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第1章 王国の北方、アウロラ公爵領で家庭教師生活
第18話 シャルの分水嶺
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「シャル、念のため、また訊くけど、これから僕がしようとしているのは一種の荒療治だ。僕は君の安全を最大限配慮して行うけれども、残念ながら絶対とは言えない。それでもやるかい?」
アイザック様と模擬戦をやった訓練場の中心で、俺は傍に立っているシャルに今日の座学の講義の最後にした問いかけを再びした。
「はい! ディー先生が考えてくださった方法ですから、わたしは心配していません。お願いします!!」
シャルは俺に全幅の信頼を置いた一点の曇りもない返事を返して来た。
「やることはこれまでにもやった【魔力循環】だ。ただ、今日シャルに送る魔力の量はこれまでよりも量が多くなるから、シャルにかなり負荷がかかる。これまで通り魔力制御など細かいことは僕がやるから、シャルは気をしっかりもって気分が悪くなったり、不調を感じたらすぐに言うように。送る魔力の量を緩やかに調整するからね。目標が顕現したとき、シャルが気を失ったり自分で動けない状態だったらナターシャ様達のいる場所に退避してもらって、僕一人で対処するからね」
「……わかりました。ディー先生の前で醜態を晒すつもりはありませんが、万が一のときはお願いします」
両眼を閉じて、深呼吸をした後、シャルはそう告げて両手を差し出してきた。俺はその手をいつもの通り封環をしている右手と五指全ての封環を外している左手でそれぞれ握った。擬似的に魔術回路が繋がったのを確認し、
「始めるよ」(竜炉1/4限定稼動)
シャルが頷いたのを確認し、右手から彼女の体に俺は偶然託されたこの世界の唯人は一生涯得ることはない膨大な魔力を発生できる臓器である竜炉を小規模稼動して作り出した魔力を流すのを開始した。
「……ッ、……」
いくら調整をして魔術回路の魔力を通りをよくしてきたとはいえ、これまで流してきた倍以上の量の魔力を流しているため、シャルの表情が驚きで両眼が見開かれた後、魔力の流れに翻弄されて意識を失うまいとした必死に耐えるものに変わった。
どうやら俺から注入される魔力を効率よく得るために『黒神蛇亀』は顕現のために必要な魔力を充填している術式をより魔力を吸収しやすい様にシャルの右手の魔術回路に直結させたのが、【解析】を発動している俺の目に映った。
どういった手段を用いたかはわからないが、どうやら『黒神蛇亀』は俺の目論見を知って、それに乗って顕現するつもりのようだ。
アイザック様達が少し離れた位置で見守るなか、魔力を流し始める前は全体の3割程だった『黒神蛇亀』の術式に吸われて溜められていた魔力の量が開始早々に4割を超えて、今は6割に達した。
額に汗を浮かべているものの、シャルにはまだ余裕が見える。このまま続ければ術式の発動に必要な魔力を後数分で注ぎ終えることができるはずだ。
「あっ!」
数分後、魔力の充填を完了して輝く術式が驚きの声をあげたシャルの右掌から浮かび上がり、充分開けた空間に展開して眩い光を放って輝きだし、その光が辺りを白く染めて一時的にその場にいた俺達の視界を奪った。
俺は【魔力循環】を止めて両手を離し、光からシャルを背後に庇うように移動した。
視界が回復したとき、俺とシャルの目の前には大きなアウロラ公爵家の屋敷の大きさに匹敵する黒い蛇と融合している巨大な大亀がそこにいた。
[我は玄武、汝等が『黒神蛇亀』と呼ぶもの也]
[アタシは貴方達の遠い祖先達と協力したけれども、封印された存在。解放してくれたことには感謝するけど、再び封印されると困るから好きにさせてもらうわ]
