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第2章 自由連合同盟都市国家メルキオール 首都メルキオール編

第35話 活気溢れるメルキオールの市場の件

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自由同盟都市国家メルキオールは世界各国に支店を構えるギルドの本部の存在以外の特徴として、この世界の流通の中心と言えるほどの大規模な市場がある。

綺麗に区画整理がなされて様々な物が店で売りに出されている。当初お世話になっていたオディオ王国の城下町の店とは残念だが規模も活気も比較にもならない。

『おお、すごいのう、いっぱい、いろいろあるのう♪』

物珍しそうに喜色満面で見て回る小さいメイド服姿のクロエは大変微笑ましく、店を出している商人達も彼女のその姿を笑顔で見守っている。

『……これとこれと、これじゃ! ご主人、この色艶であれば美味は間違いないであろう? 我は買うべきだと思うぞ!!』

クロエは果物を並べている露店の前で、まんま林檎の果実を指差して強請ってきた。癖づいた【鑑定】で見ても味に太鼓判がついていたので、俺はクロエの指定した3つの林檎を買うことにした。

「毎度。嬢ちゃんの目利きは大したものだなぁ」

代金を受け取った店主の男が袋に入れてくれた。

『ご主人、申し訳ないが我は今すぐその林檎が食べたいのじゃ。1玉を我に切らせてたもう』

珍しくそう言い出したクロエ。飛鳥のほうを見ると、彼女も頷いていたので、俺は受け取った袋の中から林檎を1つ取り出してクロエに渡した。

クロエは自分のかばんから俺が造った果物ナイフを取り出して、器用にシュルシュルと林檎の皮を剥いていく。途中で途切れることなく綺麗に皮を剥いた林檎を8切れに切って、種の部分も実を極力捨てないように切除。

音もなく取り出した皿に切った林檎を盛って、クロエは3本のフォークをそれぞれ切った林檎に食べやすいように突き刺して、俺と飛鳥に差し出した。

俺は2切れ、飛鳥とクロエは3切れずつ堪能した。噛むとシャリっという音と共に口の中に僅かな酸味と林檎の果実特有の甘みが広がる。美味い。飛鳥とクロエ、2人の口許も綻びた。

飛鳥とクロエという美少女と美幼女がこの店の林檎を試食したことにより、同じ林檎を買い求める客が来て、結果として俺達は店主の売り上げに貢献することになった。お礼のおまけとして店主の厚意で再びクロエが選んだ3つの林檎を俺達はもらってその場を離れた。



次に向かったのは料理を扱っている屋台が集まっている場所。昼食どきになったので、屋台から漂ってくる美味しそうな焼けた肉の匂いが食欲をそそる。

「らっしゃい、らっしゃい! オークのバラ串1本奮発して、赤銅貨1枚だ。うまいよ!」

「こっちはロックバード串だよ! シンプルな塩とうちの特製甘辛タレ! 値段は1本赤銅貨2枚だ。どっちも絶品だから食べ比べてみてくれよ!!」

各屋台の店主達の威勢のいい客寄せの声が飛び交っている。

『ご、ご主人! 我は、我はもう我慢ならぬ! まずはあのオークのバラ串をたもう!!」

クロエのボルテージが既に限界突破している。餌を目の前にして、マテをされているワンコの如く、口から涎が溢れている。お子様ならぎりぎり拳骨落されて許容されるだろうそれは、およそ年頃の女子がしていい表情ではない。

しかも、クロエさんや瞳がに戻ってますよ。これだけで、クロエがどれほど真剣ガチなのかがわかる。

俺はふとある野菜の露店と人があまりいない店が目に映り、1つのアイディアが湧いたので、それを試してみることに決めた。

しかし、このまま暴走一歩手前、もしくはもはや手遅れのクロエをこれ以上待たせるのは危険だ。主に屋台が。仕方ない。

「飛鳥、悪いがクロエと串焼きを買いに行ってくれ。俺の分は各種2本を確保してくれればいい」

俺はそう言って、飛鳥に正銅貨を数枚渡した。

「優さんはどうされるのですか?」

「俺は他の店でちょっと欲しいものを見つけたから、買いに行ってくる。すぐに戻るから、できれば待っていてほしいが……あの様子のクロエでは難しいだろうから、先に食べていていいよ」

今にも駆け出しそうな様子のクロエは俺達のGOサインを今か、今かと期待に満ちた眼差しを向けている。犬耳とともに盛大に左右に残像を残す速度で振られている犬の尻尾が幻視された。

「……分かりました。気をつけてくださいね」

飛鳥も俺と同じものが見えたのか、俺の考えに同意して、苦笑を返して注意を促してきた。

「ああ、そっちもな、それじゃ行ってくる」

「行ってらっしゃいませ」

飛鳥に笑顔で見送られて、俺はその場を離れた。



『ご主人! こっちじゃ!こっち!!』

串を片手にご機嫌なクロエが設置されている椅子に座りながら、俺に手を振って、併設されているイートスペースでの居場所を教えてくれた。

「クロエ、ほっぺたにタレが付いていますよ」

そう言って、クロエの横に座っている飛鳥がハンカチでクロエの頬に付いていたタレを拭き取った。

『おお? ん……すまぬ飛鳥。ありがとう』

飛鳥の相変わらずの世話焼き性に俺は内心で苦笑いせざるを得なかった。

2人は椅子の近くのテーブルの上に買った串焼きを1人分ずつ皿に分けて乗せて、一本ずつ食べていた。

『ご主人の分はこれじゃ』

そう言って、クロエは3皿12本を俺の前に並べてくれた。1本当たりの肉の大きさはかなり大きい……食べきれなくても俺には【空間収納】があるから問題ない。しかし、見事に串焼きだけだ。確実に栄養が偏る。

「2人とも作り置きしているサラダがあるけれど、食べるか?」

「いただけるのでしたらお願いします。流石にお肉だけでは私はちょっと……」

『どんなサラダじゃ?ご主人?』

2人2様の返答が返ってきた。

「いろいろあるから好きなものを選ぶといい。ツナコーンサラダ、ポテトサラダ、マカロニサラダ、パスタサラダ、大根サラダ、ミックスキャベツサラダ、パンプキンサラダ、牛蒡サラダ。ドレッシングは和風醤油、フレンチ、シーザー、ゴマがある」

俺は小皿に盛っているサラダを1つずつテーブルに【空間収納】のフェイクとして使っている鞄から出した。

『アスカから選んでよいぞ』

クロエが飛鳥に先に選ぶよう譲った。

「ではお言葉に甘えまして、大根サラダを和風醤油ドレッシングでお願いします」

「フォークと箸はどっちにする?」

「お箸でお願いします」

「はい、どうぞ」

やりとりを経て、飛鳥に俺はサラダを盛った小皿とドレッシングと1膳の箸を渡した。

『我はツナコーンをフォークとフレンチドレッシングで所望する!』

「はい」

続いて、クロエにもサラダを盛った小皿とドレッシング、フォーク1つを渡した。

俺はミックスキャベツサラダを選択し、残ったサラダ皿を再び【空間収納】にしまった。

『これがオークバラ肉串の塩とタレ、こっちがロックバード串の塩とタレ、この串はブラディホーンブルの塩とタレじゃ』

クロエが並べてくれたのは言うなれば豚バラ、焼き鳥串、牛串の塩とタレといったところか。少し冷めてしまってはいるが、まだ温かいそれらからは食欲をそそる匂いがする。音は鳴らなかったが、俺の腹が正直に反応した。
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