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125 獣の捕獲、ヨシイ古書店の供述(前)⑤

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 私達が殺害した比江島直哉は、よく叔母さんを見舞いに行っていたといいます。そこで少年の比江島が叔母さんにその綺麗な小瓶を欲しいと言った。叔母さんは今はあげられないが、私が亡くなったらあげましょうと答えたんだそうです。なのに、比江島は惹かれてやまず、こっそり盗んでしまいました。

 その頃、佐山は『夜を殺めた姉妹』の品が欲しくてたまらない時期でした。どうにか手に入れようとしますが、奥さんがいるのですべての金を自由にも出来ずにいました。そこでビリーズ美術館にコネもあった八頭さんを利用して手に入れますが、ミイラ取りがミイラになったのか、可愛らしく慕ってくる八頭を好きになってしまい、今度は八頭さんに夢中になりました。

 佐山の奥さんは石が無くなって発狂し、衰弱もしていたのでしょう、のちに失意のままに亡くなります。奥さんの実家の比江島家は当然佐山のせいだと怒った。遊び歩いて浮気してと。でも亡くなった人を蘇らせることも出来ません。

 佐山は八頭さんを大切にしたいと思っていましたが、娘と同じ年の後妻というのは許されなかった。家の方針で後妻を娶らざるを得なく、佐山は泣く泣く八頭さんと別れましたが、この頃には八頭さんは映画資料を手に入れるために騙されていたと思っているので了承したようです。


 ······これらの話は、比江島自身や牧田から聞いたことを推察している面もあるので、若干違うところもあるかもしれません。ご了承下さいね。


 八頭さんと別れた後、佐山は我に返ります。あの石が側にあると心が囚われてしまうと。ですが、ビリーズ美術館から購入した中にはその石はありません。
 佐山は調べていくうちに、このデスマスクがあの石なのかと思うようになります。何故沢本が極秘に生前に富樫のマスクを作り、亡くなった後になって盛大にデスマスクを作ったと言ってアピールした。生前に1体、死後に3体のはずが、死後に4体作ったことになっているのもおかしい。

 デスマスクが八頭さんのところにあると問題が起きるかもしれない。八頭家はキリスト教信者だったからか、普段から十字架をつけているが、本人はあまり意識もなく、あの祭壇も佐山がいいのならと気にせず飾っている。そういうものに対する忌避感も少なかったようですね。

 佐山はデスマスクを引き取り、代わりに強力な護符を入れたメダルのブレスレットを八頭さんに贈りました。そうしてから二人は別れたのです。

 
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