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第4話 子供のぼくに不貞だなんて……

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「ジェレミー殿下、何か手違いがあったようですな。他に言い分がないようでしたら今回の申し立てはすべて破棄することになりますが、如何いたしますか?」

 ボドワン宰相がジェレミー殿下を睨んだ。
 ちょっと怖いぞ、ボドワン宰相閣下……。

「いや、まだだ。これは出したくなかったがもう一つある」
「ジェレミー殿下、お分かりでしょうが、ここは皇帝陛下の御前ですぞ。三度目はないとご承知おきを」

 ジェレミー殿下の顔から血の気が引いていく……。
 そして、皇帝陛下の方をちらりと横目で見る。
 よほど皇帝陛下が怖いらしい。

「だ、大丈夫だ。今度は大丈夫だ」

 ジェレミー殿下は気を取り直したのか、俺のほうを見てニヤリと笑った。
 ついに俺の出番か? そうなのか?

「リディアはそこに居るベルガー伯爵の息子と不貞を働いたのだ!」

「「「まさか!」」」
「「「こんな子供が?!」」」
「「「信じられない!」」」

 周囲はこれまでで一番の喧騒に包まれた――
 おいおい、頭悪すぎないか?
 俺とリディア嬢にほとんど接点はないんだぞ。
 だが、こじつけだとしても、それが認定されたら……ちょっとまずいことになる。

「殿下、それは本当ですかな? もしそれが本当なら、婚約破棄だけで済まされる案件ではなくなりますぞ」

 ボドワン宰相の顔が鬼の形相に変わった。
 先程からとは別人のようだ。

「そ、それは分かっている。そうだ、し、証人もいるぞ!」

 また証人か……。
 ボドワン宰相の迫力に気圧けおされているジェレミー殿下はとても滑稽だ。

 だが、今度の件は子供の悪戯では済まされない――

「証人を連れてまいれ!」

 すぐに証人がエレミー嬢の横に並んだ。
 おそらく帝城に遣えているメイドだ。
 困ったことに俺は彼女に見覚えがある……。

「ディアナ、挨拶は無用だ。あの日のことを申してみよ!」

 ボドワン宰相の問いが幾分強い口調だったせいか、ディアナと呼ばれたメイドは小刻みに震えている。
 年齢は17歳くらいだろうか。

「あれはジェレミー殿下の誕生日のことでございます……」

 ディアナが言うには、ジェレミー殿下の誕生日が催された日に、俺が花束を持ってリディア嬢の居室を訪れたらしい。

 そして困ったことに、それは本当だ――

「ルーク・フォン・ベルガー、いまディアナが言ったことは本当か?」
「花束を持ってリディア様の居室を訪れたことは本当でございます」
「それでは不貞を認めると言うことか?」

 えっ? なんでそれが不貞になるんだ?

「いえ、それは違います。正しくは、ある方の依頼でリディア様のところへ花束を届けに行きました」
「ほう、詳しく申せ」
「あの日、ぼくが帝城を歩いていると、あるメイドに花束をリディア様のところへ届けてくれと頼まれたのです」

 今考えてみると、伯爵令息の俺がなんで使いっぱしりをしたのだろう?

「メイドに頼まれたと申すのか? 帝城の中で貴族がメイドに頼まれ事をするなど、あり得ない話だ。そのメイドの名は分かるか?」
「残念ながら分かりません。花束の送り主も聞きませんでした」

 もしかしたら俺は嵌められたのか? あまり良い状況ではないことは確かだ。

「宰相閣下、発言の許可を」

 リディア嬢が発言の許可を求めた。

「よろしい」
「あの日、確かにわたくしはルークさんから花束を届けていただきました。その花束にはカードが添えられていなかったので、送り主は分かりませんでしたわ」

 リディア嬢、ナイスフォローだ!

「つまりです。リディア様とぼくは何者かに嵌められたと推察します」
「ルーク、残念だがそれは反論になっていないぞ。ルークが個人で花を持ち込んだならカードなどいらないだろう」
「あっ、そうですね……」
「つまり、誰かに頼まれたのは嘘だということだな、ルーク!」

 うるさいから黙っとけ! バカ皇子!

「宰相閣下、さきほどから不思議なんですが、ぼくが花束をリディア様に届けると、なんで不貞の疑いが掛けられるのですか? 理不尽だと思うのですが……」

 この世界は理不尽でできている――
 前世のことを考えると、この世界を全面的に否定はできないが……。

「ルークよ、貴族の世界では『貴族の子女は10歳にして二人切りになることを禁ずる』という暗黙の了解がある。つまり、若い男女が二人きりで部屋にこもれば、不貞を働いたと言われても仕方がないことなのだ」

 日本でいう『男女7才にして席を同じゅうせず』みたいなものか?
 いや、意味合いがだいぶ違うな。
 この不文律は、それが口実となって不本意な婚姻を結ばされないようにするための教訓だろう。
 貴族って面倒くせぇ……。

 それはそうと、この場の雰囲気を変えないとまずい。
 不本意だが奇襲戦法を使ってみるか……。

「でも、その論法はぼくに当てはまりません」
「ほう、それは何故か?」
「あの~言いにくいのですが……」
「ルーク、はっきり言わんか!」
「だって、ぼくはまだ精通していません……」

 俺の発言で、謁見の間が爆笑の渦に包まれた。
 これほど受けたことは日本にいた時もなかった。
 やったぜ俺!
 親父がこっちを見て苦笑いしてる。ごめん親父。

「あの子可愛い」
「お持ち帰りしてもいいかしら」

 数人のお姉さま方から熱い視線を感じるはのだが……。
 どこの世界にもショタはいるのか? そうなのか?

「ル、ルーク……そういった問題ではないのだ。くっくっくっ……」

 知ってるけど、ぼくは無邪気な12歳だ。これくらいの冗談は許されるはず。
 参列者達だって本当は不貞などなかったと思っているはずだ。
 それに貴方も笑っているじゃないか、宰相閣下。
 これで有耶無耶にできたらいいのだが……。
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