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第4章 自由連合同盟都市国家メルキオール 首都メルキオール~北方封鎖地編

第93話 犯人は現場に戻るという安直な件

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捕縛した全く喋らない薬品ギルド長が実は身代わりの全く喋れ魔法生物ホムンクルスだった。

とはいえ、俺の【鑑定】によって、ホムンクルスに残っていた本物の薬品ギルド長の情報で居場所はほぼ掴んだ。当然、既に薬品ギルド長はメルキオール内にはいない。

そして、薬品ギルド長だけでなく、ヘリオスさんを暗殺して、甘い汁を吸おうとしていた連中も同じ場所にいることが捕まえた襲撃者達と捕まった元魔術師ギルドおよび薬品ギルドメンバーから絞り出した情報から判明した。

その場所というのが、以前、魔術師ギルドと薬品ギルドが共謀して豚鬼オークを養殖しようとした村落だった。

あの事件後に、現場であった村落一帯はメルキオール行政府の管轄になった。
しかし、反ヘリオス派の薬品ギルド長の協力者達が書類を偽造して、村落を確保し、再び薬品ギルド長に不正譲渡。

ちょうど、ヘリオスさんがルールミナスへ会いに行くときを見計って巧妙に間に何人も別人を挟んだ工作の上で行われていた。

万が一暗殺に失敗して立場が悪化したときの自分達の避難場所とするために準備していたようだ。

門から外に出るときに奴等は北部の村々を巡る商隊の中に変装して、紛れ込んで抜け出していたことが分かった。

薬品ギルド長のホムンクルスによる身代わりの策略が効果的な目眩しになったため、薬品ギルド長は難なく脱出されてしまったと思われる。


食糧等は既に余裕で冬を越せる量が運び込まれていることが、逃亡した反ヘリオス派の取引記録から判明している。また、同記録から多くの資材が村落に送られでいるのも分かり、どうやら防衛施設類も増強されているようだ。

そして、冬間近ということもあり、メルキオールの政府軍を派遣すると、確実に降雪の中を進軍することになる。

そのため、議員達は派兵に消極的らしい。なんとも危機感のないことだ。

肉親相手に平気で解毒剤が入手できないような毒による暗殺を仕掛けてくる様な手段を選ばない相手達を追い詰めたことをきちんと認識しているのか怪しい。

派兵に消極的な連中は向こうも冬の間はこちらになにもできないと楽観的に考えているのではあるまいか。


現在は俺がホムンクルスの身代わりを看破した翌日の昼食時。

既に薬品ギルド長がメルキオールを脱出してからおよそ3日が経過している。早馬を使うと村落に到着している頃だろう。


そんな中、俺と飛鳥、ベル、クロエ、ルシィの5人はヘリオスさんに昼食に誘われ、バルガスさんとミーネさんも交えて、8人でヘリオスさんの予約していた店の個室で昼食を摂っている。

「何を考えているのかね? ユウ君?」

食事時のとして、俺達に議会の薬品ギルド長達への対応姿勢を教えてくれたヘリオスさんが考えごとをしていた俺に問いかけてきた。

「率直に言わせていただきますが、随分とメルキオールの議会は悠長に考えているんですね。この冬の間に向こうが仕掛けてこないと本当に考えているんですか?」

「議会の連中はあの場所からこのメルキオールに影響を与えることはなにもできないと、安穏に考えているのだよ。そう言う私も、何かしてくるかもしれないとは考えてはいるが、正直、何をしてくるか具体的な考えが及ばないのだよ。君は彼等がなにをしてくると思うのかね?」

犯罪心理学などが発達していない世界だから、仕方ないのかもしれない。

できれば平穏な生活を求めて止まない俺以外のやる気と能力、行動力のある実力者が解決してくれればいいのだが……無理だな。そんな他人任せにしていて、降りかかる火の粉が払われる訳がない。待っているうちに火傷じゃすまなくなる。それに、

「事後報告になりますが、メルキオールの水源となっている貯水池と燃料となる薪、魔石を取り扱っている店舗を昨夜、襲撃しようとした犯罪者達を捕縛しています。
全員、元薬品ギルド長に雇われた盗賊ギルドの過激派メンバーの捨て駒です」

俺の発言で、場の空気が固まってしまった。予め予想はしていたし、別に狙ってやった訳ではないのだが、やはり居心地が悪い。

石像にしてますが、完全に使い捨ての捨て駒扱いの下っ端だったんで、目ぼしい情報はなにもなかったですよ。ちなみに当日の警備担当の衛兵達は犯罪者共が来る時間帯は配置を変更されたみたいですよ」

俺はそう告げ、目の前の料理を堪能することにした。

『主さま、どうぞ』

「ありがとう、ルシィ」

目の前の熱々のグラタンをルシィが小皿に取り分けてくれた。礼を述べると、ルシィは笑顔を返してくれた。

丁寧に作られたホワイトソースとほどよく焦げたチーズ、充分に火の通った玉葱等の甘みと鶏肉の旨味、マカロニの食感が口の中に広がる。美味い。流石ヘリオスさんが案内してくれた店だけはあるな。

「冒険者ギルドはこの時期に増える討伐依頼で人手を取られて奴等の偵察依頼や討伐依頼をうちで発行することができない状態だ」

とっつぁんもルシィが取り分けてくれたグラタンを口にしつつ、そう答えた。

「この時期に増える討伐依頼ってなんでしょうか?」

飛鳥が興味をもったのかとっつぁんに訊いた。

「モフモバニーというワイルドバニー種の魔物だ。雪に溶け込んで擬態するための、白くふかふかの毛皮の質が高く、肉も美味い。ただし、生半可な実力者では返り討ちにされる強さを持つ魔物だ。冒険者ギルドの評価はC+。油断はないと思うがユウ達なら狩れるレベルだ」

ほほう、それは興味深い魔物だ。しかし、酷い名前の魔物だな。

『ご主人、他の冒険者もいるのじゃから、狩るならばほどほどにするのじゃぞ?』

クロエが苦笑いを浮かべつつ、俺をそうたしなめた。ん?どういう意味だ?

「ユウ、頼むからモフモバニーを絶滅してくれるなよ」

ミーネさんまでそんな失礼なことを言い出した。

「優さん、そんな獰猛な笑みを浮かべられたら、誰もが、クロエやミーネさんの様な感想を抱いてしまいますよ」

何故、2人がそんなことを俺に言ったか飛鳥が苦笑しつつ、教えてくれた。

「流石に絶滅するまでは狩らないよ」

「本当かね?」

俺はそう答えたが、ヘリオスさんまで懸念を口にした。

「主さま、絶滅しないまでも、必要以上に狩り過ぎるのはメッですよ!」

ルシィにも、俺は可愛らしく叱られてしまった。我々の業界ではご褒美です。

「ご主人様でしたら、無益な殺生をするとは思えません。ですが、私達が補佐しますから心配は無用です」

俺に釘を刺しつつ、ベルが微笑みを浮かべながら告げる。

「まぁ、うちとしても需要があるから、お前達の様な実力者が討伐に協力してくれるなら心強い」

そう言って、とっつぁんが泣いている子供が更にガン泣きしそうな笑みを浮かべた。













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