長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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工房区画の奮闘者 ①

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「エルク、職人さん達の避難は!!」
「大丈夫、真司!! 君もギルドの中へ避難を!! あとは僕ら不死族が確認するから」
「エルクじゃ見つけられても運びきれない人数が残ってたら困るだろ。エキドナ姉もいるしまだ行けるよ」

 突然起きた地震、すぐに行動を起こせた真司はさすがといえる。
 即座に開いているドアから近場のギルド員の安否を確認して地上に向かわせた。

 たまたま一緒にいたエキドナとエルクにも協力してもらい、周囲の現状把握に努めると……状況はお世辞にも良くなかった。

「真司!! エルク!! 悪いけどもう限界だねぇ!! 僕じゃ死霊も不死族も見えない聞こえないから対応のしようがないんだよねっ!!」

 暗視からサーモグラフティ、超音波ソナー。ありとあらゆる探査機器をフル稼働して、怪我人の避難誘導をしていたエキドナが叫ぶ。

 死霊と相性が最悪なエキドナではけが人を背負って運ぶ間、死霊の攻撃を回避できないのだ。
 彼女の服はところどころ破けて肌を露出するばかりか、一部の肉がえぐられて鈍色の骨格があらわになっている個所も出始めた。

「真司、やっぱりこれ以上はだめだ。ギルドに避難を!!」

 エキドナの状況を正確に把握したエルクが決断する。
 見た目は少年のようだが、経験は長いだけにその判断に迷いはない。

「……エキドナ姉!! その人連れてこっちへ!! 逃げるよっ!!」
「ほいきた!! 一方的にボコられるなんて戦闘用アンドロイドとしてかなり悔しいけどっ!!」
「命あっての物種だよ!!」
「実にわかりやすいね! その理由!!」

 ずざざっ! とギルドへの階段を前に集結したエルク、真司、エキドナの三人は迷わず駆け下りていく。時々死霊が追いかけて来るがエルクが精霊魔法を駆使して追い払い、階段を下りきる前にギルドの扉へ体当たりしながら転がり込んだ。

「ふいぃぃ……しんどかった。生体パーツが何か所か剥げちゃったよ……」
「エルクは!?」
「無事! 扉を封印するよ!!」

 即座に扉を閉じたエルクが精霊魔法で氷漬けにしようとするが、奥から一人の職人が真司たちの元へ走り寄ってきた。
 よほど慌ててたのかその手にハンマーを持ったままだ。

「待ってくれっ! 俺の弟子がまだ来てないんだ!! あいつまだ10歳だからきっと怯えて!!」
「なっ!? なんで連れてかなかったのさ!!」
「納品に行った帰りなんだよ!! そしたらそこの金髪嬢ちゃんに放り込まれたんだ」

 どうやらタイミングが悪かったようだ。
 しかし、今から引き返すのは躊躇われる。

 扉の向こうではエキドナたちを追い立てていた死霊がうろうろしていた。
 なおかつ時間が経てば経つほど死霊は他の死霊の怨念と結びつき、果てには意識を持った存在に進化しかねない。

「せめて術式魔法で結界だけでも張れれば……」

 エルクが悔しそうに扉を睨む。
 
「エルク、その術式って……僕じゃ作れないのかな」

 真司がかすかな望みをもって、エルクに問う。
 そんな真司に告げるには残酷だったが……エルクは言い切った。

 無理だ、と。

「術式には図形と特別な言語が必要なんだ……正確な図形とその言語で魔素を魔法にしなきゃいけない……手書きだとゆがみやすくて活版だったり専門の細工師が作った魔法発動用の杖がないととてもじゃないけど無理だ」
「そっか……」

 肩を落とす真司、会話がわかっていないエキドナは雰囲気だけでその結果を察した。
 真司の頭を優しく撫でてあきらめない彼の心意気を汲んだ。

 職人もこの状況では難しい事を再認識し……手に取ったハンマーを取り落とし、膝をつく。

「……ねえエルク、教えて欲しいんだけどさぁ。死霊って僕に触れるの?」

 ふと、エキドナがエルクに確認を取る。

「触れないよ。見えない聞こえない相手には直接干渉できない。念動力とかで攻撃してきたりはできるけど」

 真司が通訳しながらエキドナに伝えると……
 エキドナが両手の人差し指をこめかみに当てて考え始めた。

「エキドナ姉、一体何をするつもりなの?」

 真司が嫌な予感がしたので言い出す前に止めようとする。
 しかし、そんなことで止まらないのがエキドナだ。

「いんや、オーバーヒートするけど全力稼働で死霊の群れを突っ切って、階段まで連れてきたら即座にエルクが上の扉を氷漬けにしちゃうって案。さっきまでの感じだと全力稼働で最低でも2分は動ける……その後身体がめちゃくちゃにされるだろうけど、弥生に直してもらうのを期待して……」
「却下。姉ちゃんそんなことしたらエキドナ姉をまともに直さないよ……すげぇ怒ると思う」
「やっぱり?」
「せめてもう一人くらい魔法士が居れば……」

 エルクと真司、エキドナの三人が何とか良い案をひねり出そうとする。
 三人寄らば文殊の知恵、まさにそのことわざ通りに行ければいいのだが……悲しいかな、現実はそう甘くない。

「このまま諦めるしかないのか……」

 職人は弟子の無事を祈り、両手を組んでその子の名前を繰り返し呼ぶ。

 できることはやった。
 むしろ新人ギルド員の真司がとった行動は後々表彰されるほどの事。

 十分だ。エルクはそう考え……扉を破られないように氷の精霊、セルシウスに力を借りる言葉を紡ぎ始めた。
 
「まった!! ある!! あるよ!! 術式魔法を使う手が!!」

 それはその場にいる全員にとって、青天の霹靂だった。
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