長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

文字の大きさ
上 下
47 / 255

夜間監視 ②

しおりを挟む
「いやうん、告白じゃないから。おねーさんなりの演出なだけだから」

 月が綺麗、をあなたが好きですと訳すのはエキドナが知る限り日本に所縁が深いという認識だ。
 とはいえ二人の返しにかなりエッジが効いていたので困惑はしている。

「あたしたちを捕まえに来たの?」
「場合によってはかな? 少しおねーさんとおしゃべりしないかい? バイオレンスな語り合いは最後のお楽しみに回してくれると嬉しいねぇ。ほら、武器だって捨てちゃうよ?」

 ぽいぽいとエキドナは銃やナイフ(テープで継ぎ接ぎ)、手榴弾などを手放す。
 
「そっちのメイドさんも50口径の銃は使わないでほしいねぇ。見たことない型式だけど総弾数7発もあれば僕の身体バラバラにできちゃうよ? 予備のパーツも無いし、うちの機械整備担当やよいがぷんすこ怒って泣いちゃうから」

 にゃはは、と何も持ってないアピールをするエキドナに二人は顔を見合わせた後、頷いて白衣の少女はアタッシュケースを降ろす。

「銃はあんたが左腕のコンデンサーを止めたら安全装置をかけるわ」
「おお鋭い。オーケー止めるよ」

 ――かちゃ

「……私は間宮桜花、こっちのメイド服を着てるのは妹のカタリナ。カタリナ、目出し帽外していいわよ」
「はい、お姉様」

 カタリナがすぽんと目出し帽を脱ぐと鮮やかな銀髪が現れ、同時にこめかみから突き出ていた『角』も露わになった。

「そのメイドさん人間? それとも魔族さん?」
「魔族でございます。そういうあなたも人間ではないかとお見受けいたしますが?」
「正解、型式番号はいるかな? エキドナ・アルカーノ……EKDN‐001、アルカーノ社製軍用アンドロイド」

 腕も外すかい? とおどけて見せるが二人は首を傾げつつ黙殺した。
 現在シリアスターンなので。 

「聞いたことないわね。知ってる? カタリナ」
「……アルカーノ社と言いますと確か無人機ドローンの開発会社だったかと、バンカーツク連邦国の国有です」

 カタリナの記憶ではそこまで高度な軍用機などを創れてはいなかったはず。
 しかし目の前のエキドナが言う情報に嘘はなさそう、もしかして極秘に作られたのだろうかと悶々としていた。

「連邦国じゃなく共和国だよ。しかもアルカーノ社はとっくに民間に……まって、カタリナさん。君ら何年から来たの?」

 エキドナはエキドナでを引っ張り出されたのでびっくりしていたが、ある推論を思い出す。

「西暦3892年です。それが何か?」

 ぞくり、とエキドナの背筋が冷える。
 エキドナの仮説の一つが紐解かれたのだ。

「僕はそうだねぇ、西暦で言えば3944年……3895年に始まった第二次人魔世界大戦で新暦に代わったけどね」
「「!?」」
「そかそか、だいぶ自分の状況含めて理解できて来たよ。だから弥生達と僕の認識にギャップがあるんだ。世界線じゃなくて時間線がずれてんだねこの世界」
「詳しく聞かせてくれないかしら? こちらの情報も洗いざらい提供するわ」
「良いよ」

 立ち話も何なので、とカタリナが公園のベンチへ視線で促し。三人は居酒屋帰りのOLのように談話するのだった。



 ◇◆――――◇◆――――◇◆――――◇◆――――◇◆




「という訳で、あの二人は別口だったよ」

 オルトリンデ、フィヨルギュンにたった一言で報告を済ませるエキドナ。
 昨晩いろいろと話し合った結果、桜花とカタリナは別行動で随時エキドナと情報交換することになり。 その中にはこの世界の人には知らせない方が良いこともあるため、エキドナは色々端折った。

「なにがという訳ですか。もうちょっと真面目に報告をお願いします……黒髪に白い髪が混じった少女の件とか」
「いや、あれは僕にも何が何だか。待機場所に戻ったらもう居なかったし……妖怪ってこの世界にいるの?」
「魔族の亜種にそんなのが居るとは聞いてるけどね、精霊に近いみたいであんまり気にしたことは無いわ……それより、別口は良いけどなんで宝物庫に忍び込んだかとか何をするつもりなのかくらい教えてほしいわよ? ちゃんと話せば協力できることくらいあるかもしれないんだから」

「フィヨルギュンの言う通りだね。そこはちゃんと聞いてきたよ、なんでも『剣』を探してるんだってさ……魔力の塊みたいな超危険な物だから封印するつもりなんだって。似た反応があったから見に来たんだけど違ったらしいよ?」
「剣? そんなもの宝物庫に山ほど転がってるからどれの事か分かんないわね。魔力の塊って……アレの事かしら? この国の結界維持に使われている鉱石……石かどうか疑問だけど」

 フィヨルギュンの脳裏に浮かぶのは真っ黒な石。ちょっとした部屋ほどもあるその石はどう贔屓目に見ても剣などではない。
 
「本人たちもこっそり入っちゃって申し訳なかったってさ。流れ者だからお願いして見せてもらえるもんじゃないと思っての事だったようだし、お詫びの品も預かってきたよ。魔法士だったらすぐにわかるってて言ってたよ? はいこれ」

 エキドナが胸の谷間から取り出したのは何の変哲もない銀色の指輪だった。
 彫刻も何も無く、装飾店で安価で買えるようなそっけない物。それをフィヨルギュンは受け取り、内側や何か仕掛けが無いか検分するが……何もわからなかった。

「なにこれ? 材質は銀みたいだけど何にも変わった所はないわよ?」
「指輪なんだしはめてみたら?」
「……大丈夫なんでしょうね。ん、小指にしか入らないじゃないこれ」
「私の眼で見る限り魔力も無いですが……なんなんです?」

 何とかフィヨルギュンの小指にはまった指輪、魔法士だったらわかるという桜花とカタリナの話からとりあえず魔法を使ってみようと簡単な魔法を使ってみる。

「火よ」

 煙草に火をつける程度の小さな火をつける……つもりだった。


 ――――ちゅどん!!


「うあああああ!?」
「にゃああ!!」

 フィヨルギュンの前にいたオルトリンデとエキドナが執務室の窓を突き破って吹っ飛ぶ!
 
「は?」

 あああぁぁぁぁ……と遠ざかる二人の悲鳴と粉々になった窓ガラス。
 そしてバックファイヤーで髪の毛がちりちりアフロになったフィヨルギュン。

 どうやらそれなりに反省していた桜花とカタリナがプレゼントしたのは『高増幅媒体』の魔法具だったらしい。

 倍率がいささかおかしいが……

「何の騒ぎですかっギルド長!! あああ、窓が!? 敵襲ですか!? 総員戦闘配置!! いそげぇぇ!!」
「あかんタイプの魔法具じゃないのぉぉぉ!! エキドナ! オルリン!! 生きてるぅ??」

 当然ギルドの皆さんが殺到してきたんですが……自分がちょっと魔法を使っただけとは言えないほどの騒ぎとなり、事態の収拾をつけるのに半日ほどかかったのは言うまでもなかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...