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9:職員室の黒電話 回答編
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「あ、ユウキ君。ちょっと離れて歩いてくれる? 友達と勘違いされちゃう」
「そんなこと言ってる場合か!! 来るぞ!」
ざあざあと窓に打ち付ける雨の音と、絶え間なく鳴り響く雷の轟音に廊下の電気がちかちかと点滅して……視界が定まらない中、のそりのそりと歩く程度の速さで黒い影が迫ってくる。
狙いはユリちゃん先生だろう、捕まったら大変だけど……その前に倒しちゃえばいい話だろう!!
俺は腰に差していたある物に手を触れる。
父さんも母さんも警察官、俺はその息子で……。
「ユウキ? まさか……」
怒られるのを承知で……持ってきた『伸縮式警棒』、父さんが家での護身用に買ってきた正真正銘、実用的な武器だ。
俺の様子にカコが気づいて……口元に手を当てる。
「これでぶん殴る!」
「……ユウキ、後でお説教確定だよ」
「ユリちゃん先生の安全が優先!!」
革のケースからそれを取り出すと短い筒なんだけど……手元に小さなボタンが一つあって、それを親指で押し込むと勢い良く伸び始める。
――シャコン!!
大体70センチの細い金属棒が一瞬で完成した。
「下がってろカコ」
何かあった時は迷わず逃げろ、父さんはそう言ってたけど。
今は下がる訳にはいかない。
「……ユウキ、ちょっと待って。なんか変じゃない?」
両手でしっかりと警棒を握り、身構えた俺にカコが小さく声をかける。
へん? どういうことだ?
目を細めてじーーーーっと黒い影を見つめると……確かに、なんかもぞもぞと腕を上げたり足を振り回したり……変なダンスを踊っている。
むしろ追いかけてくる気配が全く無い……。
「……何やってんだあれ」
「……さあ」
一応……警戒したままカコを後ろに控えたまま、俺はすり足で近づいていく。
少しづつ距離が縮まっていくにつれその姿ははっきりして……雷で明るくなった瞬間にその正体はなんだかわかってきた。
あれ、雨合羽だ……真っ黒な。
「だ、誰だ?」
俺が声をかけるともごもごと小さな声が雨の音にかき消されながらも聞き取れてくる。
「……げないぃ」
その声に、カコと俺は顔を見合わせて首を傾げた。
なんかどこかで聞いたことのある声。
しばらくそのまま雨合羽と格闘していた人物が、ようやく頭を引っこ抜いて露わになる。
暗めな茶髪にでかい眼鏡、糸目……理科の先生だった。
「理科の目黒先生?」
カコもすぐに顔を見てわかったのでその正体を看破する。なんで目黒先生は黒い雨合羽に襲われているんだ? あ、そうか……外が雨降りそうだからか。
よく見れば真っ黒な雨合羽はサイズが合って無いらしく大きいのを無理して着ているみたい。俺たちを見てほっとした表情をしながら声をかけてくる。
「君たち……由利崎先生のクラスの二人だね。助けて……サイズが大きすぎて足が出ないの」
頭が出た事で甲高い声がはっきりと聞こえた。
移動速度が遅かったのはだぼだぼの雨合羽に足を取られてたんだ……。
「……助けを求めてここまで来たんですね」
「職員室のセンサーに反応があったから電話したのに、なんかすごい音の後……接続できなくなっちゃって」
……もしかしてそれって。
「職員室の黒電話だったりします?」
「あれ? 知ってたの? 生徒は知らないと思ったんだけど……」
目黒先生がさっきの電話の犯人???
