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中編

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ルカス第一王子殿下のアルビオン公爵令嬢への婚約破棄宣言から3日後、登城できる主だった貴族家の当主が王命で王城に集められた。

ちなみに私は別の王命にて出席できない父の代理として登城している。

「……全く、お前は何をやっているのだルカス、第一王子よ」

現アバロン王国国王にして、ルカス殿下の父君であらせられるレオンハルト・アバロン国王陛下がため息とともにルカス殿下を一瞥され、そう仰られた。

「私は父上にカレンとの婚姻を認めていただきたいのです」

そう告げられた学園の独房に2日間入れられていたルカス殿下の顔に反省の色は見えない。

謁見の間にはレオンハルト国王陛下と王妃様、宰相をはじめとした文官官僚、近衛騎士団長率いる近衛騎士団。そして招集された貴族が陛下、王妃様とあの場で問題を起こしたルカス殿下達を挟む形で列席している。

「……ルカス、お前はその言葉の意味を本当に理解しているのか? 何故、衆目の集まるあの場で、しかも、独断で婚約破棄を宣言してアルビオン公爵令嬢を辱めた!?」
怒気をはらんだ陛下の言葉が発せられると共に、背筋が冷えた。直接言葉をぶつけられたルカス殿下はもとより、バーバリアス男爵令嬢をはじめ、殿下の取り巻き達はガタガタと震えていた。

陛下の横にいらっしゃるルカス殿下の生母であらせられる王妃様も陛下同様、震えている彼等を冷めた瞳で睥睨されている。そして、私の存在に気付かれた。

「陛下、発言をお許しください」

「よかろう。王妃の発言を許す」

「そこの愚か者達は自分達がしでかしたことの重大さを理解しているとは思えません。現に学園の授業だけでなく、試験も放棄してそこの男爵令嬢と遊び呆けて卒業できなかった者達です。あの場に居合わせ、かつこの件の重大さを理解しているそこのシリウス・リーブラスに説明させるのはいかがでしょうか?」

王妃様は口元を扇で隠してそう仰られた。

「そうだな。シリウス・リーブラス伯爵令息よ、発言を許す。ルカスへの敬称は不要だ。忖度なく、そこの愚か者共が犯した罪過について述べよ」
レオンハルト陛下は私にその鋭い視線を向け、そう仰った。

「は、はい。私が考えます所、ルカス第一王子は大きく3つの罪を犯しています。まず、陛下が命じられたアルビオン公爵令嬢との婚約を陛下の許可を得ずに破棄しようとしたこと。続いて、明確な根拠を述べずに一方的に婚約破棄を行おうとしたこと。そして、衆目の集まる場所で実効性はないものの、婚約破棄を突き付けるというアルビオン公爵令嬢の名誉を大きく傷つける行為を行ったことです」

突然の指名で内心大きく焦りつつ、私見をまとめて私は発言した。

「続けよ」

陛下は頷きつつ、そう仰った。周囲の反応も見る限り問題ない様だ。

「最初の越権行為についてですが、我がアバロン王国の貴族法では王族と伯爵家以上の上級貴族の婚姻に関しては現国王の承認を必須と明記しております」
王立学園貴族科の2年次に必修科目として、貴族法があり、私は昨年履修済みで単位を獲得している。

「あの場でアルビオン公爵令嬢がルカス第一王子に陛下の承認を得ているか否かについての問いかけをされた所、第一王子は得ていないと明言し、陛下の忖度を希望する願望交じりの発言をしていました」

私のこの発言を聞いた途端、ルカス第一王子の顔色が悪くなった。

「陛下の裁可を無視したこの行為は国王への越権行為であるのにとどまらず、本人は無自覚かもしれませんが、拡大解釈すると王命への抗命、不服従。反逆罪に該当し、第一王子とバーバリアス男爵令嬢、そして後押しをした取り巻きの子弟にも責があります」

続いたこの発言に男爵令嬢と取り巻き達の顔色が第一王子と同じく青ざめていった。その様子に陛下と王妃様は満足されているご様子だ。

意訳すると、いつから第一王子の地位は国王より高くなり、王命を変更できる程偉くなったのか? 王命に逆らうつもりなのか? という話である。

「……残りの2つについても説明せよ」

「畏まりました。明確な根拠を述べずに一方的に婚約破棄を行おうとしたことについてですが、婚約破棄は本来、婚姻を結ぶ相手として明確かつ著しく不適格であると確認された際に婚姻の約定を破棄するもの。婚約破棄にはいくつもの詳細な手続きを経ることが決まっています。しかし、ルカス第一王子は手続きを経ないばかりか、破棄事由を明言せずに婚約破棄を宣言しました。これは貴族法を無視した不法行為に該当します」

手続きには婚約破棄事由の確認はもとより、破棄有責の確認や慰謝料などについても含まれているため、諸手続きを無視しているルカス第一王子の婚約破棄宣言は法上では意味をもたない。

「……では、最後のアルビオン公爵令嬢に対する名誉棄損について説明せよ」

「はっ、前述しました2番目の内容により、ルカス第一王子の婚約破棄宣言は王国の定める法上では実効力が認められません。しかし、第一王子という王族の立場による発言には法を知らない者達に信憑性を与え、アルビオン公爵令嬢の有責による破棄であると誤認させうるものです」

貴族社会であるアバロン王国内で王族の言葉は時として国王の言葉に次ぐ重さをもつことがあり、一定の執行性をもつことがあるのだが、今回はその限りではない。

「そもそも、婚約を解消するのであれば、破棄ではなく、正しい手順を踏んだ白紙撤回で十分可能です。それにも関わらず、衆目の集まる場所での婚約破棄を選んだことから、アルビオン公爵令嬢、ひいては同公爵家を貶めようという悪意を感じます」

婚約破棄も正規の手順を経て、諸手続きが完了し、婚約破棄が成立したら、上級貴族の婚約破棄は国王陛下の署名入りの書面にて各上級貴族家へ周知される。社交場での噂話に上がるかもしれないが、衆目の集まる場所で声高に周知されるものではない。

有責で婚約破棄をされた場合、社交界での居場所はなくなり、名誉挽回の機会は皆無。男性であれば蟄居させられて病死するか、廃嫡されて激戦区へ派遣。ひどい場合は犯罪奴隷として鉱山送りとなる。女性の場合は修道院に入れられるか、後家として家から出されるかというのが通例となっている。

「ふむ、粗削りであるが、余の見解と大差はなかった。シリウスよ、よく応えた。さて、ルカス第一王子とバーバリアス男爵令嬢。そして、その取り巻き達よ。自身の罪は理解したか?」

私を労ってくださった陛下はルカス第一王子達へ壮絶な笑みを浮かべてそう仰られた。対する彼等はそれぞれ神妙な表情で頷いた。

「ルカス第一王子よ、望み通りアルビオン公爵令嬢との婚約を白紙撤回とする」

その言葉を聴いて、ルカス第一王子とバーバリアス男爵令嬢はそれまでの絶望した表情を歓喜の表情へ変えた。

「但し、撤回事由はルカス第一王子の不貞である! 揺るがない十分な証拠が集まっており、既に王家とアルビオン公爵家との話し合いと正規の手続きは昨日で滞りなく終わっている。現時点をもって、ルカス第一王子は廃嫡とし、ルカスの子孫には永劫王家を名乗ることは認めぬ!!」

「そんな……父上!?」

ルカス元第一王子達の顔が再び絶望に染まった。
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