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22:トイレの太郎さん カコさん単独調査編
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ユウキは大丈夫だろうか?
まあ、なんか大騒ぎしつつ校内を爆走しているみたいなのは間違いないかな。
それにしても……私は一階の廊下に放置された革靴を見てため息をつく。
「大人はズルいよね……こんな手で来たのか」
さっきの足音はわざと鳴らしてたんだ。
きっと校内にまだ私とユウキが隠れてると確信して、靴を脱いで引き返して階段を上がる。狡い手だけどものの見事に騙されちゃったなぁ……しかもユウキと離れ離れ……ん???
「あ、あれ? 私ってもしかしなくても一人……ぼっち?」
そう思った瞬間、風で揺らされて鳴る窓の音が急に気になる。
ひた、ひたと自分の足音が嫌に耳に残る……生ぬるい風に交じる屋内プールの消毒用塩素の匂いが鼻につく……。
気にしていなかった暗闇や五感が急に戻って来た気がした。
とぼとぼと廊下を歩くのは……なんかこう。
「こ、こわ……い」
じ、実は私……暗い所とか怖い話とか……苦手なんだよ、ね。
じめじめした所も嫌いだし……今日ってなんか湿気が多い気がする。
「夜音さぁん……居ませんかぁ?」
多分どこかで見てくれていると期待して、夜音さんを呼んでみた……しかし、返ってくるのはユウキの悲鳴とかばたばたとした何かの音だけが微かに届いてくるのみ。
何とかユウキ合流して赤い警備員に立ち向かいたいけど……足が、竦んでしまう。
「ユウキ……」
昔からこうなのだ、ユウキが居ると不思議な位に平気なホラー映画や暗闇も……一人になると途端に動けなくなる。
まずい、このままだとユウキが。
頭ではわかっていても……勇気が出ない。
――ぴりりりりり
「ひゃあ!?」
急にコール音を奏でるのはワンピースのポケットに入れておいた夜音さんのスマホ。
ぴかぴかと通知のライトが光ってこれでもかと自己主張し始める。
「び、びっくりしたぁ」
恐る恐るスマホの画面をタッチして通話を始めると、けらけらと笑う声。
「あはは! ごめんごめん、驚かすつもりはなかったんだけど思いのほかいい反応で」
「ひ、ひどいですよぉ! ど、何処に居るんです?」
「ふふふ、我が領域は闇の中と決まっているのさ」
「つまりどっかに隠れてるって事ですね。ちっ、役立たず」
だめだ、頼りにならなそうと通話を切る。
「ちょっと、幼馴染君と対応に差がありすぎない?」
ふう、と耳元に吹き付けられた吐息と声に私の背筋にぞくぅぅぅぅ!! と冷たい物が走った!!
「みゃあああ!?」
「あひゃひゃ! もうだめお腹いたいぃ!!」
何の前触れもなく、夜音さんが私のせなかにのしかかる様に出現してくる!! 本当にもう嫌ぁぁぁぁ!! と叫びたくても喉が緊張で張り付いて声すら出せませんが!?
「いやぁ、ついつい反応がいいとやり過ぎちゃうのよね。最近は自称幽霊研究者とかテレビの番組のタレントとか、何考えてるかわからない動画配信者ばかりでさ」
「……うううぅぅ!!」
涙目で振り返る私の顔を見て、夜音さんは口元をひくひくとして笑いを堪えながら釈明をする。
確かに!! 座敷童って悪戯好きと言うか遊んでいるイメージが強いけど!!
「ユウキとはぐれちゃったんですぅ!!」
両手を握りしめ、何とかひねり出した言葉に夜音さんが苦笑いに変えて私の頭をよしよしと撫でる。あったかい手に少しだけ落ち着いたけど……事態は困った方向に進んでいく。
ばたばたと二つの足音が向こうの階段から降りてくる音が聞こえてきた。その音に混じって怒鳴り声や水鉄砲の発射音が立て続けに響く……ユウキだ!!
「ちょうどあの音、幼馴染君だけどちょっとタイミングが悪いわねぇ。とりあえずスルーしておこうか……プールの奥の方に北側の階段あったわよね?」
「え? あ、はい」
確かに校内には5か所の階段があり、それぞれ4方向と真ん中の1か所に分散されている。
「じゃ、行こうか」
ひょい、と私を小脇に抱えて夜音さんが走り出した。
思いのほか力があるのかしっかりとホールドされててびっくりする。
「どこにです!?」
「緊急事態なのよね。手伝って……幼馴染君は絶対大丈夫だから」
「大丈夫って……赤い警備員ですよ!?」
「墨汁も持ってきてるんでしょ? ほら見てよ、踏んじゃって靴の底が真っ黒よ……」
赤い警備員の弱点も把握済み、その上で私を拉致するなんてどんな緊急事態なんですか!?
