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弥生改造計画 ①
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「オルちゃん、こっちの書類終わったよ」
弥生が確認していた図面に確認完了の印鑑を押す。
すっかり慣れた手つきでオルトリンデの机にある『チェック済み』の木箱に入れた。
「ご苦労様です。さて、明後日から視察ですが……弥生はお留守番で良いですよね?」
退院して一か月、すっかり元気になった弥生だが……相変わらず遠出はさせてもらえてなかった。
「行ってみたいんだけどなぁ」
別に誰からも駄目だとも言われておらず、ついていくこと自体は良い。
ただし……。
「徒歩ですよ?」
「だよねぇ……」
圧倒的な体力の無さから断念せざるを得ないのである。
文香ですらウェイランドの端から端までを歩きとおせるのに、弥生は荷物が無ければ何とか行ける。
荷物ありだと10分も持たないのだ。
ちなみに馬という手段もあるが、一人では乗れないのでこちらもハードルが高い。
「少し洞爺に鍛えてもらったらどうです?」
「……それが、お嬢ちゃんには運動神経のかけらもない。あきらめて馬車で移動するのがいいと思うのう。だって」
「…………鍛える前にあきらめるって、洞爺」
隣の部屋でのんびりと紅茶をすする洞爺に恨みがましい念を送るオルトリンデ。
すると間髪入れずドアが開き、洞爺がひょっこりと首を出す。
「なんか嫌な気配を感じたのじゃが、何か用か? オルトリンデ殿」
オルトリンデの怨念を感じ取ったらしい。
「……弥生の訓練、してあげてください」
「不可能じゃ、わしにもできる事と出来ぬ事がある。オルトリンデ殿こそどうじゃ?」
「私は文香のクラス担任ですから」
つつーっと洞爺の言葉に目線がそれていくオルトリンデ。
そしてほほを膨らませて泣きそうになる弥生。
「私だって! 私だってせめて50メートル走で文香に勝ちたい!!」
「「え、勝てないの?」」
実は文香が小学生に上がった時、遊び半分に競争したら負けた。
問答無用でいい勝負にもならず、負けたのだこの長女。
「なんでなんで!? どうやれば体力ってつくの!?」
タァン!! と自分の机をたたいて悔しさを表す弥生だが……
「お仕事休んだらどうかのう??? なあ、オルトリンデ殿」
「正直手持無沙汰なんですよねぇ……この間の死霊騒ぎも王城の管轄ですし、再建計画も弥生と書記官があっという間にまとめ上げてしまいまして……いい事なんですけどね」
弥生のおかげでレベルアップした書記官組はそれはもうバリバリに仕事した。
指摘も的確、現場にも積極的に足を運び……十年分くらい早く成長している。
「ふむ、ならば本格的に鍛えるとしようかの……」
護るにしても本人が動けるのならそれだけ難易度も下がる、本腰を入れて鍛えるのも悪くはないと洞爺は思う。
しかしまあ、元の体力が文香以下なので先は果てしなく遠いのであるが……。
「うう、魔法か何かでできないのかな? 体力アップ」
「できますよ? 洞爺が良い例です」
「む? 儂は魔法なんぞ使えぬぞ」
話を振られた洞爺が困ったように髪を撫でる。
魔法とは無縁の生活だったのだから当たり前だ。確かにこの世界に来てから身体能力は上がり続けている。レン……古代竜の近くにいる影響らしいのだが当の本人(竜)が良くわかっていないので洞爺には当然分かるはずもない。
「老いるのが遅くなった気はするが……」
「すみません、言葉足らずでしたね……正確には竜気を使ってる、というのが正しいですね」
「なんかすごそう……」
「私はいくつかの種族の混血なのですが……ちょっとした特技があって魔力を『視』る事が出来ます。そんなに便利でもないんですが、洞爺と牡丹がレンと同じ気配を纏ってるのでわかっただけです」