亀の口から老人男性の声、次いで蛇の口から女性口調だが、明らかに男性の声が聞こえた。
俺は口から「なんで『黒神蛇亀』の蛇部分がオネエ口調なんだよ!」とツッコミが迸りそうになったが、地球での知識だから共感できる人がこの場にはいないため、なんとか口をつぐんだ。
「あの! わたし達、アウロラ公爵家はあなたのことを頼もしい守り神であると教えられて育てられてきました。どうか、これからもお力を貸していただけないでしょうか!?」
シャルが黒神蛇亀の巨体に億さずに声高に協力を頼んだ。
[ふむ、今代の我が器か……]
[……残念だけれど、アタシをその身に宿させられていたアナタなら、アタシを顕現するのにどれだけ多くの魔力と広い場所が必要になるか、分かるでしょう? そ・れ・に、アタシが力を貸す代わりにアナタのご先祖と結んだ約束は果たされていないの。ソノ約束をどうやらアナタ達は知らない様だし、知らないから果たすことはできないでしょう? もっとも、これまでの器達がアタシを顕現できなかったアナタ達の今の魔導技術の衰退振りを鑑みると……約束の内容を知ったところでソレを果たすことができると到底思えないわ]
黒神蛇亀の4つの黄色と鮮やかな赤職の瞳は憐憫の情を思わせる視線をシャルに向けて、彼女の望みをきっぱりと拒絶した。
「!? うぅっ……」
その軽い威圧を伴った拒絶を受けて、反論できずにシャルは涙目で俯いてしまった。
「娘が失礼した。私は当代のアウロラ家の当主を任されているアイザックと申します。大変申し訳ありませんが、初代と玄武が交わされた約束は当主だった私の曽祖父が伝える前に帝国の暗殺者の手にかかってしまったため、失伝してしまいました。どうかお教えいただけないでしょうか」
観覧席から駆け下りてきたアイザック様があろうことか、他家の人間である俺がいるにも関わらず、アウロラ公爵家の過去の恥聞となることを晒して、玄武に頭を下げて頼んだ。
[我と狼を伝える一族の今代の当主か[イヤよ]]
亀の頭はアイザック様の態度を見て考える素振りを見せたが、蛇の頭が言葉を食い気味に被せて拒否した。
[伝えることができなかったのは確かにアナタの落ち度ではないかもしれないけれども、やりようはいくらでもあったでしょ? アタシとの約束を軽んじて伝え損ねた当時のアナタの家の当主が悪いわ。残念だけれど、アタシは忖度してあげるつもりはないわよ」
そう言って、玄武はアイザック様の頼みも拒絶した。
「アイザック様、僭越ながら、魔術契約を交わしていない秘術の魔獣相手に交渉は極めて困難です。[アナタ分かっているじゃない。そう言えば、そこの器の子じゃなくて、アナタがワタシが顕現するための魔力をくれたのよね? その竜炉は見た所、もともとアナタのモノじゃないわね。一体、誰かから奪ったの?]アイザック様、あのお喋りな馬鹿蛇亀の対応は僕に任せてもらっていいですか?」
会話に割り込んだ玄武(の蛇部分)は俺の地雷を盛大に踏み抜いたため、俺は奴に灸を据えるため、アイザック様に進言した。
「むぅ……わっ、わかった。ディーハルト君、君に任せよう」
アイザック様は渋面を浮かべた後に、引き攣った笑顔を俺に向けて承諾された。解せぬ。まぁ、いい。
「素直に魔術契約を結んで交渉のテーブルに着いて俺に一発殴られるか、心を折られて隷属させられるか、好きな方を選べ」
シャル様とアイザック様が驚く程、低く冷たい口調で俺は玄武に要求を突きつけた。
[どっちもお断りよ!……っ!? って、危ないわねっ! !? 痛ったたぁい]
俺はどちらも拒否した玄武に初級魔術の無属性の魔力弾を放った。弾速は敢えて遅くしたものなので、巨体の玄武でも余裕で避けられる。そして、玄武は魔力弾を見事に避けたのだが、避けるために動かした足を滑らせて転び、強かに地面に体をぶつけた。
[なにが? ぐあっ!?]
亀の部分が狼狽して体勢を立て直そうと立ち上がろうとするが、再び足を滑らせて転んだ。
「気が変わって、降参する気になったら、地面を早い調子で連続で4回叩け。じゃあな」
[ちょっ、待ちなさ……]
玄武の蛇口が呼び止めようとする声を無視した俺は訓練場と屋敷に被害が及ばない様に玄武を閉じ込めた『隔離結界』を閉じた。そのため、玄武の巨体は『隔離結界』が閉じられたことによって別の次元空間に行き、見えなくなった。
『隔離結界』の他にも『遮音結界』を重ねがけしているからあの巨体が転んだときに発生する『隔離結界』を貫通しかねない轟音の防音対策も万全。玄武の降参の意思表示の条件付けもしているから、降参の動作を玄武がしたら、俺に伝わるようになっている。
「ディーハルト君、玄武はなぜ転んで立ち上がれなくなったのかな?」
アイザック様が好奇心が抑え切れないといった瞳を輝かせた表情で俺に問いかけてきた。すぐ傍にいるシャルもアイザック様と親子だと納得できる全く同じ表情を俺に向けていた。
「僕が開発した、解除するまで対象を転倒させ続ける無属性魔術の『無限滑倒』を玄武自身と玄武が立っていた地面にかけました。アイザック様達が玄武の気を引いてくださったおかげで各種結界魔術も問題なくかけることができました。ありがとうございます」
「そっ、そうか(……まさか、あの間だけで、いくつもの魔術を行使していたとは、本当に末恐ろしいな)」
「さて、向こうが降参するには時間がかかりそうですから、今のうちにシャル様は王立学園入試の実技試験対策の魔術行使の練習をしましょう。すでに『黒神蛇亀』の術式が発動して、どう術式は体内の魔術回路から切り離されています。『黒神蛇亀』の術式に魔力を持っていかれることはなくなったはずですだから、魔術は問題なく使える様になったはずです。では、これから魔力を通してみましょう!」
そう言って、俺はシャル様に『水球』の魔符を渡した。
「……えいっ!……わぁああああっ、できたっ、できましたよ!!」
少しの逡巡の後に俺から魔符を受け取ったシャル様は意を決して魔力を流した。すると、術式が流し込まれた魔力を吸収して1個の水球を形作った。その様子を見て、シャル様は目尻に涙を浮かべて喜び、アイザック様は男泣きをした。そして、2人のその様子を離れて見ていたナターシャ様やレティさん、セバスチャンさん達が駆け寄ってきて、喜びを分かちあった。
この後、シャル様は普及している初級魔術だけでなく、中級魔術、上級魔術の術式のほとんどをその日の内に習得して使いこなせるようになった。
それから、この日のアウロラ公爵家の夕食は俺が到着した初日の歓迎会以上に盛大なものになり、屋敷中が歓喜に包まれた。
アイザック様と模擬戦をやった訓練場の中心で、俺は傍に立っているシャルに今日の座学の講義の最後にした問いかけを再びした。
「はい! ディー先生が考えてくださった方法ですから、わたしは心配していません。お願いします!!」
シャルは俺に全幅の信頼を置いた一点の曇りもない返事を返して来た。
「やることはこれまでにもやった【魔力循環】だ。ただ、今日シャルに送る魔力の量はこれまでよりも量が多くなるから、シャルにかなり負荷がかかる。これまで通り魔力制御など細かいことは僕がやるから、シャルは気をしっかりもって気分が悪くなったり、不調を感じたらすぐに言うように。送る魔力の量を緩やかに調整するからね。目標が顕現したとき、シャルが気を失ったり自分で動けない状態だったらナターシャ様達のいる場所に退避してもらって、僕一人で対処するからね」
「……わかりました。ディー先生の前で醜態を晒すつもりはありませんが、万が一のときはお願いします」
両眼を閉じて、深呼吸をした後、シャルはそう告げて両手を差し出してきた。俺はその手をいつもの通り封環をしている右手と五指全ての封環を外している左手でそれぞれ握った。擬似的に魔術回路が繋がったのを確認し、
「始めるよ」(竜炉1/4限定稼動)
シャルが頷いたのを確認し、右手から彼女の体に俺は偶然託されたこの世界の唯人は一生涯得ることはない膨大な魔力を発生できる臓器である竜炉を小規模稼動して作り出した魔力を流すのを開始した。
「……ッ、……」
