長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ

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最近の若い子と来たら……

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 合格発表から二週間。弥生は改めて職場へとたどり着いた。
 前日まで試験会場がそのまま統括ギルドだと思っていたのだが、オルトリンデに呼び出されたお城の城門そのものが統括ギルドの本拠だという事をいまさら知る。
 
 ――全てはこの一歩から

 古臭い木製の看板にはそう書かれていた。
 正面左側は石造りの堅牢な建物、右側は温かみを感じる木造建築。正面はその両方を融合させた質実剛健な造り。

 なるほど、鍛冶国家と体現している建物だと弥生は思った。
 
「今日からここで働くんだぁ……」

 合格発表から数日後、それはもう慌ただしかった。
 立地の良い一軒家を寮として借りたり、生活用品をそろえたり、今後の事についてエキドナも交えて相談して真司は魔法士ギルドへ、文香は……なぜか家政婦ギルドへ行きたいと珍しく自己主張を強固に繰り返すので……

「ちゃんと勉強するからね! おねーちゃん!」
「どうしてこうなった」

 統括ギルドでは福利厚生として備えられている託児施設及び子育て世代のために併設されているギルド内学校への通学を条件に弥生はギルド所属を認めたのだった。

「さて、どうやって入ればいいんだろう……」

 文香と共に弥生は門を見上げる。
 ちょっと朝早く来すぎてしまい、誰も居ないのだ……
 それに基本的にこの門はノルトの民用にだろう、弥生達が普段使っているドアの何倍も大きいそれをどうすればいいのか考えこんだ。
 
 気分はまるで某仲良しの猫とネズミである。

「こんこんする?」
「聞こえるのかしら?」
「そんなことせずとも通れますよ?」

 ふいに文香と弥生は背後から届く声にびくぅっと反応する。
 そこに立っていたのは先日と変わらず薄紅色の髪と藍色の瞳を持つオルトリンデだった。

「コルトさんから弥生達は几帳面だから早めに来ると思う。と聞いてましたが本当でしたね……後でお礼をしませんとね」
「オルトリンデちゃ……さん」
「……ちゃんでもいいですよ。慣れてますので」
「オルちゃん! 今日からよろしくね!!」
「文香っ!?」
「はい、文香。今日からよろしくお願いしますね」
「オルトリンデ監理官!?」

 気安く会話し始めた文香とオルトリンデに目が点になる弥生。
 それはそうだろう、なんといっても直属の上司なのだから。

「良いのですよ弥生、文香のクラス担任は私ですから」
「担任!? 文香知ってたの!?」
「一昨日言ったよー?」
「一昨日って……う、頭痛が……」

 文香は確かに弥生にその事実を伝えていたのだが、一昨日衝撃的な事がありすぎて記憶にとどめられなかったのだ。
 
「良くわかりませんが……まあいいです。弥生、文香。こちらに」

 軽く首をかしげながらもオルトリンデはギルドに入る方法を案内する。
 ちなみに弥生は前回ニーナと来た時、馬車だったためこうして徒歩で来た時どうやって入って良いかわからなかった。

 一応夜は保安上の理由からノルトの民用の門を閉めていて、開けるのは統括ギルドの長――監理官オルトリンデの仕事となる。

「私よりも早く来る必要はありませんが……もし何か用がある時はこうしてください」

 のんびりと門の端まで歩くとオルトリンデはしゃがみ込む。
 そのままおもむろに石畳の一つに手を当てた。

「ここに魔力を通すと……」

 ほのかに光る石がかぽん! と小気味いい音を立てて外れる。
 それを手に取ると両手で左右に引っ張って割った。
 あらかじめ分割できるようになっていたのか断面はとても綺麗で……まるで液晶ガラスのようだった。

「で、この画面に番号が表示されるので11922960イイクニツクロウの順番で押すんです」

 まるでというより、弥生が慣れ親しんでいたスマートフォンそっくりで……

「電子キーかい!!」
「ひゃっ!? なんですいきなり!!」

 思わず叫んでしまう。

「オルトリンデ監理官……もしかしてその石……他の機能もあったりしません? お互いの石で遠く離れていても喋れたり」
「良くわかりましたね。その通りです」
「オルちゃん見せて―!」
「さすがに文香にはダメです」
「えええ……ゲームできると思ったのに」
「いや、文香……それどころじゃないから。事件だから、大事件だからこれ……」

 まさかの異世界文明最初の邂逅がスマホ……そんなことは夢にも思わなかった弥生は四つん這いでこの世の何かについての恨み言をぶつぶつと連ね始めた。
 もちろんオルトリンデにとっては訳が分からないので、詳しい説明は今度でいいかと手早く開門を進める。

 番号を打った画面に表示されている『開門』をタップすれば、低い駆動音がどこからともなく鳴りはじめて門が開け放たれていく。
 今でこそ慣れたがオルトリンデも初めて開けた時は驚きを隠せなかったし、その光景に興奮したものだ。
 まあ、今ではルーティンワークなので最近は新人がこの門を開ける時に大騒ぎするのを見て微笑ましく笑うのが楽しみになっている。そんな反応を二人に期待して胸を張り、門を指さして向き直った。

「どうです弥生、文香、これがウェイランド鍛冶ギルドの最高傑作。遠隔開門システムで……すよ?」

 快活な声もむなしく……オルトリンデの言葉はしりすぼみで疑問符を浮かべる。
 
「ねえねえオルちゃん! 今日何の授業するの? 九九?」
「私たち用の通用口とかないですか? 毎回開けるの面倒ですよこれ」

 全く驚いてくれなかった。むしろ弥生から早速ダメ出しが入る始末であった。

「通用口は別にありますし、一回開けたら基本夕方まで開けっ放しです! なんですかその淡白すぎる反応!?」
「?」

 両手を広げて朝からハイテンションなオルトリンデの突っ込みに、文香が訳が分からないと弥生の顔を見上げる。
 弥生も正直からくりが理解できているので感動というほどの事も無い、日常的にあったものがただ単に大きくなっただけだし。

「おかしいですねぇ……鉄板ネタなのに、最近の若い子は」
「もっとすごいもの見ちゃったしねぇ、文香」
「バラバラおねーちゃんが居るからねぇ、おねーちゃん」

 インパクトならエキドナが一番の弥生と文香だった。
 確かに見た目完全に美少女な彼女が気軽にぽんぽんと四肢や首を外してお手玉するのはシュールと言わざるを得ない。

「そうなんですか? 今度機会があったらお会いしたいですね」
「今度一緒に来てもいいなら」
「別に構いませんよ。城の区画以外は統括ギルドに立ち入り禁止区域はありませんから」
「じゃあ、近い内に聞いてみますね」
「ええ……さ、行きましょう。文香は途中まで案内しますね」

 開門から間もなく……欠伸をしながら歩くギルド職員や夜勤と交代の衛兵、兜をわきに抱えて談笑する騎士達がちらほらと見かけられるようになっていた。
 あんまりここでのんびりしているのは良くないだろうとオルトリンデがさりげなく促して、ゆっくりとギルド内部に向かう。
 
 弥生と文香も周りの人波に気づき、オルトリンデの言いたいことを察して後ろに続く。
 その様子に満足して一度だけオルトリンデは振り向き、軽く頷いた。

「まあ、今日は見学だけですけど……何を見てもらったら驚くんでしょうね? 最近の子は」

 世代間ギャップに悩むオルトリンデ70歳のセンスが試されようとしていた。

 
 
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