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中編その2

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翌朝、いつもと変わらぬ朝が来たかと思いきや、今朝はいつもより私は少しだけ爽やかな気持ちで目覚めました。

「おはようございます、お兄様……昨晩は後をお任せしてしまい、申し訳ありませんでした」

メイドに着替えを手伝ってもらった私が自室を出ると、丁度グラウお兄様が階下に降りられる所でした。

「ああ、おはようミネルバ。あの後の事は一応、できることは済ませておいたけれども、流石に母上に協力してもらって、曲解された噂話がひとり歩きしない様にするべきだろうね。トリアス殿下主催のあのパーティーは一応、あの後開催されて、開始前のあのこと以外は問題なく終わっただけに大激怒したトリアス殿下を宥めるのが大変だったよ……」

お兄様はそう疲れを滲ませた表情で苦笑いを浮かべられました。

また、私の婚約者だったあのアレウス伯爵子息とヴィーナ男爵令嬢が招待状もなく、なぜパーティー会場に入場できたのかをお父様達を交えて、朝食後にお兄様は説明してくださりました。

通常、参加証として事前に渡される招待状を供として追従する従者に持たせて来場することを貴族の常識として教わります。私も教わりました。

万が一、招待状を何らかの理由で提示できなくなってしまった場合は家名と爵位を入り口の受付に名乗ることで一応、その場の入場は認められます。しかし、家名と入場者は記録されて招待者名簿で確認されます。

名簿に名前がなかった場合や入場後に問題を起こした場合、次回以降の招待状が必要なパーティー等で再び招待状を提示できなかった場合はブラックリスト入りして情報が周知・拡散され、社交界で居場所を失うことが暗黙の了解となっています。

余談ですが、昨夜のトリアス第二王子殿下主催のパーティーは通常、殿下のご身分であれば側近に招待状の代筆をさせるのですが、恐れ多いことに私に届いた招待状は殿下の直筆で招待状を認められていました。それだけトリアス殿下の意気込みは本気だったということでしょう。

アレウス伯爵子息は招待状を忘れてしまった際の慣習を悪用して、招待状がないにも関わらず、まずは自分の家の家名と爵位を盾に強引に入場しようとしていたそうです。

しかし、ユピタル家が完全に斜陽だったことは社交界で公然の秘密となっていたため、それを知っていた衛兵に引き留められました。けれども、アレウス伯爵子息はあろうことか、当家、メティス子爵家の家名と婚約関係にあった私の名前をヴィーナ男爵令嬢に騙らせて、入り口を押し通っていたそうです。

私とお兄様の入場があの2人よりも後だったことと、2人の強引な入場を許す形になってしまった担当者が招待者名簿を確認するためにその場を離れてしまい、代わりの者と受付を代っていたことが災いしていました。

朝食を終えた後、お父様に連れられた私は正式な婚約破棄の手続きをするため、登城しました。昨夜のものを含めてユピタル伯爵側に責があることを証明する書類と証拠の魔導具を多数提出しましたが、手続きは滞りなく終わりました。

後は法定の1週間の抗弁期間内にユピタル伯爵家が私達の提出した証拠が婚約破棄の理由として不当であることを証明すること。もしくは当家、メティス子爵家側が婚約破棄手続きを取り下げない限り、1週間後、正式に私とアレウス伯爵令息の婚約破棄が成立します。

提出した証拠には昨夜の婚約破棄宣言の他に、婚約が解消されていないにも関わらず、アレウス伯爵子息がヴィーナ男爵令嬢と繰り返し婚前交渉を行った不貞の記録(お兄様が集めたもの)が多数あったため、まず間違いなくユピタル伯爵家側の有責で婚約破棄が成立するだろうと担当の女性文官の方が分かりやすく説明してくださりました。



「本当にどうしようもない方達だこと……」

手続きを終えた後、お父様は政務があるため王城に残られました。私が帰宅しましたら、登城中にユピタル伯爵の来訪があって、お母様が対応されたそうです。しかし、その来訪は予想される私に対する謝罪ではなく、お金の無心に来た様でした。

しかも、借りる側とは思えない上から目線の傲慢な態度で、普段温厚で、滅多なことがない限り怒らないお母様の堪忍袋の緒が切れてしまい、ユピタル伯爵は屋敷から叩き出されたそうです。

「もう1つの当家への加害者であるアプロス男爵家からは現時点でなにも音沙汰がないことを踏まえると、王国貴族のあり方としてありえないのだけれども、ユピタル伯爵家とアプロス男爵家の両家は子供達の昨夜の失態を把握していないのかもしれないわね」

お母さまは大きなため息とともにそう仰いました。

それから、話題は良識のない他家の鬱屈とした対応から、私の今後の動向に対する話に変わりました。

昨夜の婚約破棄宣言騒動による醜聞とストレスを避けるために王国民の義務として通っている学園を休学することを私は選択することができました。

しかし、私はトリアス殿下が主催されたパーティーから2日後に予てから、グラウお兄様とともに、とても楽しみにしていた海を挟んだ大陸の別国の学園への留学が決まっていたため、学園には戻らずにそのまま留学することになりました。

ユピタル伯爵家とアプロス男爵家からの謝罪を受けるつもりも、両家の人間の顔を見たくもなかった私にとってこの留学はとても望ましいものでした。ただ、

「なぜ、トリアス第二王子殿下がこの場にいらっしゃるのですか? 説明してくださいお兄様!?」

予想外の居心地の悪そうに同席している同行者の存在に私は貴族令嬢としてはあるまじき姿ですが、ジト目で、笑顔を浮かべているグラウお兄様に問いかけました。

「私も殿下の留学を知らされたのは昨日だったのだけれども、どうやらこれから向かう国、ナコクとの外交の政務を将来、王族として殿下が引き継ぐことに決まったらしく、そのための顔合わせと勉強のために向かわれるとのことだ」

お兄様の隣で頷かれている殿下のご様子と、お兄様のこの答えに私は納得したのですが、

「……というのは建前で、トリアス殿下ははりきって何度も書き直した直筆で書いた招待状でミネルバを招待したけれども、あの大馬鹿2人に本命の目的を見事に粉砕されたパーティーの仕切りなおしをするために、強引に半年間の私達の留学にご自身の留学をねじこんできたのだよ」

「えっ!?」

「ちょっ、グラウ!?」

突然のグラウお兄様の暴露に理解が追い付かない私は困惑し、トリアス殿下はなぜか慌てられていました。

「ミネルバはこの有様なので頑張ってくださいね、殿下?」

「……お前は協力してくれないのか?」

なにやら私に対して失礼なことを言っているお兄様にトリアス殿下は恨みがましく、そう仰いました。

「苦労してこの会話の場を用意した私に更に助力をお求めになるのですか、殿下?」

「うっ……」

お兄様がその両目が全く笑っていない涼しい笑顔でそう返されると、殿下は言葉に詰まってしまわれました。

お兄様からトリアス殿下については学園で知り合った親友であると伺っていましたが、トリアス殿下とはこの場で2回目の対面となる私は、お2人の気の置けない会話には極力加わらず、淹れられた美味しい紅茶とお菓子を楽しみました。
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