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第1章 王国の北方、アウロラ公爵領で家庭教師生活
第17話 大事の前の小事。南の公爵領からお手紙が届いた
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「こちらがディーハルト様宛にウェルダー公爵領よりグリフォン便で届きましたお手紙です」
本日の座学の講義前に現れたシャルの母親であるナターシャ様がそう言って、厚みのある封筒を俺に渡してきた。
差出人は案の定、フレア・ウェルダー公女殿下様である。手紙が来る覚悟はしていたが、俺の予想外の早さだ。
手紙の内容が怖くて激しく読みたくない。しかし、読まなかったら、読まなかったで後が大惨事。
俺には読まないという選択肢がないのだ。その悲嘆のなか、俺はペーパーナイフで手紙の封を開けて、中の便箋を取り出して、一読。額に手を当てて、天を仰がざるを得なかった。
「フレア様はお手紙でなんと言われているのですか?」
好奇心が隠せていないシャルが尋ねてきた。その横にいるレティとナターシャ様も内容に興味津々であることが明らかな表情だ。
ちなみに、シャルとレティの呼び捨てに関して、ナターシャ様の許可は得た。正しくはこの4人の前でだけはシャルとレティを呼び捨てにすることは許されたということだ。
「端的に言うなれば、お怒りですね。教授の陰謀があったとはいえ、僕がシャル達の王立学園の入試対策のために家庭教師になって、アウロラ公爵領へ行ったことにご不満のようです」
手紙の内容はまず、俺が先に謝罪と状況を知らせる手紙を送るのに国営便を使った意図を見事に言い当てられていた。
次に俺が王宮魔術師の採用試験に落されたことが未だに信じられないという内容が続いていた。
フレアの母親であるメリッサ様には既に俺が採用試験を落された原因となる映像を送っているので、当然その夫であらせられるアレックス様も俺が落ちた理由は知っている。
また、メリッサ様付きのメイドであるアンナさんも同様に知っているのは間違いない。それにも関わらずフレアが知らないということは3人からは真相が伝わっていないということだろう。
「フフンッ、フレア様がなんと言われようと、ディー先生は今は私達の先生なのです!」
「そうですね。シャルお嬢様」
「あらあら2人共言うわね」
腰に両手を当てて、なにやら勝ち誇るシャルに同意するレティ。そんな2人を微笑ましく見守るナターシャ様。
「それにしても高額なグリフォン便を私事で惜し気もなく使うとは流石、四公爵家の一角のウェルダー公爵家の御令嬢。子爵家の一員とはいえ、貧乏学生である僕にはとてもできませんよ」
王国では比較的安価な国営郵便があるけれども、安価なだけあって公爵領間の様に遠方間だと日数がかかる。
通常、アウロラ公爵領からウェルダー公爵領まで、国営郵便では片道ではどんなに急いでも8日以上はかかるはず。
俺が謝罪の手紙を認めたのはアウロラ公爵領到着の初日の夜。朝起きて内容を確認し、俺の様子を見に来たマーサさんに国営郵便で送るようにウェルダー公爵領までの郵便料金を渡してお願いしたから、その日の早い便で郵送されても、およそ6日経過した今日の時点で、国営郵便ではまだウェルダー公爵領には届いてすらいないはずなのだ。どう考えてもおかしい。
「あっ、そう言えば一緒に届いたメリッサからの手紙にディーハルト君に伝える様に頼まれていたことがあったわ。
ディーハルト君がウェルダー公爵領宛に送った国営郵便の手紙はウェルダー公爵家着払いで最寄りのグリフォン便の駅からグリフォン便に切り替えて送られる様になっているそうよ」
頭を捻っていた俺に、ナターシャ様が絶妙のタイミングで知りたくなかった郵便事情をさらっと教えてくれた。
なるほど、ここからだと王都がグリフォン便の最寄り駅となるから、確かにそれだと大幅に届く時間が短縮されて、フレアが返信を認めてこちらにグリフォン便で送れば届くのも納得がいく。
手紙に俺をウェルダー公爵領に連れて行くのは諦めたが、毎日とはいわないけれども、せめて週単位で手紙を寄越す様にとフレアから催促が書いてあった。
いや、だからいくら国営郵便が安価で、郵送途中でグリフォン便に切り替わるからといって、貧乏学生の俺にこれからアウロラ公爵領での仕事が終わるまでの間に週単位で手紙を送るのは懐事情的に無理があると内心でツッコミを入れた……ん? これは?
