女神様にスキルを貰って自由に生きていいよと異世界転生させてもらった……けれども、まわりが放っておいてくれません

剣伎 竜星

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第1章 王国の北方、アウロラ公爵領で家庭教師生活

第21話 そして、アウロラ公爵領での家庭教師生活最後の日が終わる

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「……勝てたと思ったのに悔しいです」

そう言って、シャルが可愛らしく両頬を膨らませた。

「流石、旦那様でしたね」

シャルの様子を見たレティは苦笑いを浮かべつつ、アイザック様を称賛した。

「2人ともなかなかいい線を行っていたが、まだまだ圧倒的に対人戦の経験が足りていない。まぁ、それはこれからつければいい話だ」

勝者のアイザック様は満足したのか、上機嫌でそう告げた。

「同年代との切磋琢磨が良くも悪くも今の旦那様を作ったのです。シャルお嬢様とレティも王都に行った際はそうした友人を見つけられればいいのですが……2人の実力に萎縮してしまって難しいかもしれませんね」

そう言って、セバスチャンさんは苦笑いを浮かべた。

「あら、少なくとも1人は大丈夫よ。だってメリッサの所のウェルダー公爵家にはシャルと同じ年のレベッカちゃんがいるじゃない。あの娘もお姉さんのフレアちゃんにいろいろ教えてもらっているって聞いているわよ」

ナターシャ様がのほほんとした雰囲気でセバスチャンさんの懸念を払拭することを仰った。

「そうですね。彼女であれば、シャルとレティの良い友人になるでしょう」

悩みの種の1つになっているレベッカの名をナターシャ様が挙げたので、俺の胃が少し痛くなった。

シャルの問題が解決してからというもの、授業の進行速度は急上昇。

しかも、2人の知識欲と教えたことの吸収力が高かったため、実は俺が立てていた当初の予定を数日前倒しで進んでいた。

そのおかげでラクができると思ったが、世の中は無情だ。

俺が実現性が低いと鷹を括ってフレアに提案したことがアレックス様からアイザック様に伝わり、お2人の合同許可の下、俺はレベッカにグリフォン便を使った通信教育を行うことになった。

戻ってきた最初の返信時にフレアに送ったシャル達にも解いてもらった王立学園の入試模試の解答結果とウェルダー家の【鑑定】持ちの人による現在のレベッカの能力鑑定結果を参考にレベッカ専用カリキュラムを作成。

俺が直接指導できないから、フレアにレベッカの監督をしてもらい、週単位の進捗報告を任せた。それを基に前倒しで作っていた発送する教材を発送前に若干修正して、フレアへの手紙と共に発送。

俺はこのハードなWワークをつい最近まで繰り返していた。自業自得の自覚はある分精神的ダメージが多かった。

予めシャル達の教材の準備が終わっていたのと彼女達が優秀で途中から殆ど手がかからなくなってきたからなんとか完遂できたからよかったものの、どちらかが欠けていたらと思うと危なかったかもしれない。

フレアから昨日届いた手紙ではレベッカはなかなかの仕上がりで、フレアの見立てでは俺が直接指導していないから次席入学になるだろうとのことだ。

俺のことを買い被り過ぎだと思う。

「シャル、レティよく頑張りました。さっきの模擬戦の反省会をしましょう」

「「はい」」

俺の言葉に言われた2人が返事をした。

「まず、よくなかった点ですが、最後、対戦相手であるアイザック様のお姿を確認せずに勝利したと思って気持ちを緩めてしまったことですね。模擬戦ですから、警戒続けて審判員であるセバスチャンさんに確認をしなかったのも良くありません。実戦では審判員はいませんから、命を落としてしまうかもしれませんよ」

