怪談掃除のハナコさん

灰色サレナ

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19:赤い警備員 ブ千切れ絶叫パラダイス編

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「こなくそっ!!」

 俺は廊下ろうかの角を曲がると同時に、その床に向けて電動水鉄砲とっておきを連射する。
 もはや弱点では無い事は分かってしまったので逃げるために有効活用するしかない!

「同じ手が通じると思うたか!!」

 ひょい、と黒い人影……もとい墨汁ぼくじゅうまみれの赤い警備員はれた床をける様に跳躍ちょうやくする。
 ここが狙い時だ! 俺はその顔面を狙い、両手で構えて引き金を引いた。

 ――パタタタタタン!!

「ぬあっ!?」

 ざまあみろ!! 絶対飛ぶと思ったもんね!! そしたら避けられないだろう!?
 見事にゲームできたえた射撃しゃげきの精度を発揮はっきして全弾直撃!! したのは良いけど結構けっこういきおいで当たり続けたのか帽子がぽとりと廊下に落ちた。

 当然警備員の顔と……頭がさらされるんだけど……なんかこう……ごめん。

「髪が……ない?」

 あまりの事に逃げるのも忘れて俺は笑いだしそうになるのをこらえる。
 だってさ……だってさぁ!!
 
「な、あ!! も……もう許さんからなぁぁぁぁぁぁ!!」

 墨汁が直撃したせいでほら、良くマンガとかで殺人事件の犯人が真っ黒なマネキンみたいになって描かれてるじゃん? まんまあれなんだって!!

「あはははははは!! つるつるだ!! 犯人そのまんまだ!!」

 だめだ、ツボってしまった!!
 
「お前が学校への不法侵入の犯人だろうがぁぁ!?」

 あ、はい。その通りです。

「あばよ!!」

 今の状況を思い出して俺はそそくさと走る。とりあえず1回逃げきってカコと合流したい。
 
「あ、こら逃げるな!!」

 帽子を拾い上げてこっちを追いかけてくる警備員を引き付けるように、わざと立ち上がるまで俺は走る速度を緩めていた。
 理由は簡単、振り切って向こうがカコを探しに行ったら何処に居るかわからなくなる。
 そうなるぐらいだったら俺が引き付けてカコを見つけたら二人で隠れた方がいい。

 暗くてびっくりしたからあんまりよく見てなかったんだけど……ちょっとこの警備員、太かった。だから狭い所に逃げ込めば追いかけてこれないんじゃないのかと言う俺の考えだ。

「鬼さんこちら!!」

 それでも足は向こうの方が早そうなので足止めは欠かさない。
 曲がり角ごとに嫌がらせで墨汁の水たまりを作って逃げていく、深夜の廊下で真っ黒な墨汁はさぞかし見えにくいだろう。

「まてぇぇ!」

 どたどたとこちらに迫る赤い警備員(ところどころ真っ黒)と再会した俺の懐中電灯を灯して始まる追いかけっこ。
 それにしてもなんで赤い懐中電灯なんだろう? 見えにくいよな?
 少しだけ考える余裕ができた俺は階段に設置した鈴トラップをまたいで1階へと下がっていく、カコも1階に逃げると思うんだけど……こればっかりは運しだい。
 運良く会えればいいけど……。

「ええと、今の時間は……午前1時半」

 確か午前3時33分にはトイレの太郎さんを調べなきゃいけないから、その前に退治しなきゃ……と言うか。
 何とかして逃げながら確認しなきゃいけかったりするのか?
 
 ――リィィィン!! チリン!

「くぬっ! またか!! 学校にこんなもの仕掛けおって!!」
「学校で勝手に警備員してるやつに言われたくないよ!!」
「学校を汚しまくってる子供に言われたくない!!」

 ちゃんと後で掃除するよ!! 明るくなったらな!!
 そんな時1階の廊下の先でぼんやりと何か白い物が横切った。ちょうどそれは俺が懐中電灯の光で照らしたと同時にふい、と見失う。
 あっちはちょうどプールじゃないか? 

「あれ?」

 思わず首を傾げて足を止めかけるが、それを赤い警備員は許してくれない。

「またんかぁぁ!」

 見間違いかなとも思って確かめたいけど、追われている最中なので仕方なく後回しにしてぐるりと学校の1階を逃げ回る。
 ちょうど一周したけどカコの姿は無し、さっきの人影も見当たらない。となると3階か?
 
「鬼さんこちら!!」

 あっかんベーをして俺は階段を今度は駆け上がる。
 一眠りしたおかげかまだまだ体は軽い……しかし、赤い警備員はそうもいかない様で……。

「ひぃ、はあ……こ、この! まだ逃げるか!!」

 ……息を切らしてるじゃないか。
 えええ……赤い警備員って体力ないのか?

「大人なのになさけねーの! ここまでおいで!!」

 俺の煽りのチョイスがだんだん尽きてきた……とはいえ頭については母さんから『身体の事に関してはからかったらいけません!』とさんざん言われてきたのでそんな選択肢はない。
 いや待て? 逆ならいいのか???

 何を思いついたかと言うと、さっき踊る人体模型の不思議を調べた時にカコが拾ったとある物。
 それはちょうど俺のズボンのポケットにねじ込まれていて……手を突っ込むと手触りの良い毛の感触が帰ってきた。
 俺はそれを取り出し、階段下の赤い警備員に向けて見せつけるように手を振る。

「ここまで来れたらこれをあげても良いぞ~!」

 その言葉に、赤い警備員は俺に向けて赤い光の懐中電灯を向けた。
 そして……その手に掴んだかつらを照らしたとき……事件は起きる。

「あ……あああ! それ、それはぁぁ!!」

 息切れを整えている警備員が……今までにない真剣な声で叫んだのだ。

「ん?」

 え、これってそんなに欲しい物なのか? 赤い警備員って目を見たら7日後に死ぬ、捕まったら死ぬ、墨汁が苦手って事しか知らないんだけど……なんかしてしまったのか?
 なんか警備員の様子が明らかにおかしくなる。
 ぶるぶると震え、拳を握り……つぶやき始めた。

「なぜ」
「なぜ?」
「オマエガソレヲモッテイル」
「ひっ!?」

 その声は背筋が凍るほど低くて通る声。
 
「ソノ手ヲ……オイテケェェェ!!」

 びりびりと鼓膜こまくを叩くその声に、俺の足がすくむ……あれは、だめな奴だ。
 何が赤い警備員の怒りに触れたのか、わかり切っているけど……そんなに怒る事なのか!?

 猛然もうぜんと今までの疲れは何だったのかと思う位、階段を2段飛ばしで駆け上がってきた!!

「うわぁああ!」

 銃で応戦おうせんする余裕もなく、俺は一目散にかつらを掴んだまま階段を上り3階を無視して4階の最上階へと転がり込むように駆け込んだ。
 ここは家庭科室とか美術室、そして倉庫も兼ねていて廊下にちょうど棚やらパイプ椅子がそこら中に出されて並べられている。
 俺は追い立てられる緊張感と共に、ジグザグの隙間を縫うように廊下を逃げ惑う。

「ニゲラレルトオモウナァァ!!」
「うわぁぁぁぁあああああああ!?」

 がしゃんがしゃんとパイプ椅子をかき分け、たなを強引に退かし……本気になった赤い警備員は俺を追跡してきた。ホラーゲームで見た事あるぅぅ! こんな状況!!
 ごめんカコ!! 俺だめかもしれないぃぃぃ!

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