長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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王城見学会 ①

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「王城見学?」

 オルトリンデの秘書官となって数日、弥生の手元にある紙には奇麗な文字でそう書かれていた。
 その言葉を捉え、オルトリンデが事務手続きの手をいったん止めて説明を始める。

「年に二回、王城内を開放して見学できるイベントで国王にも会えますよ」

 どうやら広報イベントのようで当日は王城の食堂で国賓の方向けの料理の試食会や騎士の訓練風景、それに……

「飛竜に乗れる!?」

 何度か弥生が目にした騎士の飛竜、大空を気持ちよさそうに飛んでいたのをうらやましく思っていた。

「乗れますよ。行ってきたらどうです? ノルトの民が飴細工でミニ宮殿とか面白いことやってたりドレスとか試着できますよ」
「そうなんだ……じゃあ、行ってみようかな。お休みもらってもいい?」
「もちろん、と言うか週休二日を無視して毎日働いてるんですからちゃんと休んでください」
「……お休みの日、決まってたんだ」
「弥生、なんでそうあなたという人は……」

 ちなみに文香はちゃんとお休みの日には真司やエキドナとお出かけしたり、クラスで仲のいいラミア族のミリアを連れてコルトのところで遊んでたりする。
 
「エキドナがほおっておいていいと言うので黙ってましたが……ちゃんと週に二日は休んでください。後ご飯も食べる、良いですね? まったく文香より指導に困る部下だなんて……」
「うう、でもキリがいいところまで終わらせないとなんかこう。気持ちが落ち着かなくて」
「強制的にでも休ませるべきなのでしょうか……私までなんか落ち着かなくなってきました」

 オルトリンデはため息交じりに手元の書類を流し見ると、そこには昨日の日付で上がってきたばかりの書類。最近は来た物をその日の内に処理できてしまうので手持無沙汰なのだ。

「んじゃあいこうかな……飛竜乗ってみたいし」
「そうしてください……あ、もしよければ私が案内しますが? 城の中は広くて複雑なので」
「良いの? じゃあ、お願いしちゃおうかな……ありがとうオルちゃん」
「どういたしまして……それと仕事中は監理官です」
「はーい! ありがとうございます! オルトリンデ監理官!」

 ぴしっ! と本人は敬礼してるつもりなのだが機敏さに欠けるのでオルトリンデからは締まらないようにしか見えない。

「さて、そろそろ定時ですね。私は門を閉じに行くので弥生も今日は上がっていいですよ……ちなみに明日と明後日はお休みですから、ちゃんと休むこと。良いですね」
「え、今週そんなに働いたっけ!?」

 弥生の感覚上はまだ7日間程度だと思っていたのだが、そんなことは無く……呆れ返ったオルトリンデが手帳を確認しながら告げる。

「12日間連続勤務してますよ、どういう感覚してるんですか……はい、帰った帰った」
「はーい……文香迎えに行って帰りますよー」
「あ、来週お弁当の日がありますから忘れないようにしてくださいね? お知らせ配ってありますが」
「大丈夫、ちゃんと手帳に書き込んであるから」

 すっかりウェイランドでの生活になじんだ弥生は任せておけと言わんばかりに胸を張る。
 その様子を見てオルトリンデが溜息を吐く……なんでこう弥生は極端なのだろうか。
 もっとこう……年頃の女の子って仕事よりもおしゃれとかに興味を持つんじゃなかったっけ……

 そんな事を何度も感じていた。実際書記官になった者の多くは自分で仕事のコントロールができるので余暇の使い方も上手い。オルトリンデ自身は参加したことがないが合コンなども良く企画されていた。
 そんな事をふと思ったので単なる興味本位で弥生に聞いてみる。

「そういえば弥生・・・・・・貴女、私服はあるんですか?」

 書記官になって以降、試験の時に来ていた安っぽいワンピースはさすがに処分しただろうが……制服姿しか見ていない。文香と真司は弥生の迎えに来る時に良く会う、二人ともちょこちょこと買いたしているのかバリエーションが豊富だ。

「ちゃんと買ってるよ、下着!」

 ばっとスカートをまくってオルトリンデに見せる弥生、男子だったら役得なのだろうが監理官室には弥生とオルトリンデしかいない……監理官室『には』。

「あー、出直します」

 開けっ放しの窓から申し訳なさそうな声が届けられる。
 その声をいただいた時、スカートをまくったままの姿勢で硬直し……ブリキ人形みたいにぎくしゃくと首だけを窓に向けると。

「いや、うん……わざとじゃないんだ。オルトリンデ監理官に配達があって声をかけようとしたら」

 ほほを赤く染めて眼球だけを明後日の方向に向けるコストさんがいた。
 オルトリンデと弥生がいるのは3階の執務室なのでノルトの民が配達する比率がそこそこ大きい、顔を合わせる機会も当然多かった。
 
「コスト、ありがとうございます。そこの露出大好き弥生さんは無視して私宛の荷物をくださいな」
「オルちゃん!? 不名誉極まりない称号私いらない!!」

 バババッ!! と音がするほどに身なりを整え弥生が猛抗議をする。
 コルトも『まあ、ほどほどにね』と流れに乗っかったもんだから彼女にとってはたまったものではなかった。
 真っ赤になった顔を隠すように両手で覆う。
 いやいやと首を振っているのがほほえましい、とオルトリンデもコストもなんだか親になった気分だった。

「オルトリンデ監理官、こちら……差出人不明です。受け取りのサインを」

 ちょっとした書籍サイズの小包を彼から受け取り、オルトリンデは貼り付けてあった受領証にさらさらとサインをする。
 
 差出人不明でも迷わず受け取る彼女に弥生は疑問を持った。

「差出人不明って危なくないの? 不審物とか」
「大丈夫だよ弥生、この荷物は差出人不明だけど王城からなんだ。その分俺たち配達員がしっかりチェックしているよ」
「ああそっか、どの部署で誰からか~ってわかると困ることもあるからね」

 スパイとか!! なぜかキラキラした笑顔で言い放つ弥生にオルトリンデがため息をついたのは言うまでもない。
 
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