118 / 131
118 寄贈感謝会の日に④
しおりを挟む
佐山家のご家族がいらっしゃった。由紀子夫人、美千代さん、華子さん、牧田さん、江藤弁護士の他に、もう一人。
「あの方は?」
「ああ、華子さんの旦那さんで、政治家の丹羽喜市郎氏だね。佐山氏のあの別邸の一帯の地主一家で、何らかの繋がりがあって結ばれたものだろうね。歳も離れてるしさ」
60歳は越えているだろうか、押し出しの強い感じの男性だ。50歳そこそこの華子さんとだと一回り近くは離れているように見える。
館長が佐山家に挨拶に向かい、和やかに談笑を続けている中、館内の職員達も続々と集まってくる。外部委託の職員さんは今日はご遠慮頂いているので、純粋な当館職員だけだと40 名程だろうか。研究員は毎年採用を行うわけではないので、少数精鋭の職場と言えるだろう。
ほぼほぼ集まったところで、西村課長がマイクを取る。
「佐山家の皆様、本日はご来館下さり誠にありがとうこざいます。故・佐山義之氏のこれまでのご功績には快挙に暇がないものでございますが、当館への学術的貢献の御遺志において職員一同大変感謝しております。本日はご寄贈品の整理を終えたご報告と、ご遺族様への感謝の気持ちを表したくささやかではありますが会を催したく思います。
会場には佐山氏よりご寄贈いただいた貴重な映画資料を一部置かせていただきました。本日は皆様とこちらを拝見しながら故人の功績を今一度称えてまいりたいと思います」
慇懃に口上を述べてから、マイクを一つ館長にお渡しする。
「皆様、お手元にグラスをご用意下さい。佐山義之氏の映画界への寄与とご家族様のご健康、当館への感謝を持ちまして······乾杯!」
めいめいが会を楽しむ中、私はゆっくりと寄贈品を眺めていった。その近くには佐山家の皆さんもいて、政治家の丹羽氏の声がよく聞こえる。その側で牧田さんは蒼白な顔で付き従っている。義理の弟になるのに、丹羽さん相手は年上だし緊張するのだろうか。奥様の華子さんは関心なさそうにミニケーキを摘んでいる。由紀子夫人はこれまた牧田さんに負けず劣らず蒼白だ。美千代さんと丹羽氏だけが闊達に話す声が響く。
「日比野さん、自分で準備したのに食べないの?」
井ノ口がおかしそうに笑いながら近寄ってきた。
「用意で匂い嗅いでたら、お腹いっぱいになっちゃって」
「勿体ない! じゃあドリンクは? 取ってあげようか?」
「さっきいただいたばかりなので、後にします。井ノ口さんこそどんどん飲んで下さいよ」
「こんなに素晴らしいものを見てるだけで酔いそうだよ。『夜を殺めた姉妹』の関連品は全て見つかったのかな?」
「そうだと思いますよ。佐山氏所有のものについては」
井ノ口はじっとビニール越しのデスマスクを眺めながら、ため息を付いた。
「資料課はいいね。こんなお宝と間近で接することが出来て」
「そう、ですね」
「日比野さん」
突然、井ノ口が顔をぐっと近づけて、耳元で囁いた。
「八頭さんのブレスレットには何が入ってたの?」
「井ノ口さん······」
「分かってるんでしょう? 色々。ニッコー門木氏が待ってるから、この後ちょっと抜けようか?」
すごくいい笑顔を向けて井ノ口がそう言った。
「あの方は?」
「ああ、華子さんの旦那さんで、政治家の丹羽喜市郎氏だね。佐山氏のあの別邸の一帯の地主一家で、何らかの繋がりがあって結ばれたものだろうね。歳も離れてるしさ」
60歳は越えているだろうか、押し出しの強い感じの男性だ。50歳そこそこの華子さんとだと一回り近くは離れているように見える。
館長が佐山家に挨拶に向かい、和やかに談笑を続けている中、館内の職員達も続々と集まってくる。外部委託の職員さんは今日はご遠慮頂いているので、純粋な当館職員だけだと40 名程だろうか。研究員は毎年採用を行うわけではないので、少数精鋭の職場と言えるだろう。
ほぼほぼ集まったところで、西村課長がマイクを取る。
「佐山家の皆様、本日はご来館下さり誠にありがとうこざいます。故・佐山義之氏のこれまでのご功績には快挙に暇がないものでございますが、当館への学術的貢献の御遺志において職員一同大変感謝しております。本日はご寄贈品の整理を終えたご報告と、ご遺族様への感謝の気持ちを表したくささやかではありますが会を催したく思います。
会場には佐山氏よりご寄贈いただいた貴重な映画資料を一部置かせていただきました。本日は皆様とこちらを拝見しながら故人の功績を今一度称えてまいりたいと思います」
慇懃に口上を述べてから、マイクを一つ館長にお渡しする。
「皆様、お手元にグラスをご用意下さい。佐山義之氏の映画界への寄与とご家族様のご健康、当館への感謝を持ちまして······乾杯!」
めいめいが会を楽しむ中、私はゆっくりと寄贈品を眺めていった。その近くには佐山家の皆さんもいて、政治家の丹羽氏の声がよく聞こえる。その側で牧田さんは蒼白な顔で付き従っている。義理の弟になるのに、丹羽さん相手は年上だし緊張するのだろうか。奥様の華子さんは関心なさそうにミニケーキを摘んでいる。由紀子夫人はこれまた牧田さんに負けず劣らず蒼白だ。美千代さんと丹羽氏だけが闊達に話す声が響く。
「日比野さん、自分で準備したのに食べないの?」
井ノ口がおかしそうに笑いながら近寄ってきた。
「用意で匂い嗅いでたら、お腹いっぱいになっちゃって」
「勿体ない! じゃあドリンクは? 取ってあげようか?」
「さっきいただいたばかりなので、後にします。井ノ口さんこそどんどん飲んで下さいよ」
「こんなに素晴らしいものを見てるだけで酔いそうだよ。『夜を殺めた姉妹』の関連品は全て見つかったのかな?」
「そうだと思いますよ。佐山氏所有のものについては」
井ノ口はじっとビニール越しのデスマスクを眺めながら、ため息を付いた。
「資料課はいいね。こんなお宝と間近で接することが出来て」
「そう、ですね」
「日比野さん」
突然、井ノ口が顔をぐっと近づけて、耳元で囁いた。
「八頭さんのブレスレットには何が入ってたの?」
「井ノ口さん······」
「分かってるんでしょう? 色々。ニッコー門木氏が待ってるから、この後ちょっと抜けようか?」
すごくいい笑顔を向けて井ノ口がそう言った。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
紙の本のカバーをめくりたい話
みぅら
ミステリー
紙の本のカバーをめくろうとしたら、見ず知らずの人に「その本、カバーをめくらない方がいいですよ」と制止されて、モヤモヤしながら本を読む話。
男性向けでも女性向けでもありません。
カテゴリにその他がなかったのでミステリーにしていますが、全然ミステリーではありません。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる