うむ、相違ない」
「死霊も従えてたんだよね? しかも何体も」
「そこまでは知らぬが……」

 フィヨルギュンが得た情報はかなり多い、ちょうどウェイランドで死霊騒ぎがあった直後に人身売買組織ができたこと。普段は温厚で影が薄いお城の重役が人が変わったかのように毎晩娼館へ通うようになり、何人かの女性がひどい目にあわされてる所へ金髪の少女……キズナが出くわしたのだ。

 おそらくその時だろう、その重役をキズナは手加減抜きで斬殺したらしいのだが……翌日何事もなかったかのように城へ仕事をしに来て衛兵を動員して宿屋で寝ていたキズナと夜音を捕縛に来た。
 そこからは夜音が話した通りだ。そして、数日前にエキドナ達がこのベルトリア共和国へ来る事も察知されていて不気味なほど静かに、早く各所へ洞爺達の特徴を通達。難癖をつけて捕らえたのだ。

「という訳で僕ら全員危険だったり?」
「そんなに余裕たっぷりで……何隠してたりするの?」
「秘密、誰が何処で聞いてるかわかんないからってフィン姉が」
「大丈夫よ。これでもオルリンに付き合っていろいろとやらかしてたりするから……とにかく全員で集合してから謁見しに行くわよ。バラバラだとさすがに把握できないもん」

 そのために魔法士ギルドに来たのだ。
 他国の魔法士ギルドでもフィヨルギュンの威光は強い。死霊対策がされている部屋も多いので安心して作戦を練って行動できる。

「反撃開始だよ。洞爺爺ちゃん」

 不敵な笑みを浮かべる真司に洞爺は目を丸くして、それから笑ったのだった。
 
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