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トカゲせんせーの話
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他に私にどのような道があったのか。存在が矛盾する私に。
未だに私を心配してくれる子供たちを部屋に返し、ぼんやりと過去を振り返っているとしばらくして部屋に旦那と大きな美しい白い鳥が入ってきた。
法律の国の使者が人間ではなく古の世界の鳥の形をしているというのは本当だったのか。
「話を聞かせてもらおうか、アンドレー」
「……話すことなどありませんよ。ここは人神教の教義から離れている穢れた場所だった、それだけです。」
「そうじゃない、お前の横領はそれこそ所属した当初から把握していたし、金額も理由も分かっていたから黙認していた。だがここ最近一気に金額が上がった。まるで見つけてほしいと言うように。お前なりの救難信号だったんじゃないのか?」
『哀れな子だな、竜の子よ。血と加護が噛み合わぬ数奇な魂だ』
旦那は驚いたように目を剥き死者様を見つめ、私は使者様と旦那の言葉に身体の力が一気に抜けた気がした。
「使者様は全てお見通しなんですね」
「おい、アンドレーどういう意味だ」
『大方、その火傷は鱗を隠すためのもの、だろう?』
「……少し昔話をしましょう。矛盾した血と加護を受けた男の狂った人生を」
少し長くなると告げると旦那は黙って煙草に火をつけた。
─────
……私は本当は人間ではなく混血児なんですよ。人と竜の。
翼は無いんですが鱗が全身にマダラに生えていました。
雑種村ではなく普通の人間街で人間の親から生まれたのですがどちらかの先祖が混血だったのか鱗の生えた子供を産んだ母は父から激しく責めたてられ、私が3歳の時に心を病んで首を釣りました。
父親は私を殺す度胸は無かったらしく、餌だけきちんと与えて生かさず殺さず話しかけず、私が言葉をまともに覚えたのは7歳を過ぎてからです。
7歳の時に教会の人間が私が人神の加護を受けたと迎えに来ました。
幸い子供の時は鱗は背中のみに生えていて私が混血児だということは誰にもバレずに教会に潜り込めました。
その日から天国でしたよ。好きなだけ本が読め、蔑みの目にも晒されず、食事は質素だがきちんと人が食べるものを出してもらえる。なによりベットで寝れるのが幸せでした。
その幸せを守るためなら神父の洗脳教育も特別礼拝のために近所の神聖な滝から汲む冷たい水を大きな瓶にいっぱい入れるのも苦ではなかったし……ナイフで自分の鱗を剥ぐのも苦ではなかった。
知ってますか?竜族の鱗って子供の頃はまだ固くなくナイフなんかで簡単に剥げるんですよ。
私は人間だと何度も言い聞かせながら鱗を剥いで、剥いだソレは勿体ないので乾かして時期を見て売って小遣いにしてました。
鱗が堅くなり、生える面積も増えてきた13歳の春頃に私は司祭助手を任命され、この街の教会で二級司祭のダンテ様と暮らすようになり、鱗が生えないよう事故に見せかけて身体を焼きました。
それがこの火傷です。
ダンテ司祭はそれはそれは心配して下さり、私は第2の父のように慕いました。
だけどそれは私が混血児ではなく人間だと思っていたからこそだったのでしょう。
混血の子供が施しを腹を空かせて求めてきたときに彼は泥水をかけました。
それを見た時私は初めて自分がどれだけ恵まれていたのか悟り、人神教の中からなにか変えられないかと思ったのです。
まあ、器用でも頭が良くもなかった私は良く考えもせずに混血の子供を庇って奴隷落ちしたんですけどね。
奴隷になってしばらくすると教会から破門宣告をされ、次いでとばかりに命を狙われました。
多分協会の仕事をしないお上の人達の、仕事をちょいちょい肩代わりしていたのが原因でしょう。弱みなんて少ししか握ってないのに困った人たちです。
まあ奴隷として公に動く訳にも行かないので多少のお金を送り忠誠を示していたんですけど……ねえ?
教会は裏切り者を許さない。
私たち司祭神父にはとある魔術式が刻まれていて居場所を直ぐに特定できるんですよ。
だから追っ手がかかるこの時に私はついていけない。
わかるでしょう?
ミーシャもアドリアナもオレオもみんないい子だ。
産まれたばかりのラタを抱きしめた時涙が出ました。
あの子達は幸せにならないといけない。
だから足でまといになる私が着いていっては行けないんです。
どうぞ、憲兵に突き出すか囮にでも使ってください。
人族だと思ってたくせに、虐げてくる筆頭の教会の人間だと知っているのにトカゲせんせーと無邪気に慕ってくれたあの子達を私は不幸にしたくないのです。
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