結構早い速度で廊下を進む私と夜音さん、途中でなんかユウキらしき人影を見た気がするけど……声も掛けられず進んでいく。
「まったく、静かな校内で大騒ぎしてくれちゃって……明日になったらどうなる事やら」
「ユウキ、結構墨汁撒き散らしてますよね」
少しだけ落ち着いてきた私がなんとなく、夜音さんの言いたい事を察して言葉を返す。
しかし、夜音さんはそれだけではない様で。
「いや、うん……まあ。他にも問題がね……」
「他にも?」
「そう、本当はものすごーく穏便に片付くはずだったのに……幼馴染君と君のおかげでおねーさんはあちこち駆けずり回る羽目になってるんだよねぇ」
私たちのせいで夜音さんが???
どういうことなのかさっぱり理解できないまま、私は夜音さんに運ばれて3階まで上がってきた。なんか向こうのちょうど反対側の階段の辺りでさっき以上の大騒ぎが始まっているけど……今は夜音さんの言葉の方が気になる。
「何かあったんですか?」
「何かというより……誰かを探してるんだけど。人見知りの陰キャだから人が居ると出てこないのよ……だから静かになる夏休みまで待ってたんだけど……この学校飽きもせず毎晩毎晩夜中まで人が出入りしているから困ってたのよ」
「ああ……踊りの練習とか」
「そうそう、大正時代からみたいね。地域信仰って大事よ?」
「…………そうですね」
ちょっとその点について思う所のある私は消極的に同意した。
まあ、個人的な所だからね。夜音さんの言うように今の時代はスマートフォンを使ってネットとかでいろんなことを調べたり、知ることができるから……『こういう事があった』とかは結構かんたんに触れる事ができるけど。
実際に体験するとなると……急にハードルは高い。
そもそもここ数年、やっと落ち着いてきたとはいえ外出の自粛などがあって去年の野外活動、例年ならお泊りでの自然体験が無かったり……下手をすると修学旅行が無くなってたかもしれないほどだった。
「ま、今回に限っては偶然が重なったようなものだし。仲間にも会えたから……トータルで見れば収穫在り、かな」
「仲間?」
「……気づかないと思ったかしら?」
「な、なんのことでせう?」
思わず噛んでしまった私に、夜音さんは微笑みながら私を目的地に降ろす。
そこを見上げると……学校の不思議には憑き物のスポット……。
「さ、ここが目的地。よろしくね」
「と、トイレですけど?」
よりによって一番怖い場所が来たぁぁぁぁ!?
まあ、なんか大騒ぎしつつ校内を爆走しているみたいなのは間違いないかな。
それにしても……私は一階の廊下に放置された革靴を見てため息をつく。
「大人はズルいよね……こんな手で来たのか」
さっきの足音はわざと鳴らしてたんだ。
きっと校内にまだ私とユウキが隠れてると確信して、靴を脱いで引き返して階段を上がる。狡い手だけどものの見事に騙されちゃったなぁ……しかもユウキと離れ離れ……ん???
「あ、あれ? 私ってもしかしなくても一人……ぼっち?」
そう思った瞬間、風で揺らされて鳴る窓の音が急に気になる。
ひた、ひたと自分の足音が嫌に耳に残る……生ぬるい風に交じる屋内プールの消毒用塩素の匂いが鼻につく……。
気にしていなかった暗闇や五感が急に戻って来た気がした。
とぼとぼと廊下を歩くのは……なんかこう。
「こ、こわ……い」
じ、実は私……暗い所とか怖い話とか……苦手なんだよ、ね。
じめじめした所も嫌いだし……今日ってなんか湿気が多い気がする。
「夜音さぁん……居ませんかぁ?」
多分どこかで見てくれていると期待して、夜音さんを呼んでみた……しかし、返ってくるのはユウキの悲鳴とかばたばたとした何かの音だけが微かに届いてくるのみ。
何とかユウキ合流して赤い警備員に立ち向かいたいけど……足が、竦んでしまう。
「ユウキ……」
昔からこうなのだ、ユウキが居ると不思議な位に平気なホラー映画や暗闇も……一人になると途端に動けなくなる。
まずい、このままだとユウキが。
頭ではわかっていても……勇気が出ない。
――ぴりりりりり
「ひゃあ!?」
急にコール音を奏でるのはワンピースのポケットに入れておいた夜音さんのスマホ。
ぴかぴかと通知のライトが光ってこれでもかと自己主張し始める。
「び、びっくりしたぁ」
恐る恐るスマホの画面をタッチして通話を始めると、けらけらと笑う声。
「あはは! ごめんごめん、驚かすつもりはなかったんだけど思いのほかいい反応で」
「ひ、ひどいですよぉ! ど、何処に居るんです?」
「ふふふ、我が領域は闇の中と決まっているのさ」
「つまりどっかに隠れてるって事ですね。ちっ、役立たず」
だめだ、頼りにならなそうと通話を切る。
「ちょっと、幼馴染君と対応に差がありすぎない?」
ふう、と耳元に吹き付けられた吐息と声に私の背筋にぞくぅぅぅぅ!! と冷たい物が走った!!