「先生、その黒電話……学校の不思議になってて。俺とカコはそれを確かめに来たんですけど」
「え? でも由利崎先生がさっき電話に出たよ?」
「ユリちゃん先生は黒電話の事わかって無いですよ……不思議の黒い影に異世界に引きずり込まれると思って逃げてます」
ついでに、接続できないのはカコが思いっきり蹴っ飛ばして壊れたからじゃないかな。
ちらりとカコを見ると吹けもしない口笛を吹いてるマネをして窓の外に目を向けていた……しかし、俺には分かる。アレはやっちまった……どうしようと考えてる顔である。
「おかしいな……残業防止のためにって校長先生に頼まれて作ったやつなのに。由利崎先生あんまり職員室で仕事しないから忘れちゃってたのかな」
「残業防止……ですか?」
しかも校長先生に頼まれたなら目黒先生、張り切るよなぁ。
目黒先生は手先が器用で何でもかんでも手製で作れちゃうから、いろんな先生に靴の修理やら裁縫なんかも頼まれる。
その延長線上であの黒電話に何かしたのは間違いなさそうだな。
静かに……と言っても外は雷と大雨ですごい事になってるんだけど。目黒先生はカコに手伝ってもらいながら雨合羽を脱いでいく、いつも通りの白衣と長い黒髪がばさりと広がる。
「そう、貴方達もニュースで見てるでしょ? 公務員の先生が残業ばっかりで大変だって」
「はい、部活動とかの顧問をやってると夏休み中もお休みが無いとか……」
雨合羽を丁寧に折りたたみながらカコが先生の大変な現状に同意した。
そんな中でもうちの学校は校長先生が音頭を取って、夜にはみんな帰れるようにいろいろな工夫をしていたらしい。
母さんもそんな校長先生はすごいと前から褒めていた。
「それでね、職員室に居残る先生が居ない様にって下校時間になったら職員室のセンサーが起動して……誰かいたらこのスマートフォンに通知が来るから、電話して帰る様に言うか……残ってる先生でお仕事手伝えるか確認するの」
そう言って目黒先生は白衣の内側から何の変哲もないスマートフォンを取り出す。
「……なんで黒電話が鳴ったんですか?」
「え、なんかいろいろ改造するのにちょうど良くて……中身をくりぬいてバッテリーと中古で買ったスマートフォンを組み込んで、学校のWIFIで繋いで通話できるようにしたの。電話の底をぱかっと外してバッテリーだけ変えればずーっとそのまま使えるから」
どうやら目黒先生の単なる趣味でそうなったらしい。
それがわかって俺はほっとしたような、またはずれかと言った複雑な気持ちだ。
「でも、それならなんで黒い影と白いおばあさんの噂が……たったんだろう?」
折りたたんだ雨合羽を小脇に抱えて、カコが首をひねる。
そうなんだよな……確かに白い服は着ているけど目黒先生はどう見てもおばあちゃんじゃない。
しかし、その答えはすぐに本人から告げられた。
「黒いのはこれのせいじゃないかな?」
白衣のボタンをはずして脱ぐと、中のインナーは長袖で黒い薄手の服。
「紫外線対策で長袖の冷感接触インナー着てるから暗いと影っぽいでしょ? で、白いおばあさんは白衣着てる時に実験用の白い粉をひっくり返して……真っ白なまんま帰る事になった時じゃないかな」
「……確かに真っ白な髪に見えたらそうかも」
これで二つ目の不思議は解決かな。
意外と本当の不思議とは言えないけど……まずはこんなもんか。
そんな俺の肩に、目黒先生の手が置かれた。
「ところで友暉君、今回は助けてもらったから見なかった事にするけどその警棒はいただけないねぇ。知ってるでしょ? 昨日学校の二階の窓が割れた事」
「う、ごめんなさい」
「まあ良いよ、友暉君は誰かにそれを振るうつもりはないだろうし。昨日のガラス割り事件があったからこそ、その警棒を持ち出したんだろうしね」
しまった、出しっぱなし……確かに学校の中でこんなの持ってたら疑われても仕方ない。
しかし、これがすぐに出番を迎える事になる。
――ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
学校中に響き渡るんじゃないかと言うくらい、大音量の悲鳴が俺たち三人の耳に届けられた。
その声の正体は……
「ユリちゃん先生!!」
さっき一人で逃がしてしまったユリちゃん先生の悲鳴。
「3階から聞こえてくるね……友暉君、その警棒預かるよ。先生が持とう」
三人で固まって行こうと目黒先生に言われ、俺とカコは警棒を渡して後ろをついてく。
大丈夫だよ……な? ユリちゃん先生。
「そんなこと言ってる場合か!! 来るぞ!」
ざあざあと窓に打ち付ける雨の音と、絶え間なく鳴り響く雷の轟音に廊下の電気がちかちかと点滅して……視界が定まらない中、のそりのそりと歩く程度の速さで黒い影が迫ってくる。
狙いはユリちゃん先生だろう、捕まったら大変だけど……その前に倒しちゃえばいい話だろう!!
俺は腰に差していたある物に手を触れる。
父さんも母さんも警察官、俺はその息子で……。
「ユウキ? まさか……」
怒られるのを承知で……持ってきた『伸縮式警棒』、父さんが家での護身用に買ってきた正真正銘、実用的な武器だ。
俺の様子にカコが気づいて……口元に手を当てる。
「これでぶん殴る!」
「……ユウキ、後でお説教確定だよ」
「ユリちゃん先生の安全が優先!!」
革のケースからそれを取り出すと短い筒なんだけど……手元に小さなボタンが一つあって、それを親指で押し込むと勢い良く伸び始める。
――シャコン!!
大体70センチの細い金属棒が一瞬で完成した。
「下がってろカコ」
何かあった時は迷わず逃げろ、父さんはそう言ってたけど。
今は下がる訳にはいかない。
「……ユウキ、ちょっと待って。なんか変じゃない?」
両手でしっかりと警棒を握り、身構えた俺にカコが小さく声をかける。
へん? どういうことだ?
目を細めてじーーーーっと黒い影を見つめると……確かに、なんかもぞもぞと腕を上げたり足を振り回したり……変なダンスを踊っている。
むしろ追いかけてくる気配が全く無い……。
「……何やってんだあれ」
「……さあ」
一応……警戒したままカコを後ろに控えたまま、俺はすり足で近づいていく。
少しづつ距離が縮まっていくにつれその姿ははっきりして……雷で明るくなった瞬間にその正体はなんだかわかってきた。
あれ、雨合羽だ……真っ黒な。
「だ、誰だ?」
俺が声をかけるともごもごと小さな声が雨の音にかき消されながらも聞き取れてくる。
「……げないぃ」
その声に、カコと俺は顔を見合わせて首を傾げた。
なんかどこかで聞いたことのある声。
しばらくそのまま雨合羽と格闘していた人物が、ようやく頭を引っこ抜いて露わになる。
暗めな茶髪にでかい眼鏡、糸目……理科の先生だった。
「理科の目黒先生?」
カコもすぐに顔を見てわかったのでその正体を看破する。なんで目黒先生は黒い雨合羽に襲われているんだ? あ、そうか……外が雨降りそうだからか。
よく見れば真っ黒な雨合羽はサイズが合って無いらしく大きいのを無理して着ているみたい。俺たちを見てほっとした表情をしながら声をかけてくる。
「君たち……由利崎先生のクラスの二人だね。助けて……サイズが大きすぎて足が出ないの」
頭が出た事で甲高い声がはっきりと聞こえた。
移動速度が遅かったのはだぼだぼの雨合羽に足を取られてたんだ……。
「……助けを求めてここまで来たんですね」
「職員室のセンサーに反応があったから電話したのに、なんかすごい音の後……接続できなくなっちゃって」
……もしかしてそれって。
「職員室の黒電話だったりします?」
「あれ? 知ってたの? 生徒は知らないと思ったんだけど……」
目黒先生がさっきの電話の犯人???
