映画をむさぼり、しゃぶる獣達――カルト映画と幻のコレクション

来住野つかさ

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107 玩具フィルムと8ミリフィルム③

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 八頭女史の寝室クローゼットに巧妙に隠されたように置かれたクリーンドライ防湿庫の中に、アルミ缶と中性紙に包まれた一本の8ミリフィルムと、どこかの鍵が入っていた、という連絡が入った。

 送られてきた画像で分かっていたことではあったが、このフィルムは時々空気にあててもいたのか、ビネガーシンドローム――フィルムの乳剤が加水分解されて酸っぱい匂いを放つ劣化現象――は起きていない。
 鍵の方は旧式の小さなものだが、重い真鍮製だ。凝った装飾はないが、番号が書かれている。
 
 フィルムの状態に問題はなさそうなので、本来なら資料館に来ていただければすぐ上映出来る。だが、何が映っているか分からないのでこっそり観たいというご遺族の意向で、私は顔を隠した池上とともに都内の図書館から8ミリフィルム映写機を借りて退勤後に八頭家に伺った。
 学生時代の夏休み、地区の講習会で「16ミリ映写機操作技術認定証」を取得したことがあるので、8ミリなら私でも上映することが可能なのだが、まさかこんなところで役に立つとは思わなかった。

 スクリーンはシーツでも模造紙でも良かったのだが、元々お持ちのプロジェクター用のスクリーンがあるとのことでそちらに投影することになった。

 角度を調整し、フレーミングとピントを合わせる。慎重にフィルムを巻き取り、セットした。

「シングル8だね。パーフォレーションの痛みも少ないし、退色もあまりない」
「よほど大事にしていたんでしょうね。シングル8なら音もありますかね?」
「元の録音状態にもよるけど、······とにかくかけてみようか」

 明かりを消して映写機を再生させる。何故か郷愁をもたらすフィルムの回転音。引っ掻き傷のようなものが数秒映った後に、若かりし頃の佐山氏と八頭女史が現れた。

 どこかの大きな公園を抜け、沢山の団地を抜け、画面が変わるとそこは歴史を感じる教会だった。
 慣れた様子で八頭女史が中の神父と挨拶を交わし、豪奢なステンドグラスが目を引く礼拝所の、荘厳な音色のパイプオルガンの横にある階段を降り、地下聖堂へ向かう。その奥に納骨堂があるが、白で統一され、また趣きの違うステンドグラスのある様は、異国のような雰囲気を漂わせて密やかに美しいものだった。
 時々佐山氏を呼ぶ八頭女史の声がする。音が割れて何を言っているかは定かではない。でもそこでカメラを誰かに渡し、佐山氏はあのブレスレットを八頭女史の手首につける。映し出される二人は幸福そうに見えた。

 正味10分ほどの上映の後、池上が呟いた。

「ここ······。聖マリアンヌ教会じゃないかな、糸原区の」

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