いくら調整をして魔術回路の魔力を通りをよくしてきたとはいえ、これまで流してきた倍以上の量の魔力を流しているため、シャルの表情が驚きで両眼が見開かれた後、魔力の流れに翻弄されて意識を失うまいとした必死に耐えるものに変わった。
どうやら俺から注入される魔力を効率よく得るために『黒神蛇亀』は顕現のために必要な魔力を充填している術式をより魔力を吸収しやすい様にシャルの右手の魔術回路に直結させたのが、【解析】を発動している俺の目に映った。
どういった手段を用いたかはわからないが、どうやら『黒神蛇亀』は俺の目論見を知って、それに乗って顕現するつもりのようだ。
アイザック様達が少し離れた位置で見守るなか、魔力を流し始める前は全体の3割程だった『黒神蛇亀』の術式に吸われて溜められていた魔力の量が開始早々に4割を超えて、今は6割に達した。
額に汗を浮かべているものの、シャルにはまだ余裕が見える。このまま続ければ術式の発動に必要な魔力を後数分で注ぎ終えることができるはずだ。
「あっ!」
数分後、魔力の充填を完了して輝く術式が驚きの声をあげたシャルの右掌から浮かび上がり、充分開けた空間に展開して眩い光を放って輝きだし、その光が辺りを白く染めて一時的にその場にいた俺達の視界を奪った。
俺は【魔力循環】を止めて両手を離し、光からシャルを背後に庇うように移動した。
視界が回復したとき、俺とシャルの目の前には大きなアウロラ公爵家の屋敷の大きさに匹敵する黒い蛇と融合している巨大な大亀がそこにいた。
[我は玄武、汝等が『黒神蛇亀』と呼ぶもの也]
[アタシは貴方達の遠い祖先達と協力したけれども、封印された存在。解放してくれたことには感謝するけど、再び封印されると困るから好きにさせてもらうわ]
亀の口から老人男性の声、次いで蛇の口から女性口調だが、明らかに男性の声が聞こえた。
俺は口から「なんで『黒神蛇亀』の蛇部分がオネエ口調なんだよ!」とツッコミが迸りそうになったが、地球での知識だから共感できる人がこの場にはいないため、なんとか口をつぐんだ。
「あの! わたし達、アウロラ公爵家はあなたのことを頼もしい守り神であると教えられて育てられてきました。どうか、これからもお力を貸していただけないでしょうか!?」
シャルが黒神蛇亀の巨体に億さずに声高に協力を頼んだ。
[ふむ、今代の我が器か……]
[……残念だけれど、アタシをその身に宿させられていたアナタなら、アタシを顕現するのにどれだけ多くの魔力と広い場所が必要になるか、分かるでしょう? そ・れ・に、アタシが力を貸す代わりにアナタのご先祖と結んだ約束は果たされていないの。ソノ約束をどうやらアナタ達は知らない様だし、知らないから果たすことはできないでしょう? もっとも、これまでの器達がアタシを顕現できなかったアナタ達の今の魔導技術の衰退振りを鑑みると……約束の内容を知ったところでソレを果たすことができると到底思えないわ]
黒神蛇亀の4つの黄色と鮮やかな赤職の瞳は憐憫の情を思わせる視線をシャルに向けて、彼女の望みをきっぱりと拒絶した。
「!? うぅっ……」
その軽い威圧を伴った拒絶を受けて、反論できずにシャルは涙目で俯いてしまった。
「娘が失礼した。私は当代のアウロラ家の当主を任されているアイザックと申します。大変申し訳ありませんが、初代と玄武が交わされた約束は当主だった私の曽祖父が伝える前に帝国の暗殺者の手にかかってしまったため、失伝してしまいました。どうかお教えいただけないでしょうか」
観覧席から駆け下りてきたアイザック様があろうことか、他家の人間である俺がいるにも関わらず、アウロラ公爵家の過去の恥聞となることを晒して、玄武に頭を下げて頼んだ。
[我と狼を伝える一族の今代の当主か[イヤよ]]
亀の頭はアイザック様の態度を見て考える素振りを見せたが、蛇の頭が言葉を食い気味に被せて拒否した。
[伝えることができなかったのは確かにアナタの落ち度ではないかもしれないけれども、やりようはいくらでもあったでしょ? アタシとの約束を軽んじて伝え損ねた当時のアナタの家の当主が悪いわ。残念だけれど、アタシは忖度してあげるつもりはないわよ」
そう言って、玄武はアイザック様の頼みも拒絶した。
