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100 沈黙の池上と暴走の山森①
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「あらぁ、また来て下さってごめんなさいね」
「お袋、早苗のところからアルバム持ってきてるか?」
「あるわよー。どれのことかしら?」
また八頭家の本邸にお邪魔させていただき、景子夫人の元へ伺う。
明るくされているが、目は赤くなっているし、肌もカサついて見える。ご自身のことに構う気がしないのかもしれない。地味なお色目の服が、この方の本来の魅力を塞いでしまっている。そしてその元凶は娘を亡くした悲しみなのだろう。
『娘のアルバム』というキーワードだけで、あれこれ持って来てくれる。子供の頃の写真まであるので、確実に別邸で借りたものとは違うのだが、本腰を入れてひとつずつ拝見させてもらう。
そこに、八頭女史があのシルバーのメダルが8つ付いたブレスレットを着けて嬉しそうな顔でこちらに向けている写真があった。
「これ······」
「早苗が佐山さんからもらったものなのよ。アメリカから戻って来た後だったかしら? その後別れちゃったんだけどね」
そんなに思い出深いものだったのか。自身の腕を見てこの頃の二人に思いを馳せるが、何故別れることになったのかは分からない。
「スマホとこのブレスレットがないのよね。あの子ったら沢山のブレスレットの中に紛れさせるように着けていて、服もどんどん派手になって行って。何だかこれを隠すためにジプシーみたいになってたのよね」
「ジプシー、ですか?」
「ほら女性の一人暮らしってやっぱり何があるか分からないじゃない? こっちに戻って来たらって何度か勧めたんだけれど、『大切なものはいつも身に着けておくから平気よ』って言ってて。でも、戻って来てたら······あんな事にはならなかったかもしれないのにね」
大切なものってなんだろう?
現代の女性がジプシーのように全財産を身に着けて移動するなんて至難の業だ。そして何を大切に思うかでも、身に着けたいものは違うかもしれない。
佐山氏も比江島氏もいなくなり、あの日彼女は不安があったからあんな風に私を連れて来たんだろうか。
ほぼ初対面だったのに?
私と二人で会う必要があった?
「スマホ、ないんですか?」
「そうなの、犯人が盗って行ったのかもね」
娘さんの思い出の写真が詰まったであろうスマホ。事件解決の糸口になったかもしれないスマホ。彼らがやって来た時にはインターホンとして使っていたのだから、たしかに部屋にあったのだ。見つけてあげられたらいいのに。
「景子夫人。あの、言い出せずに申し訳なかったのですが、これお返しします」
手首から八頭女史のブレスレットを外してお見せした。
「何かしら? ······あら? これって」
「あの日、早苗さんが私に着けてくれたんです。そんなに大切なものだと思わず、持ったままでした。私には少し大きかったので、レース糸で編み包んでしまったんですけど、この写真のブレスレットです」
「······ありがとう。戻って来たのね」
瞳を潤ませながら笑顔を見せる景子夫人に、また胸が詰まる。
「あの、糸を解きますね」
差し込んでいた糸の端を取り出し、ピーッと引っ張ると編んだカバーは面白いように解けて行く。
「日比野さん、編み物とかするんですね」
「暇つぶし程度の簡単なものしか出来ないですけど」
辻堂刑事の面白そうな視線の中で、あっという間に解けてシルバーメダルのブレスレットが現れる。
「ああ、これだわ!」
景子夫人が嬉しそうに握り締めると、カチンと音がして一つのメダルが半分に割れた。
「え!」
それは精巧に細工されたロケットだったのだ。その中にマイクロSDカードや古い護符などが見つかった。
「お袋、早苗のところからアルバム持ってきてるか?」
「あるわよー。どれのことかしら?」
また八頭家の本邸にお邪魔させていただき、景子夫人の元へ伺う。
明るくされているが、目は赤くなっているし、肌もカサついて見える。ご自身のことに構う気がしないのかもしれない。地味なお色目の服が、この方の本来の魅力を塞いでしまっている。そしてその元凶は娘を亡くした悲しみなのだろう。
『娘のアルバム』というキーワードだけで、あれこれ持って来てくれる。子供の頃の写真まであるので、確実に別邸で借りたものとは違うのだが、本腰を入れてひとつずつ拝見させてもらう。
そこに、八頭女史があのシルバーのメダルが8つ付いたブレスレットを着けて嬉しそうな顔でこちらに向けている写真があった。
「これ······」
「早苗が佐山さんからもらったものなのよ。アメリカから戻って来た後だったかしら? その後別れちゃったんだけどね」
そんなに思い出深いものだったのか。自身の腕を見てこの頃の二人に思いを馳せるが、何故別れることになったのかは分からない。
「スマホとこのブレスレットがないのよね。あの子ったら沢山のブレスレットの中に紛れさせるように着けていて、服もどんどん派手になって行って。何だかこれを隠すためにジプシーみたいになってたのよね」
「ジプシー、ですか?」
「ほら女性の一人暮らしってやっぱり何があるか分からないじゃない? こっちに戻って来たらって何度か勧めたんだけれど、『大切なものはいつも身に着けておくから平気よ』って言ってて。でも、戻って来てたら······あんな事にはならなかったかもしれないのにね」
大切なものってなんだろう?
現代の女性がジプシーのように全財産を身に着けて移動するなんて至難の業だ。そして何を大切に思うかでも、身に着けたいものは違うかもしれない。
佐山氏も比江島氏もいなくなり、あの日彼女は不安があったからあんな風に私を連れて来たんだろうか。
ほぼ初対面だったのに?
私と二人で会う必要があった?
「スマホ、ないんですか?」
「そうなの、犯人が盗って行ったのかもね」
娘さんの思い出の写真が詰まったであろうスマホ。事件解決の糸口になったかもしれないスマホ。彼らがやって来た時にはインターホンとして使っていたのだから、たしかに部屋にあったのだ。見つけてあげられたらいいのに。
「景子夫人。あの、言い出せずに申し訳なかったのですが、これお返しします」
手首から八頭女史のブレスレットを外してお見せした。
「何かしら? ······あら? これって」
「あの日、早苗さんが私に着けてくれたんです。そんなに大切なものだと思わず、持ったままでした。私には少し大きかったので、レース糸で編み包んでしまったんですけど、この写真のブレスレットです」
「······ありがとう。戻って来たのね」
瞳を潤ませながら笑顔を見せる景子夫人に、また胸が詰まる。
「あの、糸を解きますね」
差し込んでいた糸の端を取り出し、ピーッと引っ張ると編んだカバーは面白いように解けて行く。
「日比野さん、編み物とかするんですね」
「暇つぶし程度の簡単なものしか出来ないですけど」
辻堂刑事の面白そうな視線の中で、あっという間に解けてシルバーメダルのブレスレットが現れる。
「ああ、これだわ!」
景子夫人が嬉しそうに握り締めると、カチンと音がして一つのメダルが半分に割れた。
「え!」
それは精巧に細工されたロケットだったのだ。その中にマイクロSDカードや古い護符などが見つかった。
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