35 / 255
弥生改造計画 ②
しおりを挟む
「では、この水晶版に手を置いてください。はい、そのまま楽にしてくださいね……」
魔法士ギルドの登録所、真司とエキドナがエルクと出会った場所である。
今日は清掃日でも無いのですんなり受付へ、そのまま弥生の適正魔法チェックと進んだのだ。
「これだけでいいんですか?」
「ええ、適性があればすぐにでも……」
B5サイズほどの水晶版はうんともすんとも言わない。
……
…………
……………………
「何も起きませんね」
「何も起きません」
つまり、弥生に魔法の適正はないのだ。
余談だが、真司の時はそれはもう一瞬で水晶版が砕け散った。
計測限界を超えた水晶版に受付の女性は大慌てで副ギルド長を呼びに行くことになった。
「ありませんか」
「ありませんね」
すっと弥生は水晶版から手を引き、両手でむんずとつかむ!!
何をするか察した受付嬢さんが「それ一枚金貨70枚ですから」と慣れた様子で告げると、弥生は無言でその板を丁寧に置いた。
「……お世話になりました」
「お大事に~」
弥生の煤けた背中を見送り、通常業務に戻る受付嬢さん。
もちろん弥生の事はかわいそうだと思うが、そもそも魔法の才能を持つものなどそんなに多くない。
人族であれば100人に1人、ちょっとした魔法が使えるだけでも珍しいからだ。
真司はちょっと異常だったが、姉弟でこうもはっきり素質が分かれるのも稀ではあったが。
とにかく、弥生には魔法の素質はひとかけらも、これっぽっちも存在していない。
それだけははっきりした。
「お帰りなさい、パフェでも氷菓子でも好きな物をヤケ食いしていいわよ」
扉を開けて、開口一番に牡丹は弥生に現実を突きつけた。
なぜかといえば結果はなんとなくわかっていたからだ……だって部屋に入って3分も経ってないんだもん。しかも扉越しでも弥生の負の気配が濃密に感じられている。誰であってもダメだったと思うのは仕方がない事だろう。
「ぼたんさん~~~!! せめてどうだった? 位は聞いてくださいよ!!」
「じゃあ付き合いで聞いてあげるわ……どうだったの?」
「……素質ゼロ。うんともすんとも言いやがりませんでしたあの板野郎」
「世の中そんなもんよ。地道に体力づくりしなさい、若いんだし」
「はぁい……そういえば、真司とエキドナさんは?」
今日は4人で魔法士ギルドに出向いていた。
この数分でどこかに行ってしまったらしい。
「真司が杖の受け取り、エキドナはその護衛ね……受け取るだけだからすぐ戻るって言ってたわ。ついでに慰めといて、ともお願いされた」
「素質無し前提で話を……あのふたりぃぃ!!」
「見事に言い当てられたわ……銅貨3枚か」
「賭けてたんですかっ!? あ、でも負けたってことは牡丹さん! 私に才能ありの方へ賭けてくれてたんですよねっ!! ねっ!!」
「しょぼい魔法が使えるかどうか微妙なレベルだと思ってたわ」
「味方は居なかった!?」
「信じて弥生、私は可能性に賭けたの!! 負けたのは弥生の自分自身の才能に負けたのっ!」
「猶更悪いわっ!! くっそう……神様なんていなかった」
「……そんなところで四つん這いになると服、汚れるわよ。うん、真司とエキドナから聞いてはいたけど。あなた割と面白いわ、弥生……きっと、たぶん、おそらく……仲良くなれるわ」
「そんな初めて見るようなさわやかな笑みで手を差し出されても!! 言ってる事大概ひどいですからねっ!?」
割と、とか。なかなかな言われようであるが牡丹にしては珍しく歩み寄ろうとしているのだ。
コミュ障の塊、と幼馴染から酷評されるほどに興味の振れ幅がひどく……いわゆる変人枠として周りに認識されていたのだが、なぜか真司やエキドナはそれに頓着せず、自然体で受け入れていた。
その理由の一つは弥生なのだが……
「冗談はともかく、本当に残念だったわね」
「牡丹さん……」
今度は信じてもよさそうだ、と弥生が牡丹の手を取り立ち上がる。
しかし、次に続いた言葉は……