「みゃあああ!?」
「あひゃひゃ! もうだめお腹いたいぃ!!」
何の前触れもなく、夜音さんが私のせなかにのしかかる様に出現してくる!! 本当にもう嫌ぁぁぁぁ!! と叫びたくても喉が緊張で張り付いて声すら出せませんが!?
「いやぁ、ついつい反応がいいとやり過ぎちゃうのよね。最近は自称幽霊研究者とかテレビの番組のタレントとか、何考えてるかわからない動画配信者ばかりでさ」
「……うううぅぅ!!」
涙目で振り返る私の顔を見て、夜音さんは口元をひくひくとして笑いを堪えながら釈明をする。
確かに!! 座敷童って悪戯好きと言うか遊んでいるイメージが強いけど!!
「ユウキとはぐれちゃったんですぅ!!」
両手を握りしめ、何とかひねり出した言葉に夜音さんが苦笑いに変えて私の頭をよしよしと撫でる。あったかい手に少しだけ落ち着いたけど……事態は困った方向に進んでいく。
ばたばたと二つの足音が向こうの階段から降りてくる音が聞こえてきた。その音に混じって怒鳴り声や水鉄砲の発射音が立て続けに響く……ユウキだ!!
「ちょうどあの音、幼馴染君だけどちょっとタイミングが悪いわねぇ。とりあえずスルーしておこうか……プールの奥の方に北側の階段あったわよね?」
「え? あ、はい」
確かに校内には5か所の階段があり、それぞれ4方向と真ん中の1か所に分散されている。
「じゃ、行こうか」
ひょい、と私を小脇に抱えて夜音さんが走り出した。
思いのほか力があるのかしっかりとホールドされててびっくりする。
「どこにです!?」
「緊急事態なのよね。手伝って……幼馴染君は絶対大丈夫だから」
「大丈夫って……赤い警備員ですよ!?」
「墨汁も持ってきてるんでしょ? ほら見てよ、踏んじゃって靴の底が真っ黒よ……」
赤い警備員の弱点も把握済み、その上で私を拉致するなんてどんな緊急事態なんですか!?
結構早い速度で廊下を進む私と夜音さん、途中でなんかユウキらしき人影を見た気がするけど……声も掛けられず進んでいく。
「まったく、静かな校内で大騒ぎしてくれちゃって……明日になったらどうなる事やら」
「ユウキ、結構墨汁撒き散らしてますよね」
少しだけ落ち着いてきた私がなんとなく、夜音さんの言いたい事を察して言葉を返す。
しかし、夜音さんはそれだけではない様で。
「いや、うん……まあ。他にも問題がね……」
「他にも?」
「そう、本当はものすごーく穏便に片付くはずだったのに……幼馴染君と君のおかげでおねーさんはあちこち駆けずり回る羽目になってるんだよねぇ」
私たちのせいで夜音さんが???
どういうことなのかさっぱり理解できないまま、私は夜音さんに運ばれて3階まで上がってきた。なんか向こうのちょうど反対側の階段の辺りでさっき以上の大騒ぎが始まっているけど……今は夜音さんの言葉の方が気になる。
「何かあったんですか?」
「何かというより……誰かを探してるんだけど。人見知りの陰キャだから人が居ると出てこないのよ……だから静かになる夏休みまで待ってたんだけど……この学校飽きもせず毎晩毎晩夜中まで人が出入りしているから困ってたのよ」
「ああ……踊りの練習とか」
「そうそう、大正時代からみたいね。地域信仰って大事よ?」
「…………そうですね」
ちょっとその点について思う所のある私は消極的に同意した。
まあ、個人的な所だからね。夜音さんの言うように今の時代はスマートフォンを使ってネットとかでいろんなことを調べたり、知ることができるから……『こういう事があった』とかは結構かんたんに触れる事ができるけど。
実際に体験するとなると……急にハードルは高い。
そもそもここ数年、やっと落ち着いてきたとはいえ外出の自粛などがあって去年の野外活動、例年ならお泊りでの自然体験が無かったり……下手をすると修学旅行が無くなってたかもしれないほどだった。
「ま、今回に限っては偶然が重なったようなものだし。仲間にも会えたから……トータルで見れば収穫在り、かな」
「仲間?」
「……気づかないと思ったかしら?」
「な、なんのことでせう?」
思わず噛んでしまった私に、夜音さんは微笑みながら私を目的地に降ろす。
そこを見上げると……学校の不思議には憑き物のスポット……。
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