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第4章 自由連合同盟都市国家メルキオール 首都メルキオール~北方封鎖地編

第96話 名称詐欺?なモフモバニーの情報収集の件

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討伐依頼が出ているこの時期に出没する魔物、モフモバニーについて調べるために、俺はルシィを伴って冒険者ギルドを訪れた。

飛鳥、クロエ、ベルの3人は防寒着の準備と食材の調達に出て、別行動になっている。

「こちらが資料になります。資料の持ち出しは厳禁ですので、この部屋の中でのみ、閲覧がしてください。疑問点がありましたら、お声かけください。では」

案内された資料室で、慣れた手つきで案内してくれたギルド職員の人は資料を出し、退室した。

依然とは雲泥の差があるほど対応はもとより、所作が洗練されていて、全員の歩く姿もお手本の様に背筋が綺麗に伸びていた。従者ギルドの教育の賜物なのだろう。従者ギルド恐るべし。

それで、肝心の獲物の情報なんだが……。

資料には写真のない世界ならではの写実な絵が添えられた書物だ。それはいい。

しかし、描かれている絵には元の世界の海外アニメの罠兄弟によるバグスな灰色兎に白ペンキをぶちまけた様な兎の魔物だった。

とぼけた表情や太々ふてぶてしい人間じみた表情の二足歩行をする兎の魔物が描かれている。

『毛皮の色を巧みに利用し、周囲の雪景色に溶け込みながら、更に【隠蔽】で気配を殺して、死角から奇襲してくる要注意の魔物とありますね』

ルシィが特徴を読み上げてくれた。

ふむふむ……どこにモフモ要素があるんだこれ?

そう思って、次のページに進んだら、

『……どうやら、前のページの魔物と同じ魔物の様です』

思わず前のページの絵と今のページを俺が何度も見直したのも無理はないだろう。

次のページに書かれていたのはモフモバニーが追い詰められて能力が上がった状態。所謂発狂状態、激昂状態の情報だった。

説明に添えられている絵は前ページのスマートなものとは完全に別の魔物ではないかと見間違えるレベルのものだった。

頭が熊だったら、白熊と間違えてもおかしくないほど手足と身体全体が太くなっている。

毛皮も確かにモフモフ、フカフカそうなものになっている。

『体内に内包している魔力を解放した状態で、毛皮の質と肉質も解放前に比べて格段に上がっているため、この状態で討伐するのが望ましい。ただし、戦闘能力も格段に上昇しているため、返り討ちになる者が後を絶たない。ランクD以下の冒険者及び、パーティーランクC以下の冒険者パーティーは討伐依頼受注禁止。この決まりを守れない者は退会させることがある……とあります』

ルシィが読み上げてくれた。

冒険者ギルドの対応が厳格なのも、毎年勝手に討伐しに行って返り討ちになる冒険者が後を絶たず、ギルドに怪我の保証を求める阿呆がいるためだそうだ。

ちなみにモフモバニーは肉食寄りの雑食性なので、単独ソロで返り討ちになった冒険者の中にはそのままその胃袋に消えた者もいるそうだ。

生態としては冬眠するために出てきた熊などをにしていて、極めて獰猛ながら、用心深さもある。

この時期以外は基本的に巣の中で爆睡。

繁殖も短い活動期間であるこの時期に行っている。

恐ろしく多産かつ成長速度が早い。3日で成体となるため、産まれてすぐに別の巣を作るために移動を開始。

獲物を食べつつ、巣を作る。巣を作れなかった個体の中には別個体を殺し、その巣を乗っ取るのもいる様だ。

しかも、前の家主も自分の食事にしてしまうようだ。

そんな血生臭い獰猛な兎の魔物だが、その毛皮の質は非常に高く、この季節限定出没のため、常時高値で取引されており、その肉も豊富な魔力を内包しているだけあり、この時期限定の極上品とある。

その他、生息地の情報や習性などをルシィと共に読み進め、俺は閲覧している書類を【空間収納】に入れて、内容を【複製】して、取り出した。

『主さま、なにをなさったのですか?』

俺の行動に疑問を持ったルシィが可愛らしく首を傾げて問いかけてきた。

「資料は持ち出し禁止らしいから、内容だけ俺のスキルで複製して、飛鳥やクロエ、ベル達ともこんな風にいつでも見れる様にしたんだよ」

そう言って、俺はモフモバニーのとぼけた表情の挿絵をスキルウィンドウに表示し、ルシィに見せた。

『流石、主さまです』

そう言って、ルシィは感心して、俺を褒めてくれた。

グレーな方法だが、俺は身内以外にこの情報を共有するつもりはない。原本それ自体を持ち出していないから問題ないだろう。



冒険者ギルドでの情報収集が終わったので、俺とルシィは資料室を後にし、先程案内してくれた職員の人に改めて礼を述べた。

続いて、受付で討伐依頼を受注したから冒険者ギルドでの用事は完了。

しかし、ここでトラブルが発生した。

「なんで、俺達はこの依頼を受けられないんだよ!!」

見るからに脳筋なパーティーを率いている冒険者が受付の職員に食ってかかっていた。

「……先程から説明させていただいております様にギルド規約により、貴方方のパーティーランクはCランクですので、この依頼を受注することはできません」

激昂している冒険者アホウと対照的に受付嬢は冷静に事実を告げる。

「じゃあ、なんで、そこのひ弱そうな奴とこのガキは受けれたんだよ!?」

受付嬢に食ってかかっていた冒険者パーティー4人の内の1人の剣士が俺とルシィを指差して言った。

「私達の方が強いのに……」

「……」

メンバーの1人と思しき女魔術士が呟いた。

もう1人の狩人と思しき女性は無言で俺とルシィを見つめていた。

「貴方方は本当にパーティーランクCの冒険者パーティーなのですか?」

受付嬢が呆れた声をあげてしまうのも無理はない。

なぜなら、現在も俺達に対して敵対的な行動は控える様、周知している写真と見紛うレベルの絵付きの掲示が最も目につく場所にされているからだ。

掲示板確認を怠っているのだから呆れるのも無理はない。

「さっきから騒がしいな、どうした?」

どうしたものかと思案していたら、奥からバルガスのとっつぁんが姿を現した。








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