俺の指摘にシャルとレティは頷いた。

「ディー先生、お父様はどうやってわたしの『ダイヤモンドダスト』を防いだのでしょうか?」

「私も気になります」

同じ疑問を抱えた2人が俺に問いかけてきた。

「僕が説明してよろしいですか?」

「ああ、構わないよ。違っていたら、私が補足しよう」

「ありがとうございます」

俺の言葉にアイザック様は上機嫌なまま頷かれた。

「まず、アイザック様は迫ってくる『ダイヤモンドダスト』の猛吹雪に対し、土属性魔術の『落とし穴ピットホール』で即座に自分の足元に退避先を作り出しました」

対人戦経験が浅ければすぐに穴に隠れていただろう。しかし、

「そのまま穴に入って退避してもいいのですが、アイザック様は2人に『ダイヤモンドダスト』を回避したことを気づかれない様にするためにシャルとレティが凍結を促すために体に付着させた水を利用して、自分と同じ大きさの氷の像を作り出してから穴に身を隠して蓋もしました」

魔術行使の確かな腕と咄嗟の判断力と機転が噛み合わなければ対策が決まっていても間に合わずに『ダイヤモンドダスト』に飲まれてしまっていた。

俺の解説に間違いはなかった様でアイザック様は頷いている。

その後は土魔術の『掘削ディグ』でシャルとレティの背後まで地下を進み、背後から奇襲した……といったところでしょうか」

「うむ、私が補足する必要がない見事な説明だ」

そう笑みを浮かべてアイザック様は仰った。

「前半の大きさを調整した壁をたくさん配置して相手の死角を攻める方法は良かったですよ。アイザック様が使われた『ダイヤモンドダスト』の回避方法は雪山などで雪崩が起きた時などにも使える手段なので覚えておくといいでしょう」

俺の言葉に合流して説明を聞いていたナターシャ様達も頷いた。

「あの、私達のとった方法を使った場合、ディー様はあの後どう立ち回りますか?」

レティが恐縮した様子で俺に尋ねてきた。

「レティ達に教えた術式の中に地面を凍結して自分の領域にする氷属性の魔術、『氷結領域アイシクルフィールド』がありますよね? あれを石壁を作った後に使って、相手の足場を奪います」

『氷結領域』を張ることで、氷の突撃槍ランスを作り出す氷属性攻撃魔術の『氷突撃槍アイスランス』の発動を短縮できるため、相手は『氷結領域』を解除するか空中に逃げるしかない。

「相手が空中に逃げたら、攻撃魔術を落ちてくるまで全方位から撃ち続けます。自分以外にも人手があるのであれば、シャルが使った『ダイヤモンドダスト』で短期決戦に持ち込むか、他の人に特大の一撃を任せて、相手の動きを封じ続けるかのどちらか、『氷結領域』を解除して地面で対峙することになったら、自分は上空に退避して、水魔術『アクアウェイブ』で相手と地面を水浸しにし、雷系攻撃魔術を地面に使って動きを阻害、『ダイヤモンドダスト』を使い、ダメ押しでシャルは『黒神蛇亀』の蛇の尾をして、相手のいる空間を壁ごと【薙ぎ払い】、レティは無属性魔術の『魔力投槍マジックジャベリン』を連射して追撃するといったところですね。あくまで、今言ったのは一例ですから」

俺の話を聞いていた教え子2人は目を輝かせて聴いていたが、仮想敵とされていたアイザック様は頬を引きつらせていた。

「ディーハルト様をシャルお嬢様達の味方として模擬戦に参戦させなくて正解でしたね、旦那様」

セバスチャンさんがアイザック様を窘めた。

「ああ、そうだな」

俺が参戦していたらさっき言った戦法が使われ、アイザック様でもただでは済まないため、アイザック様はセバスチャンさんの言葉に頷いた。

こうして、俺のアウロラ公爵領での家庭教師の仕事はアイザック様がシャルとレティの模擬戦相手になるという予定外の出来事は起こったが、無事に終わった。

仕事が終わった以上、ここから先は俺が2人に関わることはできない。けれども、今の2人であれば王立学園の入試は問題なく合格できるだろう。

もうここにいる理由はなくなったので、俺は明日の魔導列車で王都に戻らないといけないのだが、教授に渡されたのは行きの片道切符のみ。そして、何も言われていない。

教授の作為を感じる。ここから王都までの魔導列車の運賃は決して安くはないが、今回の仕事の報酬金と【アイテムボックス】内に貯蓄している貯金を少し崩せば大丈夫だ。

王都に戻ったら、一度実家に戻って、国内の名所を巡る旅行に行こうと俺は思った。
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