「アイザック様、僭越ながら、魔術契約を交わしていない秘術の魔獣相手に交渉は極めて困難です。[アナタ分かっているじゃない。そう言えば、そこの器の子じゃなくて、アナタがワタシが顕現するための魔力をくれたのよね? その竜炉は見た所、もともとアナタのモノじゃないわね。一体、誰かから奪ったの?]アイザック様、あのお喋りな馬鹿蛇亀の対応は僕に任せてもらっていいですか?」
会話に割り込んだ玄武(の蛇部分)は俺の地雷を盛大に踏み抜いたため、俺は奴に灸を据えるため、アイザック様に進言した。
「むぅ……わっ、わかった。ディーハルト君、君に任せよう」
アイザック様は渋面を浮かべた後に、引き攣った笑顔を俺に向けて承諾された。解せぬ。まぁ、いい。
「素直に魔術契約を結んで交渉のテーブルに着いて俺に一発殴られるか、心を折られて隷属させられるか、好きな方を選べ」
シャル様とアイザック様が驚く程、低く冷たい口調で俺は玄武に要求を突きつけた。
[どっちもお断りよ!……っ!? って、危ないわねっ! !? 痛ったたぁい]
俺はどちらも拒否した玄武に初級魔術の無属性の魔力弾を放った。弾速は敢えて遅くしたものなので、巨体の玄武でも余裕で避けられる。そして、玄武は魔力弾を見事に避けたのだが、避けるために動かした足を滑らせて転び、強かに地面に体をぶつけた。
[なにが? ぐあっ!?]
亀の部分が狼狽して体勢を立て直そうと立ち上がろうとするが、再び足を滑らせて転んだ。
「気が変わって、降参する気になったら、地面を早い調子で連続で4回叩け。じゃあな」
[ちょっ、待ちなさ……]
玄武の蛇口が呼び止めようとする声を無視した俺は訓練場と屋敷に被害が及ばない様に玄武を閉じ込めた『隔離結界』を閉じた。そのため、玄武の巨体は『隔離結界』が閉じられたことによって別の次元空間に行き、見えなくなった。
『隔離結界』の他にも『遮音結界』を重ねがけしているからあの巨体が転んだときに発生する『隔離結界』を貫通しかねない轟音の防音対策も万全。玄武の降参の意思表示の条件付けもしているから、降参の動作を玄武がしたら、俺に伝わるようになっている。
「ディーハルト君、玄武はなぜ転んで立ち上がれなくなったのかな?」
アイザック様が好奇心が抑え切れないといった瞳を輝かせた表情で俺に問いかけてきた。すぐ傍にいるシャルもアイザック様と親子だと納得できる全く同じ表情を俺に向けていた。
「僕が開発した、解除するまで対象を転倒させ続ける無属性魔術の『無限滑倒』を玄武自身と玄武が立っていた地面にかけました。アイザック様達が玄武の気を引いてくださったおかげで各種結界魔術も問題なくかけることができました。ありがとうございます」
「そっ、そうか(……まさか、あの間だけで、いくつもの魔術を行使していたとは、本当に末恐ろしいな)」
「さて、向こうが降参するには時間がかかりそうですから、今のうちにシャル様は王立学園入試の実技試験対策の魔術行使の練習をしましょう。すでに『黒神蛇亀』の術式が発動して、どう術式は体内の魔術回路から切り離されています。『黒神蛇亀』の術式に魔力を持っていかれることはなくなったはずですだから、魔術は問題なく使える様になったはずです。では、これから魔力を通してみましょう!」
そう言って、俺はシャル様に『水球』の魔符を渡した。
「……えいっ!……わぁああああっ、できたっ、できましたよ!!」
少しの逡巡の後に俺から魔符を受け取ったシャル様は意を決して魔力を流した。すると、術式が流し込まれた魔力を吸収して1個の水球を形作った。その様子を見て、シャル様は目尻に涙を浮かべて喜び、アイザック様は男泣きをした。そして、2人のその様子を離れて見ていたナターシャ様やレティさん、セバスチャンさん達が駆け寄ってきて、喜びを分かちあった。
この後、シャル様は普及している初級魔術だけでなく、中級魔術、上級魔術の術式のほとんどをその日の内に習得して使いこなせるようになった。
それから、この日のアウロラ公爵家の夕食は俺が到着した初日の歓迎会以上に盛大なものになり、屋敷中が歓喜に包まれた。
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