長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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真司とエキドナは魔法士ギルドへ(後編)

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 年に数回の魔法士ギルドの消毒清掃の日、ゴーストのエルクは張り切っていた。
 何せこの日ばかりは自分が主役なのだ。
 地下にその建物の大半を有する魔法士ギルドはとにかく湿気やほこりがたまりやすい。

 よって職員の衛生管理上、年一回の消毒清掃が義務付けられてるのだが……消毒液の匂いは籠るわ機材などが重かったりで隙間のカビをとるのにも一苦労。そんな中、ゴーストのエルクは大活躍なのである。

 そんな彼にとって特別な日はほかの職員が別区画で仕事をしてもらい、自分が各区画を順繰りに消毒清掃していく。

 しかし、この日は違った。
 なんか存在が希薄な人族の少女とどこにでもいるような少年が清掃区画に入ってきたのだ。
 匂いで気分が悪くなったり、暗いから転んでけがをする恐れもある。
 
 近所の子供が迷い込んできたのかと心配したエルクは声をかけた。

「誰だい?」

 その声に男の子、真司は驚いたようにきょろきょろしている。
 暗闇なのでエルクのことを見つけられていないようだった。
 なぜかエキドナはそんな真司をキョトンとした顔で見ているのだが……
 まずは、と。エルクが魔法で灯りをつけるため詠唱を始める。

「灯りをつけるよ。光の聖霊よ、わが声に応え闇を払え……灯りライト

 少し明るめのランタン程度の灯りを創り、改めて闖入者を見ると……まあ、真司とエキドナなのだが妙な状況だった。
 真司は眼を見開いてエルクを凝視し、エキドナは何が起きているのかさっぱりといった様子で浮かぶ光の玉と室内を交互に見渡していた。

「……今消毒清掃中だからこっちの入り口からはギルドに入れないんだよ?」
「あ、え、ご……ごめんなさい。僕は真司、魔法士ギルドに入りたくて来たんだけど初めてでわからなかったんです」

 戸惑う真司の物言いに、エルクは何となく状況を理解した。
 どうやらいたずらの類ではなくタイミングが悪かっただけのようだった。

「そっか、張り紙してないからわからなかったのか。良いよ、それより気分は大丈夫? 消毒薬の匂いで気分が悪くなる人もいるから……申し訳ないけどいったん地上に戻ってもらう方がいいと思う。消毒終わるまでこの区画鍵が開けられないようにしてあるんだ」
「ありがとう……でも、君は」
「不死族とあったのは初めて? 僕はエルク。魔法士ギルドの一員だよ……ちなみに死後43年」
「なんかこう、想像と違うなぁって……透けているから」
「死霊と不死族の違いってなかなか理解が得られないからね。おいおい学んでくれればいいよ、この区画の清掃は終えてるから別の出入り口を案内してあげる……よ?」

 エルクの申し出に真司がお礼を言おうとしたら、エルクの顔面から手が生えてきた。
 もちろんすり抜けるだけでエルクに痛みなどはないが、なんともシュールである。

「何やってんのさエキドナ姉……失礼だよ?」

 注意する真司にエキドナは真剣な表情で反論する。

「何やってるのは僕のセリフだよ、真司……誰としゃべってるのかなぁ」
「へ?」
「あー」

 驚く真司に対して、エルクはなるほどといった風情でぽんと手を打つ。

「真司、一部の人は僕が見えないことがある」
「……エキドナ姉、見えてないんだ」
「声は聞こえることがほとんどなんだけど……この様子じゃ聞こえてもいないね」
「真司、僕にもわかるように説明してくれないかなぁ……おねーさん割と本気で全方位探査してるんだけど何にも拾わないんだよ。いきなり明かりがついてふよふよ漂ってるし、熱も感じないし、こんなの初めてなんだよ……」
 
 本当に見聞きできていないエキドナのことを面白がったのかエルクがにやりと笑い、エキドナのおなかから顔だけ出したり、光の位置を調整してエキドナから体半分を出して『ザ・昇天!!』と両腕を広げながら穏やかな笑みを浮かべる。

「ぶほぉ!!」

 まさに体を張った自虐ネタに真司が吹き出し、憮然とした表情のエキドナは何かよからぬことをされているのを察して地団太を踏み始めた。

「何が起きているのかわからいけど絶対ろくな事じゃないことだけは確信している!! 真司!! 今すぐやめさせてもらえないかなぁ!!」
「あはは、え、エルク!! やめて、おなかが!!」
「エルクっていうんだね!? おいこら今すぐやめないと全方位に泣いてごめんなさいするレベルの嫌がらせするよっ!!」

 むきーっ! と腕を振り回すエキドナにエルクのいたずらはエスカレートしていき、真司が別な意味で酸欠を起こすまで続いたのだった。


 閑話休題


「で……結局魔法士ギルドって何なのさ。入口がめちゃ多いじゃん」

 不機嫌に<●><●>な目をして改めて地図を見ると追加された入口がこれまた多い多い、なんとその数は数十か所。
 地上に戻ってきて今後のためにと印をつけてもらったのだが……地図が真っ黒になりそうな勢いだ。

「実験施設がいくつもあってそれぞれの分野ごとに離れているんだよ。登録はさっきの入り口から入れる本部でないと手続きができないけどね」

 かりかりと虚空に浮かぶ(エキドナ視点)木炭が紙に文字を連ねていく。
 もちろんエルクが見えない人用、声が聞こえない人用に常備しているコミュニケーションツールの一部だ。

「ふーん、まあそれはわかったけど……何とかならないかな。君の姿も声も聞こえないんじゃ僕落ち着かないよ。下着とかのぞき込まれてもわかんないし」

 あまりにもな物言いに猛然と抗議の言葉を羅列するエルク。
 見えてないのは今のところエキドナだけなので通行人には丸見えなのである。そんなことをすると衛兵さんに一発で逮捕されてしまう。

「エルクって触れるの?」
「衛兵や騎士さんは捕縛用の魔法具を持ってるし、精霊魔法が使える魔法士は触れるよ」
「……ちょっと触ってみてもいい?」
「真司は精霊魔法士?」
「それが良くわからなくて、そこも知りたいんだ」
「ああ、そっか……触った時に何らかの感触、冷たいだとか抵抗があるとかの感覚があれば精霊魔法の才能があるよ」
「へぇ……んじゃあ………………」

 するんっと真司の手がエルクの手を通り過ぎる。
 しかし、その手には何も感じられない。

「何も感じない……精霊魔法は使えないのかぁ……」
「そんなに精霊魔法使いたかったの?」
「え!? ああ、いや、その……」

 そんなに残念な顔をしていただろうかと真司が視線を泳がせる。
 そこにエキドナが出さなくてもいい推理力をいかんなく発揮した。

「セルシウス」
「!?」
「ウンディーネ」
「!!??」
「ドリアード」
「エキドナ姉っ!!」

 ああ……とエルクが納得した表情でうなづいた、つまりそういうことなのだろう。

「かわいい精霊と主従関係になりたかったと」
「エキドナ姉!! お願いだからばらさないでくれない!?」

 ちなみにエルクも真司と同じ動機で精霊魔法を習得しているのでそれはそれはうれしそうな顔で真司にサムズアップを決めるのであった。
 ただし、その会話が聞こえていた通りすがりの女性陣からは冷たい視線が集中したのは言うまでもない。

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