長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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妹奪還作戦

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「えと、これをこうして……」

 慎重に火薬を筒に入れ、弾頭を即席のリロードキットではめ込む。
 プレス機のような見た目のそれを慎重にレバーを押し下げていく……手にかかる抵抗を感じながら弥生は目を凝らし加減を調整した。

「信管は入ったから後は薬莢の再成型……」

 しっかりと弾丸がはまったのを確認して次の道具をセットしていく。
 今度は弾頭をしっかりと保持するための先端を加工する。

「弥生、僕は今本当に君を尊敬するよ……」
 
 真剣に機械を操作する弥生の後ろからエキドナが声をかける。
 半分くらい諦めていた弾丸のリローディングをなんと弥生は三日で機械をそろえて実現させようというのだ。

「後はこれをプレスして……」

 手元のハンドルを操作して弥生は作業を終える。
 きゅるきゅるとハンドルを戻した後、セットしてあった弾丸を慎重に取り出した弥生は後ろにいるエキドナに振り替えって出来上がった弾丸を手渡した。

 見た目には出来上がってる弾丸だが、実際に使うまで油断はできない。
 受け取ったエキドナは弾丸のサイズ、重量を測定し今残ってる弾丸と比較した。

 見た目……よし。重量……よし。

「試すか……弥生、これつけて」

 コルクのような木の皮で作った即席耳栓をエキドナは弥生につけさせる。
 そして作業室の隣に即席で作った的を置いた試射室へ移動、置いてある自分の銃を手に取った。

 見た目は完璧、抜きっぱなしになっている弾倉にもスムーズに入る。
 そしてその弾倉を銃にセットし、スライドを操作する。

 かしゃん、と小気味い音を立てて問題なく初弾が装てんされた。

「よし、後は……暴発だけ気を付ければ……」

 念のため加工した針金を引き金につけて銃を木を削って作ったホルダーにセットする。
 仕上げにロープで木を固定。針金につけたロープを持って距離をとった。

「じゃあ、行くよ」

 弥生に向けた合図に応えたのを確認後、ドキドキしながらエキドナはロープを引く。
 トリガーが引かれると同時に撃鉄が弾丸を叩いた。

 ――ダァン!!

 的にした丸太に大きな穴が穿たれる。
 その穴は比較のためにエキドナが撃った別の弾丸の穴と遜色なく、同じ程度の威力だと見て取れた。

 大成功である。

「やった、できた……出来た出来た出来たぁ!! 弥生!! 大成功だよ!!」

 思わずぴょんぴょんと跳ねるエキドナ。
 反対に弥生は……

「ふあっ!?」

 涎を垂らして寝落ちしかけていた。
 
「ありがとうぅぅ! そしてごめんね!! 一回寝ておくれぇ!!」

 貫徹二日、あり合わせの道具と鍛冶ギルドの協力により弥生が根性でこの世界にリローディングツールを生み出した瞬間だった。



 ◇◆――――◇◆――――◇◆――――◇◆――――◇◆



「で、どうするのじゃ?」

 数時間後、弥生をしっかりとベッドに寝かせて文香とジェミニに任せてエキドナはあるメンバーを統括ギルドに集めていた。
 その一人は洞爺である。
 今回エキドナに助けてほしい、と乞われて二つ返事で引き受けたのだが。詳細をまだ聞いてなかった。

「えー、とある国のお偉いさんを懲らしめて妹を処刑台から救うだけの簡単なお仕事です」
「わかった」
「突っ込もうよ!? 割と大事だと思うよ!?」
「面倒じゃ。とにかく敵を斬れば良いのじゃろう?」
「ちょっとは躊躇してよ!? 品行方正な日本人じゃないのか君は!! なんで思考が基本デストロイなんだよ!!」
「じゃあ、斬らんのか?」
「いやまあ、その可能性も考慮して洞爺なんだけど……」
「そもそも考えるまでもなかろう。儂はおぬしに借りがある、妹を助けるのに手を貸さぬという選択肢はもとより無い。好きに使え」
「……ありがとう」

 いさぎよすぎる洞爺の物言いに釈然としないエキドナだが、問答してる時間も惜しい。
 それに……

「で、あたしはいつ脱げばいいのかしら?」
「なんでこんなのに頼んじゃったんだ僕はっ!!」

 全力で二日前の自分をぶん殴りたいエキドナさんであった。
 いささか浅慮だったのではないかと今更後悔している。

「頼む前に気づくと思うのじゃが……おぬし本当に機械かの?」
「ぐうの音も出ないよ!! ありがとう!!」
「で? 本当に城攻めするのか? 腕が鳴るわい」
「どうしてこうそろいもそろってバイオレンスなんだ人間って!? 良いかい!? もう一回だけ言うからちゃんと記憶にとどめてよ!? レンに乗ってベルトリア共和国に行く! そこで先行して情報収集している夜音と合流、人身売買組織に潜入して証拠を入手! それを持って宰相さんに直談判!! 妹の無罪放免を勝ち取り帰宅!! ウェイランドに帰るまでが作戦だよ!? わかった!? わかってくれた!?」

「「で、いつ暴れればいい?」」

「もうヤダこの二人!? 洞爺はまともそうだったのに!!」

 とんだ外見詐欺である。
 
「まあまて、フットワークの軽い儂らほど適任はおらんじゃろうて」
「そうそう、役に立つわよあたし達」

 古今東西そのセリフで役に立つ人物って見たことない、そう言いたくなるのをぐっとこらえてエキドナは考える。もうちょっと物資と情報欲しいなぁ……昔は衛星とかハッキングしまくってスマートな事してた気がするんだけど。と心の中でほろりと行きそうだ。

 だってめちゃめちゃ笑ってるんだもん洞爺と牡丹。

 せめてレンはまともでありますように、と達観したエキドナさんによる妹救出作戦は幕を上げたのだった。
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