俺は手紙が入っていた封筒に同封されているフレアの字が書かれている付箋が貼られている紙束に気がついて、それを確認するために封筒から取り出した。
付箋には『手紙を出すときはこれを使いなさい。これなら、文句ないでしょう?』とフレアの筆跡で書かれていた。そして、その紙束はアウロラ公爵領からウェルダー公爵領までのグリフォン便に使う郵便切手だった。
しかも、ご丁寧に俺がアウロラ公爵領に滞在する週単位分がきちんと1回分毎に分けられ、まとめて入っていた。
「わぁ、すごいですね」
「……」
レティはその切手の束を見て、素直に感嘆の声をあげ、シャルは絶句。そんな2人の様子を見て、ナターシャ様は
「あらあら、ディーハルト君はフレアちゃんに本当に愛されているわねぇ。シャル、レティ、貴女達も狙っている男の子がいるなら、ちゃんと自分を見てもらって、繋ぎとめておかなきゃだめよ」
炊きつけているのか、なにやらアドバイスをしていた。
『追伸 貴方に王立学園入試の勉強をみてもらうつもりだった妹のレベッカが荒れているから、なにか考えなさい』
そういえば、フレアの妹のレベッカは丁度、シャルと同じ年だった。
俺と出会ったときのフレアを彷彿とさせる真紅の短髪。面影も姉妹だからそっくりだが、言葉遣いはレベッカの方がフレアよりも丁寧だ。
レベッカのことを呼び捨てにすることもフレア同様、本人と両親公認。
レベッカはフレアのことを姉として尊敬して慕っている優しい子だ。ただ、怒らせるとフレア以上に手がつけられないことがある。
「……では、本日の座学を始めます。今日の単元は魔法生物についてです」
いつまでも現実逃避していても仕方ない。手紙に関しては、今夜書くとしよう。
レベッカへのフォローも考えがない訳ではない。話が大きくなる懸念はあるけれども、フレアへの手紙に併記しておこう。
本日の座学の講義前に現れたシャルの母親であるナターシャ様がそう言って、厚みのある封筒を俺に渡してきた。
差出人は案の定、フレア・ウェルダー公女殿下様である。手紙が来る覚悟はしていたが、俺の予想外の早さだ。
手紙の内容が怖くて激しく読みたくない。しかし、読まなかったら、読まなかったで後が大惨事。
俺には読まないという選択肢がないのだ。その悲嘆のなか、俺はペーパーナイフで手紙の封を開けて、中の便箋を取り出して、一読。額に手を当てて、天を仰がざるを得なかった。
「フレア様はお手紙でなんと言われているのですか?」
好奇心が隠せていないシャルが尋ねてきた。その横にいるレティとナターシャ様も内容に興味津々であることが明らかな表情だ。
ちなみに、シャルとレティの呼び捨てに関して、ナターシャ様の許可は得た。正しくはこの4人の前でだけはシャルとレティを呼び捨てにすることは許されたということだ。
「端的に言うなれば、お怒りですね。教授の陰謀があったとはいえ、僕がシャル達の王立学園の入試対策のために家庭教師になって、アウロラ公爵領へ行ったことにご不満のようです」
手紙の内容はまず、俺が先に謝罪と状況を知らせる手紙を送るのに国営便を使った意図を見事に言い当てられていた。
次に俺が王宮魔術師の採用試験に落されたことが未だに信じられないという内容が続いていた。
フレアの母親であるメリッサ様には既に俺が採用試験を落された原因となる映像を送っているので、当然その夫であらせられるアレックス様も俺が落ちた理由は知っている。
また、メリッサ様付きのメイドであるアンナさんも同様に知っているのは間違いない。それにも関わらずフレアが知らないということは3人からは真相が伝わっていないということだろう。
「フフンッ、フレア様がなんと言われようと、ディー先生は今は私達の先生なのです!」
「そうですね。シャルお嬢様」
「あらあら2人共言うわね」
腰に両手を当てて、なにやら勝ち誇るシャルに同意するレティ。そんな2人を微笑ましく見守るナターシャ様。