「魔法適正はあってもなんかよくわかんない原因で宝の持ち腐れ――だったら私金貨2枚ゲットで好きなもの奢ってあげてたのに」
「…………さっきのは『思った』、で今のは『賭けた』?」
「そうよ? 笑顔のまま涙を流すって……器用ね。コントみたいだわ」
「ここまでの数分間まるまるコントですよっ!! 助けて洞爺おじいちゃん!!」
「洞爺さんはこういう時、大体お茶を入れに行くか盆栽の手入れに行くのよ。残念ね」
「それは処置無し!! と諦められてるんだぁぁぁ!!」
「凄いわ。あなたエスパーなのかしら、よくわかったわね」
「わからいでか!? 何そんなに感心しましたって顔作ってんですか!! しかもさっき私素質無しって知っててエスパーとか死体蹴りスキル高すぎです!!」
「久しぶりにちゃんと突っ込みを入れられたわ。あなた、やるわね」
「もう嫌だこのループ!! 真司! エキドナさんカムバァァック!?」
「待って、ちょっと私も楽しくなってきたの。もう少し、もう少しだけ」
「今あったまってきたの!? これまでの単なる暖機運転!?」
「全裸からが勝負だと私は常々主張しているの」
「真顔で振り切らないでくださいぃぃ!!」
「文香ちゃんにはナイショよ」
「ドヤ顔で言わなくても絶対阻止です!! 洞爺さんけしかけますよ!?」
「なんてご褒美を!?」
「真司!! 真司ぃ!! あんたの魔法でこの人なんとかしてぇ!? それと今気づいたけど牡丹さんが勝ったら金貨で負けたら銅貨ってことは――そもそも勝ち目がないってほぼダメ元で賭けたって事じゃないですか!?」
「本当にすごいわ。突っ込みの素質があるわ!! 私初めて弥生に興味が持てているわ!!」
「エキドナさんっ!! エキドナさん!! 今こそ一発派手にこの人にあの時不発だった爆裂正拳突きを!!」
なんかもう、ひたすらに楽しそうだった。
通路の曲がり角で面白いから黙って聞いてた2人は、やがて受付さんに「いつまでもうるさいですよっ!!」と注意されるまで声を殺して笑っていたのだった。
魔法士ギルドの登録所、真司とエキドナがエルクと出会った場所である。
今日は清掃日でも無いのですんなり受付へ、そのまま弥生の適正魔法チェックと進んだのだ。
「これだけでいいんですか?」
「ええ、適性があればすぐにでも……」
B5サイズほどの水晶版はうんともすんとも言わない。
……
…………
……………………
「何も起きませんね」
「何も起きません」
つまり、弥生に魔法の適正はないのだ。
余談だが、真司の時はそれはもう一瞬で水晶版が砕け散った。
計測限界を超えた水晶版に受付の女性は大慌てで副ギルド長を呼びに行くことになった。
「ありませんか」
「ありませんね」
すっと弥生は水晶版から手を引き、両手でむんずとつかむ!!
何をするか察した受付嬢さんが「それ一枚金貨70枚ですから」と慣れた様子で告げると、弥生は無言でその板を丁寧に置いた。
「……お世話になりました」
「お大事に~」
弥生の煤けた背中を見送り、通常業務に戻る受付嬢さん。
もちろん弥生の事はかわいそうだと思うが、そもそも魔法の才能を持つものなどそんなに多くない。
人族であれば100人に1人、ちょっとした魔法が使えるだけでも珍しいからだ。
真司はちょっと異常だったが、姉弟でこうもはっきり素質が分かれるのも稀ではあったが。
とにかく、弥生には魔法の素質はひとかけらも、これっぽっちも存在していない。
それだけははっきりした。
「お帰りなさい、パフェでも氷菓子でも好きな物をヤケ食いしていいわよ」
扉を開けて、開口一番に牡丹は弥生に現実を突きつけた。
なぜかといえば結果はなんとなくわかっていたからだ……だって部屋に入って3分も経ってないんだもん。しかも扉越しでも弥生の負の気配が濃密に感じられている。誰であってもダメだったと思うのは仕方がない事だろう。
「ぼたんさん~~~!! せめてどうだった? 位は聞いてくださいよ!!」
「じゃあ付き合いで聞いてあげるわ……どうだったの?」
