長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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弥生のお仕事ベルトリア共和国編 ①

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「さて、今回のお仕事ですが。頭に入ってますか? 弥生」

 エキドナがキズナ奪還作戦に向かった次の日、弥生とオルトリンデはいつもの執務室で向かい合っていた。わざわざカーテンを閉め切って机の上にローソクを立て……いかにも悪だくみをしていますといった雰囲気づくりに30分をかける気合の入れようだ。

「もちろんだよ、オルちゃん……今年のギルド祭で主催するベルトリア共和国。そこの騎士団長さんと宰相さんに企画書を貰って来る。世間話で人身売買の事を二人に話して、個人的に送ったオルちゃんの手紙を渡すんだよね?」

 弥生の話を受けて、オルトリンデが打てる最良かつ手っ取り早い解決方法。
 それはあれこれ策を弄せず、正攻法での話し合いであった。

 そもそも人身売買は各国で重罪とされる。
 人種による得意分野が細分化されているこの世界で、例えば建築をするのであればノルトの民やドワーフが居る事で効率が全然違うのが常識だった。

 つまり人身売買はそのまま国家のやりたい事が筒抜けになるのと同時に、それを行った場合同じ種族からそっぽを向かれることにつながってしまう。そのため真っ当な方法として各国はおとなしく住みよい国をそれぞれ模索する方向で発展した。
 
 ウェイランドでは開発や設計、それに伴う人材育成に力を極振りし。
 ミルテアリアでは魔法、そのシステムや効率の向上。
 ベルトリアでは司法に関しての教育や運用に力を入れている。

 特にベルトアリアはその国の性質上きちんとした手順さえ踏んでいれば物事がスムーズに進みやすいし、今回のような違法行為には断固としたスタンスをとる。弥生達が動くことでキズナの安全や悪事を暴くことへの一石が投じられるのはオルトリンデにとっては既定路線であった。

「はい、もちろんウェイランドの統括ギルド代表としてエレガントかつスマートにその任務を達成するのです。これはここ近辺三国の平和と秩序がかかっているのですよ。この活動は決して表には出ませんがあなたが行う事で民の笑顔が守られるのです」
「……了解であります!」

 びしぃっと敬礼を返す弥生であるがあんまり様になってはいない。
 
「……弥生、この秘密結社ごっこ。たまにやりましょうか? なんか面白くなってきました」
「でしょでしょ!? 一回やってみたかったんだぁ」

 ふっと息を吹きかけてろうそくの灯を消し、カーテンを開けながら身も蓋も無い事を言い放つ二人。
 しかし、内容自体はとても大事なのである。

「エキドナはそろそろミルテアリアを通り過ぎたあたりですかねぇ。レンが目立ちますから一応連絡は入れてますが……ベルトリア共和国にレンは入れませんし。どうするつもりなのか聞いておけばよかったですね」
「エキドナさんの事だからちゃんと考えていると思うよ? ものすごく頭が良いんだもん、同じくらいいたずらもするけど」
「まあ、そうですねぇ。あ、真司と文香はちゃんと準備できていますか? 飛竜で乗り継ぐとはいえすぐに帰れる距離じゃありませんからね」

 今回もちゃんと国のお仕事なので飛竜の使用許可は取れていた。
 なぜかジェミニがリーダーとなって弥生を乗せると主張している事だけがオルトリンデにとって頭が痛い状態だが。

「ミルテアリアからはルミナス達に乗せてもらうんだよね?」
「ええ、ジェミニは頑として弥生を乗せると主張してるのでそのままですが。文香と真司はそこで飛竜交代です。後、ベルトリア共和国の統括ギルドに貴方達用の礼服も注文してありますからちゃんと受け取る事。手直しもありますからすぐに顔を出すんですよ?」

 ベルトリア共和国での謁見は見栄えも重視されるので今回は各ギルドの制服ではなく、ちゃんとした格好も必要なのだ。
 今までは現場でのお偉いさんクラスで許されていた無作法も通じない場合もある。
 
 幸い三人とも言動は丁寧だし、まだ新人と幼い点を加味して問題にはなりにくい。
 それに、もっと問題がある人も来るし。

「はぁい、後はフィンさんもミルテアリアで合流だよね?」
「フィンの手綱は弥生と真司に頼らせていただきます。多分着いてから急かさないと無駄に時間使いますから……」
「あ、あはは。今回は速達でお願いしてるんでしょ? 大丈夫だと思うよ?」
「甘いです、フィンの自堕落は筋金入りなので……」
「……いっそオルちゃんも来る?」
「そうしたい所ですが……ギルド祭の準備も近づいていますからねぇ。今年こそはウェイランドで一番面白くない出し物ランキング一位を脱却せねばならんのです。これは統括ギルドでこの時期最重要の案件です」
 
 そういってオルトリンデは手元の書類を一枚くしゃりと握りつぶした。
 
「オルちゃん……血管浮いてる、とても子供に見せられない顔を幼女がしているよ」
「ぐぬ、とにかくできるだけスマートに事を進めて早く帰ってきてください。企画から弥生には噛んでもらいますからね? 場合によってはポケットマネーからボーナス……金一封も辞さない覚悟です!!」

 ……それって今までろくなアイディアが出てないんじゃ。
 そう言いかけた弥生だが、空気を読んであいまいな笑みを浮かべるだけにとどめる。

「そっか、なんか文化祭みたいな事もするんだね。学校みたい」
「学校みたいじゃなくて、この国自体が学校そのものなんです。各国からの留学生受け入れや教育機関を集中させて……その代わり周辺の国はこの国を守るような形ですね。ベルトリア共和国からももちろん受け入れています」

 そこまで言ってオルトリンデが思い出したかのように天井に目を向ける。
 
「そういえばあなたもベルトリア共和国出身でしたよね?」

 先日暴露された情報部の人に向けての言葉に返事はなかった。
 なぜなら、彼は決して表に出ない立場なのだ。

 例え上司に身もふたもなく暴露され、あまつさえ最近弥生と二人の時にはもう姿見せてていいですよー。と情報部としてそれはどうなのかと本気で落ち込みつつあったとしてもだ。

「クワイエット? 返事をしてください。あなたが今回の警護主任なのですから、クワイエット―?」

 沈黙を保つ、保って見せる。
 いつかきっと立派な隠密となるべく。

「……ふむ、この間こっそり三番街の大人の店で予約した姿絵を「なんでありますか!? オルトリンデ監理官殿!!!」」

 ……哀れ。

「弥生は顔を合わせるのは初めてですね? 彼が今回ベルトリア共和国の旅路で警護するクワイエットです」
「オルちゃん、容赦ないね。よろしくお願いします……クワイエットさん」

 多少ひきつった笑顔で弥生が差し出した手を全身黒づくめのクワイエットが握り返した。
 黒い布で隠された顔がめちゃくちゃ引きつっているのは幸いにも誰にもばれなかった事に、彼は感謝する。

「じゃあ、後はよろしくお願いしますね?」

 こうして弥生達もキズナ奪還作戦を開始するのであった。
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