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1章
23:DT・ホウ
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「酷いドアノックだな……」
「DT・ホウ様、襲撃です……避難を」
「ああ、ついでに日本政府に抗議文を送ってくれたまえ。そちらの飼い犬がうちの飼い犬に噛みついて来たとな」
「イエス・サー」
執務室で葉巻をふかしながら、DT・ホウは部下の職員に指示を出す。
つい先ほど執務室のガラスにヒビが入った……すさまじい爆発音に揺らされてだ。どうやら相手は……月夜の斬鬼とやらはダイナマイトでも用意してきたらしい。そうそう頭に血が上っているのだろう、とんでもない勢いで暴れているらしい。
「まあ、アレを持ち出して負ける訳がないだろうな? ミスター海藤、言われた通り暴挙には目をつぶってやったのだから成果を出したまえ……その後は、私が良い所をいただこう」
「DT・ホウ様……闇狩り以外の職員は……」
「避難指示だけ出しておけ……いや、一人くらいは避難の際に殺しておくのもいいか。日本政府から何か引き出せるかもしれん」
「……しかし」
「なら君がその役だ、ご苦労様」
ダンッ!!
執務室の机の裏に隠してあった拳銃で躊躇いなく部下の額を撃ち抜くDT・ホウ。
哀れな彼は何が起こったのか悟る事もなく、即死した。
「チャンスなのだよ、すべての責任を海藤が率いる闇狩りに押し付け。日本政府に取り入る……な」
つい数時間前、海藤が明かした恐るべき国盗り計画。
表向きにはDT・ホウは協力することにしたが……その脳裏では全く別のプランを推敲していた。
「あのならず者が暴走した原因は元をたどれば月夜連合、そちらが手綱を離した瞬間に噛みついて来たのだ……管理不行き届きも良い所。私はそれに巻き込まれ闇狩りの設立に尽力したにも関わらず損害を被った……そう言うプランでなければならない」
そして、闇狩りが国盗りを企てている事はすでに日本の外交官を通じてリークしてある。
いわばDT・ホウはそれを未然に防いだ英雄となるのだ。
「まあ、せいぜい派手に暴れてくれ。月夜の斬鬼とやら」
床に広がる赤い水たまりを眺めながら、彼は優雅に葉巻を灰皿に押し付ける。
外では逃げ惑う職員の悲鳴に混じり、発砲音が聞こえ始めた。どうやら闇狩りと蓮夜が戦闘を始めたらしいとあたりをつけ、スーツの襟を正してしっかりとした足取りで執務室を出る。
そこにはDT・ホウが腹心として本国から連れてきた数名の男女が油断なく自動小銃を構え、出てきたDT・ホウを中心に取り囲んで護り始めた。
「裏口から出よう。どうやら正面からあの山猿は入ってきたようだからね」
その指示に、軍服に身を包み黒いヘルメットをかぶる兵士たちは小声で了解、と告げる。
「大使、事務職員が来ませんが?」
自分たちと一緒にここまで来た一人の男性職員の事を、隊長らしき女が問う。その言葉にDT・ホウはわざとらしく目元を手で押さえ、震える声で告げた。
「彼は窓から入ってきた流れ弾から私を身を挺して護り、殉職した。悲しい事だ」
「そうですか……では移動を開始します。ブラボー、チャーリー、デルタ、左右と後ろを護れ、私が先行する」
来ない事が知りたかっただけの隊長は、即座に裏口に向けて移動を開始する。
大使館には物品搬送用に車庫の裏から出入りできる場所があった。万が一の際に避難するためでもある。
「急ごう、正門をなんでも蹴り壊したらしい」
門番からの情報を聞いた時、何かの間違いだろうと冷や汗が流れたものだ。戦車でも持ってきたのかと音に驚いて無様にも間抜けな悲鳴を上げてしまった事を思い出し、隊長は歯ぎしりをする。
その様子に、DT・ホウが足を止めた。
「何? もう一度言ってくれないか?」
聞き間違いだろうと期待をして、DT・ホウは隊長に確認を取る。『爆薬で壊された』と言ってくれるのを信じて。しかし、現実は無常だった。
「鋼鉄の具足を付けた老人が蹴り壊した、と言いました。信じがたいですが、あの扉はダイナマイトでも簡単には壊せない防爆扉です……くそ、日本の兵士は何者なんだ」
DT・ホウの顔が引きつる。そう言えば、無口ではあるが周りの兵士も冷や汗をかいているし……目つきは忙しなく周囲を警戒していた。
「斬鬼は……刀で斬ると聞いていたが」
「ザンキ……? 敵の名称ですか? 現時点で刃物の使用は認められません……次々と壁や人を蹴り飛ばしているんです。しかも……」
「しかも?」
「銃弾すら蹴り防いでいるとか……先ほどこちらに来る際にちらっとだけ中庭を見ましたが……火花が散るたびに……白髪の老人が、その……」
「何だね、早く言いたまえ」
「空中や壁などに……現れたり、消えたり……姿が捕らえられないのです」
「そ、そんな訳があるか!」
だよなぁ……と周りの兵士は口々に同意するが現実は無常だった。
――ドカンッ!
「うぎゃあああああ!!」
すさまじい悲鳴を上げて、防弾盾を構えた兵士が水平に……植え込みをぶち破ってDT・ホウ達の前に転がってきた。
その鋼鉄製の盾にはくっきりと足跡が刻まれ……隊長の言葉が真実だと裏付ける。
さらに不可解なのは……それだけの勢いで飛んできたにも拘らず、その兵士は目立った外傷が無かったのだ……つまり相手は銃を持つ敵に手加減して戦っているという証拠だった。
ぴくぴくと白目をむく兵士を見てDT・ホウの喉がごくり、と鳴る。
「い、急ぎましょう。それか……隠し車庫のアレを出しますか?」
「た、隊長……相手は一人ですよ」
「一人って……本当に人間なのか?」
もはや遭遇したら終わりと言わんばかりの護衛にDT・ホウは文句の一つどころか、声が出ない。
あまりにも予想外過ぎるのだ海藤は『普通に真正面から戦ったら軍隊でも敵わない』と話していたが……冗談だと思っていた。時代は進み、剣から銃へ、銃から兵器の時代。しかも数対数で物を言わせるのがこの時代の戦争なのに……ワンマンアーミーを体現する存在がまさかここに居るとは想像の埒外だった。
「海藤め……何に手を出した!!」
この時になってようやく、蓮夜の恐ろしさや規格外が理解でき始めたDT・ホウ。
こうなっては海藤達、闇狩りが蓮夜を何とかすると信じるしかない。
「そ、そうだ……地下牢にあの女が……」
先日、その蓮夜に銃弾を浴びせた女……灯子を手錠で拘束したことを思い出した。
詳しくは聞いてないが海藤が騙して撃たせたと言っていたし、その事を本人は酷く後悔していたのか散々に暴れたためDT・ホウのお楽しみはお預けになっている。
「おい、執務室に戻るぞ……人質が居る」
「人質……ですか?」
隊長たち護衛はDT・ホウのお楽しみ部屋はおろか、闇狩りに捕まえさせた女たちの事など何も知らないため首をかしげる。
「ちっ……ここを死守してろ。私が連れてくる」
そう言い捨ててDT・ホウは執務室へ踵を返した。ちょうどいい、電話もあるし日本の外交官へ軍の派遣を求めよう……何とかしてあの暴れる元暗部、蓮夜を止めなければならない。
「DT・ホウ大使!? 避難を!」
戸惑う隊長の声を無視してDT・ホウは執務室に飛び込み、あろうことか中から鍵までかけてしまった。そんな事をせずに車庫までならすぐの距離なのに、と怒鳴りたくなる護衛達は眉をひそめて……それでも命令通りに扉の前に陣取ってそれぞれ銃を爆音轟く中庭へ向ける。
相変わらず聞こえてくるのは鈍い打撃音とそれに重なるように木霊する悲鳴、散発的に銃の発砲音も混じるが……明らかにその数が減っていく。
「悪夢か……」
そんな絶望的な中……避難先の車庫から轟音が鳴り響いた。
普通の自動車の何倍も大きいエンジン音が……。
「誰だ、アレを動かしたのは!!」
この大使館にいる軍人は誰もがその存在を知っていたが……運用される事態は起こらないと思っていたし、隊長自体も先ほどそれを持ち出そうとしている。
しかし、それにはDT・ホウの許可が絶対に必要なはずなのに。
次の瞬間、車庫のしっくい壁をぶち抜いてその巨体が姿を現した。
M2A1中型戦車が……。
「DT・ホウ様、襲撃です……避難を」
「ああ、ついでに日本政府に抗議文を送ってくれたまえ。そちらの飼い犬がうちの飼い犬に噛みついて来たとな」
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執務室で葉巻をふかしながら、DT・ホウは部下の職員に指示を出す。
つい先ほど執務室のガラスにヒビが入った……すさまじい爆発音に揺らされてだ。どうやら相手は……月夜の斬鬼とやらはダイナマイトでも用意してきたらしい。そうそう頭に血が上っているのだろう、とんでもない勢いで暴れているらしい。
「まあ、アレを持ち出して負ける訳がないだろうな? ミスター海藤、言われた通り暴挙には目をつぶってやったのだから成果を出したまえ……その後は、私が良い所をいただこう」
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「避難指示だけ出しておけ……いや、一人くらいは避難の際に殺しておくのもいいか。日本政府から何か引き出せるかもしれん」
「……しかし」
「なら君がその役だ、ご苦労様」
ダンッ!!
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哀れな彼は何が起こったのか悟る事もなく、即死した。
「チャンスなのだよ、すべての責任を海藤が率いる闇狩りに押し付け。日本政府に取り入る……な」
つい数時間前、海藤が明かした恐るべき国盗り計画。
表向きにはDT・ホウは協力することにしたが……その脳裏では全く別のプランを推敲していた。
「あのならず者が暴走した原因は元をたどれば月夜連合、そちらが手綱を離した瞬間に噛みついて来たのだ……管理不行き届きも良い所。私はそれに巻き込まれ闇狩りの設立に尽力したにも関わらず損害を被った……そう言うプランでなければならない」
そして、闇狩りが国盗りを企てている事はすでに日本の外交官を通じてリークしてある。
いわばDT・ホウはそれを未然に防いだ英雄となるのだ。
「まあ、せいぜい派手に暴れてくれ。月夜の斬鬼とやら」
床に広がる赤い水たまりを眺めながら、彼は優雅に葉巻を灰皿に押し付ける。
外では逃げ惑う職員の悲鳴に混じり、発砲音が聞こえ始めた。どうやら闇狩りと蓮夜が戦闘を始めたらしいとあたりをつけ、スーツの襟を正してしっかりとした足取りで執務室を出る。
そこにはDT・ホウが腹心として本国から連れてきた数名の男女が油断なく自動小銃を構え、出てきたDT・ホウを中心に取り囲んで護り始めた。
「裏口から出よう。どうやら正面からあの山猿は入ってきたようだからね」
その指示に、軍服に身を包み黒いヘルメットをかぶる兵士たちは小声で了解、と告げる。
「大使、事務職員が来ませんが?」
自分たちと一緒にここまで来た一人の男性職員の事を、隊長らしき女が問う。その言葉にDT・ホウはわざとらしく目元を手で押さえ、震える声で告げた。
「彼は窓から入ってきた流れ弾から私を身を挺して護り、殉職した。悲しい事だ」
「そうですか……では移動を開始します。ブラボー、チャーリー、デルタ、左右と後ろを護れ、私が先行する」
来ない事が知りたかっただけの隊長は、即座に裏口に向けて移動を開始する。
大使館には物品搬送用に車庫の裏から出入りできる場所があった。万が一の際に避難するためでもある。
「急ごう、正門をなんでも蹴り壊したらしい」
門番からの情報を聞いた時、何かの間違いだろうと冷や汗が流れたものだ。戦車でも持ってきたのかと音に驚いて無様にも間抜けな悲鳴を上げてしまった事を思い出し、隊長は歯ぎしりをする。
その様子に、DT・ホウが足を止めた。
「何? もう一度言ってくれないか?」
聞き間違いだろうと期待をして、DT・ホウは隊長に確認を取る。『爆薬で壊された』と言ってくれるのを信じて。しかし、現実は無常だった。
「鋼鉄の具足を付けた老人が蹴り壊した、と言いました。信じがたいですが、あの扉はダイナマイトでも簡単には壊せない防爆扉です……くそ、日本の兵士は何者なんだ」
DT・ホウの顔が引きつる。そう言えば、無口ではあるが周りの兵士も冷や汗をかいているし……目つきは忙しなく周囲を警戒していた。
「斬鬼は……刀で斬ると聞いていたが」
「ザンキ……? 敵の名称ですか? 現時点で刃物の使用は認められません……次々と壁や人を蹴り飛ばしているんです。しかも……」
「しかも?」
「銃弾すら蹴り防いでいるとか……先ほどこちらに来る際にちらっとだけ中庭を見ましたが……火花が散るたびに……白髪の老人が、その……」
「何だね、早く言いたまえ」
「空中や壁などに……現れたり、消えたり……姿が捕らえられないのです」
「そ、そんな訳があるか!」
だよなぁ……と周りの兵士は口々に同意するが現実は無常だった。
――ドカンッ!