「……素質ゼロ。うんともすんとも言いやがりませんでしたあの板野郎」
「世の中そんなもんよ。地道に体力づくりしなさい、若いんだし」
「はぁい……そういえば、真司とエキドナさんは?」
今日は4人で魔法士ギルドに出向いていた。
この数分でどこかに行ってしまったらしい。
「真司が杖の受け取り、エキドナはその護衛ね……受け取るだけだからすぐ戻るって言ってたわ。ついでに慰めといて、ともお願いされた」
「素質無し前提で話を……あのふたりぃぃ!!」
「見事に言い当てられたわ……銅貨3枚か」
「賭けてたんですかっ!? あ、でも負けたってことは牡丹さん! 私に才能ありの方へ賭けてくれてたんですよねっ!! ねっ!!」
「しょぼい魔法が使えるかどうか微妙なレベルだと思ってたわ」
「味方は居なかった!?」
「信じて弥生、私は可能性に賭けたの!! 負けたのは弥生の自分自身の才能に負けたのっ!」
「猶更悪いわっ!! くっそう……神様なんていなかった」
「……そんなところで四つん這いになると服、汚れるわよ。うん、真司とエキドナから聞いてはいたけど。あなた割と面白いわ、弥生……きっと、たぶん、おそらく……仲良くなれるわ」
「そんな初めて見るようなさわやかな笑みで手を差し出されても!! 言ってる事大概ひどいですからねっ!?」
割と、とか。なかなかな言われようであるが牡丹にしては珍しく歩み寄ろうとしているのだ。
コミュ障の塊、と幼馴染から酷評されるほどに興味の振れ幅がひどく……いわゆる変人枠として周りに認識されていたのだが、なぜか真司やエキドナはそれに頓着せず、自然体で受け入れていた。
その理由の一つは弥生なのだが……
「冗談はともかく、本当に残念だったわね」
「牡丹さん……」
今度は信じてもよさそうだ、と弥生が牡丹の手を取り立ち上がる。
しかし、次に続いた言葉は……
「魔法適正はあってもなんかよくわかんない原因で宝の持ち腐れ――だったら私金貨2枚ゲットで好きなもの奢ってあげてたのに」
「…………さっきのは『思った』、で今のは『賭けた』?」
「そうよ? 笑顔のまま涙を流すって……器用ね。コントみたいだわ」
「ここまでの数分間まるまるコントですよっ!! 助けて洞爺おじいちゃん!!」
「洞爺さんはこういう時、大体お茶を入れに行くか盆栽の手入れに行くのよ。残念ね」
「それは処置無し!! と諦められてるんだぁぁぁ!!」
「凄いわ。あなたエスパーなのかしら、よくわかったわね」
「わからいでか!? 何そんなに感心しましたって顔作ってんですか!! しかもさっき私素質無しって知っててエスパーとか死体蹴りスキル高すぎです!!」
「久しぶりにちゃんと突っ込みを入れられたわ。あなた、やるわね」
「もう嫌だこのループ!! 真司! エキドナさんカムバァァック!?」
「待って、ちょっと私も楽しくなってきたの。もう少し、もう少しだけ」
「今あったまってきたの!? これまでの単なる暖機運転!?」
「全裸からが勝負だと私は常々主張しているの」
「真顔で振り切らないでくださいぃぃ!!」
「文香ちゃんにはナイショよ」
「ドヤ顔で言わなくても絶対阻止です!! 洞爺さんけしかけますよ!?」
「なんてご褒美を!?」
「真司!! 真司ぃ!! あんたの魔法でこの人なんとかしてぇ!? それと今気づいたけど牡丹さんが勝ったら金貨で負けたら銅貨ってことは――そもそも勝ち目がないってほぼダメ元で賭けたって事じゃないですか!?」
「本当にすごいわ。突っ込みの素質があるわ!! 私初めて弥生に興味が持てているわ!!」
「エキドナさんっ!! エキドナさん!! 今こそ一発派手にこの人にあの時不発だった爆裂正拳突きを!!」
なんかもう、ひたすらに楽しそうだった。
通路の曲がり角で面白いから黙って聞いてた2人は、やがて受付さんに「いつまでもうるさいですよっ!!」と注意されるまで声を殺して笑っていたのだった。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる