長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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ミルテアリアにようこそ?

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「そういえばさ。なんで今回僕なの? 弥生の護衛は洞爺じゃなかったっけ?」
「いまさら過ぎる疑問ですね。普通最初に疑問に思うべきでは???」
「え、あー。なんか洞爺が落ち込んでいるからどうのと牡丹が言ってたから、いいよーって安請け合いしたんだよね僕」

 受付で順番待ちをしながらエキドナとオルトリンデは雑談に興じていた。
 普段ふざける事も多いが勤勉なエキドナと元々教師としても長く働いていたオルトリンデの相性は良い。

「洞爺はその、まあ……事故に逢ったんです。探索者ギルドでと言えばわかりますか?」

 探索者ギルドでは触れてはいけない案件としてとある試験官がいるのだ。
 もちろん弥生達は一度遭遇しているので理解できる。

「その顔色見れば一目瞭然ですね。ええ、です」
「うげぇ……」
「まあ、そういう事です」
「納得、洞爺でも駄目かぁ……」

 額に手を当てて天井を仰ぐエキドナ、ぶっちゃけ洞爺ならあの理不尽を跳ね除けてくれるんじゃないかと淡い期待もあっただけに。その現実は受け止めきれない。

 オルトリンデはもう恒例ともいうべき触れてはいけないあの人について、改めて語ることはせず。受付で器用に入国の書類にサインをするジェミニを遠い目で見ていた。
 ちなみに弥生はこれでもかとジェミニの背でくつろいでいる。なんだかお猿さんの親子みたいで微笑ましいといえば微笑ましい。
 
「周りからめっちゃ笑われてない? うちらの秘書官殿」
「飛竜にあやされている子供ってなかなか見ないですからね。普段のデスクワークと今の弥生じゃ結びつかないですよ」
「極端だよね弥生ってさ」
「ですね。あ、終わったようですよ」

 とてとてと二人のほうへ駆けてくるジェミニ。
 すっかり包帯も取れて普通の生活なら問題は無い。

「ぎゃう」
「ただいまぁ」

 寝ぐせでぴょこんと立ったアホ毛を揺らしながら弥生が入国許可証をオルトリンデに見せる。
 そこにはちゃんと入国『不可』と書いてあった。

 …………入国『不可』と書いてあった。

 エキドナとオルトリンデの笑顔が固まる。
 やけに騒々しく聞こえる周りの人たちの声、明るい日差しと入国管理用の検問で3人と1匹だけが時を止めていた。

 通りすがりのドワーフの子供が『あのおねーちゃんたちなんで笑いながら泣いてるのー?』と母親に聞いて『しっ、指差しちゃいけません』と腕を引かれて去っていく。

「なんで?」
「え?」
「弥生、その許可証のハンコ……よく見てください」
「うん?」

 どうやら本人は入国許可だと思っていたらしい。
 受付には『はい、これで終わりです。向こうのゲートです』と事務的に流されたので、てっきり問題なく入国できるもんだと思っていたのである。
 ジェミニも許可証を覗き込んでだらだらと脂汗を流していた。

「えええ!? なんで!?」
「ちょっと確認してきますっ!!」

 弥生の持つ許可証をひったくるように預かり、猛然と受付に突進していく。オルトリンデの記憶の中では初めての入国不可、犯罪者でもない限りそんなことは無いのだがよりによって弥生が犯罪者扱いされてるのでは? と怒りも混じっている。

 幸い受付はちょうど入国手続きが一段落となったらしく、目を吊り上げたオルトリンデの襲来に溜息を吐きながら「どうぞ」と促す。

 ――タァン!

 勢い良くカウンターにたたきつけられた許可証を一瞥して受付嬢さんはあくびを一つ、そんな態度にオルトリンデの髪が総毛だつ。

「いったいなぜですっ! ウェイランドの統括ギルド員の証明証もあるのにっ!!」
「偽造です」
「はあっ!? 私が発行したんですよっ!! 偽物の訳がないじゃないですか!!」
「あ、衛兵さん呼んでください。オルトリンデ監理官様の偽物とその一味を受付で引き留めてます」

 そう、入国不可の理由は偽物だと思われていたのだ。
 ヒートアップする彼女に対して冷め切った侮蔑の視線を送る受付嬢は冷静に同僚へ衛兵の手配を進めていく。このままでは数分後に捕まる未来しか残されていない。

「なぁんですってぇ!!」 
「メイクか魔法によるものかわかりませんが、オルトリンデ監理官様にそっくりですね。しかし、甘いです。ウェイランドの統括ギルドになんて役職はありません」

「「「あ!」」」
「ぎゃう!」

 そう、受付嬢が不勉強だとかそんな問題ではなかった。
 弥生はウェイランド鍛冶国家の統括ギルドで新設された唯一の秘書官なのである。

 むしろそれをちゃんと通達していなかったのは……顔を真っ赤にして怒鳴ってしまったどこかの監理官だったりする。

「オルちゃん、これ……私たちがミスってるんじゃ?」
「奇遇ですね弥生、私も今その可能性と事実に到達した次第です」
「この部下にしてこの上司あり、にゃっはっはー。僕ら犯罪者だねっ!!」
「ぎゃうぎゃう(おやつにビスケットが食べたい)」

 謎が解けて大爆笑のエキドナさん、そもそも犯罪者扱いには慣れているので楽しみ始めちゃった。
 ジェミニはミルテアリアでは乗り物扱い、空挺騎士団を引退するわけだし……普通に宿舎とかでご飯がもらえて投獄の恐れも無いので知らんぷり。むしろこの国の名物であるビスケットが食べたい。

「エキドナッ!? なんであなたそんなに余裕なんですか!?」
「それはほら! 僕はそもそも大罪人だし!」
「ちょ、エキドナさん! 受付嬢さんの眼がどんどん細くなってるんです!! お口チャック!! お口チャックですぅぅ!?」

 ――かりかりかりかり

「ん? どうしたのジェミニ。なになに……」

 ミニ黒板にチョークで書き記された言葉は。

『身分詐称はこの国死罪、短い間だったけど楽しかったよ』

「……ジェミニ!! 貴女それでも空挺騎士の飛竜ですかっ!?」
「なんですって!? 空挺騎士団の飛竜!? まさか!! あなたたちこの国で何をしようとしているのっ!?」
「ぎゃう!?(あいえぇ!?)ぎゃうう! ぎゃうぅうぅう!!(なんでぇ! その情報今必要じゃない!!)」

 もうめちゃくちゃだった。
 集まってきた衛兵に取り囲まれつつある弥生達。
 このままくさい飯を食べることになるのだろうか……よく考えたら食べれるだけましだよね!! とか弥生とエキドナが言いそうだが、オルトリンデ的にはたまったもんではない。

 そして死なばもろともとジェミニまで巻き込んだ。
 
「何の騒ぎ?」

 その低い声は騒々しい捕り物の中でも不思議と響き渡った。 
 
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