「先生、その黒電話……学校の不思議になってて。俺とカコはそれを確かめに来たんですけど」
「え? でも由利崎先生がさっき電話に出たよ?」
「ユリちゃん先生は黒電話の事わかって無いですよ……不思議の黒い影に異世界に引きずり込まれると思って逃げてます」
ついでに、接続できないのはカコが思いっきり蹴っ飛ばして壊れたからじゃないかな。
ちらりとカコを見ると吹けもしない口笛を吹いてるマネをして窓の外に目を向けていた……しかし、俺には分かる。アレはやっちまった……どうしようと考えてる顔である。
「おかしいな……残業防止のためにって校長先生に頼まれて作ったやつなのに。由利崎先生あんまり職員室で仕事しないから忘れちゃってたのかな」
「残業防止……ですか?」
しかも校長先生に頼まれたなら目黒先生、張り切るよなぁ。
目黒先生は手先が器用で何でもかんでも手製で作れちゃうから、いろんな先生に靴の修理やら裁縫なんかも頼まれる。
その延長線上であの黒電話に何かしたのは間違いなさそうだな。
静かに……と言っても外は雷と大雨ですごい事になってるんだけど。目黒先生はカコに手伝ってもらいながら雨合羽を脱いでいく、いつも通りの白衣と長い黒髪がばさりと広がる。
「そう、貴方達もニュースで見てるでしょ? 公務員の先生が残業ばっかりで大変だって」
「はい、部活動とかの顧問をやってると夏休み中もお休みが無いとか……」
雨合羽を丁寧に折りたたみながらカコが先生の大変な現状に同意した。
そんな中でもうちの学校は校長先生が音頭を取って、夜にはみんな帰れるようにいろいろな工夫をしていたらしい。
母さんもそんな校長先生はすごいと前から褒めていた。
「それでね、職員室に居残る先生が居ない様にって下校時間になったら職員室のセンサーが起動して……誰かいたらこのスマートフォンに通知が来るから、電話して帰る様に言うか……残ってる先生でお仕事手伝えるか確認するの」
そう言って目黒先生は白衣の内側から何の変哲もないスマートフォンを取り出す。
「……なんで黒電話が鳴ったんですか?」
「え、なんかいろいろ改造するのにちょうど良くて……中身をくりぬいてバッテリーと中古で買ったスマートフォンを組み込んで、学校のWIFIで繋いで通話できるようにしたの。電話の底をぱかっと外してバッテリーだけ変えればずーっとそのまま使えるから」
どうやら目黒先生の単なる趣味でそうなったらしい。
それがわかって俺はほっとしたような、またはずれかと言った複雑な気持ちだ。
「でも、それならなんで黒い影と白いおばあさんの噂が……たったんだろう?」
折りたたんだ雨合羽を小脇に抱えて、カコが首をひねる。
そうなんだよな……確かに白い服は着ているけど目黒先生はどう見てもおばあちゃんじゃない。
しかし、その答えはすぐに本人から告げられた。
「黒いのはこれのせいじゃないかな?」
白衣のボタンをはずして脱ぐと、中のインナーは長袖で黒い薄手の服。
「紫外線対策で長袖の冷感接触インナー着てるから暗いと影っぽいでしょ? で、白いおばあさんは白衣着てる時に実験用の白い粉をひっくり返して……真っ白なまんま帰る事になった時じゃないかな」
「……確かに真っ白な髪に見えたらそうかも」
これで二つ目の不思議は解決かな。
意外と本当の不思議とは言えないけど……まずはこんなもんか。
そんな俺の肩に、目黒先生の手が置かれた。
「ところで友暉君、今回は助けてもらったから見なかった事にするけどその警棒はいただけないねぇ。知ってるでしょ? 昨日学校の二階の窓が割れた事」
「う、ごめんなさい」
「まあ良いよ、友暉君は誰かにそれを振るうつもりはないだろうし。昨日のガラス割り事件があったからこそ、その警棒を持ち出したんだろうしね」
しまった、出しっぱなし……確かに学校の中でこんなの持ってたら疑われても仕方ない。
しかし、これがすぐに出番を迎える事になる。
――ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!
学校中に響き渡るんじゃないかと言うくらい、大音量の悲鳴が俺たち三人の耳に届けられた。
その声の正体は……
「ユリちゃん先生!!」
さっき一人で逃がしてしまったユリちゃん先生の悲鳴。
「3階から聞こえてくるね……友暉君、その警棒預かるよ。先生が持とう」
三人で固まって行こうと目黒先生に言われ、俺とカコは警棒を渡して後ろをついてく。
大丈夫だよ……な? ユリちゃん先生。
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