「それにしても高額なグリフォン便を私事で惜し気もなく使うとは流石、四公爵家の一角のウェルダー公爵家の御令嬢。子爵家の一員とはいえ、貧乏学生である僕にはとてもできませんよ」
王国では比較的安価な国営郵便があるけれども、安価なだけあって公爵領間の様に遠方間だと日数がかかる。
通常、アウロラ公爵領からウェルダー公爵領まで、国営郵便では片道ではどんなに急いでも8日以上はかかるはず。
俺が謝罪の手紙を認めたのはアウロラ公爵領到着の初日の夜。朝起きて内容を確認し、俺の様子を見に来たマーサさんに国営郵便で送るようにウェルダー公爵領までの郵便料金を渡してお願いしたから、その日の早い便で郵送されても、およそ6日経過した今日の時点で、国営郵便ではまだウェルダー公爵領には届いてすらいないはずなのだ。どう考えてもおかしい。
「あっ、そう言えば一緒に届いたメリッサからの手紙にディーハルト君に伝える様に頼まれていたことがあったわ。
ディーハルト君がウェルダー公爵領宛に送った国営郵便の手紙はウェルダー公爵家着払いで最寄りのグリフォン便の駅からグリフォン便に切り替えて送られる様になっているそうよ」
頭を捻っていた俺に、ナターシャ様が絶妙のタイミングで知りたくなかった郵便事情をさらっと教えてくれた。
なるほど、ここからだと王都がグリフォン便の最寄り駅となるから、確かにそれだと大幅に届く時間が短縮されて、フレアが返信を認めてこちらにグリフォン便で送れば届くのも納得がいく。
手紙に俺をウェルダー公爵領に連れて行くのは諦めたが、毎日とはいわないけれども、せめて週単位で手紙を寄越す様にとフレアから催促が書いてあった。
いや、だからいくら国営郵便が安価で、郵送途中でグリフォン便に切り替わるからといって、貧乏学生の俺にこれからアウロラ公爵領での仕事が終わるまでの間に週単位で手紙を送るのは懐事情的に無理があると内心でツッコミを入れた……ん? これは?
俺は手紙が入っていた封筒に同封されているフレアの字が書かれている付箋が貼られている紙束に気がついて、それを確認するために封筒から取り出した。
付箋には『手紙を出すときはこれを使いなさい。これなら、文句ないでしょう?』とフレアの筆跡で書かれていた。そして、その紙束はアウロラ公爵領からウェルダー公爵領までのグリフォン便に使う郵便切手だった。
しかも、ご丁寧に俺がアウロラ公爵領に滞在する週単位分がきちんと1回分毎に分けられ、まとめて入っていた。
「わぁ、すごいですね」
「……」
レティはその切手の束を見て、素直に感嘆の声をあげ、シャルは絶句。そんな2人の様子を見て、ナターシャ様は
「あらあら、ディーハルト君はフレアちゃんに本当に愛されているわねぇ。シャル、レティ、貴女達も狙っている男の子がいるなら、ちゃんと自分を見てもらって、繋ぎとめておかなきゃだめよ」
炊きつけているのか、なにやらアドバイスをしていた。
『追伸 貴方に王立学園入試の勉強をみてもらうつもりだった妹のレベッカが荒れているから、なにか考えなさい』
そういえば、フレアの妹のレベッカは丁度、シャルと同じ年だった。
俺と出会ったときのフレアを彷彿とさせる真紅の短髪。面影も姉妹だからそっくりだが、言葉遣いはレベッカの方がフレアよりも丁寧だ。
レベッカのことを呼び捨てにすることもフレア同様、本人と両親公認。
レベッカはフレアのことを姉として尊敬して慕っている優しい子だ。ただ、怒らせるとフレア以上に手がつけられないことがある。
「……では、本日の座学を始めます。今日の単元は魔法生物についてです」
いつまでも現実逃避していても仕方ない。手紙に関しては、今夜書くとしよう。
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