洞爺と弥生がほへぇ……とわかってるのかわかってないのか微妙な顔で感心する。
「魔法は主に魔素と呼ばれる大気中、もしくは自己生成した魔力の素を術式を用いて特定の力へと変換して事象を起こします。ですがそれ以外に魔力と似た力があります。神気と竜気……この二つはかなり特殊で神気は信仰と祈りによって、竜気は……解明されてないのですが極稀に竜族以外の者が扱えることが……ある、という記録があった。かなぁ……と」
「なんじゃその中途半端な説明」
「初めてなんですよ。この国にその竜気を纏ってる人族って……」
「そうなんだ……洞爺お爺ちゃんの竜気があれば私も体力つくの?」
素朴な疑問としてそんな解明されてない物を身に着けたいのか? という問題はあれど。弥生にとっては手っ取り早い解決策になる。
しかし、オルトリンデの表情は暗い。
「ええ、その……これも適性がありまして。過去の竜気保持者は半分くらい死んじゃうことが……」
言いにくそうに彼女は洞爺を見る。
「……儂、生きとるぞ」
「ええ、正直始めて見た時はびっくりしましたが何とも無いみたいなので適性があるんだなぁって思ってました。人族では初めてかもしれません」
「ふむ、という事は弥生が安易に手を出すと……死ぬかもしれんのか。じゃあ却下じゃな。おとなしく魔力の適性検査を受けるしかあるまい、ダメなら……儂も腹をくくろうではないか。せめて文香嬢ちゃんといい勝負ができるくらいには鍛えてやろう」
「ぐぬぅ……」
洞爺でもそこまでしか面倒見切れないという宣言だが、エキドナや真司なら「すごいなぁ」と感心するレベルだ。
「まあ、話は通しておきますから明日魔法士ギルドに行って魔法適性検査、受けてきてください」
「はぁい……洞爺お爺ちゃんも行く?」
「儂は少々用がある。真司と一緒に行けばエキドナ殿と牡丹が居る……問題はあるまい」
オルトリンデもその二人なら問題ない、と洞爺の提案に頷く。
弥生はただ単に隣の国まで訪問するだけなのに……なかなか大掛かりになりそうな予感がしていた。
弥生が確認していた図面に確認完了の印鑑を押す。
すっかり慣れた手つきでオルトリンデの机にある『チェック済み』の木箱に入れた。
「ご苦労様です。さて、明後日から視察ですが……弥生はお留守番で良いですよね?」
退院して一か月、すっかり元気になった弥生だが……相変わらず遠出はさせてもらえてなかった。
「行ってみたいんだけどなぁ」
別に誰からも駄目だとも言われておらず、ついていくこと自体は良い。
ただし……。
「徒歩ですよ?」
「だよねぇ……」
圧倒的な体力の無さから断念せざるを得ないのである。
文香ですらウェイランドの端から端までを歩きとおせるのに、弥生は荷物が無ければ何とか行ける。
荷物ありだと10分も持たないのだ。
ちなみに馬という手段もあるが、一人では乗れないのでこちらもハードルが高い。
「少し洞爺に鍛えてもらったらどうです?」
「……それが、お嬢ちゃんには運動神経のかけらもない。あきらめて馬車で移動するのがいいと思うのう。だって」
「…………鍛える前にあきらめるって、洞爺」
隣の部屋でのんびりと紅茶をすする洞爺に恨みがましい念を送るオルトリンデ。
すると間髪入れずドアが開き、洞爺がひょっこりと首を出す。
「なんか嫌な気配を感じたのじゃが、何か用か? オルトリンデ殿」
オルトリンデの怨念を感じ取ったらしい。
「……弥生の訓練、してあげてください」
「不可能じゃ、わしにもできる事と出来ぬ事がある。オルトリンデ殿こそどうじゃ?」
「私は文香のクラス担任ですから」
つつーっと洞爺の言葉に目線がそれていくオルトリンデ。
そしてほほを膨らませて泣きそうになる弥生。
「私だって! 私だってせめて50メートル走で文香に勝ちたい!!」
「「え、勝てないの?」」
実は文香が小学生に上がった時、遊び半分に競争したら負けた。