「うぎゃあああああ!!」
すさまじい悲鳴を上げて、防弾盾を構えた兵士が水平に……植え込みをぶち破ってDT・ホウ達の前に転がってきた。
その鋼鉄製の盾にはくっきりと足跡が刻まれ……隊長の言葉が真実だと裏付ける。
さらに不可解なのは……それだけの勢いで飛んできたにも拘らず、その兵士は目立った外傷が無かったのだ……つまり相手は銃を持つ敵に手加減して戦っているという証拠だった。
ぴくぴくと白目をむく兵士を見てDT・ホウの喉がごくり、と鳴る。
「い、急ぎましょう。それか……隠し車庫のアレを出しますか?」
「た、隊長……相手は一人ですよ」
「一人って……本当に人間なのか?」
もはや遭遇したら終わりと言わんばかりの護衛にDT・ホウは文句の一つどころか、声が出ない。
あまりにも予想外過ぎるのだ海藤は『普通に真正面から戦ったら軍隊でも敵わない』と話していたが……冗談だと思っていた。時代は進み、剣から銃へ、銃から兵器の時代。しかも数対数で物を言わせるのがこの時代の戦争なのに……ワンマンアーミーを体現する存在がまさかここに居るとは想像の埒外だった。
「海藤め……何に手を出した!!」
この時になってようやく、蓮夜の恐ろしさや規格外が理解でき始めたDT・ホウ。
こうなっては海藤達、闇狩りが蓮夜を何とかすると信じるしかない。
「そ、そうだ……地下牢にあの女が……」
先日、その蓮夜に銃弾を浴びせた女……灯子を手錠で拘束したことを思い出した。
詳しくは聞いてないが海藤が騙して撃たせたと言っていたし、その事を本人は酷く後悔していたのか散々に暴れたためDT・ホウのお楽しみはお預けになっている。
「おい、執務室に戻るぞ……人質が居る」
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隊長たち護衛はDT・ホウのお楽しみ部屋はおろか、闇狩りに捕まえさせた女たちの事など何も知らないため首をかしげる。
「ちっ……ここを死守してろ。私が連れてくる」
そう言い捨ててDT・ホウは執務室へ踵を返した。ちょうどいい、電話もあるし日本の外交官へ軍の派遣を求めよう……何とかしてあの暴れる元暗部、蓮夜を止めなければならない。
「DT・ホウ大使!? 避難を!」
戸惑う隊長の声を無視してDT・ホウは執務室に飛び込み、あろうことか中から鍵までかけてしまった。そんな事をせずに車庫までならすぐの距離なのに、と怒鳴りたくなる護衛達は眉をひそめて……それでも命令通りに扉の前に陣取ってそれぞれ銃を爆音轟く中庭へ向ける。
相変わらず聞こえてくるのは鈍い打撃音とそれに重なるように木霊する悲鳴、散発的に銃の発砲音も混じるが……明らかにその数が減っていく。
「悪夢か……」
そんな絶望的な中……避難先の車庫から轟音が鳴り響いた。
普通の自動車の何倍も大きいエンジン音が……。
「誰だ、アレを動かしたのは!!」
この大使館にいる軍人は誰もがその存在を知っていたが……運用される事態は起こらないと思っていたし、隊長自体も先ほどそれを持ち出そうとしている。
しかし、それにはDT・ホウの許可が絶対に必要なはずなのに。
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