問答無用でいい勝負にもならず、負けたのだこの長女。
「なんでなんで!? どうやれば体力ってつくの!?」
タァン!! と自分の机をたたいて悔しさを表す弥生だが……
「お仕事休んだらどうかのう??? なあ、オルトリンデ殿」
「正直手持無沙汰なんですよねぇ……この間の死霊騒ぎも王城の管轄ですし、再建計画も弥生と書記官があっという間にまとめ上げてしまいまして……いい事なんですけどね」
弥生のおかげでレベルアップした書記官組はそれはもうバリバリに仕事した。
指摘も的確、現場にも積極的に足を運び……十年分くらい早く成長している。
「ふむ、ならば本格的に鍛えるとしようかの……」
護るにしても本人が動けるのならそれだけ難易度も下がる、本腰を入れて鍛えるのも悪くはないと洞爺は思う。
しかしまあ、元の体力が文香以下なので先は果てしなく遠いのであるが……。
「うう、魔法か何かでできないのかな? 体力アップ」
「できますよ? 洞爺が良い例です」
「む? 儂は魔法なんぞ使えぬぞ」
話を振られた洞爺が困ったように髪を撫でる。
魔法とは無縁の生活だったのだから当たり前だ。確かにこの世界に来てから身体能力は上がり続けている。レン……古代竜の近くにいる影響らしいのだが当の本人(竜)が良くわかっていないので洞爺には当然分かるはずもない。
「老いるのが遅くなった気はするが……」
「すみません、言葉足らずでしたね……正確には竜気を使ってる、というのが正しいですね」
「なんかすごそう……」
「私はいくつかの種族の混血なのですが……ちょっとした特技があって魔力を『視』る事が出来ます。そんなに便利でもないんですが、洞爺と牡丹がレンと同じ気配を纏ってるのでわかっただけです」
洞爺と弥生がほへぇ……とわかってるのかわかってないのか微妙な顔で感心する。
「魔法は主に魔素と呼ばれる大気中、もしくは自己生成した魔力の素を術式を用いて特定の力へと変換して事象を起こします。ですがそれ以外に魔力と似た力があります。神気と竜気……この二つはかなり特殊で神気は信仰と祈りによって、竜気は……解明されてないのですが極稀に竜族以外の者が扱えることが……ある、という記録があった。かなぁ……と」
「なんじゃその中途半端な説明」
「初めてなんですよ。この国にその竜気を纏ってる人族って……」
「そうなんだ……洞爺お爺ちゃんの竜気があれば私も体力つくの?」
素朴な疑問としてそんな解明されてない物を身に着けたいのか? という問題はあれど。弥生にとっては手っ取り早い解決策になる。
しかし、オルトリンデの表情は暗い。
「ええ、その……これも適性がありまして。過去の竜気保持者は半分くらい死んじゃうことが……」
言いにくそうに彼女は洞爺を見る。
「……儂、生きとるぞ」
「ええ、正直始めて見た時はびっくりしましたが何とも無いみたいなので適性があるんだなぁって思ってました。人族では初めてかもしれません」
「ふむ、という事は弥生が安易に手を出すと……死ぬかもしれんのか。じゃあ却下じゃな。おとなしく魔力の適性検査を受けるしかあるまい、ダメなら……儂も腹をくくろうではないか。せめて文香嬢ちゃんといい勝負ができるくらいには鍛えてやろう」
「ぐぬぅ……」
洞爺でもそこまでしか面倒見切れないという宣言だが、エキドナや真司なら「すごいなぁ」と感心するレベルだ。
「まあ、話は通しておきますから明日魔法士ギルドに行って魔法適性検査、受けてきてください」
「はぁい……洞爺お爺ちゃんも行く?」
「儂は少々用がある。真司と一緒に行けばエキドナ殿と牡丹が居る……問題はあるまい」
オルトリンデもその二人なら問題ない、と洞爺の提案に頷く。
弥生はただ単に隣の国まで訪問するだけなのに……なかなか大掛かりになりそうな予感がしていた。
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